「りすぺくと ゆー!」 


「なっちってさ、師匠に憧れてたりするでしょ?」
「は?!いきなりなんだよ。憧れるかよ、あんな不良中年。」
「独りで好き勝手にしてるとことか。強いのは置いといてさ。」
「・・まぁある意味オレの立場なんかとは対極・・だったかもな。」
「素直じゃないからなぁ・・師匠ダイスキなの見てたらわかるよ?」
「オマエ会ったことないだろ!?なんでそんな知った風なんだ!?」

ほのかはどうやらオレが護身法なんかを伝えるときなんかに感じるそうだ。
あのオヤジから教わったことはとてもほのかに直接活かせるものではない。
だから妙に思って尋ねてみた。すると相変らずよく見ているなと感心させられた。

ぶっきらぼうな話し方。無茶な要求。けれど何故だか憎めない放蕩磊落な中の繊細さ。
孤独を好んでいるが実はとても優しくて兄弟想い、そうではないかと指摘するのだ。

「・・なんでそんなことがわかるんだよ?」
「なんとなく。人間嫌いのなっちをこんなイイ奴に仕込んだ師匠なんだし。」
「けど、似てないとこのが多い・・と思ってたんだが。」
「お行儀のいい外面は育った環境なんじゃない?素の部分が似てるんだよ。」
「・・・・」
「尊敬してなきゃ今までずっと教わったことを大事にしてないし強くなってないと思うんだ。」
「そりゃ・・教えは・・真面目だったし、無茶でも理に適ってたしだな・・」
「きっとよく似てるに違いないと思うんだ。絶対ほのかも好きだよ、なっちの師匠のことが。」
「・・・なんか・・オマエなら師匠も気に入りそうな気がしないでもないな。」
「オヒゲで大きいんでしょ?いつもお酒臭くて。結構なっちから師匠のこと聞いてるよ。」

ほのかは憎たらしくもにやにやと嬉しそうにそう言った。会わせたいようなそうでないような・・
複雑な気分だ。女の苦手な師匠でも、万が一、億が一、コイツのことを気に入るかもしれない。
その前に出会ったとき、オレはコイツをなんて紹介するんだ?・・・紹介するつもりなのか!?
参ったな。なんて説明すればいいんだろう。なんだか難題が突然ひょいと湧いてきたみたいだ。

「大丈夫、きっと仲良くなれるよ、ほのか。」
「・・そんなことを心配してんじゃねぇよ。」
「じゃ何を心配してるの?」
「なんだか・・そうだよな、何心配してんだ、オレは。」
「取らないから心配しないで?なっちのお師匠だもの。」
「取るって・・中年不良オヤジだぞ!?何考えてんだ。」
「なっちよりいい男だったらよろめくかもしれないじゃん!」
「アホッ!!会わせねぇぞ!そんなこと言うヤツには。」
「ぷふっ・・なっちってば自信ないの!?不良オヤジにほのかのこと取られそう?」
「そっそんなこと・・言ってんじゃ・・・その・・・」

むかつくからほのかの額に軽く頭突きしてやった。痛いと顔を顰める程度の。
取られたりするものか。だが・・懐くのは間違いないと思えた。だから牽制しとかねぇと。

「いいか、オマエはオレの弟子見習いってことにしてやるから。」
「え〜!?弟子じゃないの?」
「ああ、見習いだが師匠はオレだ。槍月師匠よりオレの言うこと優先だぞ!」
「ふぅん・・いいけど。ほのか師匠の方が正しいと思ったら従わないよ?」
「む・・言うこときかねぇと会わせないぞ。」
「やだね、狭いよ、なっち。人間の幅が。」
「オレはまだ人間ができてないんだ。狭くって悪かったなっ!」
「しょうがないな。狭くて甘くてダイスキだから言うこときいてあげるよ。」
「そういう要らない台詞を足すな。」
「えーっ!?ダイスキなのは足さないとダメだもん。」
「甘いとか言っただろ?!」
「なっちはほのかに甘々な師匠だもん。事実じゃないか。」
「なんだと、このっ・・!」

