「トラブル・ビート」 


「荒涼祭」というのはいわゆる学祭のことで、
荒涼高校であるからそう呼ばれているわけで。
一応学校では演劇部所属のため出し物をやる。
今年は「オペラ座の怪人」だったのだがトラブル続き。
人手が足らず仕方なく元ラグナレク同士の変人ジークに怪人役を頼んだ。
結果オーライだったわけだが、烈しく精神疲労したことは事実だ。
「私、お祝いといたしまして演劇部の方々にご馳走させていただきたい。」
などとジークが言い出してぞろぞろ付いていくはめになった。
オレはもうかなり「どうにどもなれ」な心境であったことは言うまでもない。
連れて行かれたのは「新白連合」の新島が主催する怪しげな喫茶だった。
よく見ればワルキューレの面々もメイドの格好でうろうろしてやがるし、
普段からして想像しがたい妙な格好の南條が居たりと思わず寒いものを感じた。
一刻も早くここを立ち去ろうとしたとき、聞きなれた声がオレの耳に飛び込んだ。
「いらっしゃいませー!ありー!?なっつん!?」
オレは咄嗟に判断力を鈍らせ、目の前のメイドの前で数秒固まった。
「やっぱりなっつん!何その変なかっこ!ぷはっ!!」
そういえば衣装を着けたまま引きずられてきたのだったが、そんなことより・・
「・・・おまえ・・・こんなとこで何してる!?・・」
人目があったため、かなり抑えた声で言ったのだがほのかはけろっとした顔で
「お手伝いだじょ!ただで飲み放題なんだって。お客様ご注文は?」
オレはほのかの腕を掴むと新島を探して教室の奥に仕切られた場所へと向かった。
「なんだよ、お客様ー!ご注文はぁ!?」まだ暢気な声がしていたが無視だ。
「よぉ!谷本じゃないか!珍しいな。売り上げに貢献してくれるのか!?」
新島はすぐに見つかり、愛想よくもみ手までしやがったので怒りでぶち切れそうだった。
しかしほのかの手前そこは堪えて、低い声で新島に詰め寄った。
「おまえ、こんなガキにこういうことさせてどういうつもりだ!?」
「あぁ白浜の。こういうタイプが居なかったんでな。おまえみたいに好きな奴わりと多いんだよね〜。」
オレの手刀をぎりぎりでかわしやがった。こいつは弱いくせにこういうとこは異常に素早い。
「・・連れて帰るからな。」
そうオレが告げると新島のみならず、ほのかからもブーイングが上がった。
「なんでさー!?ほのかまだこれ着たばっかりだよー!?」
「お持ち帰りはやってねぇんだよ、それはマズイだろう!?」
問答無用で睨み付けたら一応二人とも黙ったのでオレはなんとか平常心を保つことができた。
「せっかく着せてもらったのに・・そうだ、なっつん一緒に学祭廻ろ!?」
「誰が!さっさとそんなもん脱げ。・・・兼一はどうした?」
「お兄ちゃん忙しいみたいなんだもん。ねぇ、この服もう少し借りてていい?」
「いいよ、谷本くんと一緒にこのビラ配りしてくれたら、お土産つけちゃうよ?」
「ホントっ!?やるやる。わーいvなっつん、行こうよ!」
「阿呆なこと言ってんじゃねぇ、おまえら!!おまえも何気に入ってんだよ、そんな服!」
「えー?可愛くない?!なっつんこうゆうのキライ?!」
「オレがどうこうじゃねぇ!皆が見るんだぞ!?」
「あー、やっぱそこか。谷本・・・おまえって嫉妬深いんだなぁ!」
「そ、そんなんじゃねーよ!宇宙人は黙ってろ!!」
「・・声が大きいですよ、谷本君。」
わっとその場に居た者全員が飛び上がった。ジークの野郎がひょいと顔を出したのだ。
「演劇部の方々には適当に誤魔化しておきましたが、何か揉め事ですか?総督。」
この変人野郎は何故だかこの宇宙人を崇め奉ってやがる。・・訳がわからん。
「おまえは関係ねぇからすっこんでろ、ジーク!」
「こちらのお嬢さんは谷本君の彼女ですか?」
「ちっ違うに決まってんだろ!こいつは・・」
「兼一の妹さ。谷本の奴が嫉妬して自分一人お持ち帰りしようとしやがってだな・・」
「宇宙人!事実を捻じ曲げて伝えるなよ!?」
「そうでしたか。愛らしいお嬢さん。初めまして。」
「ジーク、おまえこいつの言うことなんでも信じるなよ!オレたちは別に・・」
「ねぇねぇ何もめてんの?!早く行こうよ。ビラってこれでしょ?!」
「あ、そうそう。仲良く頑張ってきてねーv」
「おまえらいい加減にしろよ、ほのか待て。そんなことしなくていい!」
「谷本君はあなたを心配されているのです。ここは彼の顔を立てておあげなさい。」
「ほえ?!そういうもんなの?っていうか、彼ってなっつんのこと!?わーv」
「何誤解されて喜んでるんだよ、違うだろ!?」
「谷本君のメロディが優しくなったのはあなたのおかげもあるのですね。納得です。」
「・・またこいつわけのわからんこと言い出しやがった・・・」
「えー、なんのことー?!」
「おじょうさんの持つソアーヴェ(愛らしく柔らかに)なメロディが彼を癒しているということです。」
「むつかしいこと言うねー??なっつんのお友達って色んな人が居て楽しいじょ!」
「ありがとう、彼もきっとコンアモーレ(愛情を持って)にあなたに接しているのでしょうね。」
「・・・頭おかしくなりそうだ・・あのな・・・いやもう・・いいから行くぞ。」
「わかったよ。でも学祭は見て廻っていいでしょ!?せっかく来たんだもん。」
「しょうがねぇ・・・少しだけだぞ。」
「わーい!やったー!!」
「ジークおめーオレは知り合いのガキを送るとか言っといてくれ。それから宇宙人!」
「なな、なんだよ、谷本。怒っちゃいや〜んv」
「(絶対この次会ったら殺す!)・・おまえは今度きちっと礼をさせてもらうからな・・」
「そそ、そんなお礼だなんて谷本君てば義理堅い。良いですよ、お持ち帰りなさって!」
オレの静かな怒りに気付いて宇宙人新島は卑怯にもほのかを盾にして逃げやがった。
結局オレも着替えて二人で少しばかり荒涼祭をうろついた後、ほのかを送っていった。
ジークが付いてきておまけに見送りながら歌っていやがったのでほのかはすっかりジークを気に入った。
なんであんな変態に・・・!オレは何故だか無性に腹が立ったが黙っていた。


