Second Kiss  


長いこと期待してたのだよ。どんなのかなってずっと。
いつどこでとか女の子はわりとシチュエイション気にするけど
ほのかは気にしない方だ。それより相手が重要だと思ってた。

実はファーストキスはお父さんらしい。覚えていないけども。
お母さんに聞いた話で、次はお母さん。でもってお兄ちゃん。
どれも物心着く前だからどんなんだったか思い出せないんだ。

してみたいなって思ったのはええっと・・中学2年くらい?
その頃知り合った友達に強請ってみた。一度や二度じゃなく何度も。
一度もしてくれなかった。嫌な顔されてべしっと拳を落とされたり。
好奇心でしちゃいけないんだとお母さんじゃないのにお説教された。
とにかく中学のうちはダメだと強く言うから諦めてそのまま忘れた。
思い出したのは高校生になってから。やっぱり2年目だったと思う。
劇でキスシーンがあると言うと自分だって演劇部長だったくせして
怖い顔で睨まれた。練習したいと言ってみると更に目を三角にして怒った。

渋々諦めた。なんだかそんなのばっかりでさすがに不満が募ってきた。
ならいつならいいのかと尋ねたら、本当にしたくなったら、ってことだ。
経験はあるのかということもきいてみた。ちゃんと答えてくれなかったよ。
でもしたいと思ったことはあるって言った。それがなんかショックだった。
誰に?ってものすごく質問したかった。だけど・・言葉にならなかった。
怖くなったから。したいって思うのはそのひとのこと好きなんでしょ!?
それも特別に。ものすごく胸の辺りが重苦しくて体も重たく感じられた。

ものすごく好き?そのひとのこと。いつからだろう?まさかずっと前から?
誰にどんな風にするの?!好きって告白しないの?ねぇ、ねぇ教えてよ!?

考えるより前に動いてしまう自分なのにききたいことばっかり増えて、
一つだってきけやしなかった。口惜しいような切ないっていうのかなんか
わかんないの。長いこと一緒にいたのに気付けなかった。友達なのに。

どんなのかなって思ってた。それまでは。いつか自分もするのかなって。
どこでだろうとどんなだろうと構わない。ただ大好きな人とするのがいい。
世界中の誰よりも好きな人ができたら、きっとしたいって思うに違いない。
そんな風に思い込んでいた。それなのにねぇ・・したくなくなったんだよ。
誰ともそんなことしたくない。大好きな人なんてどこにいるっていうの。
知らない人なんてとんでもない。好きでもないのにできないよ、ほのかは。
皆は違うの?一緒じゃないの?なっちは・・・そうじゃないのかなぁ!?

楽しいことばっかりだと思ってた未来がひっくり返ったみたいだった。
もしかしたらほのかはこれからも友達しかいなくてお母さんにもなれない?
付き合うことは想像できなかったけど、いつかなりたいなって憧れてた。
お母さんが大好きだったから。お父さんも、そしてお兄ちゃんも大好き。
けど、お母さんにはお父さんがいるしお兄ちゃんにも・・好きな人ができた。
寂しくって泣いた。慰めて欲しい人もいない。こんなになってしまった原因は
なんだったろうと考えてたら、眼の前にいた。なっちだ。むかむかしたよ。

ほのかは八つ当たりした。どうにでもなれって気分で嘘吐いた。
違うのに。なっちはなんにも悪くないって分かってるのに。ヒドイよね。

「どうしたんだよ、最近元気ないな。」
「・・・ねぇなっちぃ・・キスして。」
「・・・久しぶりに聞いたな、それ。」
「今度は違うよ。したいの、本当に。」

なっちはほのかをじっと見た。嘘か本当か確かめるように怖いくらい真直ぐ。
ぐらぐらした。嘘だってわかったらなっちはほのかを軽蔑するだろうか?
思わずなっちの服の袖を掴んでた。引っ張るようにしたのは無意識だった。
だけどそれは催促してると思われたかもしれない。気付くと俯いてた顔を
持ち上げられていて慌てた。ものすごく近いなっちの顔がもっと近付いて
どうしようって焦って目を閉じた。ぎゅうっと思い切り。ほのかはバカだ。
したいひととじゃなきゃできないと思ってた。なのに・・どうして・・

真っ暗な世界にどれくらいいたのかな。わからないけど何もされなかった。
代りに優しく抱き寄せられてた。あったかくてほっとしたら涙が零れた。
ゆっくりと目を開けたら、なっちはとても困ったような顔をして見てた。

「・・どうしてしてくれないの?」
「嘘なのか?どっちだ?ほのか。」
「うそ・・だけど、うそじゃ・・ない。たぶん・・」
「質問を変える。何故したいと思ったんだ?」
「・・なっちにしたい人がいるってきいてから・・」
「いつの話だ!?随分前じゃねぇかよ、それって。」
「なんでほのかじゃないのかなって腹が立って。ほのかは誰としたいのかわかんなくて」
「・・・・」
「なっちは友達なのに。誰が好きだかきけなくってなんだか悲しくってっ・・!」
「泣くな、教えるから。あのとき言ったはずだぞ、俺もしたいヤツとしかしないって。」
「・・そうだっけ・・?!えっと・・ほのかのする劇の話をしたんだよね!?」
「そうだ。だからお前としかしない。お前がしたくなるまで待つって・・」
「うそだっ!!そんなこと言ってない!なっちは誰か他に好きな人がいるって言った!」
「誤解だ!今みたいにストレートに言わなかったかしれんが・・」
「ウソツキ!ほのかだって好きな人じゃないとイヤだ!なっちじゃなきゃダメなのに!」

!?あ・あれ?・・・ほのか・・・なっちのこと・・好きだった・・っけ?!

