Trick or treat? その7


    ぽわんっ!

「あっ?!」

気の抜けた音と共にナツは猫の姿になった。ホノカは驚いている。
ホノカとナツの唇はまだ接触していなかった。寸前だったのだ。
ぽかんとするホノカに猫はゆっくり近づくと、じっと見上げた。
見慣れた黒い猫のナツは何故か普通に「な〜ぉ・・」と鳴いた。

「こ〜っらっ!・・ホノカ。」
「・・・シグレ?シグレがナッツンを猫にしたの・・?」
「ピン・ポ〜ン・・皆酔いつぶれた・・んで・・帰る・・とこだっ・・たんだが。」
「どうしてナッツンを・・あ、シグレに聞きたいことがあったんだ!?」
「うん・・そう・・だね。少し・・話を・・しよう・か。」

一人、いや一匹で蚊帳の外のナツが「な〜っ!」と鳴いてホノカに何か訴えた。
けれど言葉が何故かわからない。ホノカは首を傾げながら猫を抱き上げた。
すると普通の猫のようにぺろんとホノカの鼻先を舐め、また鳴いた。

「どうしちゃったの!?シグレ?ナッツンがしゃべらないよ!?」
「魔力が・・弱くなって・・る。ボクには・・聞えて・・るよ。」
「!?」

猫を抱いたホノカはシグレと一緒に我が家へと帰ってきた。
お茶を淹れてテーブルで向き合うまで、おしゃべりなホノカが黙ったまま。
元気のないホノカを気遣うように、ナツ猫はつんつんと前足で撫でている。
そんなナツにヨシヨシと頭を撫でたホノカにシグレはゆっくりと話を始めた。

「・・・美味い・・お茶を・・淹れるように・・なった・ね。」
「ありがと。ナッツンに教わったんだよ!?ナッツンなんでもできるんだ!」
「人間・・でも・・なかなかの・・男だ・・ね。」
「・・一緒にお空の散歩に行こうって言ってくれてたんだ・・」
「そう・・か。それ・は・・悪かった。」
「あのままキスしてもナッツンは猫にできなかったのかな・・」
「そうだ・・と・思う・・よ・・散歩は・・危険・・だな・・」
「・・・・そうかぁ・・ホノカもう魔法使えなくなったの?」
「今は弱って・・る、だけ。無くなった・・訳じゃ・・ない。」
「そうなの?さっき空を飛べたのはシグレが助けてくれたんだね!?」
「まぁね・・そんなに・・落ち込む・・と・・良くない・・その子も心配・・して・る。」
「・・・キスしたいって思った。いけなかったの?」
「強くそう思った・・んだね。いいや・・悪くは・・ない。」

ホノカはこくんと頷いた。シグレはふっと優しい微笑みを浮かべると話を続けた。

ナツを猫にしたのは魔力の流れを止めるためだった。元に戻すから心配要らないと言った。
そして過去に魔力を失った魔女の苦労話をした。ホノカはまたしゅんとなってしまった。

「普通の暮らし・は・・生まれ・・着いての・・魔女には・・厳しい・・もの・だ。」
「ホノカ不器用だし、魔法がないとそりゃ・・不便だろうねぇ・・・だけど・・」
「そんな・に・・ナツ・・が好き・・か?」

ホノカは横にいる猫に視線を落とした。考えてみれば就職するのも魔女でなければできない。
のんびりと構えていたホノカに突然大きな選択肢を突きつけられた。途惑いは大きかった。
ホノカはしばらく猫を見ながら考えていた。そしてナツに向かって問い掛けた。

「・・好き。魔力がなくなってしまったら・・ナッツンはホノカのこといらなくなる?」

尋ねられた猫のナツは否定の意を示しているようだ。そしてシグレに元に戻せと訴えてもいた。
シグレはそんな二人をじっと見つめていた。唐突にぱちんと刀剣の鞘が音を立てた。すると・・

      ぼわんっ!

