好きなだけ 


好きなだけ 好きにしたら 好きにしろ
それは思うように、思うままって意味だけど
勝手なようで 自由なようで そうでもない。

オレはときどき言葉に詰まる。声にもならない。
伝え方がわからない どうすればいいのかが。
だから抱きしめるんだ。何故そうしたかわからない。
いつからそんなことしたっけ、気付けばそうしてた。
何もかも考えることを放棄して ただ抱きしめる。

細い手がオレの頭を取り囲み、撫でる。
柔らかな胸が頬を包みこみ、あたためる。
甘い吐息が耳の奥まで届き、頭を満たす。
名は呼ばなくていいんだ どうでもいいから。
約束なんか今は全部忘れなさいと聞こえる。
胸の奥から響いてくる声 いくらでも好きなだけ
甘えなさい そう聞こえてくる、どこからか。

そんなとき、時はまるきり流れが弛んでいる。
場所も 時も 思い出も 何もない世界にいる。
ああ、ここだと感じる。ただそれだけでいいんだ。
そう思うだけで 伝えられなかったことも忘れる。
もういい 無理に伝えなくていいと感じさせてくれる。
夢じゃない 現実。確かに響いてくる、互いの鼓動。



初めてそうしたとき、ほのかはかなり焦ってた。
オレが離そうとしないのにとうとう諦めて力を抜いた。
そしてオレに優しい手を伸ばした。それは今も変わらない。
どんな顔していたんだろう、オレの顔を見て頬を染めた。
今では慣れたとでもいうように、微笑んでみせたりする。

オレは最初「悪い」とか言って謝ったんだったと思う。
そのときだけで、後は言ってない。オマエがいいと言ったから。
そういうときは「ありがとう」でしょ?と礼を強制された。
言えといわれて言うのは礼じゃない、とオレはそれも言わなかった。
それもそうかとあっさり認めて、まぁいいかと笑った。

「『いい』のはオレだけにしろよ。」
「それって命令なの?」
「オマエがイヤだと言ったら・・」
「言ったら?」
「・・・どうするかな・・」
「ふふ・・困る?ならいいよ。」
「フン、ならオレもいい。」
「えらそうだねぇ・・」
「じゃあなんでそんな笑ってんだ。」
「え、嬉しいもん。なっつんもさぁ、ほのかだけなんでしょ?」
「・・・・まぁ・・そうだ。」
「んふふふ・・・だから嬉しいよ。」
「にやにやしてんなよ、バカみてぇ。」
「困ったねぇ、止まんないよ。」
「止めろよ。」
「いやだよ。ほのかの好きにする。」
「オレだって好きにするけどな。」
「そうだよ、好きにしなよ、なっつん。」
「するさ、言われなくても。」
「ウン、そうだね。」

「好きなだけ 好きになるし。」
「・・好きにすりゃいい。」
「なっつんもね。」
「あぁ・・」


オレたちは互いに好きなように生きていて、それでいい。
思うままに行動してればいい、オレだってそうするから。
ごちゃごちゃ考えても仕方ない。答えがあるわけじゃない。
例えばどれだけ愛しいかなんて そんなもの伝えきれない。
ずっとオレの傍にいろなんて、命令したって意味がない。
だから言わない、 約束も誓いもしない。

それでも目の前で微笑んでいるオマエを抱きしめる。
それはきっとやめない。オマエがそこにいる限り。


「なっつんて普段いろんなこと我慢しすぎじゃない?」
「はぁ?別に・・」
「ほのかに甘えるのは遠慮しなくていいんだよ?」
「・・・へー・・」
「好きなだけ甘えなさい。ねっ!?」
「命令すんなよ。オレはオレの好きにする。」
「素直じゃないのは知ってるけどねぇ、たまには・・」
「好きに甘えてんだからいいだろ。」
「ほのかがもっと甘えて欲しいんだよね。」
「はぁ、それで?」
「どうすればもっと甘えたくなる?」
「知るか。」
「もうほのかがカンベンしてってくらい甘えてくれるようになればいいのに。」
「ふーん・・」
「ねぇどんなとき甘えたくなる?」
「さぁな。」
「ほのかの場合はね、やっぱり寂しいときかなぁ・・?」
「オマエでもそんなときあんのか。」
「どういう意味?あるよ、なっつんにあえないときとか。」
「そういうときはオマエが甘えればいいだろ。」
「モチロンだよ。ほのかは遠慮なんかしないし。」
「だろうな。」

遠慮しない態度が好きだ、むかつくけど。
図々しい言動も慣れた、いっそ気持ちいい。
減らない口が頼もしい、ほっとさせられる。
慣れないとすれば、細い体だろうか・・・
抱きしめると折れそうに思える、だから難しい。
思うまま抱きしめられなくて、もどかしい。
いっそ折りたたんでオレの懐に仕舞えたらとか思う。
しょうがなしに手放すと、どこか物足りなそうな顔。
遠慮してるのはそっちじゃないのか、そう言いたくなる。

「あのさぁ、一つだけお願いがあるんだけど。」
「なんだよ。」
「あ、あのね。いいんだけど・・その・・」
「何遠慮してんだよ、オマエだって好きにするんだろ?」
「や、だからその・・あのときね、顔をあまり・・動かさないでくれる?」
「・・・・そんな動かしてるか?」
「んと・・ちょびっとだけど・・あのその・・」
「・・・ひょっとして感じてんのか?」
「このおおばかもの!!」

痛いほどではないが、思いきりひっぱたかれた。
ほのかの顔は真っ赤で、当たりだったのか?と思う。

「や、すまん。冗談だ。」
「怒るよ、寛大なほのかちゃんだって。」
「悪かった。」
「よ、よろしい!」
「もう少しクッションが良くなるといいが・・」
「んなっ!?人の胸に文句つけんじゃありません!」
「文句じゃねぇ、希望だよ。」
「なっなっつんたらさ、この頃ヤラシイじょ!」
「オマエの胸が育ってきたんで、つい・・・」
「ぎゃあああっ!!もうやめた!もう許してあげないっ!!」
「好きなだけ甘えろって言ったじゃねーか。」
「うう・・もうヤラシイこと言ったりしない?」
「いや、好きにするけどな。」

その後ほのかは気の済むまでオレを叩いた。顔を真っ赤にしたまま。
かわりに何してもいいって言ったら、逆にオレの胸にしがみついた。
「いい」と言うまで頭を撫でろだそうだから、そうしてやった。
甘えるのも甘やかされるのも・・いくらでもそうする。好きなだけ