Trick or treat? その6


「ちょっとお〜!?いい加減に聞き分けたら!?」
「怒った顔も可愛いね、ホノカ。さ、これは?」
「む、美味しそうだねぇ・・いやいやいらないよっ!」
「私だって無理矢理なんてことはしたくないんだ・・」
「してるじゃん!きっと皆心配してる頃だよ〜!」
「ホノカ、ホントにあの男のことはなんでもないのかい?」
「ナッツンは弟子だって言ってるじゃないか!しつこい!」
「けれど君の魔力は確実に・・アイツに奪われているよ。」
「ちょびっとでしょ!?ナッツンのことキライじゃないし。」
「キスしたの?」
「してない。猫に変える魔法しか使ってないもん。」
「・・したくなったことはあるんだよね?」
「・・そんなの・・わかんないし・・!?」
「私とでは絶対嫌かい?」
「イヤ。したくない。」
「忘れられないよ、君が3歳のときにくれたキスをね・・?」
「なんにも知らなかった頃でしょ!?それに覚えてもいないよ!」
「私は忘れられない。今も・・これからだってね。」
「・・・あのさぁだから・・!聞いてる!?」
「仕方ない・・少しの間・・大人しくしていてね。」
「!?なにすんのっ!!?!」


ニイジマに言われるままナツは塔の天辺によじ登った。天を仰いでもそこには空しかない。
しかしそこならばホノカを拉致した魔法使いの耳に声が届く。そこで呼び出せとのことだ。
”怪しい雲か何かが現われたらそいつだ。ホノカのところに案内くらいはしてくれるだろう。”
ニイジマは関わりたくないと言っていたが、そのわりにナツの身を案じるような助言もした。

”そいつの通り名は”ケンセイ”魔力は強大だが、特に今までに大きな事件は起こしていない。”
しかし黒い噂は耐えない。魔力収集が趣味で、それも手下にしようとするニイジマとは違い、
自分の気に入らない者は魔力だけ取り出して器である体を捨てる、即ち殺すなどの噂がある。
魔力を隠す術を持っており常に行方はしれないが、ごく稀に神を気取るかのように地上に降りてくる。
数年前にホノカを見初めた話は彼の噂の新しい項目らしい。それ以外は全て謎ということだった。

魔法では太刀打ちできないからオマエが行っても無駄だとニイジマは忠告したが、ナツは首を振った。

「オマエ・・・・もしかするとオレたちを心配してるのか?」
「俺様の役に立つ人材になる見込みがあるのにむざむざ殺されてはもったいないだろう!」
「なるほど・・オレはオマエに使われるのはゴメンだが、情報はありがたくいただくぜ。」
「やけに落ち着いてるが、魔法では対抗できんのにオマエにはどういう勝算があるんだ?」
「そんなもんねぇよ。オレはただの人間だ。ちょいと腕は立つって程度のな。」
「ホノカと無事に戻って来いハーミット。そしたら俺様の幹部クラスとして迎えてやるぞ。」
「手下にはならねぇよ。じゃあな、ニイジマ。・・ジークも。そういや他の奴等は?」
「トールとダケダとウキタは情報収集などに出ています。救出成功を祈っております。」
「こらジーク!余計なこと言うな。」
「それにホノカの師を探させてもおります。魔王にぬかりはございません。」
「へぇ・・じゃあオレに殺されかけたことはここだけの話にしといてやるよ。」
「恩を売ろうと思っていたのにバラすなよ〜!?上手くいったらちょっとは感謝しろよ!」
「ふ・・そうだな。少しは感謝しとく。」

ニイジマにそんな風に送り出され、ナツは意外に悪い奴ではもないのだなと思った。
彼の生い立ちからすると善人の側とも言えた。結果当てにしたのも正解だったようだ。
そんなことを考えながら、塔の上でナツは空に向かって声をあげた。

「・・ケンセイさんとやら!オレがナツだ。聞こえてるなら姿を現せ!」

ナツが鋭い視線と共に投げた声の数秒後、暗雲の中から巨大な人の手の形がぬっと出没した。
その大きな手が近づくと胴を鷲掴む。ナツはそのままあっという間に雲の中へ吸い込まれた。

