「溶けちゃうよ?!」 


女ってさ、やっぱそういうのに弱いよね〜!
何割引き、とか何%OFF、とか半額!無料!!とかもね?
学生はとにかく節約しなきゃだし、バイトとかしてる暇もなかなかないし。
決まった時期のセールとかも見逃せないからその日目指して貯金したり。
せっせとお母さんのお手伝いしたりお父さんの肩もんであげたりしてさ。
そしてそしてほのかの行き着けのアイス屋さんもちゃんとそういう日があるの。
普段は我慢してちまちまと貯めて、ドアをくぐるときの嬉しさったら!
今回はなんとなっつんがそれにオマケしてくれることになって大ラッキーなのだ。
なんとなくしまりの無い顔になってたってそれは仕方ないというものだよ。

「オマエ、足が地についてねぇぞ・・」
「ほひっ?なんか言った?なっつんv」
「鼻歌止めろ。外だぞ、外。」
「えっ?ほのか歌ってた?!いつの間に?」
「食いすぎて腹壊すなよ。」
「平気だよ、ほのかの胃はアイス大歓迎なのさ。」
「へ〜・・・そりゃよかったな・・」

店内でどれとどれをチョイスするかと思いっきり真剣に考えた。
「やれやれ・・早くしねぇと迷惑だろうが。」
「う〜む、そうだけど誰も待ってないからいいじゃないか。」
「月一回だってんなら前もって考えとけばいいだろ?!」
「いやその、考えるんだけどいざ目の前にすると迷いが生じてだね・・」
「ぐずぐずしてっと先に帰るぞ!」
「えぇ〜!?まぁそう言わずにさぁ。わかった、決めたのだ!」

なっつんに急かされはしたけど、満足の注文をして待つこの至福の時。
「むふふふ・・v なっつんは食べないの?」
「食わない。」
「付き合いの悪い子だねぇ!あげないよ?いいのかい?!」
「いらねぇよ。」
キライだとか要らないとか言う人が存在するのか不思議。
幸せになれる食べ物としては重要な位置だと思うんだけどねぇ?
注文の品はキラキラと耀きを放っていて笑顔は自然とこぼれ出た。

「むひゅううう〜・・・vvおいひい・・!」
「オマエ、顔やばいぞ?」
「いいんだよ、幸せなんだから。野暮なこと言わない。」
「・・・はぁ・・・」
人の眼の前で溜息を吐くなんて失礼な態度だとは思ったけど許してあげたよ。
何せ美味しさに囚われていたからね、何だって今なら許せてしまうってものさ。

「・・オマエは幼児かよ、どうしたらそんなとこにアイス付くんだ?」
「え、どっかについた?」
「ホレ、ここ。」
なっつんの指がほのかの口元の横、頬の下の辺りに触れた。
指の先には思ったよりたくさんアイスがついていた。
もったいないからその指を舐めようと口を開けると
ぱくりと目の前で横取りされてしまってしょっくを受けた。
「あああっ!?それ食べようとしてたのに!」
「なっ・・オレの指舐める気だったのかよ?」
「・・もったいないもん。」
「なにぃ〜!?」
「いやだねぇ、ホントは欲しかったんでしょ?一口あげるよ、ハイ!」
「コレどうしろってんだ?」
「わかんないこと言うね?どうぞって言ってるんだよ。あ〜んして?」
「あ・あほかっ!いらねぇよ!!」
「なんで?すんごく美味しいよ〜!?」
「・・いや、そういう・・とにかく引っ込めろよ、いらねぇって。」
「いいから、いいから。ほのかってば太っ腹だなぁ。なんなら二口?!」
「いらん・・・って聞いてるか?オマエ。」
なっつんは何故だか顔を紅くして周囲をちらっと見回した。
店内には親子連れが一組居るだけだけど、一体何を気にしてるんだろう?
「早くしないと、溶けちゃうよ!ホラッ!!」
差し出したスプーンを口元まで持っていってあげたよ、世話が焼けるねぇ。
お家ではアイス食べるとこ見てるからなっつんはそれほどキライじゃないと思う。
まさかハーゲンダッツしか食べないとか・・いやいやそんなこと無いはずだ。
「なっつん、虫歯でもあるの?」
「ねぇよ!・・ったくしょうがねぇ・・」
「ん?」
一瞬というか、ほのかが気がついたときはもうスプーンは空になっていた。
「アレッ!はやっ!なんだ、やっぱり食べたかったんだー?!」
「なわけあるかっ!!」
なっつんはそっぽ向いて顔を相変わらず紅くしていた。何故!?
「どお?!おいしぃでしょっ?」
「味なんてわかるかよ・・・」
小さな呟きだったけれどそう聞えた。舌でも怪我してんのかな?
「なっつん、もしかして口内炎でも出来てるとか?」
「ねぇって・・」
溜息と一緒くたにそう言って呆れたような顔をされてしまった。
「せっかくだからおいしいって言ってよ。」
「・・・不味くはない。」
「素直じゃないねぇ、その言い方。」
「ほっとけ。」
「まぁいいか。うんうん、おいしいよねー!?」
「めでたい奴だぜ。」
なっつんは仕方ないといった感じで少しだけ笑ってほのかを見た。
「ん?何、おかわりかい?」
「あんまりのんびりしてたら溶けるぞ?」
ほのかは自分の残りのアイスが溶けかかってきてるのに気付いて慌てた。
「おっと、大変!」
なっつんは私が食べてるところをじーっと見てたからやっぱり欲しいのかと思った。
「欲しくないわりに見てるねぇ?」
「別にいいだろ。減るもんでなし。」
「そりゃまぁ、減らないけど・・欲しいのかなって気になるじゃん。」
「欲しかったらそう言う。」
「ウン?でももう無くなるから・・」
「今はもういい。また今度な。」
「そっか。よっし、残りをゆっくり味わうのだー!」
「・・・」

