「ちいさな夢」 


背伸びをして背中を掴んだ。どうしても届かない。
飛びつかないと、肩に手を置くことができないんだ。
どうしてだか、悲しい。どうってことないのに何故だか。

「・・なんだよ?」
「肩にゴミが付いてんの。」
「ウソ吐け。見えるわけないだろ?」
「制服着てるから目立つの。黒だもん。」

一応両肩に視線を落としてから私を睨んだ。ウソだと思ったらしい。

「・・はっきり言えよ、どうした?」
「・・ほのかねぇ・・なんかおかしいんだよ。」

胸につかえてるようなこの変な感じをどう説明すればいいんだろ。
ほのか背が伸びたんだ。だけどなっつんはもっと伸びちゃったよね。
益々遠くなったみたい。だから?・・違うかな。どうなのかな?
がんばってちょっと強くなったよ。技まで教えてもらってるしね。
すごく助かってるよ、無心に身体を動かしてると気が紛れるから。
勉強だって教えてもらって成績も上がった。先生にも褒めてもらえた。
なっつんは優しくて、遊びに連れて行ってくれて、不満なんかない。
なのになんでだろう?寂しい。すごく寂しい。もっと近くなりたい。
なんでかな?ふざけて腕を組んでも、何しても・・なっつんは変わらない。

「確かにおかしいな。なにしけた顔してんだ。」
「でしょー?ほのかも調子狂ってんだよね。はは・・」
「しょうがねぇな、どっか連れてってやろうか?」
「えっ!?なっつんこの頃優しさが増してる。・・まさか浮気してる?」
「うわ・・あのな、そういうこと言うとオレとオマエが・・」
「そうか、浮気とは言わないのか。なっつん誰か好きなひとできたとか?」
「熱でもあんのか?いたらオマエの世話ばっかしてねーぞ。」
「ぷぷ・・あ、でもそれってほのかの相手ばっかでツマンナイってこと!?」
「別に・・女なんか面倒くせぇし。」
「じゃあさ、ほのかなっつんに貢献してるんじゃない?」
「まぁ・・そうとも言えるか。」
「そんならいいか。」
「・・オレのことで悩んでんのか?」
「へっ・・!?いやいや、自分のことさ。でもはっきりとわかんないの。」
「・・・・」
「なっつん、ちょっとナデナデしてくんない?いつもみたく。」
「落ち込むようなことにマジで心当たりないのか?」
「・・ウン、なんにも。」
「ふぅ・・こっちこい、ホラ。」
「ウン。」

眼の前までくると見上げた。ああ、やっぱり見上げるのってツライ。
ぽんぽんと頭を撫でてくれる手はあったかくて優しいのに、涙が出そう。
泣きそうな顔を見られたくなくて、思わずなっつんの胸に顔を押し付けた。
驚いて撫でていた手が止まった。けど何も言わずにじっとしてくれてる。

「なっつん・・もうこれ以上おっきくなったら嫌だよ。」
「身長のことか?しょうがねぇだろ、そんなこと。」
「これじゃいつまでもほのかだけ・・子供みたい。」
「そんなこと気にしてんのか?オマエも前よか伸びたじゃねぇか。」
「けどちっとも差が縮まらないよ!?もう〜・・!悔しい!」
「まだ伸びるかもだろ?」
「皆そう言ってくれるけどさ・・胸も育たないし。」
「・・気にしすぎじゃねーの?」
「もっとキレイになりたい!背も胸もおっきくなりたいよう!」
「んなこと・・何焦ってんだよ、オマエ?」
「なっつんに置いてかれそうで・・ヤダ。寂しい・・」
「さっ・・アホ!何言って・・・」

ぎゅっとなっつんにしがみついてみた。困ったっていいと思った。
いつもほのかがどんなアクションかけたって、しらんぷりのなっつん。
それが悔しいんだ、きっと。どうして何もしてくれないの?って・・
そりゃあちょびっと撫でたりしてくれるけど・・何が足りないんだろ?
ほのかは何してほしいんだ?おかしいよね、胸が苦しくなるばっかり。

「なっつん?」

見上げてみたら、眼が合った。いつから見てたのかな?

