「春爛漫」〜ぷろじぇくとH未来版〜 


「キサラちゃん最近綺麗になったよねぇ。」
「な・なに言ってんだ!?おんなじだよ。」
「とっても幸せそうで羨ましいですわよ。」
「それは美羽のことだろ!?他人事みてぇに。」

ほのかより3っつ年上のキサラと美羽は以前から美人だが
最近の耀きは同姓のほのかから見ても眩しいほどの変貌だ。
美羽は以前重度のブラコンだったほのかにしてみれば
恋敵のような存在であったこともあるが、今はそうではない。
元より一人っ子で妹が欲しいと言っていた美羽とキサラとは
すっかり仲良くなってまさに姉妹のように親しくしている。

キサラはやきもきしていた三角関係を脱して宇喜田と交際中。
美羽はほのかの兄と将来を誓うほどの仲。ほのかはというと
中学生の頃から妹のように面倒をみてもらっていた兄の親友、
谷本夏と付き合っている・・・のではあるが・・・

「ほのかはまたほったらかされてんだって?」
「谷本さんは社長さんでもあるしお忙しいのですわよね。」
「・・もうほのかなんかいらなくなったんじゃないかな。」
『まさか!?それはない!(ですわ!)』

ほのかを心配する姉のような二人は畳み掛けるように否定した。
昔はただ兄と妹のように親しいと思っていたキサラでさえも
実際は特に谷本の方がほのかに一心なのを認めている。

「アイツだってきっと寂しいはずだからちょっと押してみろよ。」
「そうですわねぇ、たまには困らせてもほのかちゃんなら・・・」
「はは・・そんなに心配しないで。だいじょうぶだから!」

ほのかは居心地が悪くなってしまい、キサラと美羽たちと別れた。
とてもありがたいのだが、幸せいっぱいの二人と過ごすのは正直辛い。
今日も寂しそうな自分を気にかけて声をかけてくれたんだとわかる。

”・・・でもそうだなぁ・・ガマンするの・・限界かも・・”

夏がとても自分に優しいことも、愛されていることもわかる。
だからこの頃は我侭を押えて、平気な振りをしてしまっているのだ。
満たされないのは自分を誤魔化しているせいだとほのかは感じていた。

”けど今なっちがどこにいるか・・わかんないんだよね・・”

彼は以前から動向を細かく説明するような性質ではなかった。
学生だった頃は学校という縛りがあったので頻繁に会えていたが
いざ彼が一人前になってしまうと、行動範囲が広がってしまい
ほのかには追うことができなくなり待つことが増えてしまった。
連絡もマメではない。メールでさえ素っ気ないものばかりだ。

”う〜っ!会いたいぞ!!会うんだ。なっち、飛んでこいーーっ!”

ほのかはぎゅっと目を強く閉じて祈ってみた。当然何も起こりはしない。
それでも、『もうガマンしない』と決めたことで心は少し軽くなった。

”よーし、今夜!襲撃しちゃうのだ。待っててね、なっち!”

久しぶりのぷろじぇくとだとほのかは張り切って駆け出した。

仕事中の連絡は禁止されている。だが緊急時は別だ。
ほのかのメールが夏の元に届いたのは夕刻を過ぎた7時頃だった。

『なっちへ緊急連絡。お家で待ってます。』

ほのかのメールはたったそれだけで、夏は眉を顰めた。
夏と反対にダラダラと長い文の多いほのかには珍しい。
胸騒ぎはないが、不審ではある。夏は二通りの予想を立てた。
一つ目はいつも彼に付きまとっている不安の一つだ。
『ほのかに愛想を尽かされる』というネガティブなもの。
彼は周囲が呆れるほどに女性に関して淡白であるが、それは
要するにほのかに惚れきっていることが原因で他意はない。
もう一方の予想はとても単純で、彼自身も切望しているもの。

”オレもいい加減・・会いたかったんだ・・助かったぜ・・”

夏は仕事熱心で有名であったが、たまに『急病』を患うことがある。
秘書に「例の持病が出た」と告げると、予定を変更(かなり無理矢理に)した。
彼の予想では会えなくて痺れを切らしたほのかが待ち構えている構図。
お土産を抜かりなく携えて帰宅したのは7時40分頃である。

いつもならば家に着くなり、ペットの犬のように突進してくるはず。
ところが、家は静まり返っていて夏は意外だった。怒っているのか?
その覚悟はしていたが、予想以上に腹を立てているのだろうかと思う。
少しばかり緊張して居間のドアを開けたが、ほのかの姿が見えない。
しかしテーブルに書き置きが置いてあることに気付いてそれを摘み上げた。