自分で言った言葉に驚いたり、気が付くなんておかしい?お間抜けかな?!
それでもしょうがないんだよ、びっくりしたんだからさ。わかってなかった。
真ん丸い目になってたと思う。びっくりしたのは気付いたことだけじゃなくて
キスしてるとしか思えなくて。今、なっちとほのかが。ねぇ、これってキスだよね?
塞がれたとこは確かに唇で、なんだかふにゃってなってヘン。柔らかくつぶれてる。
開いたままだった目が確かめるように瞬くとまた涙がぽろっと落ちたようだった。
だけどそんなことどうでもいい。それよりどうするの?息が・・苦しいんだよ!
困ってしまってなっちの胸を押したらしい。それでふっと離れて空気を吸い込めた。

「ヤダっ!ばかっ!」
「ああ、そうだよ。」
「好きな人とじゃないとっダメ・なんだからねえ!?」
「悪かった。好きだからしたんだ。わかったのか?!」
「わかんないいいいっ!!」
「ちょっ・えっ・・結局怒るのか!?泣くなって、頼むから。」

色々と込み上げて確かに怒ってもいて、憎たらしいなっちを拳で叩いた。
けどちっとも力が入らなくってなっちがまた無駄に硬いから手の方が痛い。
それでも負けずにぽかぽか殴ってやったのだ。いいんだよ、これくらいは。
ほのかの痛かった想いに比べたらもっと痛い想いを味あわせてやりたいくらい。
卑怯なことに腕を掴まれて叩けなくなった。睨んで離せと命令したのに

「離すか」って・・・おかしいでしょ?てんでわかってないんだから、なっちは。

「すき・・すきだよう!ばかばかどうしてくれんの!?ほのか・・しちゃったよ!」
「いいんだろ!?好きなら。なんで怒るんだよ!そりゃまぁ・・誤解させたが・・」
「・・・・ほのかふぁーすときすどころか何回目かわかんないんだけど・・・」
「はあっ!?どこのどいつとしたんだよっ!?いつお前がっ・・」
「お父さんとお母さんとお兄ちゃんと何回か・・覚えてないけども・・」
「兼一かよ!殴っていいか、アイツ。けどそんなら家族だけなんだな?!」
「なぐったらダメ。お兄ちゃんも大好きだったからいいんだい!」
「最低半殺しにはしとくから許せ。」
「だめえっ!お兄ちゃんをいじめるなあっ!!」

むかむかしてキライって言いたかったんだけどね、もお・・なんでまたするの?
体が痛いよ、なっちい・・そんなにぎゅうぎゅう抱っこしなくっても逃げないし。
苦しいんだよ、息ができなくてって思ったら離れた。さっきもだけどよくわかるね。

「二番目に甘んじてやるけどな、もう俺でラストだ。いいか、いいな!?」
「・・もうしないの?え、やだ。もっとしてよ!」
「ちっ・・アホゥ!俺とだけってことだよ。こっから先は!」
「あぁ・・そうか。うん・・」
「えらく素直に頷いたな;おい、ほのか。わかってんのか?」
「なっちのほかにしたいひといないからそんでいい。」
「!?・・お前なぁ・・色々堪えたってのに・・!」
「?・・いろいろって?」
「色々だよ!ばかめっ!」
「なっちってホント素直じゃないよね!ばかばか!言い返してやる!」
「長かったぜ・・・ったく鈍いったって限度ってものを知らんのか!」
「さっきからどうしてほのか怒られてるのさ!怒ってるのはこっちだい!」
「怒ってねぇ!好きなだけ怒っとけ。殴ってもいいが泣くのはちょっとガマンしろ。」
「泣くのはイヤなの?わがままさんだねぇ!ちみは。」
「俺はわがままだし勝手だし口悪いしどうしようもないヤツだよ、けどな!」
「意外にわかってたんだね、感心。」
「うっせぇ!けどほかの誰よりお前のこと・・くそ、外すと言い辛ぇな・・」
「いいよ、言わなくても。わかった。なっちはほのかのこと大好きなのだね。」
「おう・・わかってんなら・・いい。」
「エラそう。わかったからにはこれからもーっとワガママ言おうっと。」
「・・・・まぁいいだろ。」
「あれ?いやじゃないのだね。うーんと困らせちゃうかもだよ?」
「やってみれば?」
「ツマンナイなあ・・なっちって抓っても痛がらないしなぁ・・噛んでも」
「俺も噛むかもしれんから、言っとく。」
「ええっ!?ヤダよ、痛いことしないで!」
「・・・加減はする。」
「する気だよ、このひと。やだやだ怖い。」
「ようやっと危機感を覚えてくれたか・・」
「痛いのも怖いのもイヤだからね!?わかった!?」
「わかった!ちっ・・」
「舌打ちしたよ・・信じらんない!」

「ほのか」
「ん?なぁに?」

なっちはしたがりさんでもあったんだね。ぺしっとほっぺたも叩いてやった。
だって何度もするんだもん。おかしくなっちゃうよ。えっちなの、なんだか。
逃げないって言ったけど考え中。あんまりなことされたら逃げるよって・・
言うべき?掴まえられそうだから言わない方がいい?別の悩みができたのに
不思議だ。胸の痛みさえ辛くない。なんなんだろう、コレって・・幸せ・・?







可哀想に兼一君は理不尽に3発くらいは殴られそうですv(理不尽)