Trick or treat? その3


「ひゃーーーーはっはっはっはっ!コイツは面白い!」

尖った耳、ツリ目気味の三白眼、長く爬虫類のような舌の男が笑う。
黒い装束はいかにも怪しげで住んでいる屋敷も暗く中世の塔のようだ。
歳は若そうであるが、彼の傍に跪く男から「魔王」と呼ばれている。

「で、そのマヌケな奴らが向こうから来てくれたってのか!傑作だな。」
「はい、いかがいたしましょう、我が魔王よご命令を。」
「そうだなぁ〜?わざわざ来てくれたんだから歓迎してやらないとなぁ!?」




ハロウィンの夜、子供達があちこちでお菓子を強請って歩いている。
それを羨ましそうに目で追いながら、ホノかは溜息を吐いた。

「いいな〜!ホノカ魔女になる前はあれを欠かしたことなかったのに・・」
「なんだよ、魔女ってのは実際あーいうことはしないのか?」

猫の姿のナツが尋ねるとホノカは頷いて見せ、「うん・・あれは子供のためのお祭りだもん。」
一人前と見なされた魔女には赦されないらしい。しかしホノカは未だに未練たっぷりといった様子。
何が『一人前』の証なのかと尋ねると、一応試験があるらしい。ホノカは去年正式な魔女になった。
そうなるとひとり立ちして家を出なければならない。ナツは不思議に思って更に尋ねてみた。

「オマエみたいな子供がひとり立ちしてまで魔女になりたい理由ってなんなんだ?」
「子供は余計だよ。うーん・・それはね、家の事情なのさ・・」
「オマエんち貧乏なのかよ?」
「失礼な!お兄ちゃんも家を出てとあるお屋敷で働いているの。しきたりみたいなものさ。」
「ふーん・・・つまりひとり立ちが前提で、働くのが嫌だったとかか?」
「まぁね。ホノカはもっと色んなことして遊びたかったんだけど・・結局魔女も思ったより自由じゃなくてさ。」
「へぇ・・そんでもってまだ求職中なんだろ?」
「ウン、近頃は魔法なんて珍しくないんで雇ってくれるとこ少なくって。自給自足できる人はいいけど・・」
「オマエ魔法以外はあんま出来そうにないもんな・・・」

何日か一緒に暮らすうちに、ホノカは不器用であまり家事も得意でないことがわかった。
しかしそれもそうだろう。魔法とは関係ない普通の子供ならひとり立ちするには早い年齢だ。
ナツは子供の頃から苦労してきたので一通りなんでもこなせた。おまけに器用だった。
だから『弟子』というよりほぼ『家政夫』といった状況であったことを思い出した。
”手伝う”と称して一緒にあれこれ”邪魔”をするホノカだったが、楽しそうだった。
寂しさをよく知るナツは彼女の境遇に同情もし、放っておけないとも感じるようになった。
こんな子供みたいなヤツが魔力目当てに悪い奴に利用されたりしたらと思うと心配になる。
かといって、このまま家政夫の身分に甘んじるという訳にもいかない。彼にも元の生活があるのだ。
猫にされて家もそのまま放り出してきている。一度戻ったが誰も自分だと認めてくれなかった。
できるなら一緒に居てやりたいが、魔法を解いてもらわないわけにもいかないナツだった。
そんなことを思いながら、ナツは自分に魔法をかけた男の元へと再びやってきた。
箒に乗って飛べば目的地の魔法使いの住処はすぐだった。暗い森の中に高い塔が聳えている。

「うわ〜!・・・悪趣味ー!よくこんな気持ち悪いとこに住んでるねぇ!?」
「まぁ・・・確かにな。」

ぶつぶつ言いながら門を越え、敷地内に降り立った。別段罠もないようだ。

「変なの・・何も魔法が仕掛けられてないなんて・・?」
「おいっ!誰か居るぞっ!」

「・・・ようこそ、魔王の館へ・・・」

「うひゃっ!!」
「う・・コイツか・・!おい、魔法が無理ならオレを元に戻せ!」

「その声は・・・随分可愛らしい姿になったのですね、ハーミット・・」
「うるせえっ!オマエあいつに操られてんのか?じゃないならバカな真似はやめろ!」
「はて?私は操られてなどおりません。魔王のお言葉に感銘を受け、協力しておるのです。」
「ちっ・・・バカにはバカが集まりやがる!」
「ねぇねぇ、ナッツンの知り合いなの?この人強い?」
「いかにも。お嬢さんには恨みはありませんが、止むを得ません。さあっかかっていらっしゃーい!」
「うーん・・・ちみはちょっとおもしろそうだけど、パス!ごめんね?」

ホノカたちはあっという間に空中高く舞い上がると吟遊詩人のような格好の男はもう豆粒サイズだった。
空から近付くと塔には窓一つない。しかしおそらく目当ての人物はそこに居る。ホノカは思案した。
「ナッツン、どうやって入ろうか?ホノカも猫になろうかな?」
「何?!」

