「知ってほしい」 


「ねぇねぇ、なっちー!あの二人さ、仲いいよね?!」
「あの二人って宇喜田と南條のこと言ってんのか。・・そうか?」
「ニブイのうちみは〜!この頃ウッキーの片思いじゃなくなってきてるんだじょ!」
「・・なんでそんなことがわかるんだよ。」
「女のカンさ。キサラちゃんは前よりウッキーに気を許していってるっぽいのだ!」
「はぁ・・女のカンって・・一応女だけどなぁ・・」
「またバカにして!ウッキーは頑張ってるじゃないか!?ちょびっと見習いたまえ。」
「オレに何を学習しろってんだ?」
「もっとほのかを喜ばせようと努力するとか!」
「何様だ・・マッタク・・!」
「いたたっ?!人の顔をひっぱらないでって言ってるでしょおが!」
「わけわからんこと言ってるとオヤツ抜くぞコラ。」
「ちょっ・・ヒキョウデスゾ!?ちみこそ何様だね、その態度!」
「とにかくオマエはほっとけ!無駄な事だ。」
「ええ〜!?」
「そういうことは当事者の問題だ。いい加減にしろ!」


ほのかは頬を餅のように膨らませて夏に不満を示した。
いつもオレにくっついてくるせいでほのかは皆と顔馴染みだ。
そしてあっという間に新白の面々のことを把握してしまった。
好奇心や野次馬根性は時に身を滅ぼす。ほのかはその辺をわかっていない。
男女のそういった機微なんぞは特に首を突っ込んで良い問題ではなかろう。
年長者としては何としても浅はかな行動を留めなければならない。
しかし聞く耳持たないほのかである。オレの心労は範囲を広げるばかりだ。


「ちみはそう言うけども、性分なのだよ。」
「迷惑に決まってるぞ。」
「うむむ・・良くないかな?」
「絶対良くない。オレの言うこともたまにはきけ!」
「・・そうか・・良くないのか。」
「オマエだったらそういうのほっといてほしくないか?!」
「・・・さあ?ほのかわかんない。」
「悪気がなかったらなんでも許されると思うなよ。」
「わかったよ・・ウッキーを励ますくらいにしとくよ。」
「何もするなと言ってんだよっ!」


ほのかがアイツラのことを結構心配しているのはわかる。親身なほどに。
しかしオレは頭を傾げるばかりだ。他人事にそれほど熱意を持つことが。
憤然としているオレを見て、ほのかは唇を尖らせた。


「けどさ、ほのかのお節介のおかげでなっちは成長してるじゃないか。」
「はあ!?何を自分の手柄にしてんだよ!?」
「家事もちゃんとできるようになったし、お友達と仲良くできるように・・」
「それは違うだろ!家事はともかく。」
「そうかね。」
「ったく・・」
「それにね、なっちとほのかも仲良くなったの、ほのかのおかげじゃない?」
「恩着せがましいぞ。オレの言うこと無視してただけじゃねえか。」
「仲良くなれて嬉しくない?」
「・・知るか!」
「ほのか嬉しいよ。」
「そうかよ!」
「だってなっちはものすごくイイ奴だったし。」
「オマエの勘違いだ。」
「謙遜しちゃって。」
「違う。買い被ってんだよ。」
「まだまだだねぇ・・もっと自信持ちなよ。」
「なんの自信だよ!」
「ちみは優しいのだ。」
「やめろ。アホ・・」


呆れ果てるようなお人好し。バカが付く。信じられない。
思い切り不本意な気持ちを隠さずにいたら、抱きつかれた。
わからない。何考えて生きてるんだろう、コイツは・・

「可愛いのう、ちみは〜!」
「やめろ!さわんなよ!?」

猫のコのように柔らかな髪を摺り寄せるほのかを押し戻そうとするが
力の加減が難しくまとわりついて離れない。静電気で吸い付く羽みたいだ。

「オレはオマエが思ってるような男じゃないんだ。」

思わず飛び出した言葉にほのかは真ん丸い目をきょとんとして・・笑った。

「じゃあもっと仲良くなって知らないとこ見つける!」

投げつけるようにした言葉に少しもめげず、そんな返事が返ってくる。
叩きのめされたような気分になる。自分の言った言葉にある疑問が湧いた。
オレのことをもっとわかってくれと、そういう意も含んでいなかったかと。
そのオレ自身気付いていない言葉の底を鮮やかに掬い上げたのだ、ほのかは。
オレも知らない真実を探し当てるのはほのかの得意業だ。中々の手並みと感心する。

「楽しみだな〜!なっちってば恥ずかしがり屋さんだもんねぇ!?」

隠しているのは恥ずかしいからじゃない、と言い返したいところだができなかった。
知られることを怖れているとすれば、そっちの方が・・余程みっともない気がして。
どうすりゃいい?オレはほのかに何を望んでいるんだ、これ以上・・・

「どんどん好きになるよ。まいったね!」
「・・・アホだろ、オマエ・・」
「なっちもほのかを好きになってよ〜!」
「勝手なこと言うな。」
「ふへへ・・」

舌を出して「ダメか」と呟くほのかは、わかってない。何もわかっちゃいないんだ。
好きになれと言われてなるもんじゃない。誰と誰のことでも、自分たちのことも。
なっちまってから気付くんだ。どうすればいいかってことに。答えは存在しない。