頬を抓ってやったが、加減し過ぎたのか、ほのかは少しも痛がらずに笑っていた。
甘いのは・・甘いかもしれない。けどそれは・・仕方ないだろ?!・・コイツなんだし。
ああなんてややこしいヤツ。なんでこんなにオレを振り回すんだ。いつもいつも・・

「っとにオマエって口は減らねーし、言うこときかねーし・・」
「困った弟子見習い?」
「あぁ!反省もしないしな。」
「えへへ・・師匠のことは尊敬してるよ?」
「別にオレのことは尊敬しなくていい。」
「なんで?」
「オレはまだ・・実際には弟子を持つほどじゃない。それに・・」
「・・・?」
「相手がオマエだし。尊敬なんかされたら気持ち悪いだろ。」
「!?ほのかがしちゃ変だって言うの!?なっちのが変だ。」

ほのかはぷうっと餅のように頬を膨らませて抗議した。よくそんな膨らよむなぁ・・
いやそれはともかく。オレは絶対に口に出して言ったりしないが、師匠のことは尊敬している。
それに、ほのか。オマエのことも。調子に乗るかもしれないというのもあるが、本当は
気恥ずかしいからだ。真面目にオマエは凄い、と思えることはわりと日常的にある。
このオレがまるで奴隷のようにわがままに付き合ってやってるのも、手放しできないのも
ただ単にコイツが可愛いからってだけじゃない。そんな外面だけならオレは惚れたりしない。
けど、いつか師匠がコイツと対面してしまったら・・・何もかもバレてしまうだろうか。
ほのかがどれほどオレに影響を与えたか、どれほど傷付いた心を埋めてくれたかなんてことまで。
わからない。それはまだそのときになってみないと。だからそれまで考えていよう。

そして師匠に何もかもわかってしまったら、釘を刺しておかないとな。

「コイツはオレのだから。」 「気に入っても駄目だ。」って。

まさかとは思う。けどわからないだろう?このオレをこんなにした女なんだから。
あの師匠だって少しくらいは・・・いやホントマジで心配になってきた・・
しかしおそらく二人はもっと先に会うことになるだろう。そんな予感がある。
でなければこんなに心配する必要などないはずだ。心のどこかでそれを期待しているのか。

けどアンタなら・・・わかってくれる。そうだろう?!
オレに足りないものをコイツはすべて持っているんだ。
いなければならない存在なんだ。二人で一つの未来のために。


「なっちぃ、今度師匠に会えたらさぁ、ほのかちゃんに会いにきてって頼んでおいてよ。」
「嫌だ。なんでそんな真似・・第一気まぐれなあのオヤジがわざわざ来るわけねぇって。」
「わかんないよ、そんなの。気まぐれなんだったら。」
「・・・・ない。ない、と思う・・・多分・・」
「でね、会えたら”いつもなっちがお世話になってます!”って言うのー!」
「はあっ!?あ・アホかっ!世話になんか・・なってねぇ!そんなこと言うなよ!?」
「まぁまぁ・・師匠にはきっと丸わかりさ。無駄な抵抗はやめたまえ。」
「もう絶対会わせない。会わせてなるもんか。オマエ諦めろ!」
「なにをーっ!?ほのか会いたいから会うもん。あきらめないよーだ!」

ほのかが願ってしまえば叶うに違いない、そう思った自分が憎いぜ。だってそうだろ?
嬉しいなんて思ってんだ、心のどこかで。師匠とコイツが仲良くなる未来をだ。なんてこった・・
あんまり口惜しいから羽交い絞めにしてギブと言うまで甘く締め付けてやった。
こんなに愛しいなんて、言わなくても伝わってしまうのだ、どうせ出会ってしまったら。
その予感は確信に近かった。未来は・・・ほのかとオレには同じものが待っているのだ。








師匠とほのかが仲良くなって欲しいと強く願っているのは私でありますv