Trick or treat? その4


「お、落ち着け、ハーミット!」
「そうそう、俺たちは足止めは引き受けたけどね〜?」
「うむ、おまえさんと闘うつもりはないぞ、ニイジマ!何とか言わんか?!」

怒りのオーラを隠さずに突然現れたナツに対し、トール、タケダ、ウキタは戦意のないことを明かした。
ニイジマを庇うように立つジークだけは戦闘態勢を取ってナツに対峙し、目線を外してはいない。
対するナツも他の三人を無視するかのようにジークとその後ろのニイジマへ鋭い視線を突き刺している。
ひゅっと鋭い内気を取り込む音を皮切りにナツは攻撃を仕掛けた。周囲は拳圧に呑まれそうになる。
ジークはその初拳を受け止めたかに見えたが、勢いで吹き飛び、後ろでニイジマが悲鳴を上げた。

「ど、どうする?・・これは止められそうにないぜ?」とウキタ。
「そうだね・・それよりさっきのあの魔女っ子ちゃん、どうなったんだろーね?」とタケダ。
「怪我でもしとるんじゃあ?アイツ助けに行かんで闘ってていいのかのう?」とトールが案じた。

すっかり傍観者になって、三人は姿の見えない魔女ホノカのことを心配している。
ナツが魔法で猫にしたのはニイジマである。その魔法を本人が解いて得になることなどない。
とすると、彼は魔女ホノカの力によって人間の姿を保っていることになる。とすれば、

「まぁ、死んでないってのは確かなんじゃな〜い?!」
「助けにいくか?俺たちもいい加減あいつのいいなりになってるのもな・・」
「そうじゃのう。そもそもなんで俺らはあれに”乗せられ”たんだったかのう?」

三人の裏切り話がまとまろうとしているとき、ニイジマはジークを盾に逃げようとした。
当然それを逃すつもりのないナツだったが、彼は何事か呪文を唱え、ジークに魔法を掛けた。
するとジークの体が見る見るうちに大きなドラゴンの形に姿を変えていき、一同は息を呑む。

「うあああっ!!なっなんじゃこりゃあ!!??」とナツ以外の三人が悲鳴を上げた。
「ケケケ・・俺様の魔法を見くびるなよ!」しかし嘯くニイジマに余裕は感じられなかった。
ドラゴンに変身したジークが大きな翼をばたつかせると、その勢いが爆風となり皆を吹き飛ばす。


絶体絶命のピンチ!といった状況だが、ここで時間を少し戻して魔女ホノカはどうなったかというと・・


「ホノカッ!!」ナツは大声で叫び、落ちてゆく彼女の体を庇おうとした。
しかし猫の姿ではどうすることもできず、二人は瓦礫に埋まってしまった。
数秒間ナツは気を失っていたが、意識が戻るとすぐにホノカの姿を探した。
魔法でそうしたのか偶然なのか、それはわからないが小さな体は瓦礫の隙間に在った。
一見気を失っている。しかし体の周囲に風のような薄い空気の膜が覆っているのにナツは気付いた。
「ホノカ、生きてるんだろ!?しっかりしろ!!」ナツの呼びかけにホノカから僅かに反応があった。
「・・・ゴメン・・・ドジっちゃった・・・回復魔法使うから・・・ちょっと待って・・・」
目を閉じたままぐったりし、弱々しい声だった。しかし声を聞いてナツはほっと安堵の溜息を吐いた。
「回復できるんだな!?・・・ふぅ・・心配させやがって。」
安心したものの、ホノカは身動き一つしない。ナツはその姿を見て怒りを新たにした。
「あの野郎・・ふざけやがって!ホノカ、オレの姿を戻すのは負担が大きいのか?」
「・・・アイツにばれても・・いいなら・・いつもどおりにできると思うよ・・・」
「オマエが回復するまでにアイツをぶっ倒してやる!」
「そんなにカッカしなくても・・ホノカがドジだったのさ・・お恥かしい。」
苦笑するホノカを覗き込むようにして、猫のナツが覆い被さった。動けないホノカは目線だけを向ける。
ナツは迷わずホノカの唇に自分のを乗せると、いつもどおりナツの体が元の姿を取り戻した。
「ここは危ないから運ぶぞ?いいな?!」
「ウン・・世話をかけるね〜・・」
「何言ってんだ。」
「ありがと・・・ナッツン・・」
ナツはホノカの体を抱き上げて、瓦礫の隙間を脱出し、安全そうな場所へ連れて行くと寝かせてやった。
自分のマントを外してホノカに掛けてやると、回復に専念して目を閉じたホノカの元を離れた。
そうしてニイジマの居る場所へと向かったのだった。長いようでいて、この間数分しか経過していない。
さてここで時間を元へ戻して、大ピンチかもしれない状況に驚く三人組はというと・・


