SING OUT 


”ちっちゃいからって・・なんだい!”

よしよしと小さな子供にするように頭を撫でられ、ほのかは思った。
聞こえてくるのは「可愛い」というごく有り触れた誉め言葉なのだが、
ほのかの耳には少しもそのままに受け止めることができなかった。
発育が人より遅れていることは認めても、中身はちゃんと成長している。
どうしてそう単純にレッテルを貼ろうとするのか理解に苦しむ。

「可愛い」=「幼い」ではないだろうとほのかはいつも思うのだ。

そんな体験をよくするほのか。その日も同様に気分を害していた。
ふくれ面で歩いていても、通りがかりの見知らぬ人にまで

「おじょうちゃん、迷子かい?」などと声を掛けられる。
”なんなの皆して!?ほのかって見ためで損してるよ、ゼッタイ!”

以前はさほど気にしていなかったのに、このところどうも気になってしまう。
いつまでこんな思いをするのか、気にならなくなるまで待つしかないのか、
乙女の悩みは尽きない。周囲の同世代はどんどん大人になっていくように思える。

”つまんない・・こんなこと気にしてる自分が一番ツマンナイ奴だ”

眉間に皺が寄っていることに気付いたほのかは、一つ溜息を吐くとパンと両頬を叩いた。
どんなに周辺が男子の目を気にしたり、ファッションや化粧に関してあれこれ騒いでも
どこ吹く風だったほのかをこんな風にしてしまった原因には、とある人物が関与していた。

その人物はほのかの友人で、歳は兄と同学年なので3つ上の男子高校生だ。名は谷本夏。
しかしほのかは彼をそのままの名で呼ばない。遍歴を経て現在は”なっち”と呼んでいる。
演劇部の部長をやっていて、人目を引く容姿をしている。ほのかのタイプではなかったが、
”ジャニーズ系”と出会った頃呼んでいたこともあるし、目ためが良いことは認識できている。
敬愛する兄と同じく武道をやっていて、スポーツも成績も人並み以上。加えて財閥の御曹司。
そこらじゅうの女子が放っておかない。実は男子にも結構ファンが多いという、稀有な人物だ。
人当たりも良く爽やか・・・とも言われているが、ほのかは実態を知っている。

”なんでだろうね、ものすごくほのかには普通だけどなぁ?”

寧ろ評判通りの彼は気持ち悪いとまで思うほのかは周辺の評判に疑問譜だらけだった。
夏には過去に早世した妹がいたことで、ほのかの位置は自然と『妹』と看做されてきた。
当の夏とほのかにはそういう拘りはない。特にほのかは『友人』だと最初から思ってきた。
一々世間の意見と自分の思うところが噛み合わない。そのことに苛立ち、納得しかねていた。

”王子さま!とか・・信じられないよ、なっちなんて口は悪いし素直でない子供みたいなのに!”

悔しいと思うようになったのはいつからだろうか。ほのか自身も気付かない変化もあるのだ。
その変化は密かに芽生えて育ちつつある。誰もそのことを知らない。当の二人すら気付いていないのだから。
自分ではどうすることもできない現実と、まだ未経験のために名づけることのできない変化。
迷宮を彷徨うようにほのかの悩みは堂々巡りばかりで出口を見つけることがままならなかった。

面白くない気持ちが不運を呼ぶのか、ツキのないことがさらなる深みへ誘うのだろうか、
そんなすっきりしない思いで歩いていたほのかの前方に、既視感たっぷりの光景が見えた。

「谷本王子〜!ねぇお願いです〜!」
「困ったなぁ・・」
「いいじゃないですかあ〜!」

数人に取り囲まれている”王子様”を見たほのかは、せっかく平らにした眉間に再び皺を刻む。

”まただよ!あーもーなんでこんなにむかむかするんだろ!?”

