「止まらない」 


後悔しているわけじゃない
抑えるのが困難になったとしても
目の前で無邪気に笑う顔を見て
夢じゃなかったかと疑っても
まだ数回交わしただけの口付けは
リアルに今も鼓動を呼び覚ます


「ほのか、こんなとこで寝るな、起きろ!」
「・・・うー・・眠いじょ〜・・」

居間のカーペットでほのかがうたた寝しかかっていた。
コイツはどこにでも寝転がってまるで猫みたいだ。
「なっつんも寝よ〜・・・」
「ったく、また夜更かししたな、オマエ。」
「うにゃ〜・・なっつん、抱っこぉ・・」

ソファにでも寝かせるかと溜息交じりに腰を落とすと
ほのかは自分で起き上がってぺたんと座り込み、目を擦った。
その仕草もなんだか猫みたいで思わず笑いが込み上げる。
悪戯心が湧いてしまってほのかの片方の手を握ると顔を近づけた。
まだ寝ぼけてとろんとした顔がゆっくりとオレを見る。
距離が縮まり、ほのかの顔にオレの影が落ちる頃ようやく目が覚めたようだ。
ぴくりと小さな身体に緊張が走り、無自覚に口元が窄められる。
目は驚いたように開けられたままだが、それでも身構えてじっとしている。
何をされようとしているかはわかっているのだ、緊張のせいか目は閉じなかった。
ちょんと口ではなく頬に唇を落とすとまたぴくりと反応した。

「なんだ、起きたのか?抱き上げてベッドに運ぼうと思ったのに。」
「えっ!?べッ・・うやあの、起きた、起きたよ!」
「詰まらねぇな、抱けって言ったくせに。」
「い!?いい言ってない、そんなの。言わないよっ!」
「何ぃ〜?今言っただろ?!」
「言ってないってば。なななんでベッドさ、ほのか寝てないし。」
「よく言うな。オマエ涎垂らしてたぞ?」
「ウソっ!?やだっ!!」

オレの嘘に顔を真っ赤に染めて、慌てて口元を拭ってやがる。
堪え切れなくなってオレは腹を押さえた。面白くて笑いが止められない。

「はっ、さては騙したなぁっ?!許さないじょーっ!」
「オレに抱けっつったのはホントだぜ?」
「ぅ、ウソだもん、それも。騙されないもんね!」
「何だよ、人をその気にさせておいて。」
「やっ!ウソだもん、そんなの・・・なっつんのばかぁ!」

ちょっと虐めすぎたらしくほのかが泣きべそになった。
どんな顔でもどんな反応であっても一々可愛いから腹が立つ。

「正確には『抱っこ』してオレも一緒に寝ろと言ったんだ。」
「う・・うぅ・・言った・・・かもしんない・・」
「どうする?ただしオレは何もしないで寝るのは難しいからな?」
「ふぇ・・何もって・・キスだけ・・じゃないの?」
「もっとして欲しいなら・・」
「そんなこと言ってなーい!」
「泣くことないだろ、まだ何にもしてねぇし。」
「なっつんのばか。そうだ、さっきキスしてくれなかった・・!」
「あー、なんだして欲しかったのか?目開いてたぞ。」
「あ、忘れてた・・だって・・びっくりしたし・・」
「慣れないヤツだな。何度もしてんのに。」
「・・・なんかヤラシイ、その言い方。」
「他にどんな言い方があるんだ?」
「なっつん!」
「ん?」
「怒らないから抱っこして!」
「怒ってるじゃねぇかよ!?」
「抱っこしてちゃんとキスして!それ以上はダメ!」
「勝手なヤツ・・」
「違うもん。ほのかのことからかった罰だもん。でないとキライになるじょ?!」
「へぇ〜・・なってみれば?」
「えー・・どうしてそんなイジワルばっかするのよぅ?・・なっつんのいじめっ子。」
「そりゃ・・楽しいからな、止められねぇ。」
「好きな子虐めるなんて子供っぽいんじゃない!?」
「止められねぇなぁ、多分・・」
「どうして?」
「そういうもんなんだよ、男は。」
「わかんないもん!」
「泣くなよ、望み通りにするから・・・」
「ウン・・」

