「たからもの」 


最初に作ったのは何を隠そう、初めて出会った日なんだよ。
もしかしたらね、あのときのあの言葉がきっかけだったんだ。
一生懸命こしらえたのに、なんだかよくわからなくなった料理。
お腹を壊しそうだと我ながら思った。だから止めたのに。
なっつんはほのかのこしらえた料理をキレイに食べてくれたの。

そして「ごちそうさん。」と言ってくれた。

作ってもらって食べたのは久しぶりだと言ってたけどそれでも、
嬉しかった、ものすごく!涙が出そうなくらい嬉しかった。
してあげたつもりだったのに、ほのかが何かもらったみたいだった。
あれからもずっと、ほのかの作るものは残さずに食べてくれるんだよ。
そのたびに胸があったかくなる。そしてその分好きになっていったんだ。


「・・・なんだ、コレ?」
「わかんないの?!ロールキャベツに決まってるよ。」
「へー・・・」
「食べてみてよ、自信作なんだから!」
「・・・いただきます。」


その日もなっつんはいつもみたいにお行儀良く食べてくれた。
好物だと聞いて張り切った甲斐があったと内心誇らしかった。
だって、きちんと「ごちそうさん。」が聞けたから。だから・・
初めてにしては成功だったんだと思い込んでいたの、バカだね。
なっつんがぽろりと口を滑らしたのはおバカなほのかと喧嘩したとき。
だけどね、びっくりしたのは美味しくなかったことじゃなかった。
ほのかが好きだと聞いて作ったから、それが嬉しかったんだって。
涙が出た。ぼろぼろ出た。ごめんなんて言わなくていいのにさぁ!?
悲しくて泣いたんじゃないんだよ、嬉しかったの。また胸が熱くなったよ。


「・・こっ今度は・・絶対・・美味しいの・・作るからねっ!?」
「その・・ホントはそんなに不味いこともなかった、そういえば。だから泣くな!」
「ウウン、ごめんよなっつん。でもって・・ありがとう!」
「・・なんの礼だよ・・?」
「いつも食べてくれてありがとう!『ごちそうさん。』って言ってくれて。」
「そ・・普通作ってくれたらそう言うもんだろうが。決まり文句っつうか・・」
「すごく嬉しいんだよ、いつも。それを聞くとね、ほのか元気になれるの。」
「?!」
「そんでもってさ、なっつんのこと好きになるんだ・・ほっかほかになるの、ここが。」
「・・・大げさな奴だな・・」
「ホントだもん。ホントにほんと。なっつんはスゴイんだから。」
「そうかよ。・・・けど逆だろ?普通は。」
「普通?」
「してもらってんの、オレだし・・」
「食べて欲しいからだもん、ほのかが。」
「じゃあ・・フィフティフィフティだな。」
「こんなに嬉しくしてくれてるのに?!」
「だから・・・その・・オレも結構・・そうだってことだ!わかんねぇ奴だな。」
「んん・・?・・・えーと・・なっつんも結構・・嬉しい!?のっ?!」
「まっまぁ・・な。」

なっつんは眉を顰めて、横向いてしまった。ほんのり赤い頬が見えた。
嘘じゃないんだ。なっつんは嬉しいんだ!?なんだろう、この気持ち。
プレゼントを・・・抱えるほどの花束をもらったくらいの・・嬉しさ。
いつだってもらってるのに、この上こんなに嬉しくしてもらってどうすればいいの!?
ありがとうなんて言葉じゃ伝わらないよ。どんだけなっつんてば・・優しいんだよ!

「ほっほのか・・がんばる。もっともっと上手になるからね!」
「初めの頃よか大分マシだぞ?」
「ダメなの。もっと美味しいって思ってくれるまで上手になる。」
「まぁ気長にいけよ。別に今でも不満ってわけじゃねぇし。」
「ずーっと、ずううーっとがんばるよ!死ぬまで。」
「おいおい・・・マジで気の長い・・」
「なっつん、食べてね。ずっと、これからも。」
「・・・あぁ・・」
「ウンっ!」