「面白い人だねぇ!?すっかりファンになったじょ。」
「・・・趣味悪いぞ・・?」
「でも歌がとても上手だったよ?なっつんの劇で「怪人」やったんだってねー!?」
「・・・まぁな・・一応助けられたことは事実だが・・」
「イイ奴じゃん!ほのかも見たかったなー!?なんで教えてくれなかったのさ?」
「・・・おまえの学校も休みだなんて知るかよ。ってか、誰が教えるか!」
「なんでなんで!?谷本様ー!ステキでしたわーvvとか声掛けられてたくせに。」
「・・・ちっ・・おまえもう学校来るなよな。どいつもこいつもむかつくぜ。」
「絶対来年はなっつんの劇見るもん。お兄ちゃんに日にちとか聞くから逃げられないよーだ!」
「はぁ・・・転校すっかな?」
「ええっ!?そんなのダメー!!遠く行っちゃダメだよ!?」
ほのかがオレの腕に縋って大げさに引き止めるので驚いた。
「ちょ・・離せ・・なんだよ、行かねーよ。言ってみただけだ。」
「ホントに?!」
「ホントだって。面倒くせぇし。ほら、離せって。」
「よし。このほのかちゃんに黙ってまた居なくなったら絶対許さないからね!」
以前オレが行方を眩まそうとしたときのことを言っているらしく、はっとした。
お節介なとこは兄妹そっくりだ。そしてなんだか聞いていて気恥ずかしい。
「・・負けたままじゃあな。おまえにも兼一にも。」
「勝ったら、どっか行くの!?それもダメだよ!」
「なんでそうこだわるんだよ・・・オレに。」
「だって、お兄ちゃんもほのかもなっつんが好きなんだもん。」
「・・気持悪り・・(おまえはともかく)」
「失礼だな、ちみは。私たちだけじゃないよ、あのジークさんだって言ってたじゃん。」
「ジーク!?なんであいつが出てくるんだ。」
「なっつんは皆と出逢ってえっと・・なんだっけ?コン・・?とにかく優しくなったって!」
「・・・」
「きっとあの宇宙人さんも演劇部の人たちも学校のお友達もみーんななっつんが好きだよ。」
「・・・なわけ・・」
「あるよ。ほのかが保障してあげる。でもってほのかがそんなかで・・一番好きだからね!」
付け加えられた最後の「好き」が妙に小さな声だったので逆に胸に響いた。
いつの間にか苛々は何処かへ消えて、必死なほのかの姿に胸を撫で下ろす。
おかしなことばかり言うあいつじゃねぇが、こいつは確かにオレの何かを変えたのかもしれない。
愛情なんて込めて接した覚えはないが・・・温かいこの感じはなんなんだろうな。
いつのまにか、心配したり心配されたり・・・それが当たり前みたいになっているのか。
「厄介だな・・」
「何?なんて言ったの?」
「どいつもコイツも厄介だっつったんだよ。でもっておまえが一番・・」
「え、何?」
「面倒だ。」
「なんだよ、ソレはー!?」
家へ送るつもりがオレのウチで休憩なんてことになったのもコイツのせいで。
なのにそれを許してしまって、その後も無事に送り届けた後に安心する自分がいる。
明日もその次もあいつが厄介事を持ってやってきてもきっと・・・憎めない。
”困った奴だぜ、まったく!”







困るどころか喜んでる夏くんでありました。(笑)
「荒涼祭」夏ほのバージョンですのでまだ恋人未満です。
いつかコンフォーコ(情熱的に)になれるといいわね、夏君!
またジーク出せたらいいな〜vと思った管理人でありました。(^^)♪