SECRET TIME 



この頃ほのかが挙動不審だ。なんなんだろうな、アレ?
本人は隠してるつもりでも、一ミリたりとも隠せてない。
何かオレに訊きたい、ってか確かめたい。そんな顔を見せる。
バレンタインが近づくとそんなだ。不要な心配もあるらしい。
嬉しくないと言えば嘘になるが、オレのことは気付きもしない。
隠してもいないのに。というか隠せていないようだってのに。
ほのかだけが気付かない。オレがどんな風に見ているかって事を。

「なっちぃ?」
「んー?」
「あのさ、まだ寒い日が続くねぇ〜?」
「・・オマエ寒いのそんな苦手じゃないだろ?」
「うん、その・・いいよね、朝の冷え込みとかね!?」
「なんか訊きたいんならさっさと言えよ、気持ちわりぃ。」
「おお・・さすがはなっち。ほのかのことわかってるねー!?」
「誰でもわかるんだよ、オマエの場合はわかりやすいから。」
「自分の手柄にしとけばいいのに。」
「誰に自慢しろってんだよ?」
「あっそういえばほのかね、チョコもらったの。一緒に食べよ!?」
「ああ、まだ2月に入ったばっかなのになぁ・・」」
「街中はセールの花盛りだよね。あっほのかは今年も手作りだよ!」
「そっか。期待しといてやるよ。」
「なっちは・・毎年いっぱいもらうんだよねぇ?」
「知ってるだろ、基本もらわないし、押し付けられたのは施設行きだ。」
「うんうん・・でもほのかのだけは食べてくれるんだよねぇ!へへ・・」
「光栄に思っとけ。」
「ぷぷ・・えらそうだけどまぁいいよ。」
「オマエも男はアニキと、オレだけ・・だよな?」
「ほのか手作りしてるのはそれだけだよ。」
「義理であちこち配ってんのか!?」
「そんなあちこちじゃないよ。」
「そりゃタイヘンなこったぜ。」
「だって・・女は色々と付き合いってものがさあ・・」
「まぁいい。本命じゃないってんなら。」
「・・・うん・・だよ。」
「なんだよ、その曖昧な返事。まさかオレ以外にやる予定ができたのか?!」
「ちょっちょっと待って!なっちのが本命だなんてほのか言ってないよっ!?」
「・・・そうだったな。で、どうなんだよ。」
「そんな予定ないよ。なっちだけ!・・びっくりするなぁもう・・!!」
「フン。驚いたのはこっちだ。」
「あ、あのさ、そう言うなっちは?・・好きな人とか・・できたり・・してない?」
「ない。」
「そうか!ウン。そりゃあ寂しいね!?」
「別に。オマエだってそうじゃねぇか。」
「まぁねー。」
「余計な心配するな。」
「ふふ・・・なんでかなぁ、なんでなっちってほのかに甘いのかなあ?」
「さぁな。」
「なんか元気出た。チョコ食べよっ!一個しかないから半分こで。」
「オレは別にいいから。オマエが食えばいいだろ。」
「そんなこと言わずに。お母さんがくれたんだ。中に何か入ってるらしいよ。」
「へー・・」
「ホラ、これだよっ!なっちと一緒に食べなさいって。」
「待てよ、オマエの母親から・・?!・・・ちょっと・・気になるな?」
「なっちって年上趣味じゃないって言ってたよね!?ダメだよ、お母さんは!」
「怖いこと言うな。オマエんとこの親父に撃ち殺される!」
「ははっお父さんものすごくお母さんのこと好きだからねー!」
「珍しいくらいな。」
「うん。ねぇねぇ何が入ってるか気になるねっ!?一緒にぱくってしよ!」
「は?・・なんだと?」
「何が入ってるかわかんないから、二人同時にぱくって食べてみようよ。」
「・・・それは無理がないか?・・ポッキーじゃねんだし・・」
「これわりと大きいから、間違ってちゅーしたりしないと思うし。」
「間違いってなんだ。そもそもそういうことは・・アレだろ、その・・カップルとかですんだぞ。」
「そうなの?びっくりを分かち合いたいだけど、カップルじゃないとダメ?」
「二つに割ればいいんだろ?オレが割ってやるよ。」
「それじゃあ普通すぎてどきどき感が足りないよ、面白くない。」
「・・やりたいんだな、その顔は・・・」
「さすがはなっち。わかってるね!?」
「はぁ・・おかげさんで。」

馬鹿なことやってるなと思うのだが、ほのかは準備おっけーと口元を引き締めた。
いつも不思議に思うんだが、ほのかは何事に取り組むにも真剣で気合が入ってる。
たががチョコレートの中身を知るのに、そこまで盛り上がれるヤツっているのか?
付き合ってやってるオレは気恥ずかしいんだが、釣られて真面目な顔になっちまう。
一つのチョコをはさんでオレとほのかが口を開ける。誰にも見せられない光景だ。
仕方なく言われるまましたが、思惑は外れた。一口齧っても中身は現れなかったのだ。