またしても間の抜けた音がしてナツが人間の姿に戻る。話かけたナツをシグレは静かに遮った。

「わかっ・・た。魔法は・・預かっておく・・から・・しばらく魔法なしで・・暮らしてみて・・ごらん。」
「「えっ!?そんなことができるの(か)!?」」

ナツとホノカの声が重なって響いた。シグレは美味しそうにお茶を一口すすってこくりと頷く。
シグレは次の満月の夜に来訪することを約束して去った。その間ホノカは魔女であってそうでない。
つまり普通の女の子でいなければならない。初めての経験だが持ち前の好奇心で元気を取り戻していた。

「それでナッツンのお城で暮らすってことでいいの?!」
「オレは構わんが、親元の方がが良いんじゃないのか?」
「一応まだ魔女なんだから帰れないよ。就職は無理だけど見習いってことで。」
「まぁ・・部屋なら有り余ってるし・・オマエ一人じゃ不自由だろうしな・・」
「ま、そーゆーことで・・ヨロシク頼むよ!」
「わかった。じゃあ今夜は遅いから明日にでも・・」

明日身支度をしてナツの城へ行くと決まるとホノカは旅行気分でおおはしゃぎになった。
ナツはホノカが元気になったことにほっとしてはいたが、ふと思い出して顔を顰めた。

「普通の暮らししたことないって言ってたが・・どの程度だ?」
「子供の頃は結構普通。だって家族は皆魔力持ってなかったし。」
「そうか・・じゃあ困ったときはなんでも言えよ。後・・なんか気になることあるか?」
「ナイナイ!じゃっお風呂入って寝よう!久しぶりに一緒にさ。」
「じゃあオレが風呂の用意・・待て!一緒はイカンぞ!?」
「久しぶりじゃないか、そうカタイことは言わずにさ?」
「オレはもう猫になれないんだからイカンだろうが!?」
「・・・・寂しいから一緒がいいな〜?」
「魔女は一人に慣れてるって言ってただろ!なんで急に素直になってんだ!」
「だって今は普通の女の子だもん。へへv」
「だったら尚更一緒はダメだ!」
「ツマンナイなぁ・・試したいこともあるのに。」
「試すってなにを?」
「魔力は今なら取られないってことでしょお?!」
「はぁ・・だから?」
「キスしてみようよ!」
「・・・・ああっ!?」
「してみたい”かも”じゃなくて、したい!になったらいいって言ったじゃないか。」

ナツは椅子からずり落ちそうになった。この変わり身・・・ナツには信じられないほどだ。
”待てよ、こんな調子で一緒に暮らすってのか!?あと・・何日あるんだよ!?”
嫌な汗と予感でナツの顔が曇っていくのをホノカは不思議そうに見上げている。他人事のように。

「・・・したくなったとしてもだ!しないからな!今はダメだ!」
「どおして?今がちゃんすじゃないか。魔力が戻ったらダメって言われるかもよ?」
「そんなことを試すためじゃ・・・(いやまさかそうなのか?オレが試されてるとか・・?!)」
「ねぇねぇ、ナッツン。ナッツンはどきどきするの?ホノカね、ものすごくどきどきしたんだよ!」
「はは・・そうか・・オレは・・今もかなり・・ヤバイぞ?(怖くて、だけどな)」

ホノカは無邪気に頬を染めつつ「ホント!?」と飛び跳ねている。しかし可愛いと手放しで喜べない。
相手はまだ子供だぞ!とまたもや今更のようなことを思い出して自分に言い聞かせてみたりした。
大人に揉まれていてもナツだってまだ17歳でホノカと大差ない。少し恨めしい気持ちになった。
ナツはそんな後ろ向きな気持ちを追い出すように首を激しく振った。
ホノカの夜の襲撃をなんとか脱し、翌日城へ戻る前に二人は兄のケンイチに事情を説明に立ち寄った。

「家に戻れたら父さん母さん喜んだろうに・・けど仕方ないね。ナツくん、ホノカをよろしく。」

改めて引き受けたと告げ、ナツは久しぶりの自宅へとホノカを伴って帰ってきた。
大きな門から遠くに聳える古城はニイジマの城ほど不気味ではないが、それなりの迫力だった。
ホノカが驚いたのは、荒れ放題の庭や城内の埃だ。無人であることを見事に表す汚れ具合である。

「ふわあ〜・・・おっきくて・・・掃除が・・・行き届いてないね〜!?」
「誰もいないんだから仕方ないだろ!・・今日はまず住む場所を決めて掃除だ。」
「もしかしてさ・・魔法なしでここを!?めちゃめちゃタイヘンじゃないか!?」
「・・しょうがないだろ。オレも自分が使うとこ以外はほったらかしだしな・・」
「意外にだらしないのう、ちみ。ようし、がんばってここを綺麗にするじょ〜!」
「あんまりオマエは張り切るな。・・オレの仕事が増える気がする。」