数メートル手前でほのかは立ち止まった。何故か逃げたい気持ちもしたが、撤退はしたくない。
ほのかが口をきゅっと結んで佇んでいることに夏が気付いて”助かった”という表情を浮かべた。
外面を作っている夏は、どうやって当たり障り無く纏わりつく連中から逃げ出すかの算段中だった。
そこへ偶然ほのかが通りかかったので彼の方はほのかの心中を知らずに渡りに船と喜んだのだ。
ただ、何故かほのかはむすっとしたまま動かない。夏は不思議に思いながら声を掛けた。

「ほのかちゃん!迎えにきてくれたの?!」

王子様の突然の呼びかけに取り巻いていた女子たちの視線が一斉にほのかに向けられた。
ほのかはこれが初めてではないので身構えた。彼女たちの威嚇に似た視線に耐えるために。
それだけならば気後れするほのかではないが、その後に感じる安堵した表情にはうんざりさせられる。
取り巻きの中には既にほのかのことを知っている子もいたので、その他に説明してくれていた。

「あぁ、あの子が白浜くんの妹さん!?可愛いわねー!似てるわ〜!」
「親友の妹さんのことよく面倒見られてるんですよね!?谷本さま。」

彼女たちがほのかを確認したときの感想はどれも似たり寄ったりだ。
はっきりと口にはしないが、あからさまできっと誰にでも判るだろう。

”良かった〜!ちっちゃな女の子だわ。”
”どんな子かと思ってたけど心配して損しちゃった。”
”制服着てるけど・・小学生よね!?”

それらは実際に耳にしたことのある言葉で、そういった意味の表情が今回も手に取るようだ。
ほのかにはそれが悔しくてたまらないのだった。

”子供って・・3っつくらいしか離れてないよ!子供じゃないし!”
”兼一お兄ちゃんの妹っていうのは間違ってないけど、ほのかはなっちの”友達”なんだよ!?”
”皆してウットリした顔してなっちのこと眺めてるけどっ、見世物じゃないんだよなっちは。”

食って掛かったこともある。しかしあまり効果の上がった試しはなかった。

”やきもち妬いてるわ!可愛いわね〜!”
”谷本さま、嬉しいでしょ!?ほのかちゃんに慕われちゃって!”
”ホント、可愛いわね!ウチの妹は憎たらしいのに羨ましいわ!”

そんな感じでちっともほのかを”ライバル”位置に引き上げることはないのだ。
高校生たちにとって、小学生(実際は中学生だが)など対等だとは思われないのだった。

「ごめんね、約束の時間間違えたかな?」

白々しい台詞で周囲の反応を利用する夏が近づく。ほのかはそれもかなり気に食わない。
説明が面倒だし、誰も理解しないから、と彼は言っている。確かにその通りかもしれない。

”だけど・・ああ、なんでこんなに悔しいんだろう?それが一番気になるんだよ・・”

ほのかは悔しいを通り越して悲しくなった。しかし泣いたら余計に子供扱いされそうな気がする。
それは避けたいと必死で泣くまいと気合を入れた。これ以上の屈辱に耐える自信もなかった。

そんなほのかのすぐ眼の前に、いつの間にか女子たちから抜け出てきていた夏が立っていた。
小柄なほのかに屈みこみ、怪訝な表情で「どうしたんだ?気分悪いのか?」と気遣う囁き。

「・・なっち・・」

うっかり涙が零れそうになった。夏の顔は芝居ではなく、素で心配そうだったからだ。
いつもの自分の知っている夏だとわかってほっとした。ほっとしたら体が勝手に動いた。

丁度屈んでいた夏の首にほのかは飛びついて両腕を巻きつけた。
周囲のことは意識していなかった。巻きつけると同時に夏にキスをした。

事の成り行きを皆一同に見守った、というかつまりは驚いて全員が声を失ったのだ。
夏も目を丸くしていたし、取り巻きは大きくポカンと口を開けて固まっていた。
押し付けた唇がどこにヒットしたかというと、唇にジャストミートだったのは偶然だ。
ほのかは目を瞑って顔全体を押し付けたに過ぎない。引き結んだままの唇をぶつけたのだ。
なので目を開けたときの辺りの膠着状態を不思議に思った。

”あれ?!・・なんで皆して・・変な顔して固まってるんだろ?”