「うわああああっ!!なんじゃこりゃあ!?」
「こりゃまたすっごい魔法じゃな〜い!?やるねー!?」
「感心してる場合かよ!?おいっこっちこっち!」

ウキタがすぐ傍の林を指差し、とりあえず身を隠そうと風に煽られつつ場所を移動する。
すると三人は林の奥に結界のようなものに囲まれて横たわっているホノカを発見した。

「あっ!さっきの魔女だ!やっぱ生きてたぜ!?」
「ホントだ、しかしこれは弱ってるんじゃな〜い?!」
「回復しとるんだ。ここは護ってやらんと何かあったら大変じゃぞ?!」

「・・・・なんだ、君達か。魔法が解けて正気になってるじゃんか。」

驚く三人の前でホノカはゆっくりと起き上がり、シュンッと彼女の周囲の風の囲いが掻き消えた。

「もう回復したのか!?良かったなあ、ちっこい魔女。」
「コホン、ちっこいは余計だよ!ホノカっていうのだ。」
「それより彼氏アイツらを追いかけてったんだけど。ドラゴンになったジークとニイジマをさ。」
「苦し紛れにあんな魔法使ってバカだよね。アイツもう魔力ほとんど残ってないよ、きっと。」
「なるほど。逃げることに必死になったんじゃな。ハーミットをあんなに怒らせたら怖いよな。」
「あ、やっぱナッツンって切れちゃうタイプ!?そっちのが心配になってきたよ。」
「まずは君が無事な姿見せるといいんじゃな〜い?」
「ウン、ホノカ行くよ。君達はどうする?」
「俺達は・・・ニイジマが・・お灸をすえられるとこなんて見てみたいな。どうだ!?」
「おうっ!賛成ー!!」
「よっし、じゃあ皆で行こうか!?れっつごー!!」




「邪魔だ、どけっ!ニイジマが逃げちまう!」

一方、ニイジマを逃がされそうなナツは、無理にも突破しようと必死だった。
ところが大きくなりすぎたジークは簡単にすりぬけることができ、ナツは肩透かしを食らった。
「おいっいいのか!?なんのためにでかくしたんだ、アイツ・・?」
思わず首を傾げるナツだったが、言葉のままならないドラゴンジークは哀しげな雄叫びを上げた。
そんな悲痛な叫びを尻目にナツはニイジマを見つけ、駆け付けるとあっさりと捕まえてしまった。
「うぎゃあっ!許してくれー!!」
「よくもホノカをあんな目に!観念しやがれ!」
「へっ!?ホノカ!?オマエのことはいいのか?」
「オレの・・はっそうだったぜ。死にたくなかったらすぐにオレの魔法を解け!」
「ケケケ・・魔法のおかげであの魔女と仲良くなれて良かったんじゃないか!?」
「何言ってやがる!?」
「ホノカを放っておいていいのか?回復中に襲われでもしたらいくらアイツでも・・」
「まさか・・」

「おいおい、せっかく魔法を解かせようってときに放しちゃうのか〜い!?」
「いや、よほどちびちゃんが心配なんじゃろ?!愛されとるのう?!ちびちゃん!」
「せこいぞ!ニイジマ、いい加減にしておけよ!」