「・・どうすんだ?コレ。」
「そりゃあもう一回だよ。中身が出てくるまで。」
「そこまでしなくてもいいんじゃねぇ?」
「なんでさ、せっかくだからがんばろうよ!」
「・・勢いでオマエに齧りついても怒るなよ?!」
「んなっ!?・・・なっちがそんなドジしないでしょ!?」
「こんなことにまで自信持てないぞ。」
「わかった。ぶつかっても事故だと思うからいいよ!」
「事故って・・・オレは犬か、犯罪者か。」
「いいから早く!中身が気にならないのかい!?」
「オマエの中身への執着と集中力の意味がわからん・・」

摘んだチョコをちょいとずらせば、ほのかの唇を奪うのは簡単だな、と思う。
そんなことをほのかは想像もしてはいないだろう、なんの躊躇いもないようだ。
やっぱり変なヤツ。全く動揺しないんならさせたくなるのが男ってもんだが・・

「なっちってばどうもやる気ないね!?」
「すべっておっことしそうなんだよ、コレ。」
「ちゃんと持ってて。じゃないと食べられないじゃないか。」
「普通に食えばいいだろうが・・」
「んもう、じゃあいいよ、ほのか一人で食べる!」

短気を起こし、ほのかはオレの持つチョコめがけて口を開けた。
オレも齧る振りで、チョコレートをほんの少し横へずらしてやった。
ほのかとオレの顔がもうちょいってとこで止まる。おお、びっくりしてやがる!

「・・惜しかったな・・」
「びっ・・くりし・・何してんの!?なっち!!」
「おっこちそうだったんだよ。」
「ウソでしょ!なっちがそんなこと・・」
「チョコにばっか夢中んなってるからだ。」
「?・・もしかしてほのかを驚かそうとして・・?」
「悪いか。こいつの中身なんかオレはどうえもいいからな。」
「ええ〜!?そうなの?なんでなんで?」
「なんでじゃねぇ。ったく・・」

ほのかはさっぱりわかってない顔で、唇を尖らせて不満そうだ。
この拗ねた顔は結構好きだったりする。隙だらけなのでいつも誘惑される。
ぱくりとオマエを食ってやりたいんだと言ったら驚くどころじゃないだろうか。
だがいつもどおり行動には移さず、拗ねたほのかの望みを叶えてやることにする。

「ほのか、口開けろ」
「えっあっウンっ!?」

摘んだチョコとオレの言葉で顔を上げて、口を開ける。反射はわりといいんだ、コイツ。
素直に口を開けたほのかが齧りつくと同時にオレも少し大きめに齧ってやるとチョコは割れた。

「あっこれ!?中身!!」

ほのかが嬉しそうな声を上げて下に落ちた物体を見た。何かと思えば小さなフィギュア?
小さなそれを摘んで目の前に示すと、「あー可愛い!見てみて、なっち!」
「見てるって。」

中身はどうやらおもちゃだったらしい。極小だが精巧な天使らしきもの。
砂糖菓子で、作りに感心できる凝ったものだ。なのでつい繁々と眺めた。

「すごいな、これは難しいだろうな・・」
「なんで作り手目線なの!?可愛さに注目してよ!」
「別に可愛いとは・・・オマエのがよっぽど可愛いぜ?」

手の中の甘い玩具に見とれながら、そう呟いた途端、沈黙が降って湧いた。
なんかマズイこと言ったか・・?・・ああ、可愛いとか・・言ったな、うっかり。
手元の天使からそっと目線をほのかに戻すと、案の定赤い顔で固まっていた。
そう、そんな顔も可愛い。しょうがねぇな、言っちまったもんは。

「何固まってんだよ、オマエいつも自分で可愛いとか言ってるじゃねぇかよ!?」
「あ、あぁ、うん。そだね。・・ははっやだな、真に受けちゃったよ!」
「オレもそう思ってるとは予想外だったか?」
「えっ!?ホントなの!?えっそっそれは・・すごいなあ、もしや天使の魔法!?」
「魔法でもなんでもねぇ。アホだろ、オマエ。」
「だってさぁ・・なっちさ、ほのかのことなんてさ・・!?」
「ああ、ガキだしニブイし、ちっともわかってねえし。さっきオレに齧られなくてよかったな?」
「うう・・なんか・・なっちが笑いながら怒ってるよ。怪現象だ。」
「いい加減にしろ。マジで齧るぞ。」
「それって怒ったときのほのかの必殺技なのに・・取っちゃダメだよ。」
「うるせぇっての。」

あんまりわかんねぇみたいから、軽く奪ってみた。チョコなんかより数倍もうまかった。
どうせもうばれたんだ。オマエだってばればれだ。わかんないほうがどうかしてるって。
怒るかな、だろうなぁ・・しょうがねぇ、なんでも言うこと聞いてやるさ。
オマエも言ってた通り、オレはオマエには甘いんだ。そうなっちまうんだ、どうしても。
離した唇がもっと繋がっていたいと訴えていた。だけどその切なさはちゃんと報われた。
それは蕩けそうな気持ちによって。ほのかが恥ずかしそうに微笑んで、好きだなんて言ったから。









谷本さんは我慢の限界と開き直った模様です。(^^)