「好きだよ」 


簡単な台詞。どうでもいい奴から聞くとうざったいのに
一人だけ、池に投げ込まれた小石みたいな波紋を感じる。

気軽に、何の気なしに、呟いたり、囁かれる言葉。
オレはというと、芝居なんかやってるくせにと突っ込まれそうだが
そのたった一人にだけは、その台詞を返してやることができない。
胸に痞えてしまうんだ。苦しくなって喉から出てこなくなる。
不甲斐なくて情けなくて、それでも必死になって搾り出すのは、

「うるせぇ」

だったりする。がっくりとするだろう?普通そんな返事だと。
オレなんか言った後、自己嫌悪で体全体が鉛になった気がする。
しかしなんという幸運か、ソイツは少しもがっかりしないんだ。
ふふっと微笑んだりする。なんともかわいらしい笑顔でだ。
ずっぱりと刃物で薙ぎ払われたように感じる。真っ二つというか・・
それでいて少しも悔しくない。オレはどれだけその相手に心酔してるんだ。
こんなオレを導いてくれ、その点ではオマエは達人クラスだから。
マイッタ、と口にしないのはとっくにバレてるんだと思うから。
いつか、いつか言う。ホントは毎回頑張ってるんだけどな。
覚束ない台詞になるのがみっともなくて、どうしても言えない。
とにかく短い4つの音の中に、込める想いが大きすぎるんだ。
どうしてそんなに気軽に言えるんだ。オマエそれほど好きじゃないだろ!?
なんていじけたことまで心でぼやきながら、自分のことは誤魔化して。
心の底から言いたい、芝居なんかじゃなくオレ自身を曝け出した言葉で。
幸い挑戦する機会はたくさんある。しかしこのときが永遠なわけもない。
だからオマエに会うたびに伝えようと心を落ち着かせてるんだ。
いざとなると、ちっとも落ち着かなくてどんな強敵にも覚えない武者震い。

「なっちー!好きだよーvv」
「っ・・なんでそうオマエは・・」
「なぁに?言えないの?わかった。さてはほのかのこと好き過ぎて・・」
「うるせぇよっ!」
「・・あ、あり?!まさか・・当たってたの・・?」

ほのかの顔が赤く染まった。オレはどんな顔していたんだろう。
なんでそんな恥ずかしがってんだよ!?かわいいじゃねーか!!
でもって黙るなよ。どうしていいかわからなくなる。なんて言えば・・

「へへ・・ねぇ、ちょっとは当たってるでしょ?」
「ちょっ・・とで・・いいのかよ?」
「いっぱいだとうれしいけど?」
「オマエが思ってんのなんかよりなぁ・・もっとずっと・・」
「ええっ!?ちょっ・・ヤダなっち・・」
「何照れてんだよ!?」
「や、だって・・ほのかがすきって言ってたの、ちゃんと届いてた?」
「誰にでも言ってんのかとか、思ってた。」
「言わないよ。それは伝わってたのか・・そうかぁ!」
「けどまだ一回もオレは返事してない。」
「ん?でもいっつも嫌そうじゃなかったよ?」
「・・・オレが・・?」
「ウン、だからうれしくってまた言ってしまうのさ。」
「・・・そりゃ・・オマエに言われるのは・・」
「なになに!?どうしたの?!そんなにうれしがらせてさ!?」
「うれしい・・のか?」
「あったりまえじゃん!」

ほのかが赤い頬をしたまま、オレの懐に飛び込んできた。
驚いてその小さな体を受け止める。現実だ!夢じゃない。
抱きしめていいかどうか躊躇う頭をそっちのけしたのはオレの腕。
無意識に引き寄せて、閉じ込めるように抱きしめていた。
身をよじる僅かな抵抗に気付いて、慌てて両の腕を緩めた。

「ふあっ!どうしちゃったの?うれしくて変になっちゃうよ!」
「苦しかったんじゃ・・?」
「ウウン。ねぇねぇ、なっち・・」
「・・?」
「だいすき」
「!!!」

そ、それは・・あれだろ!?無理ってもんだろ!?
オレが再び囲んだ腕の中で、今度こそ「くるしい〜!」と悲鳴が上がる。
だけど、どうにもならなくて「ちょっと我慢しろ!」と無理を返す。
すると素直に大人しくなったほのかに不安が過ぎる。

