止めないで 


何度目だかわからなくなったキスの後、ふと気付いた。
こんなに幸せで一杯の私を見つめる瞳が、なんだか寂しそう?
まだどきどきと胸の奥は高らかに鳴っていて息も少し荒い。
こんなに蕩けそうな時間を一緒に過ごしていたはずなのに、
私を抱く腕も首に触れている指先もこんなに優しいのになんで?
ずきりと痛む胸よりもそのことが気になってたまらなかった。
思わず背中に廻していた手はぎゅっとその熱い身体を強く引き寄せた。
「なっつん・・?」
「・・なんだ?」
「どうしてそんな顔するの?」
「どうって・・どんな顔だ?」
「なんだか・・寂しいみたいな・・」
「そんなわけねぇだろ。」
「・・ほのかとキスするの飽きちゃった?」
「ぷっ・・飽きてねぇよ。」
「ホントにぃ・・?!」
「おまえが怒らないならいくらでもしてやる。」
「怒るわけないじゃない。」
しばらく目を見合わせて二人して少し笑ってしまう。
不安で痛かった胸をやっと撫で下ろして、広い胸に顔を埋める。
「じゃあ・・なんで寂しそうって思ったのかな・・」
「寂しいじゃなくて、『足りない』かもな・・」
「だったらもっとしていいよ?」
「・・じゃなくて・・いや、今日はお終いだ。」
「なんかヤダ、そんな言い方。もうしないって勝手に決めないで!」
「じゃないと終わりにできなくなる。」
「やっぱり寂しそう。ねぇ、どうして?止めないでいいのに。」
「ずっと?」
「うん、ずっと。」
「このまま朝まででもか?」
「え・・」
言葉の意味がようやく飲み込めると、顔から火が出てるみたいに熱くなった。
「え・えっと・・えと・・」
喉まで熱くて、ホントに熱でも出たみたいでうまくしゃべれない。
急に恥ずかしくなって反らした目をそうっと戻すとあなたの笑顔にぶつかった。
「あれ・・?!何で笑ってるのよぅ・・!」
「わかりやすいヤツだと思って。」
「む・・ほのかのこと虐めるとこうだよ!」
なっつんがよく私にするみたいにほっぺを両手で引っ張ってみた。
「あ・あり!?」
あっさりその両手首を捉まれたと思ったら重みを感じて。
座っていたソファの背に押し付けられるとなっつんの身体が被さった。
焦る暇もなくて言葉すら飲み込まれて、文字通り身動きも出来ない。
さっきまでとは違う痛いくらいのキスで力は身体中から抜けていく。
息が苦しいといつもなら離してくれるのに・・
重なっている身体が熱くてまるで火が点いたみたい・・
初めてぞくりと背中に冷たいものを感じて戸惑う。
だってこんなに熱いのに、可笑しいよね?
なっつんだっておかしいよ、どうして離してくれないの?
やっと両手を解放されてほっとしたのも束の間だった。
首筋に感じた指先が私の服の襟元を乱暴に広げたから。
「やっ・・やだっ!なっつん!!」
久しぶりに吸えた空気は冷たく感じて声も変な気がした。
いつもと違ったのはなっつんの手が・・止まらなかったこと。
広げられた襟元に張り付く唇の熱さに驚いて悲鳴が漏れた。
いつの間にかたくし上げられた服をどけて入ってきた肌を探る手も負けずに熱い。
何がどうなったのかわからなくて、いつもの優しい顔が見えなくて怖い。
途切れ途切れに聞えるのはほとんど息に近かった。
”これ・・私の・・ほのかの声・・?”
