Some Day


 


夢を見た。あれは・・やはりほのかなんだろうか?
本人に話したらきっと喜ぶだろうが、オレは言わない。
今よりもずっと大人になっていた。
先日あいつの母親に会った影響かもしれない。
よく似ているな、そう感じたからだ。
普通に見て美人だ。だから得したのかもしれない。
なのにどうした訳か、オレは喜べなかったのだ。

”誰だ、オマエ・・・?”

まず最初に突っ込んだ。あんまり違いすぎて。
夢の中でオレはというと、今と変った風ではない。
だから違和感も大きかったのか、多少引いていた。
そんなオレにほのかは微笑んでいた、穏やかに。
途惑いは膨れるばかりで、一刻も早く目覚めたかった。
これは夢なんだと認識した。未来なんてまだ遠いと感じていた。

”今のアイツは・・どこにいる?”

そんなことを問いかけたような気がする。
答えはなかった。不思議そうにオレを眺めるばかりで。
白くて長い服を着ていた。なんか・・嫁にでも行くのかと思うような。

”なぁ・・オマエ・・アイツを知らないか?”

いつの間にかオレはほのかを探してた。かなり焦りながら。
違うだろ?そんな・・どこから見ても綺麗な女じゃないんだ。
もっと・・子供で、憎たらしくて、オレを我が物顔で呼ぶんだよ。
探しに行こうとしても身体が動こうとしない。オレは追い詰められた。
気が付くと必死になって呼んでいたのは、オレの方で。
目の前の綺麗な女は悲しそうな顔をした。声は聞こえないまま。

”そんな顔したってダメだ。オレは・・アイツを探してんだ。”

アイツでなけりゃ、オレは・・
急に現実が襲うと呆然とした。目が覚めたのだ。
ごく当たり前に自室で、どこにもおかしなことはない。
ただ胸を打つ響きだけが、オレの焦りを物語っていた。
少し汗ばんですらいる。なんでこんなに動揺してるんだろう。
嫌な夢だなと思った。今日アイツの顔を見るのが怖い。
鏡に映るオレは生気のない顔をしていて、更にうんざりした。



「なっつ〜ん!着たよー!!」
「・・・・今日も来たか・・」
「あれっ!?なんか顔色良くないね?寝不足かい!?」
「別に。なんでもねぇよ。」
「ふーん・・とりあえずお茶淹れてよ?」
「・・・いつものオマエだな。」
「えー!?そんなに可愛い?」
「ずうずうしい・・誰が言うんだそんなこと・・」
「わりと言われるよ。言わないのはちみだよ!ん?!」
「思わないから言わねぇよ。」
「あ、そ・・いいけどね。それよかなんかいつもと違うなぁ?」
「・・・気のせいだろ。」

目を反らして台所へ向かうと、ほのかが首を捻りながらついてきた。
ずうずうしくてもオレはほっとしている、それに気付かれたくない。
人の顔をじろじろ見るから、うっとうしくなって終いに怒った。

「なんなんだよっ!?じゃまくせぇな!」
「ちみが変なんだよ、どうしたんだか気になるじゃないか!」
「何にもない。気にするな!」
「うーむ・・まぁいいか。あっそうだ、思い出した。」
「ふぅ・・やっと解放か。」
「お母さんが次の土曜日もご飯食べにいらっしゃいって。」
「・・・あー・・次は・・パスだ。また今度って言っといてくれ。」
「なんで?用事!?遅くなってもいいよ?」
「よかねぇだろ。」
「来たくないの?」
「そんなこと言ってねぇし。」
「返事するの迷ったじゃないか。」
「思い出してたんだよ、予定を。」
「ホントかなぁ・・?」
「その言い方、兼一そっくりだな。」
「え、そおなの?へー、さすが兄妹だじょv」
「似てるよな、ずうずうしいとことか。」
「へへ・・それほどでも。」
「照れるとこか?」
「嬉しいもん。お母さんとも似てるって言われると嬉しいんだー!」
「はぁ・・まぁそうかもな。」
「あり?!ほのかがお母さんに似たらいいなって言ってなかった?」
「・・あぁ、言ったかも・・」
「ほのか美人になっちゃダメ?」
「ダメなんてことは・・」
「ならなんで?おっぱい大きくなるよ〜!?」
「もういいから、その話。」
「大きくなったら触らせてあげるよ、元気出た?!」
「はいはい、楽しみだなー。」
「・・・ちっとも楽しみって感じじゃないね。」
「しょうもないことばっか言ってねぇで・・」
「もしかしてそれが元気のない原因なのかい?」
「・・・なんなんだよ、オマエは?!」

