「スキスキアイシテル」 



キスなんて挨拶みたいなものだよね。なーんて今だから言うんだけれど。
実を言うとちょびっと前まで憧れてて、念願叶って嬉しくって、たくさんしたい。
なのでよく要求しちゃうのだけれど、それってさ・・あんまりよくないのかな?
ほのかばっかりしたがってるみたいで恥ずかしいんだけど、我慢もよくないしね。
だってさぁ・・ダイスキなんだもん。したくなって当たり前でしょお!?
なので呆れられてもついつい擦り寄って、”ちゅっ”ってしちゃうんだよ〜!

「なんだよ、その顔は・・」
「え、ほのかどんな顔?!」
「ゆるみきってる。」
「イタっ!引っ張らなくてもいいじゃないか!?」
「スマン、伸びて面白いもんで、つい。」
「人の顔で遊ばないように。」
「オマエだって人の髪で遊んだりするだろう。」
「なっちの髪はもてあそぶのに丁度いいのだ。」
「もて遊ぶなよ。」
「もて遊ぶよー!」

明るい髪はぴんぴんはねてて可愛いのだ。クセはほのかの方が強いと思う。
さらさらしてて気持ちいい。なっちはほのかのが柔らかいって言うけれど。

「そうかなぁ!?ほのかの髪の方が黒くて重くて硬いよ。」
「そんなことない。オマエのが柔らかい。」
「すぐはねちゃってねぇ・・まぁいいけどさ。」
「オマエに硬いとこなんて皆無だ。」
「ん?そうかな、歯は硬いよ。」
「・・それ以外。」
「人を軟体動物みたいに。」
「とにかくやわらかすぎる。」
「それって文句!?ケンカ売ってるのかい!?」

むっかりして睨むと、キスされてしまった・・・ああ、やられたぁ・・!
なっちは不意を突くのが結構得意だ。ほのかは真正面からばっかりだけど。
悔しいからべーっと舌を出してぷいと横向いた。キスが嫌なんじゃないけどね。

「文句じゃないし、ケンカ売ってんのでもないぞ!?拗ねるなよ。」
「違うの。ほのかがしたかったのに先を越されたから悔しいのだ。」

そう言ってむくれていたら後ろから抱きしめられた。あわわ・・ちょっと驚いた。

「こらあっ!なにすんの!?」
「・・したいんなら、すれば?」
「・・やだ。こんながっちりつかまってたらできない。」
「じっとしてるから。ほのかさん、してください。」
「そんなにほのかにしてほしい?」
「じゃないとまたオレからする。」
「わかったよ。んじゃちょっと腕ゆるめて?」

なっちが甘えっこでちょっといい気分だから撫で撫でしてチュッとしてあげた。
思わずまた顔がゆるんじゃう。今度は自分でもちょっと弛みすぎかと思ったほど。

「満足そうだな?」
「ウン!ほのかキスするのスキ!」
「オレをもて遊ぶのもか?」
「ウンウン、ダイスキ!!」
「たまにはオレもさせてくれよ。」
「ダメー!」
「いつまでダメなんだ?」
「だって・・ほかにあちこち触るでしょ!?」
「多少は・・ゆるしてもらいたい。」
「む、ならダメ。それとすぐ押し倒すし。」
「やっぱダメですか・・」
「・・そんなにがっかりした顔しないでよ。」
「ヒドくないか、そっちだけがオレをもてあそぶってのは。」
「なっちのキスは・・キスじゃないもん!」
「ならなんだってんだ。」
「ほのか食べられそうで怖いもん。だからあんまり好きじゃない。」
「そんなこと言っていつまで”お預け”なんだよ・・・?!」
「うむぅ・・ほのかって・・やっぱしヒドイ?」
「手ごわい。」
「わっそれってイイ響き!」
「仕方ない。そのかわりもっとキスしてくれ。」
「それでいいの?」
「この際ヒドイ目に合っておくとする。」
「なんで?ほのかのキス、嫌いなの?」
「嫌いじゃない。やらかくてキモチイイ。」
「ふへへへ・・・ウレシイ!」
「その嬉しそうな顔で満足しとくぜ。」
「ほんになっちはほのかに弱いのお!」
「ったく・・たまには勝たせて欲しいもんだ。」
「んー・・じゃあね?今度の七夕兼、なっちのお誕生日にはなっちの好きにさせたげる。」

「・・・・マジで?」
「女に二言はないのだ。」
「好きにって・・どんくらいまで?」
「え・・と・・」
「じゃあオマエがギブって言うまで。」
「そう、それで!」

なっちが嬉しそうに笑ったのでほのかもそれで手を打った。心の中はドキドキだった。
ほんとはね、なっちがいつでもそうしたいんだって知ってるんだけど、あのその・・
やっぱりちょびっとびびっちゃうわけで。初心者は辛いのだ。ま、誰でも初めはねえ?!
そうだよね。だけど、イヤなんじゃないんだ。意外と心臓はやかましいわりに止まらないし。
ぷるぷる震える手足だけはどうにもかっこ悪いんだけどね。あ、前にそうなったのだ・・
あのときは何にも心の準備なかったから、そのせいもあると思うんだ。だから今度はきっと、
大丈夫さ、気合だよね。ほのかガンバルんだ。・・・うう・・なのになんか・・・

「ほのか」
「えっ・・あ、なに?」
「今からびびってるようだが、いいのか?」
「平気だもん。ほのかガンバルんだから。」
「頑張らなくていいって言ってんだよ、阿呆・・」

