「素直なアイツ」 


 
「素直じゃないよね?!」
普段よくアイツの口から出る台詞の一つだ。 
高い声で繰り返される俺の名。
口を尖らせたり舌を出したり。
確かに素直と言える行動の数々。
だが俺は素直じゃないアイツも知ってる。
「もう遅いぞ。」
「えー?まだそんなでもないよ。」
「多分もうじき雨が降る。」
「どうしてそう帰したがるかな〜?!」
「おくるのが面倒だ。」 
「いっそここから学校行けたらなぁ。」
「あのな・・」
「そうだよ、なっつん家おっきいんだし、泊まってっていい?」
「阿呆」 
「もう、なっつんて失礼なヤツだね、まったく。」
「泊まるだと?」
「う〜ん、でも着替えもないしにゃあ。」 
「本気で言ってんのか?!」 
「ダメ?」
「おまえの親とあいつにぶっ殺される。」 
「なんでさ?」
悪びれもせずに首を傾げるほのかの頬を摘む。
「ひててて・・!!なっつん、やめてよぉ!」
「怒らせたいんだろ?!」
「いてて・・お兄ちゃんも泊まったことあるって言ってたじょ!」 
「おまえな・・」
「ずるい!ほのかだってなっつん家にお泊りしたいもん!」
俺は相手にするのも疲れたのでほのかを担ぎ上げて扉に向かった。
「わー、下ろして!!やだ、まだ帰らないって言ってるのに〜!!」 
「話のわからん馬鹿はお断りだ。」 
「意地悪!横暴!へっぽこぴーっ!!」
玄関で下ろすと案の定むくれて俺を睨みつけていた。
「ほら、傘貸してやるからさっさと帰れ。」
「いや!」 
「ほのか」 
俺がめったに呼ばない名前を呼ぶと一瞬固まった。 
「おまえ、幾つだ?」 
「・・なっつんより二つくらい下?」
「わかってんならふざけんなよ?!いくら子供っぽいっつたっておまえ女だろ。」
「なっつんがほのかに悪さなんてするわけないじゃんか!」 
「そういう問題じゃねぇ!・・・つか断定するな。」
ついうっかり漏らした呟きにほのかが目を丸くする。
「え・・?」 
しまったなと思った時、雨が降り出したようだった。
「みろ、ぐずぐずしてっから降り出しやがった。」
「・・・なっつん、おくってよ。」 
「傘貸すって言って・・」 
ほのかは俺の片方の腕にぶら下がるように縋った。 
「まだ帰りたくないの。」
「な・・・」 
突然甘ったるい声で言うから今度は俺が固まった。
「何馬鹿なこと言ってんだ。」 
「さっきから、まだ一緒に居たいって言ってるでしょ?!」 
俺の方こそ馬鹿だと言い返しながら、俺を見上げて訴える目は一途。 
いつもコイツは俺と居て何が面白いんだかわからない。 
毎日顔を見るから、見ないと物足りないと思う自分もわからない。 
甘えるように傍に居たいなんてねだるおまえのことも。
「なっつん?」 
「遅くなったら怒られるだろ・・」 
「そうじゃなくて、なっつんは?」 
「俺?」 
「ほのかと居るのいやなの?」
「・・・」 
「たまには素直に言っていいと思うんだけど?」 
そうだな、おまえは素直で正直だ。 
俺はおまえの半分も本音が言えない。
だけど、言えないのはそのせいだけじゃない。
「明日もまた来るんだろ?」 
「来て欲しい?」 
不安そうに問いかける瞳を捉えるのが少し怖かった。 
だが勇気を出して大きな瞳に視線を合わせる。             
「・・ああ」 
俺が珍しく素直になったと思ったほのかは眼を輝かす。 
「なっつん!」
零れた笑顔は俺の腕にしがみついて見えなくなった。
「だから、帰れよ?もう遅いから。」 
「うん、じゃあ今日のところは帰ってあげるね。」 
「偉そうだな・・」 
「あ、でもその代わり一つだけお願い。」 
「なんだよ、おくってけってか?」 
「ううん、違うの。なっつんが素直になってくれたから・・」 
「?」
「ご褒美にキスしていいよ?」
「は?!」
偉そうに腰に手なんぞついて胸を張ってそう宣言する。 
まるで私の勝ちだと言わんばかりの態度だ。
ただ、頬は赤く染まっていて緊張のせいか少し震えてる。
つい噴出してしまうとほのかはいつものように異を唱えた。
「ちょっと!なっつん、なんで笑うのさ?!」 
座り込んで腹を抱えて笑いを堪える俺の頭がぽかっと殴られた。 
「んもう!なっつん、酷いじょ!笑うな〜!!」 
「・・すまん・・」 
やっとのことで笑いを抑えこんでほのかの手を握り立ち上がる。
びっくりして俺の掴んだ手元を見るほのかの赤い頬に触れた。
「!?」
「ほらご褒美もらったぞ。帰るか?」
「なっつん、不意打ちはなしだよ!もう一回やり直し!」
「却下。」
「え〜、ケチ!!ちゃんとしてくれないと泊まってくよ?ホントに。」
「ああ、いいぜ。ただし、俺の部屋なら。」
「!!!??」 
あまりに真っ赤になるんで湯気でも出そうだと思った。 
可笑しくてまた腹が痛くなってきた。
からかわれたとわかってますます顔を赤くする。 
「いいよ、なっつん。じゃあほのか泊まってく!」 
「あ?」 
ずかずかと玄関から反対方向へとほのかは歩き出す。
慌てて、追いかけ、引き止めるが、
「言ったからには責任もとうね、なっつん。」
不機嫌さをたっぷりと含んだ微笑みを浮かべて俺を見た。
「いや、だから・・・おまえ・・・意味・・」
「わかってるよ!」
怒鳴るように耳元で叫ばれて動揺してしまう。
「待て!あのな、泊まるのは止せ!おくっていくから!!」
「泊まっていいって言ったよ?!」
俺はどうやら間違いをしでかしたらしい。
拗ねたほのかを必死で宥める格好になり、惨めなほどの敗北感。
「あと、着替えがないから、なっつんの服貸してね?」
「ほのか、頼むから帰ってくれって!!」
”必死じゃないか、なっつんて可愛いよね?”
”こういうとこは素直だなって思うよ、うんv”
ほのかが部屋へと遠慮なく入ろうとするのを阻止する。
また抱えて運んで振りだしに逆戻りってわけだ。
「嘘吐き!なっつんのウソツキー!!」
「泊まっていけって言ったじゃんかー!」
「泊まってけなんて言ってねぇ!!」
素直になるのはやめだと俺がこの後どんだけ思ったかしれない。
もう金輪際あいつに本音なんて吐かない。そう誓った。
ベッドによじ登られたときは心臓止まるかと思ったぜ・・・
やっぱアイツはアクマだ。素直ならいいってもんじゃない。
俺はその夜あまりの疲労感に盛大な溜息を吐いた。







可愛いなっつんを目指してみましたvどうですか?
ほのかに勝とうなんて無理だと早く気付かないと。(笑)
ばかっぷる書いてると楽しくてしょうがありません。
この先彼はこのネタで脅迫されることでありましょう。
ええ、「泊まっていけ」とは言ってませんけどね〜!?
あと押し倒して夏をくすぐるほのかとか書きたい。
はっ?!私夏ほのじゃなくてほの夏だったのかしら?!