Trick or treat? その2


「いいかい、元に戻ってるときホノカから4M以上離れちゃダメだよ?」
「なにぃ!?なんでだよっ!?」
「そのくらいだったら戻っていても魔法が解けたとばれないから。」
「・・寝るときとか・・・風呂とかどうすんだよ?」
「あぁ、そんなの猫で居ればいいじゃん。」
「なんだよそれ・・・ちっとも戻れた気がしねぇっ!」
「『弟子見習い』でもしながら待っててよ。ちゃんと戻してあげるからさ。」
「・・・ちっ、しょうがねぇ・・・まぁ・・宜しく頼む・・」
「おお、素直でよいねぇ!了解了解v」


数時間は元の人間の姿に戻れることになったナツはホノカの家で共同生活を送ることになった。
彼らは『魔女』や『魔法使い』の称号をもらったら独立しなければならないのでホノカも一人暮しだ。
兄一人と両親のホノカ以外の家族たちはごく普通の人間で、この街に住んでいるらしい。
心配症の家族に遠くへ行くのを引き止められたことと、たまたまこの街に魔女がいなかったからだ。
ナツは説明を聞きながら、”そりゃこんなガキ一人じゃ親も心配するだろ”と納得した。
ホノカの自己紹介が済むと今度はナツの番だと求められ、ナツは考えながらぼそぼそと話した。
この街から一つ山の向こうの街に一人で住んでいると言った。家族は子供の頃に亡くして誰もいない。
隣街の魔法使いを尋ねたのは、数年前に彼の武術の師匠が行方不明になり、その噂を聞いたと情報を得たから。
それが全くの嘘で、腕のたつ者を集めて何か企んでいる彼の元で一生働かせようとする罠であったことなどだ。


「若いのにちみも一人暮らしかね。まぁホノカの弟子にもなったんだから家族だと思ってくれたまえ。」
「何を偉そうに・・年下のくせして。・・オレの妹はオマエみたいに憎たらしいとこは一つもなかったぞ。」
「妹さんがいたの?・・・そっかそっか、よし、ホノカが今日からお姐さんだよ、どんどん甘えてね!」
「なんで『姉』なんだよっ!?」
「だって魔法ではホノカが師匠だもん!」
「むっ・・・むかつくな〜・・」


しかし、暮し始めてみると、ナツは意外なほどホノカの傍で居心地の良さを感じた。
幼い頃妹と二人暮しだった懐かしい気持ちも手伝って、ホノカの明るさと心安さにすぐに馴染んだ。
妹とは似ていないが、子供特有の警戒心のなさも、不遇な育ちの彼にとってはありがたいものだった。
ホノカには話さなかったが、彼は結構苦労人であったのだ。なのでナツは少々ひねくれものであった。
人付き合いも苦手だ。そんなナツなのに、何故かホノカと居るとほっとする。不思議だと思った。

さて、そんなナツの”弟子”としての一日はというと・・・
朝の食事や掃除などを手伝って適当に終わらせると、午前中はそれぞれが修行の時間。
ホノカは魔法の研究などをするのだが、観察してみると結構地味な作業が多い。
分厚い本には読めない文字、唱える呪文も意味不明、意外に難しそうだとナツは思った。
その横でナツは特に「手を貸して」と言われる以外は観察しつつ、自分の鍛錬をした。
これまた地味〜に黙々と。ホノカも初めは興味深そうだったが、やってみたいとは思えなかった。

「よくそんなしんどそうなこと毎日やってるねぇ・・感心しちゃうよ。」とホノカ。
「オマエこそ、そんな訳わかんねぇ勉強とかよくやってんな、意外に。」とはナツ。

お互いの専門分野はそんな訳であまり踏み込まないことにして、午後は色々だった。
お昼ご飯の買出しに行ったり、お昼寝したり、好き勝手にしていいよ?と数時間の外出。
ただし、ホノカと別行動は当然ナツは猫の姿。そう遠くへは行けない。なので・・・
ホノカについて出かけるときもある。箒に乗って飛ぶホノカの懐に抱かれたまま。
ナツは嫌がったが、「だって重たいから猫じゃないと乗せられないよ!」だそうだ。

とはいうものの、空の旅がなかなかに快適なのを知ってよく一緒に飛ぶようになった。
ホノカは猫のときのナツをよく抱っこしたがるが、慣れてしまってされるがままにもなった。
これはナツにとってナイショの話だが、”結構抱かれてるのが気持ちイイ”らしい。
それはともかく、飛んでる間は良いのだが、街でイタズラをして店の者をからかったり、
子供たちをからかって遊んだり、結構悪さもするので内心かなりヒヤヒヤしたりする。

「オマエ、イタズラもほどほどにしとけよ!心臓に悪りぃ・・」
「べっつに大したことしてないもん。いじめっ子は許せないしさぁ、ホノカって。」

悪びれないホノカに溜息を吐くが、彼なりに爽快な場面もあって要するにナツも楽しんでいたのだ。
そんな風に仲良くなってしばらくのんびり過ごしていた二人に来客があった。

