Touch me tenderly.(後) 


ほのかは呆然として黙ったままオレを見つめていた。
暴露したオレの言葉をその頭でどう理解しているのかはわからない。
困らせたい訳じゃなかった。こんなに自分を曝け出すつもりなどなかったのに。
ほのかの前では何故かオレはありのままで、作り上げる仮面を持たない。
どうかするとオレよりもオレの中味を知っているのではないかと思える瞳。
そんな見透かすような視線をしていたほのかが突然深呼吸を始めた。
目を閉じてゆっくりと息を吐き、吸うと、きっぱりとした目を再び開けた。

「なっつん、ちょっと屈んで?」
「・・?・・何?」
「いいから、ちょっとほのかの前に頭出して!」
「は・・?」

間抜けな声を出してしまったオレに構わず、ほのかがオレに手を伸ばした。
小さな両手を背伸びして伸ばし、オレの頭を抱え込むようにして撫で始めた。

「?!なにしてんだ!?」
「よしよししてるの!じっとしてて!」
「よっ?!」
「なっつんにいつもしてもらってるからお返しなの。よしよし・・」
「・・オレは子供じゃねぇんだから・・ヤメロよ。」
「ほのかね、なっつんに甘えたり心配掛けるばっかだなぁと反省したんだけど・・」
「なっつんはもう少しほのかに甘えなさい。もっと心配掛けていいんだよ。」
「?!」
「ほのかだってなっつんが心配。辛そうな顔見てたらたまんないよ・・」
「心配って・・」
「ほのかだってなっつんを心配していいでしょ?!」
「・・それは・・」
「心配かけないようにって気を遣いすぎてるんだよ、なっつんは。」
「・・・・」
「格好つけたりしないで?なっつんとほのかの仲じゃないか!」
「・・・仲って・・;」
「他になんて言うのかわかんない。なっつんとほのかは『なっつんとほのか』だよ。」
「オレたちは・・オレタチって・・か・・」
「なっつん、前にしたみたいにほのかのことぎゅって抱いて?」
「!?だから・・それはできないって言って・・」
「・・それって・・”イケナイ”ことなの・・?」
「・・・オマエの望まないことまで・・しちまいそうなんだよ・・」
「もし嫌だったら嫌って言うよ。それでもダメ?」
「とめる自信が・・ない・・」
「それならほのかがゼッタイにとめてあげる。」
「どうやって?!オレはオマエが泣き喚いたってどうにでもできるんだぞ?!」「どっからそんな自信が出てくるんだ?!」
「きっとだいじょうぶ。なっつんだもん!」
「なっ・・」
「それにどんなことだって・・なっつんのこと嫌いになったりしないから安心して?」
「・・・どんなことか・・知らないだろうが・・よく言うぜ。」
「心配症なんだから。ほのかはなっつんを信じてる。ゼッタイ絶対、大丈夫だよ。」
「・・・オマエ・・」
「考えても答えなんかわかんないと思ったんだ。だからなっつんもそうしなよ?」
「・・・なんも考えるなって・?」
「ほのかのことばかり心配してないでさ。ほのかってば強いんだよ、結構。」
「そうだな・・どうしてそんなに強いんだ?オマエ・・参るぜ・・」
「なっつんのことに関してなら自信あるんだ。ほのかはなっつんの味方だよ。」
「ふっ・・・味方ね・・」
「ウン、それが一番ぴったりかも。いつでもなっつんの味方でいたいんだ。」
「・・・どんなときでも?」
「だからもっと甘えたり、困らせていいってことだよ。」
「オレは・・オマエのこと全部・・なにもかも欲しいって・・思ってたらどうする?」
「なんだ、それならほのかもおんなじ。なっつんのこと独り占めしたい!」
「!?・・・ぷっ・・・く・・・」
「?・・なに?笑ってんの!?なんだよぅー!」
「くくっ・・・ははははは・・・!」


ほのかはまたオレを驚かせてくれた。時折見せる強さとオレへの思いやりに満ちた行動で。
独占欲でおかしくなり掛けたオレを引き戻すのに充分な温かい想いを示して。
オレのに比べたら随分可愛らしい独占欲まで見せるという嬉しいオマケまで付けて。
「あーもー・・勝てる気しねー!・・・」笑ったのは可笑しかったからじゃなく嬉しかったからだった。
そうだった。コイツはいつだってオレを驚かせて、そして・・・幸せな気分にしてくれる。
焦るなと自分に言い聞かせるよりも、ほのかに留めてもらう方が確かに有効だとわかった。

