Take Off  


失敗だったかも・・そう感じてしまった。
一つは下着。脱ぎにくいことこの上なく
デザインだけで選んじゃあダメだとわかった。
それと声。ともかく・・驚きの恥ずかしさ。
誤魔化そうと噛み付いた件も失敗だった。
なっちは許してくれたけど、痕を見てしまうと
申し訳なさと恥ずかしさでじたばたしてしまう。

もう一つは・・痛いのはなんとか耐えた、けど
なっちに土下座したいと思った。ああゴメン!
色気ゼロだっただろうな・・・って落ち込むよ。
思い出すのもイヤなんだけど文句を言いまくったのだ。

「イヤ」だの「痛い」だのならまだマシというもの。
ほのかは女をやめるべきかと思ったよ・・うん・・
もう二度と抱くのは御免だとか言われたらどうしよう!?
散々なことばかり言ったもんね・・最初の方特に酷かった。

なんであんなに喚いちゃったんだろう!?自分を殴りたい。
悶々としてたら背中から抱き寄せられた。なっち起きたんだ!
背中を向けて眠っていたのは顔を見られたくなかったからだ。
そしてその勝手な命令をなっちはちゃんと実行してくれた。

「起きてんだろ?なにしてんだ、さっきから?」

びびっとなって体が固まった。なっちの声が体全体に響いた。
ほのかの背中に口をくっつけて言うんだもん。なにそれ!
お、思い出してびびっとなっただなんて・・言えない!
おそらく赤く煮立ったと思う顔をシーツに埋めてみる。
けれど返事をしなかったのがいけなかった。追い討ちがキタ。

「なぁ・・怒ってるのか?」

可哀想なくらい弱々しい声に思わず首を振った。
振り向こうにもしっかり抱きとめられているんだけど・・

「まだ・・顔見せてくれないのかよ」

あ、今度は拗ねた。なっちの素直な行動が一々可愛い。
可愛いけど困る。朝っぱらから大変申し訳ないくらい
体が熱く反応してしまう。ああやっぱりほのかってえっちぃな;
起きてすぐ何か着ていればよかったのに裸のまんまなのも失敗だ。
面倒だったからって正直なことを口にするのも憚られるぞ。

もぞもぞと居心地の悪さに身を捩じらせていると噛み付かれた!
それはほのかの専売特許だったのに。もう言えない。昨夜更新されて
記録はなっちに受け渡してしまった。でもね、ひと噛みの威力ならば
ほのかの勝ちだ。思いっきり噛んで血が滲んでいたのを知ってるから。
ごめんよ・・・いやらしい自分の声に耐えられなかった結果なのだよ。
初めてだというのになんという醜態。腰・・だるいのも恥ずかしいよ。
だってだってだって!・・・後半気持ちよくってさぁ!?う・・ううう
そうだよ、ほのか思い切り振ったさ。痛さより勝ったんだよ、快感が!

昨夜散々な醜態を晒してなっちに無茶苦茶なこと喚いた。

「ほのかのこと見るなぁっ!絶対ゼッタイ、朝まで見ないでっ!!」

そう叫んでシーツに包まって背を向けた。あんまりだ・・・ほのかって;
何様だろう?あんなに・・悦んでいたクセして。やば・・泣きそう。

なっちが可哀想で、気の毒で、こんな初夜を想定してなくって
やり直したいくらいだけど遅いって痛感していて。惨めだ・・ナニこれ?
ほのかがナニやらとてつもない失敗をしでかした敗北感に落ち込んでいると
なっちがとうとう怒ったのかもしれない。ほのかを乱暴に振り向かせた。
痛いほどではないあたり、加減してくれている。なっちはあくまで紳士だ。
それが悔しいなんて言ったら傷つくだろうか?もっと獣でよかったのになんて。
涙が溜まっている顔を見られた。声が出ない。喉につっかえてしまっていた。
見上げたなっちはやっぱり怒った顔をしていた。なのに・・・