そしてそれはその通りだった。ホノカは荒れた城を更に荒らして廻っているかのようだった。
とりあえずホノカの部屋とナツの部屋、居間と食堂などの使う場所だけはなんとか片を付けた。
ぐったりと疲れたナツと対照的に、魔法を使っていないはずのホノカは何故か元気なままだ。

「お掃除って楽しいねぇ!?大分綺麗になって気持ちいい〜!!」
「そりゃ・・よかったな・・オレは修行よりよっぱど疲れたぜ。」
「ナッツンって魔法要らないよね。」
「ものすごく欲しかったぞ、今度ばかりは・・」
「だけど無くてもなんとかしたじゃないか!スゴイよ!エライ!ホノカ尊敬した!!」
「こんくらい・・・誰でもできるっての。誉めすぎだ、バカ。」

単純だと自照したがナツはホノカの労いで疲れが癒され、食事の支度もかなり頑張った。
家政婦のような仕事など好きでないはずのナツだが、ホノカがいると不思議と苦にならない。
何でもかんでも感心してくれて、逆にやる気を出してしまって苦笑するばかりだった。

「このまま魔法なしでもうまくいったら・・ホノカ魔女はやめてナッツンのお嫁になろうかな!」

美味しい夕食と後片付けの後、ホノカがそんなことを言い出した。

「気が早すぎるだろ!まだ一日しか経ってねぇのに。それに”嫁”って・・意味わかってるか?!」
「子供にさあ、『お母さんは昔魔女だったんだよ!』とかヒミツを打ち明けるとかしたい!」
「こっ・・子供!?・・どこまでいくんだよ、その妄想は!?」

妄想などと言ったナツだが、内心は動揺しまくりだ。一応の知識はあるのだろうか?とも疑う。

「そういえば子供の作り方って知らないや。ナッツンは知ってる?」

ホノカの知識の程度がすぐに露呈した。ナツはがっくりと肩を落とす。”そんなこったろうさ”
独り事のように夢を語るホノカがやっとナツの様子に気付いて、おやっという顔をした。

「ナッツン、眉間に皺がっ!?ヤバイよ?どうしちゃったの?」
「なんでもねぇ。嫁の話なら早いからあと6年くらい寝かせとけ。」
「そんなに!?16になったら結婚できるんだよ!ホノカあと2年くらいじゃないか!?」
「16でもオレは困るぞ、大して変わらんだろ、2年なんて・・」
「・・ということは結婚することはおっけーなのだね。ふむふむ・・」
「ちょっ・・待て待て、そんなことは言ってない。早まるな!」
「ホノカまだわかんないこといっぱいあるんだ、そうそう、”えっち”のこととか。」
「しっ師匠に教われっ!頼むから・・そういうことをオレに聞くなっ!!」
「なんでも困ったら聞いていいって言ったじゃないか〜!?」
「う・・そ・うだが〜・・;」
「ははーん、ナッツンもよく知らないんでしょお!?白状するのだっ!」
「うるさいっ!知ってるけど説明なんかできねぇよ!!」

真っ赤になったナツを見て、ホノカは可哀想かな?と思い、その場は大人しくなった。
”知らないのと説明できないのって・・どう違うのかなぁ・・?”などと思ってはいたが。


それから一週間ほどが過ぎた。ホノカも大分人間としての生活に慣れてきたようだ。
しかしその頃ナツは気付いたことがあった。ホノカがよく空を見上げる何気ない仕草だ。
もしかするとそれは”大好きな空の散歩がしたい”という想いではないかと思ったのだ。
たった一週間だが、そう思っても何の不思議もない。慣れてきたからこそかもしれない。
魔力を取り上げたいわけではない。ホノカが魔女だろうとナツにとっては同じだが・・・
ホノカには大違いだろう。魔女として生きる未来を簡単に捨てろだなどと言うのは・・
やはり早すぎだとナツは思う。自分の気持ちを封印できるならそれがいいのではないかとも。
ホノカが魔法で大人になった姿を垣間見たとき、美しくはあったが、嬉しくはなかった。
ナツは切実に戻って欲しいと願った。今のホノカとはまるで別人のように感じたからだった。

”オレはホノカとこうして共に過ごすことを幸せだと感じてる。だから飛び越えたくない”