きっと世界、ウウン宇宙を探したって・・こんな人は見つからないと思うんだ。
それにね、なっつんだからなんだよ、ほのかがこんなに嬉しいって思えるのは。
ほのかは宝物が詰まった洞窟を見つけてしまったんだ。目が眩むほどのたからもの。
誰にも渡したくないんだ。欲張りだって言われたってどうしても。なっつんだけは。


「なっつんは天才なのだ、ほのかを喜ばせることに関してはね。」
「随分持ち上げたな。・・オマエも相当なもんだけどな。」
「よーしこれからもがんばるぞっ!」
「怪我すんなよ、オマエは慌てもんだからな。」
「ウン。気をつけるよ!へへ・・次は何作ろうかな。」
「やれやれ・・・・けどおかげで飽きそうにはないか。」
「なっつんてば、どっちが持ち上げてるってのさ。」


白状しちゃうとね、お料理はなっつんの方が上手なの。
たまにものすごく美味しいの作ってくれて悔しいんだ、これが。
負けず嫌いのなっつんとのお料理バトルは続くと思う、お嫁に来てもね。

「美味しくできたら、ご褒美くれる?」
「何が欲しいんだよ。」
「『美味しかった。』がいいな。」
「ふーん・・そんなことか。他にはないのか?」
「えー?だって・・最上級じゃない?、それって。」
「もっと欲張ってもいいぞ。」
「なな・・なんと気前のいい!・・どうしよう!?」
「遠慮するなんてらしくないだろ?」
「遠慮してるわけじゃ・・じゃあね・・あっそうだ!」
「何だ?」
「お礼にほのかにチューして!?」
「あ!?」
「嬉しくって万歳しちゃうよ、きっと。」
「はぁ・・」
「なんでそんな変な顔してんの?イヤなの!?」
「礼だかなんだかわからんと・・まぁ・・オマエがいいんなら。」
「ウン、嬉しいよ。」


「・・・なんで?なんにも作ってないよ、まだ。」
「いいじゃねぇかよ・・」
「いいけど・・」
「お礼じゃないの?プレゼント?」
「どっちでもいい。」


なっつんがほっぺにプレゼントをくれたから、ほのかもお返しした。
嬉しいことがいっぱいだ。いつもそれはなっつんがいてくれるから。
もしかして、もしかしなくてもほのかがいて・・なっつんも嬉しい?
小さな声で耳元に尋ねてみたら、「さぁな。」って、なっつんは横向いた。

「じゃあね、今日はなっつんにほのかをプレゼント。お礼も兼ねてなの。」
「はあっ!!??・・・な・なに言って・・んだ!?」
「変なこと言った?ほのかなんでもしてあげたいなって思って・・」
「あ、ああ!そういう・・焦ったじゃねぇかよ・・・」
「焦る?どうして?」
「気にするな。なんでもない。」
「気になる。教えてよ!」
「気にするなって!」
「気になるよ!教えてよう!」
「おっ教えられるかっ!」
「ケチ!教えてったらおーしーえーて!」
「ダメだったら、ダメだ!」
「イヤー!帰らないぞ!教えてくれるまで!!」
「アホっ!・・・それじゃやぶへび・・じゃねーかよ。」
「ちゃんとほのかにわかるように教えてよ?」
「・・・・・知るかよ・・・・」

なっつんは真っ赤になってしまって教えてくれないの。なんで?!
あんまり困ってるみたいだから、仕方なく「じゃあ・・今度教えてね?」ってお願いした。
そしたらそれは約束してくれたからよかった。なっつんはやっぱり優しいのだ、ウン。
なっつんにもらう「たからもの」がいっぱいだってことをゆっくり教えてあげなくっちゃ。
ほのかがどんなに「たからもの」みたいに大切にしてもらって幸せかってこともね。

「なっつん、いつもありがとv」
「・・・・どういたしまして。」

ほのかがもう一回おまけのキスをすると、なっつんは困った顔をした。そして、

「もう・・返せないほどもらってるってのにな。」と呟いた。だから、
「返さなくていいよ。ほのかももらうんだから。」と言ってあげた。
ふっと優しさが零れたような笑顔に、”あ、これも一人占めしていたいな”って思った。







奥華子さんの「プレゼント」という曲を元に書いてみました。
リクエストくださって、ありがとうございました☆(^^)