スキ×きらい×スキ 


面倒なことがだいきらい。特に宿題。テスト。
だけどあの人と勉強するのはそれ程嫌いじゃない。
悪いことがゆるせない。ズルとか弱いものいじめとか。
あの人はとても強いけど、弱いところもある。だから
励ましたり支えたりしたいのかな、と思うときがある。

好きって広範囲だよね。皆どういう好きなのかと尋ねる。

お兄ちゃんがだいすき。世界中で誰より一番かっこいい。
だけどお兄ちゃんの一番はほのかじゃないって知ってる。
友達はたくさん。皆個性的で一緒だといつだって楽しい。
あのひとはほのかをよく寂しくさせる。嫌な気分とかも。
そのくせものすごく嬉しい気持ちにもしてくれる。なので

つまるところ、ほのかはなっちのことがすきなんだと思う。


「ね、お母さん。」
「ん、どうしたの?」
「お父さんとチュウしたとき、嬉しかった?」
「う〜ん・・そうね。だけどそれどころじゃなかったわ。」
「もしかしてよくわかんなかった?それとも」
「ほのかは嬉しいよりちょっとびっくりした、じゃない?」
「すごいね、お母さん。そう、それでね、なんか変だった」
「あなたの知ってる夏くんと違ってた、と感じたのかな。」
「あ、でもね、ちゃんと好きなんだよ、それはわかってね」
「わかってるわよ、じゃなきゃこんなに落ち着いてないわ」
「・・・うまく言えない。ごめんね、お母さん」
「ほのかの感じたままでいいのよ、大切にしなさい。」


初めてなっちとキス(というので正しいんだよね?)したとき
何してるんだか最初よくわからなかった。驚いたのもあるけど
急になっちが知らない人みたいで、怖くなって逃げようとした。
抱き締められて動けなくなってしばらくして降参してしまった。
怖いんじゃないのかもしれない、そう思いながら身を任せた。
目を開けたとき、後悔と書かれたあのひとを見たとき知った。

知らなかったんじゃなくて、ほのか気付きたくなかったんだ・・

いつまでも友達みたいにべたべたしたりダラダラ過ごしたり、
厄介者の妹の立場でもまぁいいかと思ってた。楽だったしね。
寂しい思いは会えたとき倍にしてあれこれ甘えてやったりして
憎らしいとか、可愛くない感情を見ない振りしてたみたいだ。
そんなに辛いなんて思わなかったんだ、ほのかだけかと思った。
だから伝えようとしたけれど込み上げてくる涙に邪魔をされて

逆戻りだ。あのひとはまた距離を作って離れてしまった。
謝って欲しかったんじゃない。キスが嫌だったわけないんだよ。
ずっと知らん振りで甘えてた自分が嫌でたまらなかったの。

何度も鏡を見た。手で唇をなぞってみた。だけど思い出せない。
あの感触は、胸の痛みは、手足の痺れはあのひととじゃなきゃ
きっと他の誰とも味わえないんだ。それがわかると涙が零れた。

こんな泣き虫な自分を知らなかった。益々自分が嫌いになる。

なっちは学校も休んでいる。またどこかへ行ってしまったんだ。
何処で何してるのかなんてほのかには言ってくれたことはない。
黙っていなくなったことを責めてから、置手紙をくれるようになった。
今度はその手紙がない。「またな」と短い手紙も以前はあったけど。
帰ってこないだろうか?時々不安が過ぎる。胸騒ぎも襲ってくる。
何の約束もしていない。恋人同士になったんでもない。ほのかのこと
好きかどうかすら聞いてない。このままじゃあんまりだよ、なっちぃ

帰ってくると思ってる。ほのかのことほっとくなんて無いって。
自惚れだって言われたってそうなんだよ、そうでないならなんで

あんな息も止まるようなキスしたの。押し流されて体は小さくなった。
帰ってきたら怒ってあげるんだ。何故ってなっちは怒られたがりだ。
そしてほのかから今度は奪ってやるって決めたの。悔しいからさ。
なっちの負けず嫌いがうつったんだよ。責任取ってもらわないと。

「ああ・・なんであんな面倒くさいひと好きになったんだろ?!」
「ふふ・・お母さんもそうだったわ、懐かしい。そんなものよ。」

お母さんはさすがに大人で笑っていたけれど、とても幸せそうでもある。
ほのかだってそんな風になれるはず。お母さんの子じゃなくても誰でも。
がんばってみよう、努力を面倒だと思う自分も好きにはなれない。
そうだ、あの人は・・・なっちはいつだって努力を怠らない人だ。
飽きないのかなって思うくらい毎日毎日体を鍛えて。だけどその姿は
一心に強くなろうとする弱さにも見えるのに、とてもとても綺麗で
えらいな、ほのかもがんばらないとなって自然に勇気がもらえた。

