TOKIMEKIのはじまり 


なっちはすぐどっかへ行ってしまうの。
一週間だったり、三日だったり・・1ヶ月丸々だったり。
それも約束をすっぽかして長いこと・・ってこともたまにある。
なっちがいないとつまらない。なんだか笑顔も減るみたい。
友達とばいばいと別れた後なんかについ足を向けてしまう家の方角。
最初は驚いたけどすっかり第二のおうち並みに寛げる大きなお屋敷。
鍵を預けてくれたらお掃除に通えるのにいつも突然いなくなるんだから・・
だけど会えない時間が長ければ長いほど会えたときは嬉しいって気付いた。
早く会いたいな。けれど今度は随分長いなぁと溜息が出た。寂しいな。

「最近元気ないね?ほのか。例の彼まだ帰って来ないんだ。」
「うん・・何やってるんだろ。待ちくたびれちゃったよ・・」
「それってさ、怒らないでよ?ほのかと別れたくてわざとってことない?!」
「別れるもなにも・・ほのかたちはそんなんじゃないもん。」
「ふぅん・・でもさ、またふっちゃったんでしょ!?」
「はぁ・・なんでこの頃ほのかもてだしたんだろね?」
「それは・・この頃例の彼と別れたって噂になってるらしいから・・」
「そういうんじゃないのに!でもカレなんかいらない。なっちがいるから。」
「あのさぁ・・要するに好きなんでしょ!?片思いなわけね。」
「片思いじゃない・・とと・・違うチガウ。そうじゃないんだったら!」
「・・はいはい。むきにならないの。」

やだな・・変なんだよ。皆・・それに一番変なのは私、ほのかだよ。
付き合ってと誰かに言われる度に悲しくなるんだ。なっちの顔ばかり思い浮かぶし。
なっちはほのかが邪魔になったんだろうか。だから帰って来ないのかなぁ・・・
胸がずきんと痛んだ。違うよね。置き手紙にはそんなこと書いてなかったもの。
会いたくて会いたくて会いたい。ただそれだけ。なっちがいないのはおかしい。
一緒にいるのが当たり前。ねぇそう思ってたのはほのかだけ・・?


「えっ帰って来たの!?いつっ?」

なんて水臭い。お兄ちゃんに偶然会わなかったら知らずにいたよ。
夢中で駆け出した。けれどなっちの家に着くにはまだ途中なのにふいに足が止まった。

 ”ほのかに会いたくないんじゃないの?!”

突然そんな声が頭の中に響いたら、足ががくんと棒みたいに動かなくなった。
頭を空っぽにしたくてブルブルと左右に何度も振ってみた。

「・・何やってんだ?」

久しぶりの声だったから返事をしそびれた。道の途中で出会うなんてびっくり。
俯いていた顔をあげると懐かしい顔が目を丸くしながら立ち止まって見ていた。
あんまり懐かしいからほっとして笑顔になれた。頭の中の不安は一気に消し飛んだ。

「おかえり!なっちぃ。」

嬉しい。なんだろ・・嬉しすぎたせいかあんまりうまく話せなくてもどかしい。
だけどなっちも同じなのかも。気のせいかな?なんだか・・何を見てるんだろ?
会えなくてつまらなかったことや、会えなかった間のことなんかを少し話した。
そのうちにいいことを思いついて「オセロをしよう」と誘った。
なっちの腕を掴んで家へと急ごうとした・・のにできなかった。なっちが動かなくて。
おかしいなと見上げると視線がぶつかった。何故だか困ったように見えた。
そんなことは初めて言われたから変だと思った。少し離れて歩けだなんてさ・・?
それでもすごく困ったように見えたから仕方なく掴んでいた腕を緩めた。
その後もなっちはどことなく前と違う気がして、寂しさと一緒に不安がまた湧いてきた。
せっかく次の日がお休みなので映画に行こうとお願いしてもあまり乗り気じゃない。
オセロで負けたから仕方なく引き受けたみたいだった。考えたくなかったんだけど
もしかしてほのかって迷惑・・なのかなと思った。今まで感じたことがなかったのに。

よく眠れなかったわりに早く目が覚めた。待ち合わせには間に合いそうでほっとする。
あと少しで待ち合わせ場所ってとこで道を尋ねられてちょっとがっくりしたけれど。
同じ方向に行きたいようだったのでその人と一緒に歩き出してしばらくすると・・・