黒い雲の中に入ったナツが目を凝らすと前方が開け、見知らぬ場所へと移動したことを理解した。
そこはガランとした広い部屋だった。ナツの住む古城に似た冷たい石造りの壁と調度類があった。
ナツが下り立った場所から数メートル先の真正面に長身で長く薄い色の髪の男が立っている。
その男は人当たりの良い笑顔を浮かべており、ニイジマなどと比べると容貌だけならば善人だ。

「やあ、初めまして。ナツくん。会いたかったよ。」
「・・ホノカはどこだ。」
「はは・・勿論無事だよ。とても心配そうだね!?」
「どういう了見か聞かせてもらおうか。」
「実はね、君には少し目を付けてたんだよ。・・私も魔法以外に武術を嗜んでいてね?」
「へぇ!魔法抜きで相手になってくれるなら願ったりだぜ。」
「君はただの人間だ。魔法を使えば叶わないくらいわかるだろ?それじゃ面白くないよね。」
「そうさ、ただの人間だからな。」
「うん、それに見たところ実力は私が上だな・・それにまだ君は子供で男としても未熟だ。」
「見ての通りだ。だが力の差が勝敗には繋がらないことくらい知ってる。」
「・・ホノカはねぇ・・とても貴重な魔力を持っているんだ。ただの人間に渡すのは惜しい。」
「へっ!ホノカはオマエみたいなのになびかねぇよ。諦めろ。」
「はっはっはっ・・・それじゃあ君にならって?!自信家なんだねえ、君は。」
「そうは言ってねぇ。てめぇみたいなの・・大概嫌われもんだろ?!」
「平和主義でこんなに紳士なのにね・・女ってのはわからんものだ。」
「振られてお気の毒だが、その後がしつこいんじゃねぇのか?・・やる前にホノカを出せ。」
「そうだね。君が私に負ける場面を見せれば考え直すかもしれないし・・」
「ホノカには何もしてないんだろうな?紳士だとかぬかしてやがったから。」
「無理強いは良くないよね。出会ったときはホノカの方が積極的だったんだけどなぁ・・!」

ナツはその男のことが第一印象も良くはなかったが、さらに嫌になっていくのを感じていた。
酷薄さを感じさせる人を見下ろしたような目つきや態度。柔らかい言葉は飾り物のようだ。
そんな輩をナツはよく知っていた。子供の頃からそんな大人たちに対抗して生きてきたから。

”子供のときがどうだったにしろ、今のホノカがこんな男を相手にするものか!”

ナツの憎悪の籠もった視線を受け流した男がさっと右手を翳すと何も無い場所に椅子が現われた。
手品師のような手の先に浮かんだ椅子にはホノカが座っていた。ナツは驚いたが声にならない。

ホノカの姿に間違いないが、固まって石のように見える。目は何も映しておらず無表情だ。
息をしているのかと一瞬疑った。魔法使いはそのホノカに向かって優しげな微笑を向けた。

「ホノカ、君のお弟子さんが来たよ。私とちょっと腕試しがしたいんだそうだ。」

しかしホノカは微動だにしない。人形のように椅子に腰掛けたままだった。

「あまり成長してしまうより私は今くらいの年齢がホノカらしくていいと思うんだ。」

勝手極まりないことを魔法使いはぬけぬけと口にする。つまりホノカは・・

「だから清らかな今のうちに時間を止めたんだ。可愛い声が聞けないのが残念だけど。」

「・・・無理強いしないなんてよく言えたもんだな、この悪趣味野郎!!」
「成熟する一歩前の瑞々しい時期じゃないか。悪趣味とはヒドイなぁ!?」
「オレの勝ちを認めたらホノカは元に戻せ。お約束だろ!?」
「ふふ・・そうなると勝たざるを得ないねえ!?」

先制の攻撃はナツだったが、流石にそれが命中には至らない。予想済みのナツの攻撃が波のように襲う。
しかし魔法を一切使っていないのに男には薄笑いが張り付いたままだった。まるで遊んでいるかのようだ。
気では負けていないのだが、見た目はナツが押されている。僅かずつ体をずらすナツに男がふと真顔になる。

