She is my・・? 


二人で出かけた。今回は映画。遠出にも関わらずクラスの女子二人に出会った。
例のごとく、「白浜の妹」と紹介する。・・・嘘でなく事実だしな。
ほのかは毎回「お兄ちゃんのともだちじゃなくてほのかの!」と言い返す。
見た目が子供なおかげで、皆一様に「まー!カワイイね!?」となる。

本人はアイスが食いたいと並んでる途中。ほのかの順番がきて気がそれる。
受け取ったアイスに夢中で来る途中でつまづく。仕方がないので受け止める。
小柄なので抱き上げた。”カワイイ”を連発されたせいか機嫌はいいようだ。
バイバイ!と手を振ってにこやかに別れた。オレは休みに営業したみたいな気分だ。
出歩いていれば仕方のないことだが、学校で取り繕ってるオレに知人は厄介なだけ。
ほのかが今のところ子供に見えるせいで説明にはさほど困らないが・・この先はどうだろう?
ちっとも成長していないように錯覚しそうな邪気のない笑顔に、思考はいつも途切れる。


”待てよ・・この先って・・なんだ? オレは何を心配してる?”


食ってしまうと腕にぴたりとくっつく。歩きにくいが仕方がない。
フラフラとよく迷子になるからだ。この点でもお子様と大差ない。
話す内容も他愛無い。映画のキャラの一つの巨大なぬいぐるみが買いたいとか。
オレにまで薦めてくるので閉口する。要らないに決まってるだろうが!

「そんなデカイのどこに置くんだ!?」
「抱いて寝ればいいじゃん。ぎゅう〜って!」

何が悲しくてそんなもの抱いて寝るんだ。オレは当然鼻であしらった。
すると”また”「じゃあほのかにする!?」なんて言って抱きついてくる。
何度言っても聞き分けない。そのうえすぐに「ほのかと寝ようよ、お泊りする!」とくる。
お互い世間ではもうそんなことが許されない年齢だ。毎回げっそりしながらたしなめる。

「男の部屋にみだりに泊まるとか言うんじゃない。」
「なっつんのとこしか、いくあてないよ?」
「・・その言い方もちょっとイカンと思うぞ・・?」

何度目だろう、こんなやり取り。ほのかはオレを”気のいい兄ちゃん”みたいに思ってる。
もちろんオレはそんなんじゃねぇし、人前だけ優等生を装ってることをコイツは知ってる。
誰よりもオレの正体を間近で見ている一人だ。なのにほのかにオレに対する怯えはまるでない。
あくまでも”ともだち”と言い張る。ともだちだから、何をしてもいいってことなのだろうか。

そんなことはないだろう?ともだちだろうがなんだろうが”親しき仲にも礼儀あり”だ。
どんなに中味が子供だろうが、オレはもう子供じゃないし、ほのかだって・・女なんだから。
出るのは溜息ばかりだ。抱いて寝ろとかしゃあしゃあと言えるあたり、子供の証拠だと思う。
「ちぇ〜っ!」と口を尖らせて膨れる。オレがすんなり泊めると言うわけないであろうに。


”むかつく!いっそ泊まってけと言ってやろうか!?・・いやいや・・・言わないけどな”


僅かなやましい好奇心の向こうにほのかの跳ねた髪が見えた。クセっ毛の中にひょいと一本。
目立つから気になった。つい、手を伸ばした。ぐしゃぐしゃと撫でて混ぜ込んでしまう。

「わーっ!?何すんの、なっつん!?」
「・・・他のヤツにこういうことさせるなよ?」
「こんなことすんのなっつんだけだよ!」

何度か聞いたことのある台詞だ。そして何度聞いても・・・むずむずする。

”なっつんだいすき!”
”なっつんだけだよ?”
”ねぇねぇ、なっつん”
”遊ぼうよ!?” ”一緒に行こうよ!” ”一緒がいい”

”・・・じゃあほのかと寝る?”