ほのかはオレにしがみつくと今度は涙交じりの目を閉じた。
涙もついでに唇で拭ってゆっくりとほのかを味わった。
何度重ねても飽きない。・・・甘くて蕩ける。
からかうくらいのこと、いいじゃねぇかっていつも思う。
じゃないとオマエのことをもっともっと泣かせたくなる。
このまま腕に閉じ込めてオレのことだけ感じさせて。
どれだけ苦しいと思ってるんだ?止められない想いを。

「なっつん・・」
「・・・これでいいのか?」
「ウン・・スキ・・ダイスキ・・」
「嫌われなくて良かったぜ。」
「キライになんてなれないもん・・」
「・・それよりオマエ、今日の格好触ってくれって言ってるみたいだぞ?」
「きゃあっもう触ってるじゃ・・!イヤイヤ、Hぃ!!ダメだよぅ〜!」
「だったらこんな触りやすい格好してんなよな。」
「やぁ〜!なっつんなんてやっぱりキライ〜!」
「忙しいヤツだな。ホントはどっちなんだよ?」
「もぉ知らない・・」

ほのかの怒る顔も甘える顔も泣きそうな顔も欲しい。
からかうというより、空腹を紛らわせているようなものだ。
虐めていないと今すぐにでもエンジンが掛かりそうで怖い。
もっと怒ってこんなことをするオレを戒めてくれよ。
じゃないと、どこまでも欲に押されてしまいそうなんだ。

「なっつん、どうしたの?」
「何だ?」
「なんだか・・怒った?」
「いいや?」
「キライなんて言ったから?・・・ホントじゃないよ。」
「へぇ、無理しなくていいぞ?」
「・・・触ったら嫌って言ったけど・・そ、そんなに嫌じゃない・・からね?」
「おいおい、煽ってどうするよ?!」
「え?」

真っ赤になりながら触っても嫌じゃないとか・・・言うんだよなぁ、コイツは。
恥ずかしそうな顔も僅かに漏らす吐息もオレに縋る指も・・もっと欲しい。

「なっつん、何迷ってるの?」
「・・そんな顔してるか?」
「う・・ん・・なんとなく。」
「心配そうな顔すんなよ。オレも嫌いになったりしねぇから。」
「ホント?・・じゃあオマケ。」
「?」

ほのかからオレの唇にやんわりと口付けてくれた。
閉じた目蓋や睫の震えまで愛しいと思う。
そうだな、オマエはいつだってオレを許してくれる。
だから、留まっているんだ、止まらない想いを抱えたまま。
ほのかからの誘いに応えてもう一度深く口付けを交わす。
合間に漏れる息さえも甘すぎて眩暈がする。
この想いは止めなくてもいいだろ?どこまでもオマエへと。
長い口付けに酔ったオマエを抱いて指を絡めたまま動けない。
繋げたまま持ち上げた手の甲にも口付けた。
強く吸って痕を残してオマエの顔を窺ってみる。
そしたらまた困ったような顔をしてオレを睨み付けた。

「・・嫌じゃないんだろ?」
「・・ウン・・じゃない。」
見交わした視線が綻んで二人で微笑み合う。
「ほのかなっつんのことスキ過ぎて困っちゃうよ・・」
「それじゃお互い様だな?」
そう言った途端、大きな眼を見開くと幸せそうに笑って見せてくれた。
そんな幸せそうなほのかにオレも笑顔を止めることができなかった。








ふーっ・・・ヤバカッタ!実はこれ後半アダルトになってしまって
書き直したのですが、もう少しで裏行きになるとこでした。(^^;
裏は別のを考えてますので踏みとどまれてよかったです。(笑)
どうも最近「攻め」夏の波がキテマスv大変だー!