「おっおまえたち・・それに・・」

「はーい!!ホノカ復活だよー!」

「ホノカ!回復したのか!?」
「まぁね。それよかニイジマさん?ちみね、もう逃げられないよう〜!」
「くっ・・ハーミットだけは洗脳できなかったんだ・・だから・・」
「猫にしたの?でもさっきちみも言ってたけど、おかげでナッツンと逢えたからね。」
「そ、そうそう!俺様の・・ぐげっ!!」
「むかつく奴だぜ。やっぱ殺してやろうか?」
「魔法解いてやらんぞ・・・痛えええ・・;」
「ダメだよ、解かないとホノカがちみに魔法をかけるから。蛙はどう?可愛いよv」
「ははっそいつはいいぞ!」
「是非そうしてやってくれ。」
「異議無しじゃ!」

皆の賛同に青くなっているニイジマは魔力を使い果たし、ナツに首根っこを掴まれて憐れだった。
そんな彼の元に、魔力が尽きたために元通りになったジークが駆けつけ、ホノカの前に跪いた。

「どうか御許しを!魔女ホノカ殿。」
「ジ、ジーク!」
「悪戯が過ぎたことは私からも諌めますゆえ、どうか彼を許してください、魔女ホノカよ!」
「そうだねぇ・・強い人を集めるのはいいけど無理矢理はダメだよ、ねっニイジマさん?」
「ハイ!全くおっしゃる通りです。」
「なんて調子のいい奴だ・・・」
「ナツの魔法を解いてくれたら、今回だけは許してあげる。だけどもし・・」
「とっ解く!っていうかもう俺の魔力がさっき底をついたとき解けてるはずなんだけど・・」
「何っ!?そうなのか!?」
「あ、やっぱりね。まぁいいや、そんじゃさ、あんまり悪いことしちゃダメだよ?」
「ハイ・・」
「じゃないとすぐにホノカがお仕置きに来るからねっ!」
「わかりましたあっ!は、ハーミット、すまんかった。許してくれ!」
「なんかすっきりしねぇが・・ホノカも無事だったことだしな・・勘弁してやる。」
「ホント、愛されてるねぇ〜?!」「うむうむ・!」「いいな〜・・ハーミット・・」
「んなっ!?・・オマエらさっきから何言ってんだ!?」
「そりゃ・・自分が何しに来たかも忘れて魔女の心配ばっかしてただろ?」
「魔王のおっしゃる通り。私もアナタの愛の力には屈服いたしました。」

「あのさ・・皆・・わざと言ってるの?・・ナッツン?落ちついてよ?!」

「あっそのっ・・悪かったね〜!?つい微笑ましくって・・ねっ?」
「そうじゃそうじゃ、そんなに照れることもあるまいて!なあっ?」
「いいじゃねーかよ、ホノカも無事だったんだし。よかったな!?」


「・・・・うるせぇーーーーーーーー!!!」


ホノカが無事だったこと、魔法が解けたこと、誤解と言いきれない皆の意見の前にナツは・・
真赤になってホノカの手を掴んでその場を後にした。ホノカも慌てて彗を取りだし二人でまたがる。

「じゃあ皆ばいばーい!元気でねー!」

数メートル上空からホノカは一同に手を振って挨拶し、皆も口々に別れを叫んだ。

「またなーっ!!ホノカー!ハーミットー!」
「仲良くね〜!?またねぇ〜!!」
「元気でなあー!!また会いたいぞー!!」

「見て見て、ニイジマもジークも手を振ってくれたよ?!ナッツン」
「どうでもいいぜ、もう知らん!」
「へへ・・ありがとうね、ナッツンv」
「あんだよ、改まって・・」
「すごく心配してくれて嬉しかったよ。」
「おっオマエがそう簡単にくだばるとは思ってなかったけどな。」

”ちゅっv”
「!?」

ホノカは感謝を込めてナツにキスをした。するとナツの体は再び猫の姿に。
「なっなんだ!?なんで?」
「だって、重いから猫になってくれないと飛べないよ!」
「〜〜〜〜!?〜〜〜〜」

ナツは不満そうだったが、ホノカは楽しそうな笑顔で猫のナツを抱き寄せた。
勢いよく彗は二人を乗せて高く舞いあがる。空には月が優しく見守っていた。

☆☆☆ TUZUKU(続) ☆☆☆









「ハロウィンの魔女」続きです☆1年振りですよ・・;(汗)
のんびりしていてごめんなさい。まだ終ってませんので続きます☆