そうだよね、ヘタレとか弱っちいところとかそんなのは一部分だけ。
どんなに面倒なことでもこつこつとこなすのはなっちの良いところ。
真面目で一生懸命で、・・ほのかのこともそんな風思ってくれてたの?
胸の奥が熱くなるよ、逃げててごめん。もう大丈夫だから帰ってきて。
ほのかのダメなところもみせていいんだよね、ううん、みて欲しい。
全部なんとかしてくれる。ほのかも負けないようにがんばるんだ。


信じて待っていたらほんとに叶った。危ないところを助けてくれた。
ヒーローみたい。かっこいいね、たまに。正直に言ってあげようかな。
でもそれどころじゃなかった。再会が嬉しくてほのかはまた泣いたから。

「すきだっ!なっちがすき!どこいってたんだよ、ばかっ!!」

泣き喚いたらすっとした。なっちがびっくりしてたっていいんだ。
涙を拭う手があったかかった。「待ってたのか」と意外そうに呟いた。

「あたりまえだよ。なんか忘れてない!?」
「あぁ、だから戻った。忘れてなんかない」

真面目な顔のなっちは綺麗で苦手だ。ほのか不細工かもだし慌てた。
泣いてたのを思い出してごしごし顔を擦って隠すと腕を退かされた。
どきんと胸が鳴ったから、大急ぎでほのかはなっちの口を手で塞ぐ。

「ちょっと待って!ほのかリベンジするんだからね!」

目を丸くしているなっちに顔を近づけた。だけどドキドキして震える。
困って「め、目つむって」と頼んだ。上手くできる気がまるでしない。
だけどがんばるんだ。なっちが目を閉じてくれたので自分も閉じた。
思い切ってぶつけたつもりだったけど、予想より柔らかな感触だった。
うまくいったのかなと目を開けると笑ってた。うん、その顔はいいよ。

「ど、どうだ!」と胸を張ると「ごちそうさん」ってなにソレ!?
「余裕見せちゃって。ほのかからのちゅーだぞ、もっと喜びたまえ!」
「喜んでるぞ、充分。」
「おかしそうに笑って見えるんだけど」
「おかしかねぇよ、うれしいんだよ。」
「なんだ・・そうか。」
「ありがとう、ほのか」

なっちがほのかの頭を撫でたので「なんで子供扱い?!」と怒ってしまう。
恥ずかしいことにほのかは期待してたみたいだ。あのときみたいなキスを。
「また今度な」と言うからばれてしまったらしい。どうしてか首を傾げる。
2回目にあのひとからもらったキスは最初と違っていてとても優しかった。




「よかったわね、ほのか。」
「うん、ありがとう、お母さん」
「でもね、ちょっと物足りなくなってさぁ・・」
「最初にあなたが泣いたからでしょ?それは仕方ないわ」
「そうなの?」
「好きな子に泣かれるとね・・男って皆臆病者だから。」
「そういうものか・・ふむふむ」
「まぁ焦らずに。そうだわ、今度家に連れて来なさい。」
「あのひと好いカッコしいだからきっと猫被るよ〜!?」
「お母さんにはちゃんとわかるから安心してちょうだい」
「さすがだねぇ・・ほのかもお母さんみたくなりたい!」
「大丈夫よ、その点は心配いらないから」

太鼓判を押してもらえて嬉しかった。家に来た時やっぱり猫かぶりだったよ。
お父さんが大変だったけどお母さんに宥めてもらってた。あのひとったらね、

「お前の母親見てると将来が見えて嫌になる・・」って、どういう意味かな?

お別れに「今度はいつあのときみたいなちゅうしてくれるの?」と尋ねた。
そしたら「それはお前次第だ」・・だそうだ。どうしようか・・悩むよ。
ほのかは面倒が嫌い、なのに面倒な彼が好き。今度きかれたらこう答える。

どういう好きか?あのね、色んな好き。どんなことでも許せるくらいって。
呆れられてもバカにされてもいいや。幸せ者ってこういうことでしょう?!







夏くんの存在薄い夏ほの。ほのかサイドですね、完全に。
たまにはいいかと。甘ったるいのは次回にします。多分。
結構リア充だと思うんですけれども、いかがなもんでしょ?