「あ〜、ラスト一口!うううう、終わってしまったー!!」
「今度からウチに持って帰って食えよ。」
「外だと遠慮しちゃうの?食べたらいいのに。」
「オレが食べたいからじゃなくて・・」
「?」
「・・待ってる間がもたねぇっつうか・・」
「わかんないなぁ?恥ずかしいの?」
「わかんなくていいから。」
「??ホントたまになっつんて可笑しなこと言うねぇ。」


お家に帰ったら少しだけなっつんが説明してくれた。
人前で「あ〜ん」とかされると困るんだって。
お家でならいいの?ってきいたら難しい顔して答えない。
私がなんでなんでと訊いてるのにちっとも答えないでいて、
「それと人の指舐めたりするなよ?」とか言い出すのだよ。
「ほのかなっつんの指舐めてないよ。」
「舐めようとしてたんだろ!?」
「だって、もったいないと思ったんだもん。」
「だいたい普通に食べてりゃあんなとこにだな・・」
「取って食べたのは誰さ?言ってくれたら自分で取るよ。」
「!!・・・ついその、オマエのせいだろ。ウチでの癖が出たんだよ!」
「そっか。ってそれほのかのせい?!・・そもそもそれがなんでいけないの?」
「だっ誰かに見られたら誤解されるだろ!?」
「誤解?何を誤解されるの?」
「う・・それは置いといて・・」
「なんで置いとくのさー!?」

なっつんてどうしてちゃんと説明してくれないときあるのかな?!
困らせるからだとか言ってまるでほのかが悪いみたいじゃんか。
それでほのか怒ってたんだけどね、お家でなら一緒に食べてくれるらしい。
だからそれで手を打って許してあげたよ。しょうのないわがままさんだね!

「なんとでも言え。外だと落ち着かないんだよ。」
「えぇ〜・・?」
「オマエが馬鹿みたいに幸せそうに食ってるのを見られたら恥ずかしいだろ。」
「馬鹿とは何さ、その馬鹿の顔をじっと見てたくせに!」
「うるせぇ、あんまり馬鹿みたいだからつい見ちまうんだ。」
「失礼しちゃうよ、なんだい、それは!?」
「そのまんまだ。子供みたいに大口開けて・・」
「むぅ・・そんなにほのかおっきい口開けてた?」
「ああ。呆れるくらいにな。」
「そっか・・それはちょびっと気をつけようかな?」
「そうしろ。」
「あ、でもそれはここでだって気をつけなきゃでしょ?」
「ウチでまで気を遣うことねぇだろ?別に・・」
「んん?ここでは遠慮して食べなくていいってことは・・何が嫌なんだね?」
「・・・」
「人に見られること・・?ほのかそんなにお行儀悪かった?」
「いやそれほどは・・」
「まぁいいや。お家でならなっつんも一緒に食べてくれるんでしょ?それは嬉しい!」
「・・ふぅ・・そうか?」
「うん、一緒だと倍美味しく感じるよ。わーい、次からアイスパーティだあ!」

ほのかが万歳していると長い溜息が聞こえた。
「どしたの?」
「なんでもねぇ・・」
「足りなかったんじゃないの?意地張らないで食べたらヨカッタのに〜!」
「誰がアイス食べたかったなんて言ってんだよ、阿呆。」
「じゃあどうしてそんながっかりしたみたいなの?」
「いらんコトに気付いたっつうか・・いや、なんでもねぇよ。」
「幸せのおすそ分けして励ましてあげたいけどもうないしねぇ・・」
「・・そんなもんはいい。」
「なっつん元気ないんだもん。ほのかだけ美味しかったのが悪いみたい。」
「別にオレは落ち込んでる訳でもないから心配するな。それに・・」
「なぁに?」
「おすそ分けならもらったぜ?」
「?・・あぁ!!あんなちょびっとでいいの?」
「充分。」
「なっつんてエライ子だねぇ!」
「ホントに幸せな奴。」

なっつんは今度は溜息でなくて困ったような照れたような顔になった。
少しだけ顔が紅かったかもしれない。見間違えたかな?
私は「幸せならいつでもなっつんに分けてあげるからねっ」て言っておいた。
そしたらなっつんは何も言わなかったけど笑ってくれたの、幸せそうに!
ほのかはまたアイス食べたときみたいにすごく幸せな気分だったよ。







無自覚アタック再び。夏くんもそんな感じで書いてみました。
ちなみに自宅で普通にしてることが恥ずかしいと気付いた模様。(笑)
二人一緒にいるだけで充分幸せそうに見えると思われますけれど。^^