聖夜
「・・イブになんだと?」
「だから二人で過ごすの!」
「却下。」
「約束やぶるの?オセロ負けたのに!」
「夜にここへ来るつもりなのか?親は何も言わないのか。」
「ちゃんと許可もらったよ。」
「どういう親なんだよ・・・」
何が悲しくて子供のお守りをしてるのか。
我が物顔でウチへ入り浸っているコイツ。
うっかりとオセロ勝負なんぞしたばかりに・・・
外出を強請られれば腕を組んでくるし、
ウチに至ってはまるで母親きどりで世話を焼きたがる。
今度は恋人ごっこなのか?うんざりだ・・・
なんでこんなガキに振り回されてるんだ。
ちょっと死んだ妹に似てるからって俺も大概甘い。
「ねえ、いいでしょ!?」
「イブに何すんだよ?」
「うーんとね、ケーキ食べたりご馳走食べたり・・・」
「そんなことは自分チでしろ。俺はご免だ。」
「イブは好きな人と一緒に過ごすものなの。」
「ガキが何言ってる!おまえと俺は恋人でもなんでもないだろうが!」
「!?ひどっ!!」
まさかの反応だ。ほのかはいきなり泣き出した。
「・・おい、何泣いて・・」
「なっつんの馬鹿っ!どニブ!超巨大ウソツキーっ!!!」
ほのかは大声で叫ぶと家を飛び出した。
もう日も暮れていたので放ってもおけず、後を追う。
「ついてこないでよ!」
すぐに追いつき少しの間隔を置いて後ろに居る俺に背を向けたまま、
「送ってくれなくていい!」と言うが足は止まっている。
「・・・こっちに用があるだけだ。」
「じゃあ、先に行ってよ。」
くるりとこちらを向くと睨むように俺を見た。
「もう暗いだろ。」
「心配してくれなくてもいいじょ!」
「この辺は人通りが少ないからダメだ。」
「・・・好きな人って言ったの・・・聞こえなかったの?」
また泣く!いったいどうしたっていうんだ、調子が狂う。
そう言えば「好きな人と一緒に・・」と言っていたかと思い出す。
「・・・おまえ・・」
「ほのかもう来ない。なっつん、さよならっ!」
「!?」
咄嗟に腕を掴んでしまった。相変わらず細い。力加減がわからない。
「やあっ!離して!」
まるで駄々っ子じゃないかと思いつつなだめようとしてしまう。
「わかった、イブもウチに来い!」
じたばたするほのかに大声でそう言った。
涙を溜めたまま俺に「ホント?」と訊いてくる。
「ああ。」大人しくなったのでほっとして腕を緩めた。
「それって勝負に負けたから・・・?」不安そうに揺れる瞳にたじろぐ。
「ああ。勝ち逃げは許さん。」
ほのかはむっとして頬を脹らませる。やっぱり子供だ。
「それに・・・」
「イブに過ごすやつなんぞ他にいないしな。」
「でもほのかは恋人じゃないんでしょ?」
「う・」
「どっちなのお?!?」
「恋人って、おまえにはまだ早いだろ!」
「じゃあいつ恋人になれるの?」
「知るかよ!」
「もう、男らしくないじょ!なっつん!!」
面倒くさくなって抱き寄せた。どうしろって言うんだ。
柔らかい髪に顔を埋めて華奢な身体を包み込んでみる。
小さい。初めて会ったときからそう変わってない。
ただ、とても甘い匂いがして抱き心地は思ったより良かった。
ほのかは緊張して身体を強張らせ、目を見開いていた。
俺に手を廻す余裕もなく、少し震えているのがわかる。
「ほら、まだ早いだろうが・・・」耳元で言ってやる。
「し、失礼な・・・平気だもん。」声はきっちり震えてる。
「ほう・・そうか?」
顎を持ち上げて顔を近づけると面白いほど慌てている。
真赤な顔にさっきまでの涙で潤んだ瞳が光って見えた。
可愛いと思う。このまま本当に唇を重ねてしまおうかと迷ってしまった。
いつかこいつが大人になるのを見たいと思う自分がいた。
見つめていたらほのかが「あっ」と小さな声をたてた。
視線の先を追うと雪がちらほらと降って来ていた。
抱いていた身体を解放すると「雪だな・・・」と空を眺めて言った。
「なっつん、あの・・・」ほっとしたようなほのかが俺に手を伸ばして来る。
「何だ?」手を握リ返してやるとまた真赤に染まる。
「なっつん、あの、そのイブは怖がったりしないから!だから・・・」
「無理すんな。ガキに手を出したりしないさ。」
「じゃ、じゃあさっきのは?!」
「ちょっと反応を見てみただけだ。」
「む、なっつん・・・ひょっとして慣れてるの?!」
ぷっと噴出してしまった。こいつは大人なんだか子供なんだか・・・
「もう〜、笑うな!!なんだい、大人ぶって!」
「いつまでもつんだ、おまえの好きなんて。」
「来年もその次もずっと好きだもん!」
「じゃあ来年は誘惑されてみるか。」
「わかった!なっつん、覚悟しててね?めろめろにしちゃうんだから!」
もうとっくに誘惑されていたのかもしれないと思うと情けなくもある。
誘惑して欲しい、今も、もっと大人になっても。
雪がふわふわと舞い踊る夜、ほのかは約束だと言い出した。
可愛い恋人候補は意気込んでいて、俺は笑いをこらえてた。
約束が誓いになり、二人の未来が重なることを心のどこかで願いながら
「来年のクリスマスまでに恋人になるんだから!なっつんを誘惑するのだ!」
「そう簡単に誘惑されないぞ。」牽制と自分に対しての戒めだ。
そして聖夜にはもう一度確かめようか。
約束がそう遠い未来でないことを。
気を取り直したほのかの小さな手を包んだまま家まで送っていった。
「じゃあな、風邪引くなよ。」
「なっつんこそ、約束やぶらないでよ?!そだ、指きりしよ!」
「そんなことしなくても約束は守る。」
「わかった。それとね・・・もひとつお願い。」
「何だよ。」
別れ際に俺に駆けより、ぐいと引っ張られて耳打った言葉は
「・・・今度はちゃんとね、恋人のキスしてね・・・」
返事に詰まっていると「おやすみっ!」と顔を赤くして家に入って行った。
「今度って・・・イブにか?!」見送って後呟いてしまった。
「どうなっても知らんぞ・・・」振り仰いだ空に舞う雪の粉。
まだまだ子供だろって自分に言い聞かせるのは結構骨が折れるんだぞ。
聖夜はもうすぐ。あどけない顔と切なげな顔を思い浮かべて溜息を吐いた。
どっちに転んでも逃げられそうにない。
長い!長すぎていやんなってしまいました。
こいつら思うように動いてくれないんですよ〜!!なんだよ、もう!
いちゃいちゃさせる一歩手前みたいな感じを狙ってですね・・・挫折;(><)
うんもうこれはこれで甘いからいいやv ごめんなさい!(開き直ってるし)