ナツはホノカを取り戻そうとしているのだと気付かれてしまったのだ。卑怯にも男はホノカを宙に浮かせ、

「魔法は使わないんじゃなかったのかっ!」叫びも虚しく、翳された片手でナツは弾けとんだ。そのとき


    シュッ


唐突に空気を刃物で切り裂いたような音がした。ナツに与えられようとしていた攻撃が床に逸れた。
魔法使いとナツの間に裂け目が生じた。斜めにずれた隙間からぬっと女が顔を出し、男たちは一歩下がる。


「よ・・!お待た・・せ・・ここ、わかりにくかった・・ぞ。やれ・やれ・・間にあ〜っ・た。」

独特の間の台詞と共に、黒髪を高い位置で一まとめにした美女がそこから出てきた。
手には片刃の長い獲物を持っている。おそらくさっきの切れ目はその獲物で切ったものだろう。
それはニホントウと呼ばれる骨董にしか無い業物だ。魔女シグレの愛用の武器だった。

「ケンセイ・・じゃない・・オガッち・・だっけ?・・あ・・イットウさん、だった・か!」

きりっとした眉に比べ穏やかな口調と目元をした美女は魔法使いに向かって名前を呟いたらしい。
が、呼ばれた魔法使いは眉間に皺を寄せ、「合ってたのは初めのだけでしたよ、シグレ?」と返した。
名を聞いたナツにはその美女がホノカの師匠だとわかった。どうやら二人は知り合いらしい。
危険な場面を助けられたナツは、美女と目が合ったとき軽く会釈した。すると美女はナツに向かって

「きみ・・ピンチだ・った・ね!ホノカ・なら・ついでに・・解放・した・・ぞ。」

いつの間に魔法を解いていたのか誰にもわからなかったが、彼女がそう言った途端ナツの上に

「ナッツンーーーーっ!!!」「うあっ!!?」

ホノカが突然自分の上に落ちてきた。慌てたナツはその勢いでホノカごと体勢を崩して床に転げた。
だが構わずに眼の前のホノカを抱きしめた。こんなに簡単に取り戻せるとは思いも寄らない。
本物の温もりを確かめると、ケンセイの舌打ちする音が聞え、ナツは”ざまみろ!”と思った。

「ふられた・・ら、潔く・・あきらめる・んだ・・な、ケンセイっち・・・」
「その名も違ってるんですけどっ!(怒)」
「や、すま・ん・・な。面倒だ・から・・名前・・統一し・ろ。」
「どうして貴女は邪魔ばかりするんです?!私はホノカを真剣に愛しているのですよ!?」
「ホノカは・・オマエ・・じゃ・・イヤなんだ・・から、しょうが・ない・・だろう・?」
「貴女だって昔は可愛かったけれど・・こんなに育っちゃって・・はぁ・・やるせない!」
「やぁい、ろり・・こ〜ん!だか・ら・・嫁さん・・もらえないん・・だぞっ・・・と!」

「・・・なぁ、これってどうなってんだ?オレさっき殺されかけてたんだが・・?」
「ああ、だいじょぶだよ!師匠が来てくれたから。ケンちゃん師匠には弱いんだ。」
「ケンちゃんて・・;あの二人昔なんかあったのか?」
「シグレの若いとき一目惚れしたらしんだけどね、あっさり振られて、その後・・」
「?」
「師匠は子供の頃男の子みたいだったらしいんだけど美女に育ったらがっかりされたんだって。」
「・・・・ふ〜ん・・」
「だからホノカも大きくなる前に早く結婚してくれって言われて困ったよ。」
「とことん迷惑な野郎じゃねぇか!なんで放っとくんだよ!?」
「そんなに悪い人じゃないんだよ。困った人ではあるけどね。」
「アイツマジでオレを殺そうとしてたんだぞ!?オマエのことも人形みたいにして!」
「ウン。ごめんよ、うっかり魔法に掛けられちゃって・・でもホノカ時間掛けて解きかけてたよ?」
「師匠が解いたんじゃないのか?」
「最後は助けてもらっちゃった。ホノカって結構スゴイでしょ!?」
「・・んだよ!どんだけ心配したと思ってんだ!?腹立ってきたぞっ!」
「ごめんねぇ〜!?」
「ニイジマも心配してたぞ。」
「あれま、やっぱりイイ奴だね。」