「ぷっ・・なっつん、首痛そう。」
「じゃあちょっと踵を上げろよ。」
「背伸びするの?・・そんなに首痛い?やんなっちゃうな・・」

つま先で立ってみると、なっつんに抱きしめられた。・・びっくりした!

「珍しいね!?抱っこしてくれるの。」
「・・やっぱ前よりは大きくなってるぞ、オマエも。」
「確かめたの?!背が?それとも胸が?」
「・・ど、どっちもだよっ!」

なっつんは顔を横向けてしまった。照れてるのかな?
そうかぁ、抱きしめてもらえたらちょっと元気が出るんだ。
嬉しいな、なっつんに元気にしてもらえるのは他のひととちょっと違う。
嬉しいのと、恥ずかしいのと・・・どきどきもついてくる。お得なのかな?

「なっつん、もっと。」
「・・何をだよ?」
「もっとぎゅってして。元気出るから。」
「・・・」

こんな風にほのかだけじゃなくて、なっつんに抱きしめてほしかったんだ。
そうかぁ・・そうだったんだね。だって今はちっとも寂しくないんだもん。

「・・・痛く・ないか?」
「全然。気持ちいい。」
「っ!?・・あ、そ・・」

「なっつん、ありがとう!ほのか元気出た!!」
「そ、そりゃよかった・・な。」
「ウン、なっつんてスゴイねー!」
「やっといつもみたいな顔になったな。」
「あり?・・もしかしてなっつんも寂しかったの?」
「オマエが元気ないと・・変な気がするだけだ。」
「ふへへ・・・そうか、ごめんね。」
「子供かよ、こんなんで機嫌直るって。」
「ぶーっ・・なっつんじゃないとダメなんだけど?」
「ホントかよ。」
「ホントだよっ!それに子供扱いしてんのなっつんでしょ!?」
「フン・・オレを父親か兄みたく思ってるうちは子供だ。」
「違うもん。ちゃんとどきどきするもん!!」

ほのかが思わず大きな声で反論すると、なっつんは黙ってしまった。
ぱあっと顔が赤らんだ。あれ・・?あれれ・・・?!

「ほのかわかった。・・なっつんが足りないと寂しくなるの。」
「・・・・へぇ・・・」
「だからまたさっきみたいにぎゅってしてくれる?」
「それしてほしいのってオレだけなんだな?」
「ウン、なっつんじゃないとダメ。」
「なら・・・いい。」
「やったあ!よかった。」

嬉しいから笑った。久しぶりに万歳したいようないい気分。
なっつんは肩を落としてふぅと溜息をちょっとだけ零してた。
困ってるような顔だけどほっとしたようにも思える。

「ほのかねぇ、もう少し大きくなってさ?」
「は?」
「美人になって、なっつんと並んだら恋人みたくなりたい。」
「恋人・・みたい・・にね。」」
「誰が見ても恋人にしか見えないくらいキレイになるんだ。」
「ふーん・・・」

なっつんは不思議そうにしてた。わかんないかな、男の子には。
小さな夢かもしれないけど、叶えたい。それが叶ったら・・・
もっとなっつんがほのかのこと好きになってくれるかもしれないでしょ?
ダメかなぁ?欲張りかな?・・ほのかだけすきじゃ・・足りないの。

「・・・オマエ望みが叶わなくても落ち込むなよ?」
「あーっ失礼だなっ!ちっともキレイにならないと思ってるの!?」
「美人とか・・くだらねぇ・・オレはそんな恋人なんかほしくないぞ。」
「えっ!?そんなぁ・・それじゃあ夢が・・ほのかの夢があ〜!?」
「オレがほしいのは・・そんなんじゃない。」
「・・・?どんなひとがいいの?」
「オレでないとダメってヤツ。」
「・・・・・ほのか、でもいいってこと?」
「オマエじゃねーと・・ダメだろ。」

ほのかがどんだけ眼を丸くしたって、笑うなんてとんでもないよね?
面白い顔してた?失礼だよ、全く。だって・・夢はもう叶ってたんだ。
信じられないって顔して悪い!?悔しいから、抱きしめてもらおうと思う。








ずっとそうしたかったのは夏くんではないかと。(^^)