「・・コラっ・・びっくりするだろ?!」

少し芝居がかった下手な台詞を夏が発すると周囲のフリーズが解けた。
慌てふためく取り巻きたちに振り返り、にっこりと営業スマイルを浮かべて夏は言った。

「ほのかちゃん気分が悪いんだって。家に送り届けるからここで失礼するね!?」

何事もなかったようにそう言った夏に女子たちの顔にはほっとした表情が浮かんだ。

「そうなんですか!それじゃあ仕方ないですね、お大事に〜!」
「やだ・・勘違いしちゃった、私ったら!」「あ、私も。見間違っちゃったね!?」

どうやら後ろからだとはっきりと見えていなかったらしい。(女のカンは働いたようだが)
そんなわけないよね〜!?と口々に囁き合いながら、彼女たちは二人に手を振って行った。

にこやかにそれらに手を振り返し、一同の姿が見えないところまで行くと・・・

「ほのか!オマエなにやってんだ!?」

と、先ほどとは豹変して怖い顔の、ほのかにとっては普段の顔の夏が食ってかかった。

「・・チューしたんだよ。」
「なんでいきなりそんなことすんだっ!」
「・・したかったから。」
「なんだとお〜!?」
「口に当たったのはわざとじゃないよ。どこでも良かったんだ。」
「そっそうなのか?・・まぁそれじゃあ・・事故だな。」
「でもっ!口でも良かったんだからっ!!」
「なんで泣きそうな顔してたんだ?で、どういう流れであーなった!?」

夏はほのかの様子がおかしいので心配していたら突然のキス。わけがわからないのだ。
ほのかは説明に困った。教えて欲しいくらいなのだ、ほのかにもよくわからなかった。
夏をいつもの夏だと確かめて嬉しかったのと、子供じゃないと主張したかったのもある。
それらは間違いではないが、そうだと強く言い返すには足りないと感じたのだった。


「・・・わかんない。わかんないけど・・したかったの。」
「オマエな、したいからってしてたら痴漢じゃねぇかよ。」
「う・・ヒドイ。」
「オマエからならそれはおかしいな。スマン、言い過ぎた。」
「なっちがほのかに同じことしたら痴漢なの?」
「はあっ!?そっそりゃオマエ・・そうだな;オレのは犯罪だろうな。」
「ほのかからだといいのはどうして?」
「・・女にされるのを嫌がる男はいねぇだろ、普通。」
「なっちがしたって誰も嫌がらないんじゃない?さっきの子達なんておお喜びだよ。」
「そんなことないだろ!?・・オレがオマエにしたんだったら・・マズイだろうが。」
「ほのかが子供だから?ちっちゃい子にしたら犯罪ってこと?」
「オマエは子供じゃねぇから・・余計マズイんだ!」
「!?・・・なっちはほのかが子供じゃないって・・思ってくれてるの・・?」
「ちょっ・・なんで泣く!?」
「うっうっ・・泣けちゃったよ、クヤシイ!なっちのばかやろお・・!」
「なんだと!?なんなんだよ、泣いたり怒ったり・・わけわからんことしたり!」

ほのかは突然立ち止まった。そして大きく息を吸い込むと、夏に向かって叫んだ。

「したかったって言ったでしょっ!?好きなのっ!なっちのことがすきなんだよーーーーっ!」


ほのかはあらん限りに振り絞るような大声で叫んだ。夕刻の街外れで、驚き足を止める歩行者もいた。
呆けたように立ち竦んだ夏は数秒後に我に返ると、涙で洪水を起こしているほのかを掬い上げた。
ずっと以前に路上で出会って、怪我をしたほのかを担いで帰ったときのように逃げるように走った。
夏に担がれたほのかは「相変わらず乱暴だ〜!」と泣き続けながらも文句を呟いていた。
担ぎ上げた時から夏は黙ったままで、ほのかに見えない顔は夕焼けと同じように赤く染まっていた。


自宅へと連れ帰ってほのかにお茶を淹れてやると、夏は向かい側に腰を下ろした。
ほのかはどうにか泣き止んでいたが、お茶には手を付けようともせずに黙っていた。
普段はうるさいくらい賑やかなほのかだから、その沈黙が夏にとって耳に痛い。