「それ・に・・ボクの・こと・・探しに・・来てた。手下らしい・・3人が・・」
「トールとタケダとウキタだ!師匠にぽーっとなってたんじゃない!?」
「ま、ね。ボクちん・・男に・・大人気・・。」
「ホノカっ!はしたないっ!?いつまで男の上に乗っかってるんだい!?離れなさい!」
「ケンちゃん、ちみがホノカを諦められるようにしてあげるよ。ちょっと待ってね・・」
「ホノカ!?やっやめなさい!そっそんな魔法っ!あ・あああ〜〜〜・・・ああ・・!」

「どんなもんだい!魔法で大人になってやったじょ!?」
「・・・・そっそんなになっちゃって・・・ホノカ・・君のことは忘れないよっ!・・」

目には涙すら浮かべて、傷ついた様子のケンセイはしゅるんとその場から掻き消えてしまった。
哀れなことにそんなことはどうでもいいと・・・要するに他の皆は彼を忘れ去っていた。

「おお、育った・・な・・?」
「ど・・・ど・・どーなってんだよ!?ソレ・・・!!!」

眼の前で仁王立ちになっているのはホノカ、なのだが・・シグレに負けず劣らずの美女である。
ナツは目線をどこに持っていけばいいかわからずに挙動不審になっている。

「ナッツンどお!?ホノカいけてるかな!?って、なにきょろきょろしてんの?」
「・・・・・・・・・あ、あのな・・ソレって元に戻せないのか・・・・?」
「え・・まさかナッツンもケンちゃんみたく・・大人の女だとダメなの!?」
「そうじゃねぇけど・・いきなりそれは〜!」
「シグレ〜!ダメかなぁ!?」
「そ・う・・だな・・放っておいて・・もそう・なるんだ・から・・戻れ・ば?」
「ちぇ〜っ・・ナッツンが結婚してとか言うといいなと思ったのに。」
「アホかっ!オマエにはまだ早い!」
「む〜・・・だって・・あ。そうだ!今度ケンちゃんが来たらこうすればいいんだよね!?」
「そう・・だな・・困った・・奴・だ・・」
「そのうちケンチャンのこと好きな魔女が見つかるよ、きっと。」
「ま・そこ・まで・・面倒・・見られん・から・・ほっとこう・・か〜・・!」

「オレは疲れた・・・なんだよこの展開・・・活躍場は今回もほぼナシだ。」
「ナッツンありがと!かっこよかったよ!?・・ちょびっとだけど。」
「そうですか・・」
「えへへvなんかさぁ・・囚われのお姫様気分を味わったよ!」
「オレと別れてすぐにアイツにさらわれたのか?」
「・・訪ねてきて、美味しいケーキ食べに来ないかって・・」
「のこのこついていったのか!?アホかっ!!」

「ごほっ!これこれ・・ダメだ・ぞ?ホノカ・・」
「だって・・知らない人じゃなかったし・・」

オレはコイツはやっぱまだお子様だと肩を落とした。そしてその後元に戻ったホノカに心底ほっとした。
報告のためにニイジマの城へ戻るとシグレを見て「こっこの美女は!?」ニイジマが目を白黒させていた。
ウキタやタケダ、トールも戻ってきて、その場でなんとなく祝宴のような流れになった。

「なんだ、そんなはた迷惑な奴だったんですか〜!?いやいやお姉さま、もう一杯どうぞ。」
「すま・ん・・この・・酒・・いける・・な。」
「どんどん召し上がってください。でもってですねぇ・・手下どもの指導の件を是非とも!」
「すぅお〜だなぁ・・どんだけ・・くらい・・強くすれば・・いいん・だ?」
「それはもういくらでも!それと魔法使いに対したときの対処法などもできましたら・・!」
「ふんふん・・オマエ・・中々の・・やり手・・・だ・な。」

「それにしても人騒がせな話だったな。ハーミット!ホノカも無事でよかったよかった。」
「オレとしては美女になったホノカってのが見たかったじゃな〜い!もう一回見せてくんない?」
「オマエいやらしいぞ、顔が。タケダの言うことなぞ、聞かんでいいぞ嬢ちゃん。」
「皆も大人の方がいいの?ナッツンってやっぱり・・ケンちゃんと一緒なのかな?」
「違う!危険を増やすなオマエは。タケダみたいなのがごく普通なんだからな!?」
「ちょっと〜!オレがいやらしい代表みたいな言い方しなくていいじゃな〜い!?」
「はっはっ・・好みだろ、そんなの。どっちでもいいってことだ。気にスンナよ。」
「そうそう嬢ちゃんは今のままでも大人になっても変わりないのが一番だ。のう、ハーミット?」
「・・・・何気にからかってるだろう・・オマエら!」
「そっか。じゃあ今のままでいるよ。でも大人になってもキライにならないでね!?」
「なんないよね〜!?ぷくくく・・・・」

