「ぷろじぇくとH」 


「まぁその・・ほどほどにガンバレよ。」
「うむ。ほのかちゃんにまかせといて!」

発端はほのかの学校でのこと、友達の一人に彼氏ができた。
その友達がほのかに助言を求めたのがそもそもの始まりだ。
新白会長である新島がたまたま一緒にお茶していたほのかの
呟きを耳にし、やる気を刺激した結果そうなったのだ。

かくして”ぷろじぇくとH”発動の号令が下された。

「あんなことさせるなんて・・ちょっとやばくないすか?」
「俺様は困っているほのかにちょっとばかし助言しただけだぞ!?」
「けど白浜隊長はもちろんですが、谷本隊長だって怒りませんか?」
「そもそもほのかが友人のためにと”自発的に”計画したんだぞ。」
「はぁ・・知りませんよ、オレたちは賛同してないっすからね!?」
「・・・・なんか俺様もちょーっと・・・不安になってきた・・・」

珍しく新島が悪寒を覚えた頃、ほのかは既に目的地に向かっていた。

”ん〜・・・面倒だなぁ!実はほのかこういうの苦手なんだよね・・”

そう、計画は企てたもののまだるっこしいことや小手先の話術など
新島ならば造作もないことがほのかのような単純明快な人間には重い。
目的地にたどり着く間に、新島の助言は徐々に様変わりをしてゆき、
ほのかが当人の眼の前にやってきたとき、すっかり忘れられてしまった。

「なっちぃー!居るかーい!?ほのかだじょ〜っ!!」
「・・・オマエまたろくでもないこと考えてきたな。」
「えっ!?なんでそんな・・ちみはたまに鋭いね!?」
「・・いいから吐け。新島か?!」
「ち・違うんだな〜!?これが。」
「・・・・ほお〜〜〜お!?」

ほのかの顔にはしっかりと新島から吹き込まれたと書かれていた。
根が正直なほのかだ。夏でなくともバレバレのレベルの嘘だった。

「・・コホン!まぁいいから。なっち、ちょっときてきて!」
「人を呼びつけるな。」
「それもそうか。よし、ではでは・・」

ほのかは明らかに怪しい顔付きで夏に近づくと、椅子に座るよう勧めた。
怪訝な表情のまま従うと、ほのかは次に目を閉じるようにと願った。
警戒しつつ、その命令にも素直に従ってみる夏。するとがしっと顔を掴まれ
・・・たかと思うと、どういうつもりかほのかは黙ったままじっとしている。

”・・何してんだ、コイツ・・?”

一方のほのかであるが、計画は台無しにしたものの、本来の目的の前に
フリーズしていた。実行してみて初めて気付いた問題が生じたのだ。

”どっわ〜!睫長っ!引っ張ったら怒るかな?本物だよね・・”
”むむ・・非常に楽チンな作業だと思っておったのだけれど・・”
”いざとなると意外に緊張するのだ!でももう掴んじゃったし!”

ほのかが逡巡していると目の前で夏が目を開けた。痺れを切らしたのだ。
じろりと睨むとほのかは決まり悪そうな顔になり、そうっと手を離した。

「何の真似だ。目的は!?」
「えっ・・えっとねぇ〜!」
「正直に言えば怒らん。」
「あっあのね、ほのかの友達がさ・・?」

すっかり諦めた風にほのかは肩を竦めて話し始めた。

「・・・で、なんでしなかったんだ?」
「んと・・なんか・・できなかった。」
「まぁそれは良しとするが・・」
「あのさ、なっちがしてくれない?!」
「なっ!アホ。するかよ、そんなこと。」
「・・よく考えたらほのかやり方がわからないのだ。」
「わからなくていい。まだ早い!」
「んじゃあさ、友達になんて言えばいいかなぁ・・?」
「知るか。そんなことを聞く相手を間違ってるとでも。」
「ほのか”先輩”って言われて尊敬されてるのに〜!」
「オマエがいつ誰と付き合ったりとかしたんだよ!?」
「なっちと。」
「それは初耳だ。」
「別に言ったわけじゃないけどさ、勘違いされてて・・」
「そのまんま否定しなけりゃ友達もそう思い込むよな。」
「それでつい”まかせといて!”って言っちゃった・・」
「だからアホだと言うんだ。で、新島には何を吹き込まれてきたんだ。」
「んと・・何か色々言ってたけど・・面倒になってやめたの。」
「フン・・それで・・オマエらしい短絡だな。」
「ねぇ、ほのかとちゅーしたくない?ねっ!教えてよ、先輩。」
「なんの先輩だ!今回は正直に言ったから勘弁してやる。」
「教えてくれたっていいじゃないか・・ね?内緒にするからさ!?」
「ダメだ。それと他の誰にも頼むな、こんなこと。」
「さすがになっち以外とちゅーしたくないのだ・・」
「・・・なんでオレならいいと思った?」
「や、だってなっちだし。」
「だからその理由を訊いてんだ、ボケ!」
「将来は恋人になるし。お嫁にもなるから問題ないかと思って・・」
「またそれか・・いい加減にしろ。」
「ちみこそいい加減承諾したまえ!」
「ほのか」
「う・・なんでしょうか!?」
「何度も言ってるが、あと2年は待て。」
「待ってるのツライです。ほのかちゅーしてみたい。」
「ったく・・ならさっきどうして実行しなかった?!」
「それはその・・どうするのかなっ?!て・・途惑って・・」
「それでいい。勢いでそんなことして後悔するのはオマエだぞ。」
「・・・なんか悔しいのぅ・・」
「なんでそう新島にそそのかされるんだかな、どいつもこいつも。」
「そうだねぇ・・ね、いっそのことほんとにちゅーしちゃわない?」
「却下。」
「ちぇ・・勢いの足りない人だなぁ。」