大人になれば自由に愛し合えるのかもしれないが、ナツにはそこに今ほどの魅力を見出せなかった。
大切にしたいのはホノカ自身と、こうして過ごす時間なのだとナツはそう思い至った。

その夜、ナツはホノカを城の高い場所へと誘った。自分のお気に入りの見晴らしの良い場所だ。
二つ返事で喜ぶホノカを連れて、人間にはかなり危険な処へと慎重に上っていった。

「絶景だ〜〜〜〜!!!やっぱり高いところは落ち着くね〜!?」
「地上に住んでると人間でもたまにこういうとこが恋しくなる。」
「気が合うね!高いのを怖がる人もたくさんいるじゃない。」
「オレは好きだ。そういやオマエとの空の散歩も楽しかったな。」
「ウン、そうだね!あっそか・・もうできないかもしれないんだ・・」
「・・・だから・・慌てて嫁になろうなんて思わなくていいんだぞ。」
「・・ナッツンの提案にしては面白くないなぁ・・」
「オマエだって魔女の暮らしを気に入ってただろ!?」
「そりゃね。でもナッツンとこうして暮らすのも負けないくらい楽しいよ。」
「今はそうでもずっと・・一生となれば嫌になるかもしれない・・」
「元気がないと思ったらそんなこと心配してたんだ!ふっふっ優しいのう!」
「優しくなんかない。・・オレは我侭なんだよ。」
「そういうナッツンが好き。出会った頃より今がもっと好きだな。」
「おい・・真面目に・・!?」

ナツにホノカが抱きついてきた。猫のように擦り寄って、喉を鳴らすような音がする。
それはホノカの笑い声だった。くすくすと笑いながらナツの胸で甘えている。

「こら・・おっこちたらどうすんだ。死んじまうぞ・・」
「二人一緒ならいいんじゃない?」
「バカなこと言うな。怒るぞ?!」
「ねぇねぇ、キスしようよ!すごくしたいな。」
「またそれか。ダメだって・・そんなこと覚えるための期間じゃないぞ。」
「あれっ!?愛を確かめるためかと思ってた!」
「ぷっ・・子供のくせして・・」
「バカにしてるなぁ・・!だってこんなの頭で考えることじゃないよ?」
「無茶言うなよ、考えなくてどうすんだ!?」
「しょうがないなぁ・・ま、いいか。」

ホノカは既に何度もお願いして返事はわかっていた。ただ言ってみただけのようだった。
キスは諦めたが落胆するでもなく、ナツの胸にもたれながら、幸せそうに目を閉じている。
高さに足を竦ませたことはないが、愛しさでも足元を危ぶむほど眩暈を感じるものらしい。
ナツはホノカを懐にゆるく抱きながら遠くを眺めた。まだ未来は果てしないと感じる。

”魔女でいるかどうかはホノカが選ぶことだ。どちらでもオレは・・・護っていたい”

「せっかくの景色を見ないのか?」
「見てるよー・・ナッツン、ありがとう。」
「なんの礼だよ。」
「えへへ・・色々・・全部ひっくるめて。」
「変なヤツ。・・ホノカ、オレからもありがとう。」
「ん?なぁに!?まねっこ!」
「オマエがオレのどこをどう気に入ったんだかわからんが・・嬉しいから、言っとく。」
「初めからに決まってるよ!可愛い猫だったけどね?ふふ・・」
「可愛いはいらん。」
「可愛いもん!いるさ。」
「いらんっつったらいらん。」
「なんだい、意地っぱりー!」
「うるせぇ・・」

ナツがホノカを見つめると綺麗な丸い瞳が見つめ返す。そっと額に唇をのせた。
すると、お返しだとナツの額に同じ温もりがのった。二人は目を合わせふふっと笑った。

さて、あっという間に満月の日はやってきた。シグレも相変わらずのんびりとやってきた。

「いい満月だね!?いらっしゃい!」
「あぁ・・いい、晩だ・・な。」
「一緒にお茶しようね?ホノカが作ったケーキがあるんだよ!」
「へぇ・・オマエが・・作った・・のって・・初めて・・だな。」
「そうだね。ホノカすごく楽しかったよ。あっという間だった。」
「そう・・か。よかった・・な。」

たった3人の小さなお茶会だが、和やかな雰囲気は月明かりに似合っていた。
敢えてホノカにどう返事をするのかをナツは尋ねていなかった。
それを知ってか知らずか、ホノカも特に悩んだ様子も見せなかった。