なっちの手がほのかの前髪を優しく摘んで、ほのかがするみたいにもて遊んだ。
気持ちいいなと思いながら見上げるとなっちは微笑んでいて、胸でどきんって音がした。
いつの間にかほのかの隣に座ってるなっちの手がふっと離れた。途端に寂しくなる。
いつもならもっとしてって言うのに、何故だか言えなかった。どうしようキスしたい。
それもいつも私がするキスじゃなくて、なっちがたまにする眩暈のするようなのが。
困ったな。さっきダメって言ったのはほのかなのに。今度って言ったばっかりだし。
なっちがいけないんだよ。あんまり嬉しそうに目を細めてほのかを見たりするから。
怖さも何もかもどうでもよくなる時がある。それはたまにで、いつと予想できない。

例えば今みたいに胸が締め付けられるような笑顔をみたとき・・・かなぁ?

「どうした?なんか言いたそうにして。」
「う・え・・なんでわかるの?!」
「なんでって・・オマエわかりやすいからな。」
「そんなになんでもかんでも顔に出てるの!?ほのかってば。」
「なにいきなり赤くなってんだ?!」
「そ・・し・・しらないよっ!」

今度は意地悪じゃなく、いたたまれなくて顔を背けた。顔が熱いのがわかる。
ほのかの考えたことがわかったとしても、わからなかったとしても恥ずかしくって。
どうしよう、なっちにばれちゃった?けど・・でも、違うかもしれないし!?
ほのかの好きなのは挨拶みたいなキスで、おかしくなっちゃいそうなキスは・・・

「ほのか、こっち向けよ。」
「ちょ・・と待って。今ダメなの。」
「無理矢理向けられるのは?」
「もっとダメ!なっちのバカっ・・」


顔を見られるのが恥ずかしかったから、押し付けられた胸で見えなかったのはほっとした。
抱きしめられて胸のどきどきは伝わってるかもしれない。なっちのは・・わからない。
思わず瞑っていた目をそっと開けたけど、なっちはじっとほのかを抱きしめていた。
なんだかほっとしてほのかもなっちに抱きついた。少し顔の火照りは治まったみたいだった。

「・・・なっち?」
「・・ん?」
「ほのか怖いんじゃないからね。」
「オレは怖い。オマエみたいに強くない。」
「なっち?!どうしちゃったの!?」
「今だって・・オマエの笑顔一つでこんなになるのに・・」
「え?どんなの?」
「喜ばせんなよ、あんまりオレのこと・・手ごわくていいんだぞ。」
「ほのかなっちを喜ばせたの?!今?」
「いつだってそうだ。」
「それなら嬉しいよ。なっちが好きだもん。」
「アホ、バカ、ガキ、」
「いきなりなんだね!?」
「オマエもたまにはオレを怒らせるとかしてみやがれってんだ。」
「なっちって・・何言えば怒るの?」
「そんなに心広くないぞ、オレは。」
「そうかなぁ?なっちほのかのこと注意するときしか怒らないよ。」
「ああ、オマエが無茶したときとかな。」
「そうそう。でもすぐゆるしてくれるしね。・・別に怒らせなくていいでしょ?」
「そうだよなぁ・・オレも大概・・オマエに弱すぎるよな。」
「ウン、甘いよね!?」
「・・誰に言われた?」
「色んな人に言われる。」
「はぁ・・そうか・・」
「なっち、もしかして困ってるの?」
「正解。」
「ほのかどうしたらいい?」
「どうもしなくていい。ガンバルのもやめとけ。」
「そんなこと言うから甘いって言われるんじゃない?!」
「しょうがねぇだろ!」
「ねぇ、キスしてあげる。だから元気出しなよ。」
「・・そうだな。そうしてくれ。」
「ウン」

やっとほのかの肩に置かれていた顔を上げて見えた顔はやっぱり微笑んでいた。
優しくて胸がまた痛くなる。なんでもしてあげたくなっちゃう。なっちってば・・
無自覚にほのかを誘惑するんだから。ほのかだって困っちゃうよ。また好きになる。
好きで好きで、ああだからどうしようもないんだよね!?自然とキスしたくなるように、
どんな言葉でもどんなことでも埋め尽くせないほど、気持ちがあったかくなってゆくの。

「なっち、ダイスキ。」

ほのかがいつものキスをしてあげたら、なっちからお返しのキス。
それは怖くないけど長いキスだった。蕩けそうになる優しい・・

「なっちぃ・・こんなのなら・・していいのに。」
「・・・そっか。なら、もっとしていいか?」
「ウン・・」

目を閉じてそのまま、ずっとキスしてた。なっちの唇はほのかの口だけじゃなくて
色んな場所を行き来した。どれくらいそんなことしてたんだろう?気付いたら夕暮れで。
そういえば唇以外の場所を触れられても、今日は怖くないし震えたりしなかった。
ほのかがあんまり嫌がらないからなっちの方が驚いたりびびっちゃっておかしかったの。

「今日はどうしたんだよ?!甘やかすなって言ってんのに・・」
「え、だって・・今日はいつもより優しいから・・特別だよ。」
「止めないと・・知らないぞ?帰れなくなっても。」
「そうかぁ・・じゃあ・・もっとして?って困らせちゃおうかな。」
「どっちにしてもオレが困ることになるんだよな。」
「ふふ・・なっち、アイシテルv」

ちょっと意地悪にささやいたら、意地悪なキスをお返しされちゃいました。








なんといいますか・・糖分多すぎてお腹出っ張りそうです・・;