ボムと小さな爆音と煙が立ち込めたかと思うとホノカも一匹の猫になっていた。
「これなら塔の中入りやすいでしょ?」ナツより小さな子猫で白くてブチがある。
「箒はどこいったんだ?」
「超ミニサイズになってるの。大丈夫v」

ナツと塔に繋がる屋敷の一角から忍び込み、まんまと塔への入り口へと向かった。
入ってみると中は思ったより広いホールになっていた。そこへいきなり鉄球が飛んできた。
「わわっ危ないじょっ!」
ひょいと避けた猫二匹の前には鎖に繋がった鉄球をぶんぶんと振り回す大男が待ち構えていた。
「なんだぁ!?このちびっちゃいのが相手だってのか!?ふざけとるのう・・・!」
「ちびちゃいんじゃなくて、ちみが無駄におっきすぎるんだじょ!」
「なんじゃとー!?全国の太めの男性に謝れ、このちび猫め!」
「べろべろべーっだ!」
せっかくの登場にも拘らず、またも小柄を活かしてするりと二匹は塔へと続く階段へすり抜けた。
「あっ待てっ!無視するとはなんだー!せっかくの出番があっ!!」
「ごめんねー!急いでるんだよーー!」
「・・・トールもジークも憐れな・・・ちょっと同情するぜ・・」ナツはこっそり呟いた。

ジークとは初めに通り過ぎた男、さきほどの大男トールもそうだが、ナツの知った人物たちだ。
そもそもこの塔の主は強い男を自分の家臣にしようと集めるのが目的であった。
彼らとはここで闘った経験があったのでナツは皆知っているというわけである。

「あー・・・猫だと楽かと思ったけど疲れてきたじょ〜!長い階段〜〜!!」
「これしきで何言ってんだ!じゃあ魔法で飛んでいけばいいだろ!?」
「そうだね、そうするか・・」
ホノカが魔法でまた元に戻ったとき、階段の途中の扉からまた新たな男が出てきた。
「もうここまできちゃったのか〜い?・・・おじょうちゃん、ちょっと待ってくれな〜い?!」
「ヤダ!」
「えっ!?そっそんな、コレだけなのか〜い!?・・・おじょうちゃん、今回はイイ男だよ〜!」
「ナッツンの方がいい男だもん!」
「・・・あれはタケダだ・・・気の毒に;」
箒に飛び乗ったナツは後ろ向きに彼の姿を見送った。スピードを上げてホノカは塔を昇ってゆく。
途中で”ウキタ”という体格の良い男も出てきたが、彼も「ごめんね、またね〜v」と見送られた。
「おいっ!あんまりじゃねーか!?作者はオレのファンじゃなかったのかよっ!!」(ゴメン:作)

「やれやれ・・・オレも活躍する場面なしか・・?」
ナツがそう呟いて、塔の天辺が近付いたとき、なんと大きな地響きが始まり、塔全体が揺れた。
「わわっ!じ、地震かい!?」
「違うだろ!?おいっ気を付けろ、崩れるぞ!」
「うきゃあああああああっ!!」

塔はガラガラと音立てて崩れ始めた。ホノカは魔法を使おうとしたが崩れた瓦礫で頭を打った。
「ホノカッ!!」
ナツは気を失ったホノカを追いかけたが、猫であったために手が触れても助けることができない。
それでも必死でホノカの服の端を摘んだまま、彼らは崩れ去る建物に巻き込まれながら落ちていった。


「魔王よ、よろしかったのですか?建物が全壊です。」
「あぁ、もう老朽化してたから立て直すつもりだったんだ。丁度良いと思ってな。ケケケ・・」
「さすがは魔王。それも計算済みであったということですね。しかし、あの者たちは・・」
「いやぁ・・殺すつもりはなかったんだが・・・やりすぎてしまったかな〜・・・;」
「ヒドイじゃな〜い!?俺たちも危なかったんだよ〜!」
「まったくじゃ!あんなおちびどもに何もここまで・・」
「出番なしな上に気分良くねぇぜ?!」
「そっそんなこと言われても・・・魔法が使えたらこれしきのことは・・・」

「・・いい加減な奴だぜ・・お前は絶対赦さねぇ・・・!!」

「ハ、ハーミット!?生きていたのか!しかしどうやって元の姿に・・?!」
「問答無用だ。お前ら全員覚悟しろっ!!」

彼らの前に現れたのは元の人間の姿になったナツだった。”ハーミット”は彼の通り名である。
そのハーミットこと、ナツは怒りを隠さず、寧ろオーラにも噴出すのが見えるようだ。
その中にははっきりと窺える”殺気”がその場に居る者たちにぞくりと背筋を冷たくさせた。
そして彼の傍にいるはずのホノカがいない。まだ魔法は解けていないはずであるのに。
魔法使いを庇うように、ジークやトール、タケダ、ウキタらが身構えた。
しかしこれでは多勢に無勢。ナツに勝機はあるのだろうか!?それとも・・・?



というわけで、次回にナツの活躍は見れるのか!?作者にもわからない!(!?)
ホノカは果たして無事なのか。・・それは大多数の予想通りだと思います。^^;



☆☆☆ TUZUKU(続) ☆☆☆










「ハロウィンの魔女」第三弾です。続きます☆