「・・飲まないのか?」と声を掛けてもほのかは返事すらしない。困惑で夏も黙り込んだ。
慌てて連れて帰ってきた夏だが、告白を無視したとも逃げたとも感じたのかもしれない。
しかしどう返事をすればいいのか夏にはさっぱりわからないので黙るしかなかった。
どうでもいい相手からなら告白など数え切れないほどされてきているが、それとは違う。
決まり文句で断る以外の選択をしたことのない夏だった。つまり・・初めてだったのだ。
初めて、というのはこれまで感じたことのない感情に支配されたということだ。
迷惑だとか、面倒だとかのマイナスのイメージはごく一般男子にすれば贅沢な話だが、
夏にとってはそれらが全てで、嬉しいなどのプラスの感覚を味わったことがなかった。
しかも相手は彼にとって不可思議な存在で、単純な好きだとか嫌いの範疇で捉えたこともない。
気が付けば一緒にいて、生活圏にはまりこんで、無視できなくなっていて。
妹とはかなり違うが、面倒を見ることに慣れて、憎らしいのに何故か突き放せなくて。
つまりかなり夏の特別な存在だ。友人だと言い張るほのかだが、それに反論する主張もない。
ほのかは”ほのか”以外に何と名付けていいかわからないというのが正直なところだった。

「・・・オレにどうしろって・・・んだ?」
「その・・急いで連れて帰ったのはだな、あんまり大声で泣くから・・」

おそるおそる口を開いたがほのかは黙ったままで夏は困惑した。が、唐突にほのかは話し始めた。

「・・・ほのか苦手なんだけどちょっと考えてみた。」
「!?あ・ああ。」
「ほのかね、子供みたいに見えても子供じゃないってわかってほしかったみたい。」
「・・・あー・・他の奴等が言うこと気にしてたのか?」
「前は気にならなかったんだけど、なんだか・・気になるようになって・・」
「・・・へぇ・・」
「なっちもそうなのかなって思うと余計悔しいって思った。」
「・・・見ためほどじゃないとは思ってる。」
「ウン。嬉しかった。きっとほのかね、なっちとおんなじがいいって思うんだ。」
「同じって・・」
「同い年だったらな・・もっと・・見た目子供じゃなくなりたい。」
「・・そんなことならあと2、3年くらいすりゃ解決するんじゃないか?」
「!?そうかな!?」
「いつまでも今のままって方が無いだろ?誰でも変わるもんだ、オレも、オマエも。」
「なっちは待っててよ!ほのかガンバッて追いつくから!」
「追いつくって・・そんでどうするんだ?」
「なっちに面倒みてもらってる小さな子じゃなくなりたいんだ。」
「対等になりたいってことか。」
「ほのかはなっちが好きだから一緒にいるんだもん。お世話してほしいからじゃない。」
「オレはそう思ってる。それじゃダメなのか?」
「ありがとう・・!」
「だからなんでそこで泣く!?オマエがオレの世話してるんだって言っていいから泣くな。」
「皆にそう言っていいの?」
「そう言っとけ。オレも言ってやるよ。」
「ふえ・・なっち・・なっちって・・いいヤツだよね〜〜〜〜っ!!」
「泣くなと言ってるんだ!おかしいぞ、オマエ最近!」
「ほのかもそう思う。なんかおかしいの。勝手に胸が痛くなったり焦ったり・・涙が出たり。」
「・・・・そうなのか。」
「ウン・・なっちが他の人に囲まれて違う顔してるのを見たりするのもイヤ。」
「それは・・オマエだけだからな、オレが気を抜いて素でいられるのって・・」
「お兄ちゃんは?新白の人達も?」
「あいつ等には”ハーミット”の顔しか見せてない。」
「ほのかだけ?・・どうしてかなぁ・・?」
「わからん。・・けどそうなんだから仕方ないだろ。」

”それに、こんな風に自分でも思ってもみなかったような本音を吐いてしまうのもそうだ・・”