優しいキスがきた。これがまた腹が立つくらい優しいキスだった。
堪えきれずに嗚咽を漏らす。ぼろぼろと泣いて更にみっともないことになった。

「おまえがナニ考えてるか当ててやろうか?」

なっちの声は冷静だ。どちらかというと冷たいそんな声にまでときめいちゃう。
逞しい腕から肩から喉元から全部愛しい。ほのかが獣だ。どうしようもない。

「・・・バカか!いつもおまえが言ってる台詞返すぜ。”嫌うわけない”!」
「・・・ふぇえ・・らって・・らってぇ・・なんかもう・・めちゃめちゃで」
「それは俺が喜ぶとこだ。おまえが落ち込むのがおかしいんだ!このアホ!」
「アホだしやらしいし、ほのか自己嫌悪くらいしたっていいじゃんかぁ〜!」
「やり直したいなら付き合うぜ?」
「!?ほ、ほんと・・?」
「どんな夢見てたんだ?」
「夢・・は見てない。現実すごかったけど!」
「すごいってのは・・」
「気持ちよすぎて」

ごつんとおでこに拳が落ちてきた。ちょびっと痛いくらいの威力で。

「じゃあじゃあこの際ぶっちゃけるけど、ほのかはねぇもっと可愛く・・」
「可愛く?」
「なっちにそう思われたかったんだよ。わかってるよ、見栄っ張りだよね!」
「はぁ・・不満なのはそこか。で、他には?」
「なっちのせいにしちゃ悪いけどさ、紳士過ぎたよ!なんだいなんだい!?」
「そりゃぁ・・申し訳なかった。それから?」
「んと・・んと・・がっかりしてたらゴメン・・」
「だから・・するわけないって・・・腹立つなぁ」
「うわあああん!ごめんよ、ほのかなっちが好きだよ、信じてええ!!」
「疑ってるとでも思うのか?おまえ・・ちょっとお仕置きが必要だな。」
「・・・・・お仕置き?」
「嬉しそうだねぇ?ほのかちゃん」
「・・・・・ま、まさかその王子様モードで!?」
「もーっと優しくしてあげましょうか?」
「ひえええっ!お代官様、それだけは勘弁して!」
「ったく・・!」

なっちに呆れられた、と思ったらまた泣きそうになった。
ところが王子様どころか最初よりかなりその・・あれれ?
ちょっとばかりここから中断がありました。いやちょっとじゃないな;


「の、喉痛い・・ひりひり」
「よく啼いてたものな」
「なっちぃ・・・痛いよう」
「痛くしろって言ったろ?」
「うん・・」
「ばかやろ」
「へへ・・」
「愛してる」
「もっとかよ?」
「ううん!じゃなくて・・」
「あぁ・・」

ほのかがおねだりするとわかってくれた。ウレシイ。
甘ったるいキスしてもらって満足だ。体もへとへと。
だけど幸せだったから甘えてべたべたとひっついてみた。
そしたら
「気持ちよくて文句言われるとは思わなかったぜ」
「・・・予想外だった?」
「いい。おまえらしくて」
「なっちがほのかに飽きたらどうしよ!?」
「こっちの台詞だ。」
「ねぇねぇ、我慢してた分もしてね?これからいっぱい。」
「・・・当然だ。ってか上等じゃねぇかよ。宣戦布告か。」
「うん、ほのかなっちをげっとしたってやっと思えてきた。」
「俺はまだ思えないな。だから・・覚悟しとけよ。」
「ほのかにやけちゃう。困ったね。」
「困るのはこっちだって・・か・・」
「か?」

なっちの言葉はほのかの口の中に落としてもらった。

”かわいいやつめ”

口惜しそうな呟きと全然合ってない蕩けそうな顔を見た。
嬉しそうでそれが心と体に響く。なんて幸せなんだろう・・・
何度したかわからないほどキスをして、裸のまま抱き合って
変だね、ベッドの中なのに空を飛んでいるみたいだ。
そう言ったら、おんなじだと笑った。それはそれは綺麗な笑顔で。

ほのかはわかった、どうして恥ずかしかったのかが。
好きで好きでダイスキで、馬鹿みたいに愛されたくて堪らなかった。
それもおんなじだったんだと気付いたら、格好つけてたのがみっともなくて。
素直ななっちと素直じゃないほのかを見つけたんだ。入れ替わったみたいだね。
二人で飛んだ空は広くて、息が続く限り羽ばたいていたいと思った。
雨が降っても雪に凍えても、風が強く吹いたとしても一緒に飛ぼうね。
飛び切りの笑顔をお互いに返して、ほら世界はこんなにも美しい。







求め合っていれば終わりなんてないって話。