「ウッキーとキサちゃんももっと仲良くなれるといいね!」
「人のことまで気にしてる場合かよ。少なくともオレはそんなに暇じゃねぇ。」
「でもさ、自分のことより人のことの方がよく気付いたりするじゃないか?!」
「やっぱオマエはわかってねぇな、ガキ。」
「自分だって似たようなもんだよ!エラそうに。」
「そうさ。わかんねえことばっかだ。悪いかよ!」
「だから面白いんだよ?!ばかだねぇ!?」


ああ言えばこう言う。オレとは正反対の不思議な生き物、ほのか。
オレはなぁ・・オマエがこの世で一番わかんねぇ。だから・・知りたい。
離れられなくなるのは困る。これ以上オマエに掴っちまったらと思うと・・・
ほのかはふと気が付くとまた宇喜田と南條のことを気にして遠目で窺っていた。
むかつく。オレの悩みなんてどうせオマエにはたいしたことじゃないんだろうさ。
ほのかは二人のやり取りを見て、独り事で小さくぼやいていた。


「惜しいなぁ・・告白しちゃえば良かったのに・・ウッキーってば。」
「は、何を言ってんだ?余計なおせっかいはやめろよ!?」
「なっちー!タイミングって大事なんだじょ!お芝居とかやってるならわかるでしょ!?」
「だから何の話だよ。またあいつ等のこと見てたのか?帰るぞ、もう。」
「帰ったらハーゲンダッツもオマケしてよ。」
「はあ!?ダメだ。腹壊す。」
「壊さないじょ!暑いんだもん、今日〜!」
「じゃあ作ってやったのはもう食うな。」
「えっ!?なっち今日手作りなの!?わーいv食べる食べる!アイスは今度でいいよ!」
「・・・ったくいつまでもこんなとこでうだうだしてる必要ないだろうが・・・」
「なっちはもっと他の皆と交流した方がいいよ。ほのかばっかり構ってないでさ。」
「オマエがおせっかいしたりするのを見張ってないといけねーんっだよ、オレは。」
「人のせいにして・・・ちみは人見知りじゃのう。」
「なんだと〜!?」


焦れたオレは無理矢理ほのかを連れ出すことにした。放っておいたら禄なことにならない。
アイツラもとっととくっつくなりすればいいんだ!などと八つ当たりのように思った。
あちこちに思考の飛ぶ忙しいほのかは、既に他のことに気が反れたようでほっとした。


「オマエの周囲は苦労するって決まってんだ、きっと・・」
「ほのかも苦労するよ!世話の焼ける人ばっかりだしさ。」
「・・・今のはオレのことを言ったのか?」
「察しはいいね、ちみ。」
「生意気な・・終いに泣きをみるぞ。」
「べーっだ!泣かせてみたら!?できるもんならね。」
「なんだと!?」
「なっちは優しいからそんなことしないもんねーっ!」
「だからわかってないと言うんだ。なめやがって・・」
「ほのかは平気だも〜ん!」


負けず嫌いだと人のことを言うが、ほのかの方が上だと間違いなくオレは思う。
可愛い顔して人を陥れやがって。オマエなんかすぐに泣かせることなどできるっての。
しないのは悲しませたいんじゃないからだ。悔しくてもどかしいからなんだよ。
なんでこんなチビでガキで何もわかってなくて図々しくて生意気で口の減らない・・

「なっちー!今日はほのかがご飯作ってあげるね!」
「あ!?なんだよ、急に・・いらねぇよ。間に合ってる。」
「今晩なっちん家に泊めて。」
「・・バカ言ってんじゃねぇっ!親にどやされるぞ!?」
「ちゃんとお母さんに許可もらったもん。お父さん出張でいないし。」
「冗談じゃねぇ!こないだもそんな事言って・・ダメだぞっ!」
「なんでなんでなんで〜!?お泊りするよう!!」
「ふざけんな!人んちをなんだと思ってんだ!?」
「ほのかの食事付き豪華別荘。」
「なわけあるか!ふざけんなっ!」
「ケチなことをお言いでないよ!」
「ケチじゃねぇっ!!」


こんなヤツの面倒をなんで見てやってるんだって・・誰か突っ込んでくれ。
皆どうかすると微笑ましげに遠巻きに見守りやがって。お節介なヤツはいないのか!
・・・いや誰もこんなことに突っ込みを入れたくはないだろうよ、そうだよな・・
オレだって答えるのが恥ずかしいぜ。オレじゃないと面倒見切れないなんてなぁ?
言えない。だからいいんだ、訊かれなくて。ただちょっとその・・知ってほしいんだよ、
オレの苦労を。こんな手の掛かるヤツにとっ掴ってるオレを笑ってほしいと思うんだ・・







こないだのウキキサの夏ほのサイドのお話でした。片思い風のなっつん(笑)
片思いじゃないんだけどね。けど夏さんだけが気が付いてないとかが楽しい。
一生懸命自分に気を引こうとして空廻るといいですよね。彼は努力家ですし!^^