ほのかは幾分明るい本来の表情を取り戻してきた。そのことに体が軽くなる夏だった。

「ちょっと元気出てきた!なっちはやっぱりもうちょっと待っててね!」
「や、その”待て”ってのがよくわからん。何を待てと言ってるんだ?」
「ほのかが子供に見えなくなるまでってこと。」
「オマエが・・?」
「誰でも変わるって言ったじゃないか、さっき。」
「そう・・だな。想像したことなかったもんで;」
「そしたら悔しいのがなくなって、なっちと並んでも”妹”じゃなくなるんだ。」
「・・・・妹・・とは紹介してないけどな。」
「皆そう言うんだよ!あ、でも大きくなったら相手にされなくなるかもって言った人もいた。」
「誰だ?変なこと言うヤツだな。」
「会長さん。連合の。」
「なにっ!?アイツに近づくなと言ってんのにオマエは〜!」
「なっちがほのかを構うのは”よおじょしゅみ”?だからかもって。」
「今すぐその記憶を抹消しろ!アイツは明日こそはぶっ殺す!」
「よおじょ・・じゃなかった?よくわかんなかったんだ。」
「いいから忘れろ。それに万が一他の誰かにそんなこと言われたら否定しとけ。」
「ウン。大きくなっても一緒にいていいんでしょ!?ダメなことないよね?」
「あと数年か・・わかんねぇな。オレがここに留まってるのも予定外だったから。」
「っ!?イヤだ!またどっか行っちゃう気!?」
「先のことなんて予想通りになるとは限らん。」
「なっち・・ヤダ・・ヤダ、いやだぁ・・・!」
「前に言ったときより聞き分け悪くなってるじゃねぇか。」
「あのときは後悔したの!とめられなかったって。だから聞き分けないよ!絶対。」
「・・・・黙ってどこにも行かねぇ。だからそれで勘弁しろ。」
「行っちゃう気なんだ!ほのかもう・・怒っちゃうよ!許さないんだから。」
「連れてけないことだって・・あるだろ?」
「待つよ。だけど・・寂しい。一緒にいたいよう!」
「・・・会えるんじゃねぇ?オマエがオレを忘れないならな。」
「忘れるわけないでしょ!約束して!ほのかのこと忘れないで戻って!」
「・・・ああ。子供に見えなくなってたら・・驚くかな。」
「驚けばいいよ!ものすごく綺麗になってやるからね〜!」
「ま、今んところはここにいるけどな。」
「はへ?!・・なんだって〜!?人をこんなに心配させておいて!」
「わからんって言ったんだよ、変わることもあるって。」
「そうか・・ぐす・・んもお、なんで涙なんか出るんだろ!」
「さぁな。けど無理にわからなくてもいいさ。」
「ウン・・なっちが好きなんだってことだけはわかったからいいや。」
「!?・・元の質問に戻っちまった。オレはどう返事すりゃいいんだ?!」
「え?返事って?」
「・・・いらないのか?」
「??・・なっちのこと好きだって思ったけど、なっちに何もして欲しいわけじゃないよ?」
「そ・・うなのか。」
「今までどおり一緒に遊ぼうよ!」
「わ、わかった。」

ものすごく悩んでいた夏は肩透かしを食らった。へなりと腰元から力が抜ける。
ほのかは今までに間違いなくそうした経験はないと夏は確信した。まるきりわかってない。
しかしそれはそれでほのからしい。驚いたのはそのことにがっかりしている自分がいたことだ。
自分にはまだ中学生とは思えないほど幼いほのかと男女の付き合いなど想像できなかった。
それなのに、好きだと言われて当惑して本気で思い悩んだ。かなりその気があったということか。
自分を縛るものなど厄介なだけだと思っていた。それなのに何故ほのかにそれを望むような・・?

ほのかの気付いたことは夏にとっても気付きだった。あと数年と自分は言った。
それは漠然としていたが、成長したほのかも傍にいると期待しての言葉だったのだろうか。
夏は改めて眼の前のほのかを見た。泣いて紅くなった目元でにこりと笑顔を向けられ胸が痛む。
いじらしいと思う。可愛いとも。けれどそれだけじゃない。この感情は一体何なのか?

「なっち、お腹空いた!オヤツにしようよ。」とほのかはすっかり元気な声だ。
「お、おう・・何食いたいんだ?」返事が少し上滑ったが気付かれることはなかった。

ほのかが一つだけ新たに知ったことと同様に、夏も一つ気付いたことがあった。

”オレは・・ほのかにここにいてほしいんだ。ずっと・・できるかぎりこの笑顔を見ていたい・・!”

二人がほんの少し一歩先へと踏み出したのは今日のこのときだった。







・・まだるっこしいのを書きたくなって突発してしまいました。