ともだち 



いもうと・・なら昔いた。だからちがう。
ともだち?・・そんなわけないだろ?
好きなのかって・・そんなんじゃねぇ。
じゃあなんだっていうのか・・・オレが知りたい。


「可愛いよな?ほのかちゃん。オレもあんな妹欲しいぜ。」
「へっどこが・・ってアイツは妹じゃないぞ。」
「えっ!?白浜の妹だろ?違ったか?」
「・・そうだが・・オレのじゃねぇ。」
「!?・・ふ〜ん・・!」
「なんだよ、その顔。気持ちわりィな。」
「いやいや、そっか。妹じゃねーのか。了解了解!」
「妙な勘繰りはよせ。誤解してんじゃねーのか?」
「はは・・オレは別になんも言ってねぇぞ。」

たまにオレとあのチビのことを勘繰る奴がいて困る。
オレの妹はあんなにずうずうしくて生意気じゃなかった。
本人はオレの”ともだち”だとか”相棒”だとか言っている。
オレはそんなことは聞き流している。どれもなんか違う。
だからってなんですぐそういう風に勘違いされるんだかわからん。
あんなガキになんも感じたりしねぇ。当たり前だろうが。
一々説明すんのもバカらしいから、無視してやってる。
アイツだって、オレのことを男だなんて欠片も思ってやしねぇ。
変なヤツだと最初から思ってた。今でも変なヤツだと思ってる。
傍にいても素でいられるのは、他人では初めてかもしれない。


「なっつん〜!たすけて〜!」
「・・オマエ何やってんだよ?!」
「・・ちょいと・・窓拭きしようと・・」
「掃除はオレがすると言ってるだろ!?」
「ここの窓が汚れてたんだよー!」
「だからってこんなとこのぼるなよ!」
「ご免よう・・おろしてくれ〜!」
「しょうがねぇな・・」


うちの正面階段の踊り場にある高窓の枠にほのかがしがみついていた。
普段そこは掃除していないから、確かに汚れていたのかもしれない。
小柄で身軽なほのかだが、足場がほぼない。体を支えきれなくなったのだ。
仕方なくジャンプしてほのかを抱きかかえ、そのまま飛び下りた。

「わぁっ!ありがとv」
「なんでこんなとこに・・アホかオマエは。」
「鳥が止まってるの見つけて気になってさ。」
「それ外にいたんだろ?のぼって見ようとしたのか。」
「実を言うと・・」
「ったく・・オレがいなかったらどうするつもりだったんだよ。」
「いることは知ってるもん。ダメなら助けてくれると思ってさ。」
「オマエの便利屋じゃねーんだぞ、オレは。」
「へへ・・まー許してよ、ともだちじゃないか。」
「誰がともだちだ・・」
「む、ヒドイじゃないか!親友でしょ?」
「アニキと同じこと言ってんじゃねぇよ。」
「お兄ちゃんだけ親友なの!?そんなの差別だじょ!」
「どっちもちがう!勝手に決めるな。」
「冷たいのう。そろそろ素直になりなよ?」
「うっせー・・」

ほのかをそっと床におろすと、口をへの字にしていた。
ともだちだと認めなかったからだろう。いつものことだ。
無視していればすぐに気を取り直すからそのときもそうした。
しかしそのときは珍しく食い下がってきた。

「なっつんさ、ほのかのこと妹みたいにおもってる?」
「・・いいや。」
「だよね。ほのかはともだちでしょ?」
「・・・・」
「なんでいつもそこで黙るのかな。」
「好きに思ってろよ。別に構わねぇから。」
「よく人に聞かれてさぁ、ほのかもこの頃困るときあるんだ。」
「・・オマエもか。」
「好きなの?って聞かれたら好きだよって答えるんだけどね?」
「そんで・・誤解されるんだろ。」
「ともだちだよ!って言ってもわかってもらえなかったりすんの。」
「・・放っておけよ。」
「んー・・そうだねぇ、うまく説明できないし。」
「気にすんな、バカバカしい。」
「でもさ、なっつんを”すき”なのって他の人とちがう気もするんだ。」
「・・・・」
「でも・・それじゃなんだって言われてもね?はは・・」