「それで・・どう・・する・・?」

何気ない、まるで明日の予定を確かめるような軽い問いかけだった。
しかしホノカは少しも驚きも途惑いもせずにシグレに向かって微笑んだ。

「あ、ホノカこのまま人間でいるよ。」

問いかけに負けないほど気楽であっさりとした答えだった。
驚いたのはナツだけだった。しかもあまりに簡単な返事で目を瞠っただけだ。

「そう・・か。わかった。」
「ウン。シグレ、ありがとう!ごめんね、一人前になれなかったけど楽しかった。」
「ボクも・・楽しかった・・よ。また・・遊びに・・来るから・・な。」
「来て来て!そうだ、満月の夜はを定番にしちゃおうよ!?」
「それも・・いい・・が・決め・・なくても・・いいんじゃ・・ない?」
「そっか、それだと会えたときもっと嬉しいかもだね!?」

「ちょっ・・いいのか!?そんな簡単に・・!」
「ナツは・・聞いて・・なかった・・?」
「聞かなかったんだ。どっちでもいいと思ってたが・・あんまりあっさりで驚いた。」
「え〜!?そうなの?」
「ま・わかって・・た。二人の・・顔を・・見たとき・にな。」
「わかってたって・・魔法でそんなことまでわかるのか・・?」
「魔法じゃ・・ない・よ。」

シグレは一つ言っておくことがあるとホノカに向かって事も無げに

「・・これ。・・渡しとく・・ハイ。」
「これなぁに?おみやげ!?」
「ホノカの・・魔力を・・戻す・・鍵。」
「え!?」

それは変哲のない小さな鍵だった。それを月明かりにかざせば暗示が解けると言う。
暗示というのは『魔法が使えない』ことだと言った。ナツとホノカはすぐに飲み込めなかった。
シグレはにこやかに魔力は預かったりしていない、そう思い込ませただけだと言うのだ。
これにはホノカも驚いていた。「空でも・・飛びたい・・晩に・・使うと・・いい。」

「なになに?!わけがわかんないよ!」
「オレも何がなんだか・・どういうことなんだ?!」
「たまに・・使う・くらい・・なら、無くなったりは・・しない、から。」

魔女らしい妖しい微笑みを浮かべてシグレは「また・・な!」と夜空へと飛び立った。
狐に抓まれたような顔をしていた二人はしばらくして笑い出した。

「一杯食わされた。流石は魔女だな!」
「師匠ってばもう!だけどよかったね?空の散歩はできるって!」
「オレはもう飛べなくてもいいって思ってた。だからオマエの好きにしろよ。」
「・・・じゃあしばらくこれしまっとくよ。」
「いいのか?ガマンしなくても魔法が使えるんだぞ?」
「大事に置いとく。・・やっぱり子供が欲しいな。子供が魔法使いだったら教えるとき使うの。」
「子供ができなかったらどうすんだよ。」
「そんときは・・老後の楽しみにでもする!?」
「老後・・オマエってホント・・妄想すげぇな・・」
「想像逞しいと言って。ホノカ普通の暮らしをするって決めたんだもん!ナッツンとね。」
「そうか。ならよろしく頼む。オレはどっちでもいいんだ。オマエさえ笑っててくれたら。」
「むっふ〜vナッツン〜?・・そろそろキスしたくならない?!」
「またか!オマエはもう・・・いつかどうかは・・わからないほうが面白いぜ?」
「なるほど。ナッツンも決めてないってことかな?」
「14の子供に負けたくないからな・・あと2年くらいは・・」
「わかった。じゃあ2年後にお嫁になって毎日キスする!決めたっと。」
「勝手に決めるな!・・・嫁にはいつかするけどな。」
「絶対なるよっ!早く子供が欲しいもん!たーくさん作るぞ〜!」
「・・・・ったく・・・キスもまだだってのに・・・」

呆れたようなナツだがホノカは気にしていない。嬉しそうに将来のことを想像している。
そしてそんなホノカを見つめるナツも負けないくらい幸せそうに微笑んでいるのだった。





☆☆☆ OSIMAI(終) ☆☆☆






二年も引っ張るとは思ってませんでした;ごめんなさい〜!
でもこのシリーズ気に入ってるんでまた書くかもしれません:
読んでくださった方々vどうもありがとうございました!^^