「・・おい?・・怒った・・のか?」
「え?だってちょっと我慢してたんだよ?」
「素直だな!」
「暴れた方がいいの?」
「どっちでもいいんだが。」
「へ?どっち!?」
「オマエさえ、嫌でなけりゃ。」
「嫌なわけないじゃん。やだね、この人ったら。」
「あ・・そう・・」
「なにをいまさらなこと言ってんのかなあ!?」

ほのかは怒り出した。焦るオレにますます機嫌を悪くしたのか

「ホントにちゃんとわかってるの?!すきだって言ったよ!?」
「それはオマエいつも言ってるじゃねーかっ!」
「そうだよ。わかってんのかなぁ、もう・・こんなにすきなのにさ!?」
「アホかオマエは・・」
「アホとはなんだい!?」
「オマエみたいに言えないから・・必死になってたんだぞ!?」
「必死?・・何を頑張ってたの?」
「ちゃんと返事しないとって・・」
「あぁそうなの?じゃあさっきみたいにぎゅうってすればよかったのに。」
「なっ!?そんなこといきなりしたら変だろ!?」
「変なことないよ。えーと、なんだっけ・・”不言実行”!?」
「意外なこと知ってるな。」
「馬鹿にして・・ほのかわりとかしこいんだよ。」
「そうか、言わなくてもいいのか。」
「言ってくれたってそりゃ・・いいけど?」
「やっぱそうだろ?だけどなかなかこれが・・」
「いつかでいいよ、言葉なんてさ。」
「え?」
「わかればいいもん。ほのかのこと、すきだよね?」
「・・すきだ。」
「・・言ってるじゃん!!」
「いや、こんなのじゃなくて・・もっとその・・」
「じゃあね、足りない分抱きしめてくれたらいいじゃない。」
「・・・オマエって・・かしこいな。」
「・・なんでだろう、ほめられたように聞こえないんだけど・・」

今度は力任せにしないで、そうっと抱き寄せてみた。耳元で息を吸う。
くすぐったそうに首をすくめるほのかを少し強く抱きしめなおして、
言い直してみた。ゆっくりと、刻み込むように。

「すきだ」

ほのかはびくりとしたが、ずっとオレを見つめてた。瞬きもせずに。
くしゃっと目元がゆがんだ。まさか泣くのかと思い、はっとする。

「・・ずるい。」
「ずるいって・・何が!?」
「ほのかだって毎回ちゃんと言ってるのに・・」
「・・?」
「なっちはこんなに毎回どきっとしてくれてる?」
「!?」

悔しそうに上目でオレを睨む目は潤んでいて涙がこみあがっている。

「悔しがる必要ない。オレだって毎回ちゃんとうれしがってる!」
「でもどきっとしてないでしょ!」
「してる。っていうかオレがちゃんと返事しないから呆れてないかと・・」
「違うじゃんか、それは!もう〜!?やっぱりずるいー!!」
「じゃっ・・どうすりゃ・・?」
「ほのかだけじゃないって納得させてよう!片思いじゃないって!」
「当たり前だろ!?オマエなぁ、オレがどんだけすきかなんて言えるかってんだよ!」
「ほんとぉ・・!?」
「オレだけが好きなんだったら、とっくに言ってた!」
「え?そうなの?!」
「オマエがあんまりオレを喜ばせるから、どう返していいかと悩んでたんだ!」
「・・そう・・なの?」
「んだから・・その・・な・・」
「ウン、ごめんね、なっち。もいっかいやり直すよ。」
「え、やりなお・・」

ほのかがオレにもう一度しがみつくようにしたかと思うと、
押し付けるようにオレの頬に唇を寄せて「すきだよ」と言った。
何度もチャンスをくれるやさしいほのかにお返しのキスを落とすと、
「オレも・・すきだよ。」と今度はまともに言うことができた。
ぱっと顔をほころばせたほのかの目から一粒の涙が零れた。
だけどすぐに花が咲くように笑ったから、オレもつられて笑う。
ああ、ほんとにオマエはかわいい。言葉でなんて言い尽くせない。だけど・・

どんな風に言ってもいいんだな、オレが考えすぎてた。
どんな言い方をしても、うれしいと思ってくれるんだ。

「すきだ。」

きっとこれからは何度でも言える。








PC復活第一弾ー!!復活記念です〜!!(^^)
FTP触るのも久々ですー!フォントがでかすぎてますが。
まだ細かい調整やらありますが、取り急ぎ書いてみましたv