「寒いから」　


「雪に喜ぶのは犬か子供だろ？」
「えーーっ？なんか言ったぁ！？」

初雪だと目を輝かせ飛び出しやがった。上着も忘れて。
庭に出ておおはしゃぎだ。いったい幾つになったんだよ。
オレに早く来いと手を振って、まぁ上着なくても良さそうだ。
追いかけようとしたオレも上着は止めにしてマフラーを引っ掛けた。
まだ降り始めて間もないのに地面のわずかばかりをかき集めてる。
まさか雪だるま作るとか言い出すんじゃないだろうな、と怪しんだ。

「遅いよ、なっつん。若者でしょうが！」
「何やってんだよ、人んちの庭掘るつもりか！？」
「違うよ、試したんだよ、積もるかなと思って。」
「これは・・どうかな、降り続いたら夜には少し積もるかもな。」
「ホント！？信じるよ、なっつん。」
「オレは気象予報士の免許は持ってねぇ。」
「そんなものなくたって、こんなのカンでしょ！？」
「オマエはどうなんだよ、カンでは積もりそうかよ。」
「んーー・・・積もる！！」

ほのかは眉間に皺を寄せ、念じるような仕草をしてそう言った。
にっと笑って「積もるよ、きっと！」と天に向かって両手を伸ばした。
おそらくカンじゃなくて、そうなって欲しいという希望に違いない。
口開けて舌を出してやがるが、子供っていうかなんというか・・・

「腹壊すぞ、んなもん食ったら。」
「ちょびっとくらいどうってことないよ。」
「それよりオマエ寒くないか？」
「ぜーんぜん、平気さーっ！」

あかんべしてオレから走って逃げる。追いかけろってのか？
遠くまで逃げたつもりのほのかが「おーい」と手を振った後くしゃみした。

「やれやれ・・・やっぱ上着要ったか。」

マフラーを貸してやろうかと追いかけてみると、やはり逃げる。
声立てて笑いながら、「寒くなんかないよーっ！」とくるくる回って空に叫ぶ。

「そうかよ、オレは寒いから帰ってなんか飲むぞ。」
「えーーーっ！？なんだい、年寄りかね、ちみは。」
「じゃあせめてこれ巻いとけ。貸してやるから。」

オレの首のを持ち上げて示すと、首を傾げて思案しているようだ。
しばらく待っているとぱたぱたとオレに向かって走ってきやがった。

「ゴーーーール！ほのかいっちばーん！！白浜ほのか一着でゴールでーす。」
「誰と競ってんだよ？」
「えっと・・・世界有数の選手たちと。気持ち的には。」
「あ・・そ」

突進してオレに抱きついた手が冷たかった。マフラーは外さないで手を掴む。
「つめてっ！なんだよ、オマエこの手は〜！？」
「あーっなにするのだ。捉まってしまいました、白浜選手、ピーンチ！」
「ホラ、やっぱ上着なしじゃダメだ。戻るぞ。」
「えぇっ！？やだやだ。まだ雪降ってるよ？もっと遊ぼうよう！」
「どうしても遊びたいなら上着きろ！こんな手じゃ許可できねぇな。」
「離してよ、平気だよう！うーーーん・・」
「逆らう気か、オマエは〜〜・・！」

だだっこみたいに身をよじって逃げようとするからいけないんだ。
抱き寄せて腕に閉じ込めてやった。身体は全体がひんやりとしていた。

「なんだよ、オマエが雪だるまみてぇじゃねーか・・・」
「・・・なっつん、はなせぇっ・・くるしい・・・」
「ウソつけ。そんなに強くは・・・」

少し緩めた腕の中のほのかを覗き込むと、大きな眼がオレを見上げた。
ほのかはいつの間にか抵抗もなくオレにもたれかかっている。
息がかかりそうなほど近い。固まって動かないのは・・

「どうした、寒いんだろ？！固まっちまって。」
「・・・寒くない・・・なっつんが・・居るから。」
「オレが抱いてるから？」
「う・ウン・・」

ほのかは見つめ返すとしばらくして弛緩して顔を伏せた。頬が赤い。

「なっつんは・・あったかいもん・・」
「顔上げろよ。熱でも出たのか？赤い顔して・・」
「ないよっ！」

顔を益々見せないようにとオレの胸にすりつけ、首を横に烈しく振った。
確かに少し体温が上がってきた感じがしたが、緊張が解れたからかもしれない。

「おい、顔見せろって。」
「いやって言ってるでしょお！」
「今初めて聞いたぞ。」

何照れてるんだか・・・ほんの少し強く抱きしめると簡単に音を上げる。
勢いよく上げられた顔が抗議を含んでいるのも予想通りだ。

「あげたよっ！顔・・」
「何怒ってんだよ。」

額をくっつけて確かめるように目を閉じる。熱は無いようだ。
ゆっくりと目を開けると、大きな瞳はオレを見つめていた。

「何だよ？」
「熱なんかないでしょ？！」
「・・だな。」
「心配症なんだから。ねぇなっつん・・積もったら遊んでね？上着きるからさ。」
「風邪引いたらダメだからな。」
「引かないもん。なんとかは引かないって言うくせにさ。」
「それもそうか。」
「やな感じだよ、まったく・・・」

「わかった・・なっつん寒いからほのかであったまろうとしたんだ！」
「あ？」
「ほのか捕まえてカイロ変りにしようとしたんだ。正解？」
「あぁ、寒いからな。」
「もお・・・寒がりさんだねぇ。」
「ふん・・こんな冷たい手してるヤツが何言ってんだ・・」
「もう冷たくないよっ！なっつんが握ったから。」
「今は離してるだろ。」
「あったかいよ、もう・・・」
「オレの方が冷えそうだ。」
「なんでよ！？ほのか抱っこしてるのに？」
「オレは燃費わりぃんだよ。」
「はは・・なんだそれは〜！？」
「やっぱオマエであったまらせてもらうか。」
「はい？！」


雪は意外に積もりそうだ。初めはすぐ止むと思ったんだが。
ほのかとぼんやり空を仰いだ。このまま雪だるまになるのはなんだから、
二人で帰って何か飲むことにした。ほのかは降参したというわけだ。
繋いだ手はお互いの体温でどちらも同じくらいになっている。

「雪積もりそうだな。」
「ウン、楽しみなのだ。」
「明日は手袋忘れるなよ？」
「わかってるよ。それにさ、冷たくなったらまたあっためて？」
「オレもお返ししてもらえるんなら。」
「う・・うーん・・わかったよ。」
「なんでそんな嫌そうなんだよ。」
「言ってないもん。なっつんの早とちり。」
「そうか。」
「そうだよ。」

ほのかが微笑んでオレの顔を覗き込む。顔には”お赦し”が出てる。
だから今度は不意打ちでなく、遠慮なく唇に触れて満足した。
温かくなったのは、オマエのおかげだ。そう思っていたら・・・

「なっつんのおかげであったまったから、今日は大サービスしちゃう。」
「へぇ、何してくれんだ？」
「えへへ・・なんでしょう？！当ててみて！」

ほのかの口を割るのなんか簡単だ。またどうせオマエから誘うだろうし。







寒くてたまらないので書いた甘いの。・・何してもらったかは想像してくださいｖ
え、ワタシですか！？いや〜、色々と考えましたよ。言えないことまで。（笑）