とりあえず 


 「ぴぃえええええ〜〜〜!!!」

 鳥のさえずりではなく、雄叫びが屋敷に轟いた。
慌てた家主である夏はその音声に驚く以上に内心の
動揺で相当に焦りつつ、泣き声を立てる雛、もとい
ほのかをなだめようと必死の試みを開始した。

どの言葉や行動に効果があったかも定かではないが
どうにかして騒ぎが鎮まった頃、夏の腕の中では
大きな目にはまだたっぷりの水分を漲らせていたが
ほのかがしがみついて喉を鳴らしている状態だった。
可哀相に思う反面、夏は傷ついて凹んでもいた。


 「思ってたのとチガウかったのだじょ!」

 ほのかは次に怒り始めた。落ち着いてきた証なので
それはそれで良いのだが夏にとって第二の試練である。
すでに罪悪感などで一杯であり、傷が深まりそうだった。
ただ望みは無きにしも非ず、ほのかは腕の中にいたまま
逃げ出そうとはしていないことだ。

 「なっち、あんなのどこで覚えたのっ!?」
 「覚えたっておまえ・・悪癖みてえに・・」
 「ものすごく慣れているとみたのだじょ!」
 「勝手に思い込むなよ。」
 「だれに教わったのか白状しなさいっ!!」
 「んなこといわれてもな・・」
 「ふーっ・・食べられるかと思ったじょ。」
 「そもそもおまえが迫ったんだぞ?わかってるか?」
 「そーだじょ!だってチューもしてくれないから!」
 「・・・それでもやっぱり俺がわるい・・のかよ。」

夏には理不尽で腹立たしい。間違った感が半端ないのは
認める。お互いに好き合っているまでは良しとしてだ、
普通は女から「キスして」と言われれば普通するだろう。
相手にもよるが好きなら尚更。しかも立場上ありなのだ。
こんな場合に男は怖くなって次に手を出しにくくなる。
そこまでほのかはわかって怒っている訳ではなかろうが
やるせない。どこを間違ってこうなったのか。

 「・・・とりあえず明日もしようね!」
 「は!?待て待て、意味がわからん。」
 「あれもチューなんだよね。ならできて満足だじょ。」
 「う、ああ?・・・え〜と・・つまり」
 「慣れたらいい感じかもしんないし。ね?」
 「いやだったから泣いたんじゃねえのか?」
 「え、ううん?びっくりしただけさ。」
 「それだけで泣き叫ぶか!?俺は結構その・・」
 「ああ、しょっくだったの?だいじょぶだよ!」
 「・・・・はぁ・・”さっぱりわからねえ!”」


 翌日、ほのかはけろりとした顔で再びキスをせがんだ。
一晩眠れないほど考えたが答えの出ないまま夏はそれを
軽く拒否してみた。するとほのかはまたもや怒ったのだった。

 「なんで!?ほのかとはしたくないってゆうの!?」
 「違う。おまえ何か誤解してたが俺はおまえ以外とは・・」
 「あっそのことは言わなくていいのだ。ナシにするじょ。」
 「ナシって俺がどっかで練習でもしてたっての前提かよ!?」
 「・・一瞬美羽かなあとか想像してやだったんだじょ・・」
 「んなわけがあるか・・ってああ、芝居でなら、」
 「えええっ!ほのかのカンが当たっ・・う・・うえええ・」
 「まっ待て待て、違う!あれは芝居で実際にはしてねえ!」
 「・・ぴ・・ぃいいいええええええ〜〜〜〜んん!!!!」
 「わーっ!またかっ!!なんでこうなるんだ!」


 繰り返された惨劇に夏の消耗は深まった。だがほのかも
夏を苛めている分けではない。ちゃんと学習もなされていた。

 「ひっく・・ひっく・・なっちぃ・・ごめんだじょ!」
 「えっ、なんでおまえがあやまるんだ?」
 「ほのかやきもちやきなんだ・・なっちのすきなのはほのかだよね?」
 「あっああ!そうだ!ほかの誰でもねえから!」
 「うんvだいすきだじょ!もうほかのひととチューしないでくれる?」
 「”まだ前科持ちにされてんだな・・”ああ、約束する。」
 「よかった!ほのかもこれからはなっちとしかしないからね!」
 「・・うん、そうしろ・・これから?これまでは誰としたってんだ?」
 「なぬ?ほのかを疑うっていうの?だれともしてないじょ!」
 「いやおまえ・・俺も兄貴とか身内までなら目を瞑るが・・」
 「え〜・・ほのか浮気しないもん!しつれいしちゃうぞ!!」
 「なら俺のことも疑うな。俺はそんな器用でも博愛でもねえんだ。」
 「そうかあ・・なっちはあ・・ほのかだけなのだね!やったあ〜!」
 「ほのか・・・で、今日もするのか?」
 「ひょっとしてなっち・・ずっとしたかったの!?」
 「や・やかましい!」

声を立てて笑うほのかを黙らせるのにはそれは有効な手段だ。
しかし結局情熱的なキスも息が苦しいと文句が出て休止となり
夏も一つ学習した。この通じない想いは多分誰もが共有している。
ほのかが泣いた原因も同じで不安だったからなのだと。そこで
夏にしては珍しくポジティブにほのかに提案してみた。

 「これからは会う度にするぞ。いいな?ほのか。」
 「ふえ?・・うん、いいじょ。なっち・・でもね〜・・」
 「まだ文句があるのかよ!」
 「あんまりすると・・いまみたいにふにゃふにゃになるよう!」
 「・・・それって・・いやなんじゃない、な?!」
 「うん・・なんかふわふわして・・キモチいい・・みたい・・」
 「!!”よっ・・しゃあああ!!!”」


 その後どうなったかということをつまびらかにはしない。
ただほのかはその後も当初のような悲鳴を度々あげている。
何度も二人で励んだ結果、時折夏がフライングで場所を変えたり
そのほかの行為が繰り出された際に聞かれることになった。


 「なっちのせいでちっとも慣れないのだじょっ!」
 「おまえだって慣れたと思ったらぴーぴーヤカンみてえに!」
 「ほのかわるくない!なっちがえっちなんだじょ!」
 「おまえだって俺にもっととかせがんどいてなんなんだよ!」
 「だってだってキモチよくってヘンになっちゃうんだもん!」
 「む・お・俺だってあんまりおまえがカワイイからつい・・」
 「・・・・なっち・・またしたくなっちゃった。」
 「そこは一致したな。」
 「とりあえずチューしちゃおうか?」
 「またか。いつでもとりあえずだな・・」
 「え〜・・だってほのかがしてっていわなかったら・・」
 「そうだな、たまにそれが役に立った例ということか。」
 「理屈っぽくてイカン、もっとなっちも誘惑すればあ?」
 「したらまたぴ〜って泣くんだろ?俺の身にもなれよ。」
 「泣いたってほのかなっちをキライにならないのにな。」
 「・・・俺がもっといやらしいことしても?」
 「・・・とりあえず・・やってみれば?」


 つまり谷本宅の夏とほのかはそんな感じで平和なようである。







未来版もお久しぶりですvあまあま〜w