・・・ヤバ・・これはさっきの台詞。脚色が入ったかもしれない・・;
とにかくほのかの言葉は大抵そんなだ。もしかしてわざとか!?ってくらいに・・

オレをいたたまれない気持ちにさせる いつもいつも・・・



「・・・・カワイイなぁ・・」


不意に口を突いて出た。言ったオレが一番驚いた。”聞かれたか?!”と猛烈に焦る。
ほのかは聞いてなかったようだ。ほっとしたら汗が出た。なんてこと言うんだ、オレ。
その後も全くのスルーだったから忘れて安心していたら、翌日ほのかのバカ兄、兼一に

「昨日デートだったんだってねー?」とにやついた顔で言われた。
「違う、見たい映画に付き合っただけだ。」
「へえ〜!? そんで昨日”カワイイ”って言ったんだって?!」
「なっ!!??」

「・・やすやすと手に入ると思わないでよね?」などと言い捨てて行きやがった。
釘を刺したいのか応援したいのかどっちだ、その笑顔は!?と心中で突っ込んだ。
しかし今回はそれを兼一にぶつけることはしなかった。というかできなかった。
顔から火が出るほどの恥ずかしさで身動き取れない状態だったからだ。

”アイツ・・聞こえてたのか・・!聞こえなかったフリしたんだな!?”

どうしてくれよう、このいたたまれなさ。たまに見せる大人な対応。
そう、オレだけが知ってるアイツの無邪気でない部分だ。普段は隠れて誰も気付かない。
何もかもお見通しだよ、と微笑む顔が思い浮かぶ。そうするとむちゃくちゃ腹が立つ。
アイツはオレの・・・まだなんだかわからない関係だが・・・なんだといわれても困る。
いやそれより気に食わないのは、こんな”負けたような”気分にさせられることだ。

そうだよ、言ったよ!思わず呟いてた。思ってたら悪いかよ!?
もしそんなこと口にしたらアイツは勝ち誇ったように笑うだろう。だから言わない。
ただ、ほんの少し・・零れたときはスルーしておいてほしい。今度みたいに。

「・・・誰にも言うなって言っておかないとな・・」

”そんなこと言うな” ・・・オレのよく言う台詞だ。
”誰にもさせるな”(オレ以外にってことなのか?)
”言うこと聞け!”(兄きばっかでなく、ということだ)
”そういうことするなよ”(オレだけにしろ、ともいえる)

増えていくオレの・・アイツを独占したがってる言葉。・・ヤバイな・・


けど、しょうがないだろ、アイツ・・ほのかだって悪いんだ。
オレだけだとか、言うだろう?!こんなこと他の人にしないよって。
どんどんエスカレートしていく。そうだ、極めつけの台詞があった。

”ほのか、なっつんのお嫁になる!”


オマエから言い出したんだ、オレのものになるって・・・そういう意味だろ?!
いつか、いつかだが・・・いったいいつだよ、それ?(真面目に考えそうになる)
そしてそんなときだけ、オレは言わない。”そういうことを言うな”とは。

アイツの顔を次に見たら何か文句言ってやりたい。
”オレは困ってんだ。世話ばかりかけやがって”ってか?
”なんでもかんでも兄きにしゃべるな!(手が出し辛くなる?!)”

あぁ、だめだ・・・ろくなこと言いそうにない。どれも却下だ。
どうしたらアイツにこの悔しさといたたまれなさを味あわせてやれるんだ?
ほのかだってたまにはこんな想いを感じるべきじゃないか?!オレだけでなく。
しかしどうすればいいのか、オレには答えが思いつかない。

ほのかの提案する全てに、”YES” で答えてみるとか・・

”いやいやいや・・・・有り得ないだろ!?” 
”しっかりしろ、まだアイツはお子様なんだ。何をする気なんだよ!”


ほのかの顔を実際に見てしまったら、きっと言葉はいつもと代わり映えしない。
しかしもしもマズイことを口走ったらどうするか、対応策が必要になってきた。
そんなときはとりあえず・・・”誰にも言うな”・・・と言っておくか?


  ” Who is she ? ・・・ She is my ・・・・?”







さぶえさんへ謹んで進呈しまーす!(^^v