「どこの誰で何の用だ。」

突然なっちが後ろからほのかの腕を掴んだから驚いた。何故か睨まれたその人は行ってしまった。

「・・行っちゃった。あんなに道教えてってしつこかったのに。」
「バカかオマエは!?」
「ええっ!?藪から棒になんだい!?」
「あれもナンパだ。そんなこともわかんないで男引き連れて歩いてきたのか!」
「あ・そうなの?!ついさっきそこで道聞かれたんだけれどね。」
「オマエ・・・もうちょっとなんとかしろよ、その無警戒を。」
「でもあの人別に変な感じはしなかったよ?!」
「これからは家まで向かえに行く。いいな。」
「・・あのさ、なんで?昨日からなっちおかしいよ。」
「そうだな、オレもそう思うぜ。」
「心配・・してる?」
「ついでに言わせてもらうが、その服・・丸見えじゃねーか!」
「丸見え?何が?」
「目線がオレくらいの奴ならオマエの胸元が丸見えだと言ってんだ。」
「え、そお?・・まぁいいじゃん。ブラしてるしさ。」
「予定変更だ。家帰って着替えて来い。」
「そっそんなあっ!?わかったよ、上からニット羽織るから。」
「そういうもの持ってんなら家から着て来いよ。」
「これは映画館で寒いといけないからってお母さんが・・こんなとこで着たら暑いじゃないか!」
「・・・暑いくらい我慢しろ。」
「もう・・どうしちゃったのかな・・前より過保護になってない!?」

映画は予想より面白くて見ている間は夢中になれた。怖い場面はなっちに手を伸ばした。
いつもならほのかがひっついてもそのままなのにその日はなっちがぎゅっと手を握ってくれた。
強く握ってくれて安心するはずなのに、胸がドキドキ言い出して落ち着かなくなった。
映画の後も人に押されて流されそうだったところをなっちが手を繋いで抜け出してくれた。
庇うようにエレベータの中にいるときも、”なんだか・・カップルみたい・・”なんて思った。
そう思うとまたドキドキしてしまう。違うのに。だってなっちはほのかのことてんで子供扱い・・
だったのに。そう気付いた途端昨日からなっちがおかしいのはそこかもしれないと感じた。
それ以外にも何度も目が合うし、心なしかじっと見られてる気がする。帰り道とうとうガマンできずにきいてみた。

「ほのかのことなんでそんなに見るの?」
「・・別に・・なんか変わったなと・・」
「なっちの方が変わったよ。どっちかっていうと目を反らしたりすることが多かったのに。」
「そうか・・?」
「手だって・・あんなに強く握ったことなかった。ちょっとびっくりした。」
「・・あれはオマエが怖がったから・・」
「映画のときもそうだし、人ごみでもなっちから掴んで引っ張ったりしたじゃない。」
「・・痛かったんならすまん。」
「・・ウン・・いいけどさ・・」

顔が熱くなって俯いてしまった。変なこと聞いてしまったかなとちょっと心配になった。
ほのかの気にしすぎだと思うけど、やっぱりそうなんじゃないかとも思えて頭がぐるぐるした。
なっちはほのかが変わったって言う。どこが変わったんだろう?変わったのはなっちじゃないの?
考えたってどっちがそうだなんて誰にも正解はわからないよね。頭で考えるのは苦手だし。
だから遠慮しないできいちゃえ、って決心した。なっちに遠慮とか何してるんだって話だ。
なんにも変わってなんかないんだから。ダイスキなことも、一緒にいたいことも。

「あのさ・・でも今日はなんだか・・なっちのカノジョになれたみたいで・・ドキドキした。」

思い切って正直に伝えてみた。今日ドキドキしたのは多分そんな理由じゃないかと思えたから。
なっちはすぐには答えなかった。また困ってしまったのかと焦った。

「なっちとほのかは・・そんなんじゃないのにね!?」

そうだと返事がくるって予想していたけれど、なっちは黙ったまま口も体も動かない。
答えにくいのか、答えがわからないのか、それとも言ってはいけないことだった・・?
目は開いているのに見えていないようななっちの眼の前まで近づいてみた。そして見つめてみる。
そしたらやっとなっちの目が動いてほのかを捉えてくれた。口元を引き締め手をぎゅっと握った。