ニイジマの城で皆が酔っ払ってぐだぐだになってしまった。うんざりしたナツはホノカを誘い外へ出た。
もう夜も更けて月が二人を明るく照らしていた。

「月が・・もうすぐ月光浴できそうだ!ナッツンそのときは一緒に行こう。」
「ああ、満月の晩な。子供の夜更かしは感心しねぇけど・・しょうがない。」
「すぐ子供扱いするんだから!?やっぱりホノカ大人になろうかなぁ・・?」
「やめとけって、中身が子供なんだから。見た目だけ大人になってどうする!」
「ふーむ・・あのさ、ケンちゃんがね?ナッツンもホノカが好きだって言ってたけど・・ホント?」
「は!?いきなりなにを・・」
「キスしたくなったら好きってことなのかな?ホノカこの前そうなったでしょっ!って言われてね。」
「・・・この前って・・あのヤロウ覗いてやがったのか?」
「胸騒ぎがして会いにきたらホノカは変わってたんだって。」
「変わってた?何が・・」
「魔力が少し取られてたの。それでホノカがナッツンを好きになったんだと思ったんだって。」
「・・・・そう・・なのか・・?」
「ホノカわかんないって言った。ナッツンは弟子だし・・だけどさぁ・・」
「けど、なんだよ・・?」
「ケンセイとか他の人とそんな風に思ったことなかったんだ。けどナッツンとならキスしたいかも。」
「光栄に思っとく。オレは・・・”かも”じゃなくなるまでは遠慮したいぞ。」
「そうかぁ・・へへっ・・それもいいかも!?」

ホノカは頬を染めて照れたようにそう言った。ナツは思わず目を細める。

「ああ、きっとそれがいい。」

いつか大人にはなってしまうのだ。慌てることもない。ナツの返事にホノカも頷いた。

「あっしまった!師匠に就職していいか訊くの忘れちゃった!?」
「そうだったな。・・それも急がないから訊いておいてくれ・・」
「え、なんで?ナッツンちに行きたかったじょ・・」
「とりあえず遊びに来いよ。就職はオレんトコに内定ってことで。」
「”ないてい”ってなぁに?約束ってこと?」
「そうだ。オレとオマエとの約束。ややこしいことは二の次だ。」
「そっかあ!よっし。じゃあ今晩は?どうする、ナッツン!?」
「そうだなぁ・・久しぶりに猫んなって空の散歩にでも連れてってもらおうか・・?」
「ナイスアイデア!ナッツン、おいでおいで・・」

ホノカが手招きするとナツはホノカのすぐ近くに寄ってきた。月明かりを背景にナツは微笑む。
そんなナツを見上げて背を伸ばしたとき、ホノカの心臓がドクン!と大きく鐘を打ち鳴らすように打った。
「どうした?」ナツは少しも気付いた風でない。暗くてホノカが真っ赤になっているのがわからないのだ。

”ねっ猫にする魔法って・・どうだっけ!?あっあれっ・・わかんなくなっちゃった!”

「ホノカ?」

”どうしよう!?かもじゃなくて・・魔法でもなくって・・キス・したい!!”

小さな魔女はものすごくピンチに陥った。このままでは気付かれてしまう、いや気付かれていいのか!?
大人になったらこういうのは平気になるんだろうか?ホノカは目を瞑り、猫にするんだと自分に言い聞かせた。
二人の唇が触れ合うまであと数秒。・・・邪魔は入るのか?それに魔法は掛かるのか・・?
月だけが見ていた。しかし見ていられなくなったかのように薄く雲を纏うと月は隠れてしまった。
さあ・・・触れ合うまではあと1秒・・・



☆☆☆ TUZUKU(続) ☆☆☆






ほらね、シリアスじゃなかったでしょ!?(おいおい)で、どうなったかは・・・
この次です。嬉しいことに予定通りで次で終わりそうです〜!ヨロシクお願いしますv