そうわかると身体は一層熱くなって意味のない喘ぎ声が更に大きくなる。
恥ずかしくて涙が滲んだ、どうすれば止められるのかなんてわからなくて。
ただ嵐みたいな烈しい感情と熱くてどうしようもない身体に揺れて。
終いに涙が混じり、嗚咽に変る私の声が聞える頃、ふいに身体が離れて驚いた。
「・・な・・っつ・・ん・・?」
私の目元の涙を拭っているとても悲しそうな顔に気付いた。
「すまん・・怖かったな・・」
あんまり悲しそうだから、私まで悲しくなって涙がまた溢れてきた。
離れた身体を私からもう一度抱き寄せて堪えずに声を上げて泣いた。
私が落ち着くまでいつもしてくれるみたいに髪や背中を撫でてくれた。
涙でぐしょぐしょになったのは顔だけじゃなくて、慰めてくれた胸も酷い有様。
「ひっく・・ごめ・・」
「落ち着いたか?オレのはいいが・・おまえのもちょっと・・;」
「え?・・うあ・・ひどぉい!」
言われるまで気付かなかったけど、私の服もくしゃくしゃでボタンが一つ取れてた。
「・・直せそうか?」
「うん、ソーイングセットあったよ確か。」
「そっか。悪かったな・・」
「なっつん。」
「!・・何だ?」
「そんな身構えなくても怒ってないよ。あのね・・その・・」
「・・?」
「難しかったら、自分で脱ぐよ?・・じゃないと破けちゃう。」
「!?・・おまえ・・さっきまでぴーぴー泣いておいて・・!」
「だって・・いきなりだもん・・ちゃんと予告してよね?!」
「よこ・・『やらせろ』って言えってのか!?」
「やっ!そんなんじゃなくって〜!!もっと他にないの!?」
「知らねーよ、どう言えってんだ・・」
「・・ほのかもよくわかんないけど・・」
「・・オレもどこでスイッチ入るかわからんからどうしようもねぇ・・」
「そうなの?」
なっつんがとても気まずそうに上目遣いで私を見ながら頷くのが可笑しかった。
「でもほのかが泣いたら止まれるんだ!?」
「・・・まぁ・・でも100%とは・・」
「じゃあさ、こうしよう。ほのかが止まらなくていいときは言うよ。」
「!!・・・なんて言うんだよ!?」
「・・『止めないで』って・・」
「・・止められないときは諦めろよ?」
「えっ!?なんでそんなに自信ないの!?」
「うるせぇ・・こっちは大変なんだぞ・・!」
なっつんが本当に辛そうに溜息を吐きながらそう言うのでちょっと可哀想かも?
「でもほのかだって大変だもん!さっきだって、訳わかんなくなって・・」
「そんなんでちゃんと言えるのか?でないと、マジで止まらないぞ?」
「あ、そうか。・・どうしよう?」
「はーっ・・・知るかよ!」
「困ったね・・」
「一つだけ教えてやる。オレがさっさと帰れって言う日は警戒しろってんだよ。」
「・・それって・・」
「素直に聞かないと帰れなくなるぞってことだ。」
「・・・そんで最近そう言ってたのか!?」
なっつんが小声で「鈍い・・」とか言ってるのが聞えた。
「だって・・帰りたくないし・・」って私が言うと驚いてた。
「あっ!そ、そういう意味じゃないよ、一緒に居たいってだけでっ!!」
「ふん・・」ってなっつんが拗ねちゃったっぽい顔なので困ったよ。
「ごめんね、なっつん。わかった、次はちゃんと言うから。」
「ちゃんとって・・何をだよ?」
「うあ・なっつんだって人のこと言えないよ・・だからその『止めないで』って・・」
「・・いいのかよ?」
「うー・・・泣いたらゴメンね?」
「ほんとは・・・泣かせたいっつったら・・怒るか?」
「ええっ!?なんでなんでっ!?」
「オレが泣かすのは・・アリなんだよ。他はともかく・・」
「よくわかんないけど・・なっつん、ちょっと意地悪なの?」
「ああ・・覚えとけ。けど・・泣いたから止めたんじゃないんだ、さっきのは。」
「え・・じゃあどうして止めてくれたの?」
「なんでかな・・おまえがだめだと言ったような気がして?」
「・・なっつんだからわかるのかなぁ?・・初めて怖いって思ったの、実は。」
私がえへへと笑うとなっつんもしょうがないなって顔で笑ってくれた。
「そうだ、なっつんが好きなのは止めないからね、絶対。きっと止まんないし・・」
「・・・おまえさぁ・・やっぱ帰れば?」
「!?なんで?なっつんのスイッチがよくわかんない!」
「・・はぁ・・まいった・・」
「あ、わかった。なっつんもきっとこんなカンジ!?止められないのって。」
「・・・そうだよ・・」
またどきどきしてきちゃった。そうなんだ、止められないのも一緒なんだね。
怖いって思ったことも同じだったのかもしれない。なっつんもそうだったんだ。
どうしてこんなに想いが重なってるんだろうねって言ったらなっつんはね、
じゃなくて、伝わってしまうんだろ?・・だって。そうだったのか!!
だから今度は心の中で言ってみることにした。『止めないで』って・・・







改稿を重ねて元の話は残ってません。でも省いた処は他の小説と被ってたしね!
で、裏かどうかに悩みました。結局表に置いてしまいましたが。(苦笑)
こちらはもう「甘い」と開き直ってるページなのでいいかな!?と思って・・
ちなみに「甘やかし夏くん」を目指してみたもの。(^^;大分違ってしまった。