コイツは妙に勘の鋭いところがあって、たまに参る。
そうだと肯定してしまうと白状させられるからそれもできない。
できれば話題を変えて欲しかったのだが、逆効果だったようだ。
そんなにオレは正直に顔に出していたのだろうかと思うと情けない。

「まぁね、お母さんとほのかとはかなり似てないもんね、今は。」
「・・・そうでもないだろ、顔とか雰囲気とか・・やっぱ似てるぜ?」
「でもさ、お父さんにも似てるからね、かなり。」
「へー、どの辺がだ?」
「好みとか、甘えっこなとことか・・色々。」
「あのオヤジさんがオマエとねぇ?」
「見た目はあんまり言われないけどよくお母さんが言ってるもん。」
「ふーん・・・」
「ね、なっつん。」
「んだよ?」
「もしほのかがお母さんみたく綺麗にならなくてもごめんしてね?」
「は・・?どういう意味だ。」
「あんなに綺麗でなかったらお嫁にもらってくれないとか言われたらさ・・」
「・・・嫁って・・」
「なっつんとお別れしないといけないじゃないかもでしょ!?」
「綺麗にならなくても・・・いんじゃねぇ?」
「ホント!?わー・・よかったあ!!」
「・・・第一、嫁ってなんだよ?!」
「お母さんはいいって。よかったね!」
「勝手に話を進めるな、誰が嫁にもらうって言ったんだ。」
「もらってよ。・・ヤなの?」
「・・・・・・そんなこと・・・わかんねーよ、まだ・・」
「綺麗になんなくてもいいって言ったじゃないかぁ!?」
「そっそれは・・その・・」
「ほのかちゃんはあきらめないもんねーだ。」
「・・・・・ちっとも変りそうもないけどな、今は。」
「そりゃ中身はおんなじだもん。変らないんじゃない?」
「そうか・・中身はオマエか・・・けどなぁ・・」
「一体何が不満なんだね、ちみは!?」
「何がって・・とにかく・・オレが呼んだら聞えるところに居ろよ。」
「?・・・ウン。そりゃ普通傍に居れば聞えると思うけど?」
「いつでも返事しろよ、でないと・・」
「わかった。夢でほのかが返事しなかったから怒ってたんだね!?」
「ちっ違う。そうじゃねぇけど・・」
「やだねぇ、夢の中まで責任取らないといけないなんて。」
「誰も責任取れとか言ってねぇっ!」
「いいよ、責任取るから。ごめんね、今度からちゃんと返事するよ。」
「オマエそんなことどうして自信満々に言えるんだ?」
「なっつんが心配だったからそんな夢見るんだよ、もう大丈夫、ほのか返事するから。」
「どこへも行かないんだな?」
「ウン、行かないよ。」
「なら、いい。」

ほのかが満足そうに頷いた。いつものようにふてぶてしい態度で。
オレはそんなほのかにうっかりと本音で確かめた。どこへも行くなだなんて。
いつか、オマエが見違えるほど綺麗になっても・・傍に居て欲しいんだと。
なんて莫迦なんだろうな、オレは。不安はとりあえずどこかへ紛れた。
ホントウにこれから先ほのかが綺麗になっていったら・・きっと不安はまたやって来る。
そんなにもオレは・・・自分の浅ましさと欲深さはともかく、驚いた。
こんなにもほのかを離せないと思っていることに。
いつかなんて日は来ない。それはオレの見た心の中だったんだ。
呆れるオレに傍でほのかは微笑んだ。夢の中の笑顔によく似ていた。







夏くんの焦りと自覚。