手を繋ごう 


その日はとても夏空が広がっていて
暑いけどすがすがしいほどの好天で
入道雲はまるで手招きしてるみたいで
見上げると心は飛び跳ねるようだった
身体をうんと伸ばしてみる
もしも背中に羽があったなら
空を飛んでいたと思う、そんな広い空


「あっついねぇ!」
「なんでそんな嬉しそうなんだよ・・」
「ほのかは夏が好きなのだよ。」
「オレは好きじゃねぇ・・」
「え?!なんで??自分の名前じゃないか!」
「関係ないだろ。暑いし・・」
「暑いから夏なんじゃないか!ほのかは夏がだーい好き!」
「そうかよ・・」
呆れたように首を振って前を行く夏の名をした人を追いかける
二回も好きって言ったのに気付いてないのかなぁ・・?
ずんずんと歩調を速めて土手の上を歩いていく
川の水はきらきらと光って広い空の青を眩しがってる
あの雲も、水のきらめきも、青い空の果てしない広がりも全部が
「夏」という名で私のことを包んでくれてるって気がする
ずっと小さな頃から夏が好きで
あなたのこともずっと好きだ
夏って名だと知ったとき嬉しかった
もっともっと好きになった気がした
あなたのことも季節のこともどちらとも
夏の後を追いかけるなんて素適
夏が私と居てくれるのは最高
そうだ、夏と手を繋ぐことだってできるね
前に手を繋いだときは理由をこじつけたみたいだった
今日は訳もなしに繋いだりしてくれるだろうか?
私は少しどきどきしながら声を掛けてみる
「なっつん!」
大きな声にゆっくりと立ち止まるとあなたが振り返る
面倒だと言うくせに私のことをいつも気にかけてくれる
「なんだ?」
眉根は寄せられているもののちゃんときいてくれる
「なっつん、手を見せて!」
「手?!・・・そんなもん見せてどうだってんだ?」
「上向けて、片方でいいから。」
「はぁ・・!?」
思い切り眉を顰めるくせにちゃんと手を差し出してくれた
私はその大きな手に自分の掌をそっと乗せた
「!?・・なんなんだよ?」
「手ぇ繋ご!!」
私はその手をぎゅっと握り締めながらそう答えた
あ、びっくりしてる。面白いなぁ、なっつんて
「いきなりなんだよ!?・・暑いだろうが!」
「暑いから、手を繋ごう。」
「意味がわからん!」
私はそのまま説明しなかった、というかできなかった
だけど手はもうとっくに繋がれている
大きな手があたたかく私を包んでくれている
「えっへへ・・」
「何笑ってんだ・・」
「うん、手ぇ繋げたなぁって思って。」
「それが嬉しいのか?」
「うん。」
「馬鹿じゃねぇの?」
「うん。」
「褒めてねぇぞ?」
「うん。」
「マジで馬鹿。」
「うん。」
私が嬉しい顔で笑ったせいか、つられてあなたが笑った
眩しそうに眼を細めながらほんの少しだけだけど
そして繋いだ手は離さないまま歩き出す
ゆっくりと、さっきと違って並んで二人で
あなたは黙ったままでどちらかというと顔を背けるように
「なっつん?どうしてそっちばっかり向いてんの?」
「日差しが眩しいんだよ。」
「そお?そんなでもないと思うけど。」
「眼が開けてらんねーよ。」
「大げさ!眼が弱いのかな?」
「ほっとけ。」
並んで歩くとさっきよりもっときらきらしてる
何もかもが全部夏色で私も眩しくて少し眼を細めた
「あー、夏が好きだなぁ!」
「好き好きってうるせーんだよ!」
「あり?なっつんのことだと思った?」
「違う!季節のこと言ってんだろ!?」
「なっつんはもっと好きだけど?」
「!?・・・黙れよ、もう・・」
日差しのせいらしいけど顔の赤いなっつんが黙ってしまった
だから私も黙ったままで歩いていった
握り合った手は汗ばむくらい熱いのに
手離せなくて二人でどこまでも歩く
おうちに着くまで繋いでいてくれるんだと思う
来年も再来年もずっとこうして手が繋げるといい
青い空も白い雲も私たちを応援してくれてるみたいで
嬉しくて私はまたこの夏も好きになる







すっかり恋人モードですが、二人はまだ恋人未満です。
周囲にどんな風に見えてるかなんて気付いてないわけです。
馬鹿ですね〜v(笑)でもそんな二人がいいと思います。