ほのかは笑っていた。オレと似たような悩みを軽く口にして。

「怒るなよ?オレは・・オマエを”ともだち”とも思ったことない。」
「えっ!?ちょっとそれは傷つくよ、おにいさん!」
「なんだろうなと不思議に思ってんだ・・オマエみたいにな。」
「ふぅん・・そうか、なっつんずっと困ってたのか。」
「まぁな。」
「しょうがないよね、わかんないんだから!」
「・・あぁ・・しょうがねぇよな。」
「・・ともだち・・が一番近いと思うんだけどなぁ?」
「・・そうだな、そうかも・・しれない。」
「どっちでもいいや。ほのかね、なっつんが好きだよ。」
「そりゃどーも・・」
「たまにはなっつんも言ってくれればいいのに。」
「・・他の誰に言われても嬉しいと思ったことねぇけど・・」
「え?・・あ、誰かに告白されたときのこと?」
「オマエに言われるのは・・別に・・悪くない。」
「わー!それは嬉しいね!?」
「結構ほのかのことすきになってきたんじゃない?」
「ちょっ調子のいいこと言ってんなよ。」
「キライじゃないくせに。」
「うるせー!・・生意気で図々しくてアホでガキだ。」
「ふんふん・・だから?キライなのかい?!」
「・・・・・知るか。」
「ちぇ・・言わないねぇ。」
「オレに”好きだ”と言わせたいのかよ?」
「ウウン、それはどっちでもいい。なっつん見てるのが面白い。」
「・・んだと、コラ!」
「それに今言ったじゃん。”好きだ”って。嬉しいよー!」
「今さっきのはちがうだろ!?アホかオマエは!」
「でも聞こえたもん。ともだちでもなんでも嬉しいものは嬉しいのさ。」

ほのかの素直な言葉はオレの頭を揺らした。
悔しくて小さな頭をわし掴んでぐしゃぐしゃと揺らした。
当然怒りはするが、楽しそうにオレに笑顔も見せる。
この顔は・・すきだ。けど言わない、言ったら誤解するから。
妹よりも腹立たしい。ともだちよりも愛しい。けど・・
オレはまだこの気持ちがなんなのか知らない。だから名付けない。
いつかわかるときがきたら、口にするのだろうか?
とてもそんなことは想像できない。一つだけわかることは、
誰の妹でもいい、誰とともだちだっていい、けど誰のものにもしたくない。
・・・変だよな。別にオレのものにしたいわけでもない・・んだが・・
他の誰かに”すきだよ”なんて言わせたくない。それだけは。

「誰にでもすきだとか言うんじゃねーよ、オマエは。」
「なんだ、やきもちかい?言わないよ、なっつんだけさ。」
「・・・マジで?」
「今のところ、他に言ったことないよ?あ、お兄ちゃんは別。」
「家族以外ではオレが最初か?」
「光栄におもいたまえ。」
「偉そうに・・オレは・・そういやまだ誰にも言ったことないな。」
「マジで?!ほのかが最初っ!?」
「オマエにも言ってないだろうがっ!」
「言ったじゃん!」
「言ってねぇよ!」

オレとオマエの関係はきっと誰にもわからない。
わからなくていい。教えてもらう必要もない。
もし未来に、誰にでもわかる関係になっていたとしても
それだけじゃないのだということがオレにはわかる。
そしてそれをわかってくれるのは・・ほのかだけだろう。







夢見るなっつん。(笑)特別なんです、区別したいんです。
ほのかとは男女のそういうの抜きで繋がりを感じているのだと、
・・そんな風に思えるのですが、夢を見すぎでしょうか。(^^;