「Tender emotion」 


信じられないことばかりで焦る。
在り得ないことだらけで驚く。
手繰り寄せる先の見えないものの在処。
例えば「触れたい」気持ちと
触れているだけで満ち足りる気分。
例えば「知りたい」想いと
感じて共鳴するときの喜び。
誰も彼もがこんな気持ちを経験しているのだろうか。
知る前の自分がいかに子供だったかがわかる。


気持ちとは変化するものなんだなと実感する。
こんなに穏やかに傍に居られる自分に気付くと驚かずにいられない。
ゆるく囲んだ腕の中に居るおまえを見つめてそう思う。
以前のくすぐったい気分はそのままなのに
落ち着いていられるようになったんだから。
つい顔が弛んで、眉間に皺を寄せたおまえが怪訝な顔をする。
「なっつんてば、何にやついてんの!?」
「・・そうか?」
「なんかヤラシイこと考えてたんじゃあ?!」
「ご期待を裏切って悪いが、違うな。」
「じゃあなんで?」
「別に。おまえが言った通り慣れたなぁと思ってただけだ。」
「慣れたって、何に?」
「前はくっついてくるおまえを嫌がってたろ?」
「ああ!そうだよね、居心地悪いとかなんとか・・」
「で、おまえは慣れろっつったんだが、覚えてるか?」
「うーんと、・・言った気がする。」
「慣れるわけないと思ってたけどな。」
「あの頃はなっつんの傍が居心地最高だったからさぁ・・」
「今は悪いってのかよ?!」
「だって・・こんなにどきどきしなかったもん・・」
「ふーん・・形成逆転ってとこか。」
「でもさっ、今だって居心地が悪いわけじゃないよ!?」
「あの頃は最高って言ったぞ?」
「だからさぁ今はもっと・・んーなんていえばいいんだろ!?」
もどかしそうに身を捩るほのかを少しだけ囲んだ腕を狭めて近づける。
「それで?」
「えっと・・その・・・」
頬が染まり、自信のない表情でありながらオレを睨みつける。
目元が揺れて潤んだような気がしてそっと触れてみる。
「だ、だから前はなっつんこんな風に触んなかったから!」
「触っていいのかどうかわからなかったしな。」
「そ、それにさ?いきなり・・・したりしなかったもん。」
「何を?聞えなかったぞ?」
「う〜!とにかくなんだか悔しいぞっ!!なんでそんな余裕なのさっ?!」
「オレもそれに驚いてんだよ。」
「はい〜?!何だい、それは!?」
「余裕なんてなかったんだよ、なのに今はこうしてても大丈夫になってさ。」
「えぇ〜!?なんか・・ちょっと複雑・・なっつんはどきどきしないの?」
「するけど前ほど焦らなくなったっつーか。」
「そんな安心しちゃって、ほのかが浮気とかしたらどうすんの!?」
「ほー・・?そんじゃあオレも・・」
「だ・ダメダメダメ!ウソだよ、しないよ!?ねぇ、ヤダ、なっつん・・」
泣きそうなくらい必死な顔見てるとまた頬が弛んでしまってどうしようもない。
かわりにまた軽く触れると今度は怒り出してしまった。
「なっつん!もう〜・・なんでそう意地悪すんのさっ!?」
「面白いから。」
「ほのかは全然面白くないよっ!!ちゃんと浮気しないって言ってよ!」
「しねぇ。ってか・・おまえ単純・・」
とうとう堪えきれずに笑ってしまって益々怒らせてしまった。
「むっか〜!寛大なほのかちゃんだって怒るよっ!」
「わ・・わり・・って・・くく・・」
「マジでむかっときた。もう離して!なっつん。」
「嫌だね。」
「はーなーしーて。」
「離さない。」
「ヒキョウモノ!浮気したらもう二度とキスさせないからねっ!?」
「しないから、離さない。」


「・・・やっぱりヒキョウだと思う・・」
「そうかよ。もう一回欲しいのか?」
「・・・悔しい・・くやしいいいっ!!」
「何だよ、泣くことないだろ!?」
「クヤシイんだもん!なんでこんなに好きなんだろっ!?って思ったら〜!!」
ほのかがとうとう涙まで滲ませて拗ね出してしまった。
よしよしと宥めるように肩を抱き寄せて涙を拭ってやる。
「ちょっとは前のオレの気持がわかったか?」
「なっつんの・・?」
「そういうこと。」
ぽけっとした顔をしていたが、やがて意味を理解すると泣き止んだ。
顔どころか身体まで赤くなった気がする。なんてわかり易い奴だ。
「で、でもさ・・そんなの・・あいこでしょ?ほのかは悪くないもん。」
「ああ。何も?」
「なんだ・・・ほのか一人で怒ったり泣いたりバカみたい・・」
「ホントに忙しいよな、おまえって。」
「べーだ!なっつんなんてホントはほのかにメロメロなんでしょおっ!?」
「ああ。そんなことも知らなかったのか?!」
「!?・・うー・・そんな顔・・やっぱりヒキョウなのだ・・!/////////」
オレは少々格好悪いが至極嬉しそうに笑っていたかもしれない。
ほのかは真っ赤な顔をオレの胸に埋めてしまったまま顔をあげてくれなくなった。
「耳まで赤いぞ、顔見せてみろよ?」
「イヤ。なっつんなんて・・知らないっ!」
柔らかく抱いていた腕に力を込めるとほのかの恥ずかしさで強張った身体が解れた。
「なぁ・・顔あげろって・・」
「ダメ・・目、瞑って!」
「それじゃ見えないだろ?」
「見なくていいの!・・瞑ってて、お願い。」
大人しく従ってやるとそうっとオレの唇に触れてくる柔らかいほのかの唇。
見るなと言われると見たくなるんだが、きっと恥ずかしがるだろうと思ったんで・・
もう一度深い口づけをしてこっそりと赤く染まった顔を見た。
愛しさに目が眩む。可愛くていくらでもからかえる。甘くてきりがない。
顔中に触れて首筋を辿って鎖骨まで降りてくるとほのかがやっと目を開けた。
胸元を少し寛げると慌ててやがる。ちょっと予約をさせてもらうことにした。
「痛っ!・・何!?」
ほのかにも見えるところに跡を残した。
「なっつん、コレなっつんが付けたの?」
「そうだ。オレのだって印付けといた。」
「!?・・そんなことしなくたって・・」
「あんまりオレを喜ばせるなよ、危ないぞ。」
「えっ!?えっと・・なっつん喜んでるの??」
「かなり。」
「確かに嬉しそう。」
「おまえは?」
「・・・嬉しい・・よ!」
ほのかの照れた微笑みはオレを充分過ぎるほど喜ばせた。
そんな女の顔を見せてくれるようになったんだな。
信じられないほどの喜び。在り得ない幸福。
知らなかった愛しさの意味。
こうして二人で居るだけで満たされる想い。
優しさに満ち溢れて胸をあたためる。







「砂(糖)を吐く」ほど甘いと私のSSは言われますが・・・今回のはどうなんでしょう?
甘いと言うより、恥ずかしい?私の書く恥ずかしい小説ランキングでトップクラス!?
読み返すと息するのさえ苦しいいちゃつきっぷりですな。・・成功かもしれない。(苦笑)