スローステップ  


そっと離れた唇は熱いままで
しがみついていた指は痺れて
胸がざわざわとまだ騒いでいた 
包み込むように抱かれているのを幸いに
赤く火照った顔を埋めるようにして隠した
優しく髪を撫でる指を感じて目元が潤む
初めての口付けは想像とは違いすぎて
恥ずかしさが今頃込み上げてどうしようもない
ほのかは借りてきた猫のように大人しかった



衝動を抑えられず触れた
触れたらもう止められなかった
感覚は予想を遥かに超えて甘く
唇だけでは治まらず奥へと
しがみついてくる指が煽るまま
思うさま随分長い間溶け合っていた
名残惜しさをとどめてゆっくりと離した
今更夢中になっていたことが気恥ずかしく
腕のなかにそっとしまうと熱い顔を髪に埋めた
早く冷まさなければほのかの顔が見られない
夏はほのかを抱いたまま熱を鎮めようと努めた



お互いにそっと相手の顔を覗いたのは同時だった
目が合った途端に二人で思い切り目を反らした
左右逆を向いた二人は意を決して顔を正面に戻す
しかしやっと治まったと思った顔がまた真っ赤に染まった
「あ・な、なんか熱い・ね・?」
「あ・ああ、そうかな・・」
結局視線は互いに反れていき、目を合わせることができない
”えーと・・何言ってるんだ、私ってば”
”まいったな、何やってんだ、俺は”
決まり悪さを感じながら夏がほのかを見るとあることに気づいた
指先でその気になった目元の水分をそっと拭ってやる
泣いていたことにも気づかずに夢中になっていたのかと
夏は急激に身体が冷えていくような気がした
突然真顔になった夏にほのかは少し驚くと心配そうに尋ねた
「なっつん、どうしたの・・?」
「・・いきなり、悪かった。泣かせたんだな。」
「え、なんで謝るの?・・ほのか、嬉しかったんだよ。」
「怖くなかったか?」
「全然!なっつん・・もうしてくれないの?」
「!?」「・・いや、おまえが欲しいならいくらでも。」
「なんだ・・びっくりした〜!」
ぷっと夏が吹き出したのでほのかはまた驚いた
「何?ほのか何か変なこと言った?!」
「いいや、安心したんだ。」
「あ、ほのかが嫌だったと思ったの?」
「ちょっと初心者向けでなかったんでな。」
「何それ!?なっつんはベテランだとでも!?」
「いや、そんなことは・・」
「むきーっ!なっつんだって余裕なかったくせに!!」
「おまえが言うか!?」
「うもう!なっつんの馬鹿!!・・・・大好きだけど・・」
「初心者同士ってことで機嫌直せ。」
ふくれたほのかの頬に音を立てて唇が触れるとまた顔が赤くなる
「・・・許したげるよ。」
面白くなさそうな表情だが顔は真っ赤で、夏は嬉しくなる
壊してしまいそうな不安はまだなくなったわけではないが
ゆっくりと確かめ合っていける、そんな予感もした
「・・どうしたらあんな音出るの?やってみていい?」
「お手柔らかに頼む。」
「うん!」
ほのかが楽しい遊びを見つけた子供のように笑う
無邪気に唇を寄せる愛しい少女を夏はもう一度抱き寄せて
今度はゆっくりと優しいキスを贈ることにした












「スローモーション」の続きですが単独でも読めます。