「なんか・・落ち着いた。オマエのこと、尊敬するよ。」
「えっどうしたの、藪から棒の褒め言葉だね。ウンウン尊敬していいよ!エヘン。」
「すーぐ調子に乗りやがる。」
「バカにされるより嬉しいもん。」
「ほのか」
「!?なっなに?なっつんてたまに名前呼ぶからどきっとするよ!」
「オレはオマエが好きだ。」

「・・・・!?・・・・なっなっなっ・・・いきなりなんてこと言うんだよぅ〜〜!!」
「そういや言ってなかったなと思って。」
「う・・うわーん、またどきどきしてきたぁ!このヒキョウものー!」
「卑怯モノとはなんだ!オマエだって散々『好き』ってオレに言ってきただろ?!」
「えぇっ!?だってほのかは正直だしさぁ・・でもさっきの『好き』はちょっと反則というか・・」
「ちっ・・わかんねーなぁもう・・オマエって子供なんだかどうなんだか・・」
「なっつんだって!すごく大人っぽいときもあるけど、すごく子供っぽいとこも一杯あるじゃん!」
「あんだと!?オマエにそれだけは言われたかねぇぞ・・」
「ホラ、そういう心の狭いとことかさぁ!」
「心が狭いんじゃねぇ!オマエが無自覚に・・くそっ!どっちが卑怯なんだよ!?ったく。」
「・・なんかなっつんとほのかって似てない?!おっかしいの・・」
「似てるだぁ?どこがだよ!?」
「あのさ、お互いのことをちょっと人に説明できないくらいにものすごーく好きなとことか。」
「この・・・バカ・・・!」

久しぶりにほのかの頬を抓った。今回はかなり強く抓ったせいで途端に悲鳴を上げた。
その後赤くなった頬に優しく唇で慰めるように触れた。柔らかさに胸を締め付けられながら。
真っ赤になってオレに「これって・・お仕置きなの?ご褒美なの?」と焦りながら首を傾げた。
「どっちも違う。・・試してみたんだ。」
「何を?」
「なんでもかんでもわかったと思うなよ?オレはそんなに甘かないからな。」
「・・なっつんより甘い人なんて他に思い当たらないけど・・・」
「う、うるせぇっ!オマエ生意気なんだよっ!!」
「可愛いねぇ、なっつんv」
「もいっかい抓るぞ・・」
「いらないっ!さっきのすごく痛かったよ!?」
「痛くしてやったんだ。・・なんか悔しいから・・」
「負けず嫌いだねぇ。やれやれ・・」
「・・・むかつく!・・オマエホントにオレのこと好きなのか?」
「モチロン!疑う気かい!?」
「悔しがらせた元はとってやっから覚悟してろ!」
「えー・・・?なっつんだって覚悟しといたらぁ!?」
「ふっ・・・人がせっかく我慢してやったというのに・・」
「・・あ、あり?なんか・・顔が・・悪くなって・・るよ・?」
「ほのか、キスしてやろうか?」
「え、遠慮しとくっ!」
「してくれって前に言ってたろ?」
「や、やだねぇ・・そんな・・そんな顔のなっつんじゃ・・カンベンして欲しいよ・・!」
「フン、まぁ今回はカンベンしといてやる。」
「ふぅ・・驚いた。こういうとこが子供だよ、やっぱり・・」
「わざと怒らせてんのか!?」
「なっつんって面白いんだもん。」
「確信犯かよ!?」

ほのかを掴まえるとふざけてると思ったのか、怖がりもしないでオレの腕の中で跳ねている。
抱き寄せてみるとやはり甘い誘惑がオレを揺さぶった・・が、難なく抑えることができた。
驚かされたり、諭されたり、コイツにいいように踊らされてるオレが・・嫌でもない。
他の誰にもこんな真似はできないだろう。オマエだけがオレをどうにでもできるんだ。
こんなにも愛しさで胸が張り裂けそうなのに、抱きしめるだけで良しとできるのもオマエだから。
優しく抱き寄せて柔らかな髪に頬を寄せるとほのかが同じように凭れてきてくれた。
怖がらないでオマエに触れていこう、これだけでこんなに幸せだと感じられるのなら。