「なっち、ほのかは何にも変わってないよ。」
「・・そうかもしれんが、オレには変わって見えるんだ。」
「カノジョになりたいって思うけど、ならなくてもいい。」
「どっちなんだそれ!?」
「なっちもそうなのかなって思ったんだけど・・違うの?」
「オレとオマエとでは・・違う。」
「違っててもいいよ?」
「よくはねぇだろ。オマエは簡単に言うけどちゃんとわかってんのか?!」
「なっちは何にイライラしてて、何を怒ってるの?!」
「オマエのことを・・がんじがらめにしてしまいそうなんだよ。」
「そんなに心配!?・・ほのか信用されてないの!?」
「・・・・それは・・」
「ほのかね、なっちのこと世界一好きだと思うんだ。」
「?!」
「だからなっちはほのかじゃなきゃダメなんだって思いたい。」
「・・・」
「でね、なっちもほのかはなっちじゃなきゃダメだって思って欲しいんだ。」
「そんなこと・・・そのまんまじゃねぇか。・・今だって。」

なっちが言った後急に顔を赤くした。そのことに驚いてほのかもなんだか顔が熱くなる。
勇気を出して言ってよかった。なっちに嫌われたのでも避けられていたのでもないとわかった。

「なんだ・・じゃあどっちでもいいね!?」
「どっちでも・・いい?」
「変わっても変わらなくても。」

そうなんだ。不安は完全に吹き飛んだ。なっちは何かに困っているみたいだけど
一緒にいたいことを同じように当たり前だと思ってくれるなら他はなんとでもなる気がした。

「なっち!手繋いで。」
「なんだいきなり。」
「腕組んだら嫌がるかと思って譲歩してみた。」
「・・・・」

ほのかが指し出した手を握ってくれた。大きくてあったかくて優しいなっちの手。
包み込むように握ってくれて、ドキドキもしたけれど今度は安心もちゃんと感じた。
繋いだまま前を向いて歩き出した。そしたらなっちもほのかに合わせて歩き始めた。
いつもよりゆっくり歩いてみた。繋いだ手が嬉しくてもう後はどうでもいいように思えて。
歩きながらそういえば前まではこんなにしょっちゅうドキドキしてなかったなぁと気付いた。
変わったとしたらそれくらい。でもね、どんなにドキドキしてもそれはちっとも嫌じゃない。
なっちだから。カレでなくてもカレになっても・・・きっとダイスキなのはいっしょ。
ううん、もっともっと好きになる。そう思った。そうなりたいなと思う自分にも気が付いた。

「ほのか。」
「なぁに?」
「腕組んで歩いてた以前と今とじゃ、違うか?」
「え?・・えっと・・そうだなぁ・・ドキドキ感が増したかも。」
「そうか。」
「どうしてそんなこときくの?」
「オレだけが・・そう思ってんのかなと・・・」

また足が勝手に動くのを止めてしまった。自然と視線がなっちの方へ吸い寄せられた。

「やっぱりなっちの方が変わったんじゃないの!?ほのか・・どうしよ!」
「どうした!?」
「こんなドキドキするの生まれて初めて。胸が潰れそう・・」
「オレのいない間に変わるなよ。」
「・・どうして?」
「今まではオレがアニキの代りにオマエを護りたいって思ってた。」
「う・うん。・・うれしい。」
「昨日からオレはおかしいってオマエ言ってたな。その通りだ。」
「え?!変わっちゃった・・ってことなの?」
「アニキの代役になりたかったんじゃないって・・わかった。」
「!?・・・うん・・もっとうれしい。」

「それでもいいか?」
「もちろん。変わってもいいよ、それなら変わって欲しい。」
「なんでオマエにこんなこと思ったりしてんだって・・焦ってたみたいだ。」
「こんなことってなに?」
「やたら緊張したり動揺したり・・」
「そうなの!?わかんなかったよ。ほのかだけドキドキしてたのかと思ってた。」

そう言ってなっちが握っていた手に力を込めた。痛くないけどじんじんと痺れる。
そしてその感じが全身に広がるように伝わった。最後に胸がきゅうって音を立てた。

手を繋いだままで帰ってくれた。嬉しくてどこか恥ずかしくて・・幸せで。
なぜだかなっちの顔が見れなくて、でも見たくてこっそりと何度も窺ったりしながら。
おかしなくらい二人共しゃべらなかった。それでも胸のドキドキはずっと続いていたんだ・・







「TOKIMEkI」のほのかバージョンを書いてみました☆