文面はやはり短いものだったが、夏は最初より更に深い皺を眉間に刻んだ。
やれやれと肩を竦めて、ほのかの待っている場所へと足を向けた。
そこは普段ならノックなどしない部屋なのだが、一応二度ノックをする。
そして徐に扉を開けると、夏は部屋のおよそ中央へと向かった。
そこは彼の私室なので豪華というより殺風景なほど簡素な設えだ。
ただ普通の家と違って、寝台はかなり大きめであることは事実。
そのキングサイズのベッド上にちょこんと待ち人が座っていた。

「おかえりなさい、なっちー!」
「・・ただいま。おまえ晩飯食ったのか?」
「まだ。」
「緊急の用ってのは?」
「会いたかったの。」
「そうか・・オレもだが・」
「ん!」
「ちょっと待て。」
「いや、待たない。抱っこ!」
「・・はぁ・・・」

観念した夏は抱えていたコートと上着もついでに脱いで椅子に投げた。
それからネクタイを弛める。何度か見たが、ほのかはその度にぞくっとする。
弛めるだけでなく、抜き取るとそれも夏は放り出し、ほのかの前に膝を乗せた。
嬉しくて思わずほのかも膝立ちになって夏の首にしがみつくように抱きついた。

「わーい!やっと会えた。長かった〜!」
「悪い・・で、この服どうしたんだ?」
「へへ・・エロい!?けどカワイイでしょ。ダメ?」
「エロいな。けどカワイイ。」
「よしよし、君も気に入ってくれたかい!?」
「あのな、そういう目的で着てるんだよな?」
「モチロンさ!?」
「困ったヤツ・・20歳まで待てと言ってるだろう!」
「もうあとちょっとじゃん。待つの飽きた。やめるの!」
「あとちょっとなら待てるだろ。」
「イヤ!!まーたーなーい!のっ!!」
「お兄さんイヤなんですよ、こんな流されるみたいなのは。」
「君はちょっと夢を見すぎだよ。乙女かい!男でしょお!?」
「夢見て何が悪い!オレは一生おまえ一人と決めてんだぞ!」
「お・おぅ・・ほのかだって・・そうだよ!?」
「なら特別にしたいじゃねぇかよ!?」
「んだってぇ〜!寂しい。寂しいもん!明日死んだらどうすんの!?」
「縁起でもないこと言うな。するしないがそんなに重要か!?」
「重要なの。キサラちゃんも美羽もすごく綺麗になったよ!?」
「は?・・何故ここに南條やら風林寺が出てくる!?」
「ほのかだって幸せいっぱいになりたい。なっちとなりたいー!」
「今は幸せじゃないってのか?」
「もっと幸せになるの。欲張りでもワガママでもいいんだよぅ・・!」
「・・おまえのワガママ、久しぶりで、ちょっとヤバイ。」
「!?そうでしょ!?なっち、ほのかイイ子してたよ。だけどツマンナイ。」
「ツマラナイ・・か?」
「そうだよ。もっとヤラシイなっちも見たい。ワガママなのはそっちだよ。」

ほのかが言うとにやりと夏が口の端を上げて笑った。かなり不敵な表情だ。
普通の女なら引きそうな暗い瞳がほのかを見詰める。しかしほのかは怯まない。

「いい顔。ほのかね、知ってるんだから、なっちがどんなにわがままか。」
「ああ、我侭で強欲でしつこいぞ。わかってんなら今更引くなよ?」
「引かない。よぉく知ってるもん。明日はお仕事お休みにした!?」
「した。なんか予感がしたからな。おまえ無茶苦茶するからな・・」
「そうとも。最近イイ子にしてたせいで余計にワガママもーどになってるからね。」
「上等。・・逃げんなよ。お兄さんものすごーく、我侭にするからな。」
「うわわ!なっちがヤラシイぞ〜!?わくわくドキドキする!」
「って、あんまり期待するな。おまえに泣かれると弱いから。」
「それも知ってる。けど・・たまには意地悪ななっちも許す!」
「はぁ・・けど飯が先。オレは腹減って動けない。」
「ええ〜!?君はロマンチストのくせにロマンのない男だよね、ったく。」
「うるせぇ。おまえに言われたくないっての!」


〜数日後〜

「ほのかー!アイツと会えたのか!?」
「あ、キサラちゃんと美羽。ウン、おかげさまでー!」
「お顔が全然違いますもの。よかったですわね!?」
「久しぶりに思いきり甘えたか?!」
「それがねぇ・・甘えるつもりが・・」
「え!?どうなさったの!?」
「なっちにいっぱい甘えさせてあげたの。えへへ・・」
「おうおう・・言うねぇ!」「ふふ・・さすがはほのかちゃんですわ!」

女三人の笑い声が晴れた空に広がった。三人共にとても幸せそうだ。

「やっぱ女は我侭な方がいいよなーっ!?」
「そうですわよ、困ってる姿が可愛らしいですし!?」
「あ、やっぱそうなんだ!一緒だね〜!?」
「ふふ・・」「はは・・」「へへ・・」

・・・それはすっかり春もたけなわの頃のお話・・・








男達、ガンバレヨ!ってな感じで(笑)