「ホノカ!助けてくれ!!」
「お兄ちゃん!いったいどうしたの!?」
「それが大変なんだ。隣の街の魔法使い「ニイジマ」が『猫狩り』を始めた!」
「なぬ!?アイツってばまた悪さかい!猫ちゃんたちをどうする気なんだろ!?」
「なんでも悪いヤツが猫の姿になって逃げたからそいつを捕まえるんだって・・」
「・・捕まえてどうするんだろ?」
「とにかくウチのお嬢様は無類の猫好きだろ?その話にすっかり怒ってしまって大変なんだ!」
「あー・・ミウね・・お兄ちゃんまだ諦めてないのかい?身分違いだって言われたんでしょ?」
「ごほごほ・・いやそれはそのなんとかなるかもなそうでもないような・・・;;」
「って、それはともかく、ミウさんが猫友だちのキサラさんと一緒に隣街へ怒鳴り込むつもりなんだよ。」
「あぁあんな黒い噂の耐えない魔法使いのところに行くなんて、止めたのに聞いてくれなくって・・!」
「ほっとけばぁ?大丈夫だよ、猫は見つからないからさ。」
「え!?なんで?ホノカ何か知ってるのか!?」
「ウン。だってその猫は・・」

傍で聞いていたナツがホノカの肩に後ろからジャンプして飛び乗った。
驚いたホノカに”黙っていろ”と言わんばかりに鼻先でホノカの頬を突付いた。

「あれ?ホノカが飼ってるのかい?この猫。前は居なかったよね?」
「飼い猫じゃないよ、魔女だから猫は友達さ。ホノカの「弟子」でもあるけどね。」
「へぇ、そうなのか。はじめまして、ケンイチです。ホノカがお世話になってます。」
「ナッツンっていうんだ。あのね、お兄ちゃん。その話ホノカも興味が湧いたよ。」
「手を貸してくれるのか?!お嬢様たちが危険な目にあったらと思うと居てもたってもいられないよ僕は!」
「それはともかく。猫たちが酷い目にあってたりしたら放っておけないしね。」
「僕に何かできることは?」
「うーん・・とにかくミウやキサラのこともうちょっと引き止めててよ。明後日の夜まで。」
「わかった。ハロウィンの夜だね?」
「そう。じゃ今から準備に取り掛かって、今晩出発するよ。ナッツン、手伝ってね!」

ケンイチが帰った後、猫の姿のナツはホノカに尋ねた。
「・・・オマエ行ってどうするつもりなんだ?アイツなかなか手強いかもしれないぞ?」
「ウン。だからナッツンも手伝って。魔法を使ってるときのホノカを護ってくれると助かるよ。」
「それはいいが・・アイツは結構卑怯な手も使うヤツだ。・・勝算あるんだろうな?」
「前からアイツ悪いことばっかするから懲らしめてやろうと思っててさ。まぁなんとかなるよ。」
「そんな適当なこといって掴まったりしたら・・街のガキどもを懲らしめるのと訳が違うぞ?」
「わかってるさ。大丈夫だよ、ホノカちゃんを信じなさい。ホントにスゴイんだから!」
「ナッツンの魔法もそのとき解いてあげる。それにアイツが二度とそうできないようにしちゃうんだ。」
「・・オレのために?」
「ん?猫いじめするなんて魔法使いの風上に置いとけないもん。」
「オレのことはついでかよ?!」
「ナッツンは猫の方が可愛いいし、そのままでいてくれてもホノカはいいんだけど・・」
「いやだ!元に戻す約束だろ!?じゃないと・・」
「くすん・・まぁいっか。とりあえずアイツの魔法は解かないとね。」
「・・・うまくいきゃいいが・・・」
「心配症だねぇ。そんなにホノカって信用ないのかい?」
「・・へっ、口の減らねーガキだな。あんま無茶すんなよ?」

ナツは心配だったが、成り行き如何ではうまく行って丸く治まることもあるかと思い直した。
そして目の前の小さな魔女の能力がどれほどのものかという興味が多少あったことも否めない。
そう思いながらも、例え失敗に終わってもホノカ一人は絶対護りきってみせると心に誓った。
彼は昔幼い妹を亡くしてから、強くなると誓って今日まで相当の努力を続けてきた。
そんな彼が今、少女一人を護れないようでは死んだ妹に顔向けできないのと、今までの努力が報われない。

「よーっし!打ち合わせ通りにヨロシクだじょ。」
「わかった。オマエこそヘマしたら怒るぞ。」
「ウン。なんかさ、ナッツンが居ると心強いじょ。へへへv」
「オマエもしかして・・寂しかったんじゃねーのか?」
「そっそんなこと言ってないじょ!魔女は一人でなんでもできるんだからね!」
「じゃあオレが元に戻ったら、また一人でやってけるんだな?」
「えっ!?・・・でもちみはホノカの「弟子」になったんだじょ・・」
「一緒に居ただけでそれらしいことなんもしてねぇじゃねーか!」

”だから寂しかったんじゃねーのかって言ってんだよ・・なんだよ、その顔は!?”

「・・・それにもう二人では暮らせないだろ?元に戻ったら。」
「うー・・・そっかぁ・・そうだねぇ・・」
「ま、オマエがもしスゴイ魔女だって証明してみせるんなら・・」
「あっ覚えてるよ!就職先を紹介してくれるんだよね!?そこってナッツンも居るとこなの?」
「・・まぁな。」
「わーい!ならホノカ頑張っちゃうよ!」
「・・・期待してるぜ?」
「なんかパワー出てきたじょ〜v」


というわけで、ナツとホノカは隣の街の質の良くない魔法使いの元へ行くことになった。
果たしてその「ニイジマ」とはどんな魔法使いなのか!?ナツの魔法は解けるのか?
次回にケンイチやミウの出番はあるのか!?それは・・・神のみぞ知る?・・・



☆☆☆ TUZUKU(続) ☆☆☆










「ハロウィンの魔女」第二弾です。続きます☆