「そばにいて」 


いつの間にか眠ったんだ・・目覚めたのは真夜中過ぎだった。
冷え切った部屋の主はベッドを放り出してどこに行ったのか。

「・・嘘吐いた・・早く帰るって・・言ったくせに。」

ぽつりと零れた言葉は冷たさのせいで凍って落ちてしまったようだった。
アナタがいない、ただそれだけでこんなにも肌寒いと感じるなんて。
心配なんかしてあげない。きっとそんなこと望まれてはいない。
ワタシはただ、約束を見届けたかっただけ、そうなのだ。
何所へ行くのかさえ尋ねたりしなかった。聞いてどうなるわけでもない。
ついてはいけない場所なんでしょう? 優しさは却って残酷。
物分りのいい振りしたんじゃない。ただ、アナタは約束を守る人だから。
待っていようと思った。何所で待つかは自由なんだから。

眠れそうもないので窓の外を眺めた。綺麗な星が出ていた。
窓を開けると身震いした。思っていたよりもずっと空気は冷えていて。
ふと思い出す出会った頃。寂しいことにすら気付いていない瞳。
輝く星に似た儚い美しさ。届かない、どこかずっと遠く。
そっちへ行ってはだめと心は叫んでいた。その瞳を見てから。
ワタシに何ができるだろう?遠くへ伸ばしてみても届かない指先。
夜に溶けて消えてしまったら、もうどうすることもできない光。
ねえ、探してるものはそんなに遠いところにあるの?
そうじゃない、ここにもあるよ、だからそばにいて・・

ずっとそう伝えたくて、わかって欲しくて。一人は寂しい、ワタシだって。
アナタを癒すのは誰か他の人?そうかもしれない、こんなちっぽけなワタシでなく。
もしそんな人がいるなら、ワタシはここで待つ意味はないかもしれない。
でもアナタが約束したのは、ワタシだったでしょう?だからいいんだと言って。
誓ったのは心の奥の人だね。もうそこへは行けないんだと知ってる。
寂しさは埋めきれるものではないよ?一人にならないで。


帰って来たら、抱きしめて?ワタシもそうするから。
守られた約束を喜びあおうよ、二人で。
見つけに行くのは・・・一緒がいい、二人ならどこへでも行けるの。
この夜空に瞬いているのは、皆が迷ったときの道標。
帰って来てね、ここへ。思い出してね、約束を。
ワタシは知ってる、だから待ってる。

星が一つ流れた。見ている?アナタも見たのなら・・



カーテンが揺れた。風が後ろから?おかしいね。
そうか、ドアが開いたんだ。風は知らせてくれた。

「・・・寒くないのか、そんなとこで。」
「すごく寒かった。・・・おかえりなさい。」

笑えたかな、ちゃんと。寒さで足がもつれちゃった。
転んでもいいと思った。アナタがそこにいるのだ。
飛び込んだ先はあまり温かくなかった、冷たいと思うほど。

「冷たい!寒い!遅いんだから・・・!」
「・・・・そうだな。」
「約束忘れたのかと思った。もう・・」
「帰るって言っただろ。」
「・・ウン・・だから待ってたの。」
「オマエ・・自分ばっかり、って思ってるだろ?」
「思ってる。こんなに・・ほのかばっかり。ズルイ・・」
「二度と・・言わせないからな。」
「・・そうなの?」
「寒いから窓閉めるぞ。ホラ、こっち来いよ・・」


出窓を閉じると、部屋は真っ暗。なのにアナタが見える。
少しも寒く感じない。随分違って見える、同じ部屋なのに。
いつのまにか繋いでた手を見つめる。あったかい・・このせいかな?

「・・電気点けないの?」
「いい。どうせ寝るだけだし・・」
「待ってよ、今まで待ってたのに。」
「明日にしろ、明日。」
「さっきの台詞はどうなったの!?」
「あぁ・・」

暗いからびっくりした。抱き上げられてすぐにまた下ろされて。

「ねぇ、なっつん。お願いがあるんだけど・・?」
「明日って言ったろ。」
「すぐにできることだよ!」
「なんだよ?」
「・・抱きしめてよ、寒かったから。」
「・・なんだ・・」
「なんだとは何!?人を待ちくたびれるほど待たせて・・」
「こっちの台詞・・」


願いは叶えてもらえた。ちょっと多過ぎるくらいに。
もう少しも寒くなくなった。やっぱり二人の方がいいでしょ?そばにいて、
そう言ってみた。もう他の誰かじゃなくて、ほのかだけにして?と。

「何言ってんだ。」と怒るアナタ。どうしてよと詰め寄るワタシ。
「オレはずっと・・て、他に誰がいんだよ!?」・・・そのまま言葉通り?

そばにいて、ずっと。
離さないで、このまま。
こんなことって貴重なことでしょ?
繋いだ手はあたたかくて涙が出る。
星が空から全部降ってきたみたい。
輝きに埋もれて目が開けられない。
責任とって、これはワタシのせいじゃない。
アナタが降らせてくれたんだから。

そばにいさせてね、ずっと。
抱いているから、こうして。
見つかるよ、二人ならなんでも。
もう寂しい顔は見なくていいね、
それならもっと笑顔になれる。
繋いだ手はいつまでもあたたかい。







リクエストいただいたZARDの「こんなに愛しても」からイメージしました。
歌詞や曲からは切ない感じが漂ってくるんですが、夏ほのにアレンジすると・・
甘くなってしまいました。書き手のせいです、申し訳ありません。(苦笑)
それでも趣の違うものができました。リクエストありがとうございました。(御礼)