夏が目を吊り上げると別段怯えた様子もないほのかは頷いた。

「わかった!わかったよ!お預けね。けどさ・・」
「なんだ。」
「目を閉じてるなっちって新鮮だった!ドキドキしたよ!」
「?!」
「めったに見たことなかったっていうか、初めて見たかも。」
「そりゃ・・そうだろ。」
「睫長いよねぇ!びっくりしたじょ!?」
「オマエも結構長いぞ。知ってるだろ?」
「え?普通だと思うけど、なんでなっち知ってるの?」
「・・・・オマエよくここで寝てるからな。」
「ああ、そっかぁ!へへ・・しょっちゅう寝てるよね。」
「まぁ・・な。」

それは至近距離でなければ断言できないようなことだったのだが
ほのかは気付かなかった。その時夏の顔には相当焦りが浮かんでいた。
動揺もいらぬ恥をかきそうになったことも含めて新島に押し付ける。

”あの野郎今度こそきっちり殺しとかねぇとな。半、いや七分ほど。”

”なっちには内緒だけど綺麗だったな。・・見惚れちゃった。”

何故だか思い出しただけで胸がドキドキ鳴り始める。困ったことに。
何気なく”彼女”になるとか言っていたが、いつか本当になったら、
友人が助けを求めたように、キスしたいと思うようになるのだろうか。
ほのかにはまだ実感が湧かない。けれど今日確かにわかったことがある。

”やっぱりなっちの彼女になる!誰にもあんな顔見せたくないや!”

それにしてもさっきはやばかったと夏はこっそりと安堵した。
うっかり間近でほのかの寝顔を見ていることを暴露しそうになったのだ。
その上彼には隠し事もあった。黙ってはいるが新島は確実に感づいている。
しかしそこは男同士。武士の情けとも言うことだ。言わずもがなでもある。

例えば彼がこっそりほのかの寝顔を見ているだけではないことなど、
絶対に知られたくないことも存在する。当然といえば当然のことだ。

”ほっとけってんだよ、オレたちのことは。バラしてたまるか!”

”結局どうして『する』のかわかんなかったな・・まだダメなのかぁ・・”

翌日、新島は夏によって八つ当たり含みの制裁を食らった。
松井たち周囲の多少の同情の目は向けられたが、慰めの言葉はない。

「とっととくっつけばいいだろう!俺様は何も悪くないぞ!?」
「煩い。人の計画邪魔すんな。誰に報告する義務もない!」
「・・ほのかにばらしてもいいのか!?」
「なんのことだ?」
「とぼけるなこのムッツリめ。寝込み襲ってるくせしやがって。」
「まさか。・・そんなに死に急ぐなよ。”友人”なんだろう?!」
「ほのかー!諦めるなら今のうちだぞーっ!?」

一見気の毒な光景だが、要するに男同士の与太話の部類だろう。
皆は遠巻きにして関せずを決め込む。それがマナーというべきか。
男同士と違ってほのかの方は友人に正直に話してお許しをもらった。

「ごめんね?結局まだわかんないんだ、ほのかも。」
「ううん、こっちこそごめんね。急がなくていいよね!?」
「そうだよね!お互い大好きならなんとかなるっしょ!?」
「うん。ほのかも仲良くね。」
「それならまーかせといて!」

それはまだほんの兆しが見え隠れする頃のお話・・・








実はこの続きを・・数年後で書きますv