POP☆GIRL


「映画館とかで食うもんだろ、それ。」
「ウチで食べちゃいけない法則なんてないじょ?」
「まぁな・・」
おやつを作らなくていいって言ってたから買ってきたんだろう。
そう思っていたら自宅で母親の作りたてらしい。
「作り方わかったから、またここで作ったげるね!」
「いらん、いらん!」
「遠慮することないのに。」
もちろん遠慮して辞退しているわけではないが通じてない。
「これはね、ポーンと弾いて上向いてぱくっと食べるのが正しいんだよ。」
「そーかよ・・」
「あれ、なっつん食べないの!?」
「オレは読書中だ。ジャマすんなよ。」
「ふーん・・それ何?面白いの?」
「何でもいいだろ。いいからあっち行ってそれでも食ってろ。」
オレは少々邪険に追い払う仕草をして、居間の椅子に腰掛けた。
いつものソファだと横から覗き込んできやがるからだ。
鬱陶しくて本の内容が頭に入らねぇからいつも中断させられちまう。
それで今日は一人がけの椅子を選んで座ったわけだ。
だが、それも甘かったらしい。敵はなかなか頭を使っている。
背もたれのない椅子だったのも敗因だったかもしれない。
背中にほのかの体重が掛けられて、見ると背中ごしに座っていやがる。
どうしてそうひっつきたがるんだろう?小さな子供みたいに。
実際体温の高いほのかがひっついてくるとこちらまで体温の上がる気がする。
面倒な奴だが、大人しくポップコーンをほおばっているので放っておくことにした。
初めのうちは普通に食っていたが、そのうち”正しい食べ方”とやらを始めた。
高く放り投げて口でキャッチする、アレだ。お行儀に関して親は煩くないんだな。
しかしオレも親ではないし、お行儀は咎めずに読書を続けた。
ところがほのかは飽きてきたのか次第に放り投げる高度を上げていった。
この分ではそのうち床に散らばって、掃除が面倒になるなとオレは眉を顰めた。
案の定コントロールを欠いて投げられたポップコーンがこちらへ振ってきた。
仕方なくそれを掴んで床に落とさないように自分の口へ放り込んだ。
「あっ、ああっ!なっつんに取られた!」
「おまえが投げ損ねたんだろ?!」
「うーむ、ちょっと高すぎたか。よーし、次こそは。」
「普通に食ってろよ、床に落ちたら面倒だろうが。」
「そんときは掃除すりゃいいじゃん。ほのかの挑戦なんだから黙ってて。」
こいつの掃除は乱暴で、それこそ掃除してるんだか散らかしてるんだかわからない。
そう思って言ったのだが、本人にはどうでもいいことだったらしい。
溜息を一つ吐いてオレはやはり中断の目に合った手元の本へと視線を戻した。
挑戦だかなんだか知らないが、ポップコーンは3回に一度は反れてオレの近くに落ちてきた。
読書しながらそれを空中で捕まえるという食いながらの読書となってしまった。
「おっかしいなぁ、うまくいかないなー!」
「ノーコン」
「むかっ!なっつんも拾い食いしなくていいよ、お行儀悪いじょ?」
「おまえに言われたかねーよ!」
ついつい文句を言ってしまい、ほのかの顔を見ると笑ってやがる。
「なんだよ・・?おまえ。変な奴だな。」
「ふへへvなっつんの顔見れたから成功なのだ。」
「!?」
つまり、オレの気を引くためにやってたってことで、オレは不覚にも顔を熱くした。
「美味しかった?」
「・・・まぁまぁだな。」
「あーんして食べさせてあげようか?」
「いらねーよ!」
「そんじゃさ、なっつんも放り投げて食べて見て?」
「なんでそんな真似・・」
「なっつんなら百発百中っしょ?!」
「当然だろ!」
結局ほのかの策略に嵌ってポップコーンを食うこと数回・・腹いっぱいだ。
「もういらん。ごちそーさま。」
「よろしゅうおあがり。お粗末様でした。」
「・・・・喉渇いたじゃねーか。」
「そう思ってほのかちゃんはちゃんと飲み物も冷やしておいたんだよ、エライでしょお!」
「へー・・?気がきくな。」
「持ってきてあげるよ、お見事なキャッチを見せてくれたからね。」
「・・・おかげでまた中断だ・・」
「うへへ・・ごめんにょ!」
ほのかはさっさと椅子を下りると台所へ向かっって部屋を出て行った。
オレは読みかけの本に栞をするのを忘れたことを思い出した。
もうどうせこのままゆっくり読書などさせてはもらえないだろう。
そう感じてそのまま本は開かずにおいた。
初めからの策略だったのか、それとも思いつきだったのだろうか、
みごとに引っかかってしまって情けないとは思うのにがっかりしてもいない。
なんだか父親ってこんな気分なのかな、などとふと考えた。
オレの顔を見れたと言って微笑んだあいつの顔を思い浮かべるとつい口元が弛んだ。
”あんな嬉しそうな顔しやがって、反則だな・・”
あいつはまるで弾けたてのコーンみたいだなと思う。ふわふわで甘くて。
そんな馬鹿なことを考えているうちにやかましい音が聞えてきた。
「なっつ〜ん!開けてー!!」
「しょーがねぇなぁ・・」
オレがドアを開けてやるとまた嬉しそうに笑いやがった。
「ほら、美味しそうでしょ!?ほのかが作ってきたんだ、このレモネード!」
「・・まぁ、見た目は合格だな。いただくとするか。」
「おかわりあるじょーっ!」

いつの間にか午後を一緒に過ごすようになってしまった。
当たり前みたいにウチに居るから時々おかしなことを感じる。
ずっと昔からこうしていたような・・・妙な気分だ。
「どう?結構美味しいでしょ?!」
「そうだな、わりといけるな。」
「ほのかも腕を上げたもんだよ、なっつん安心しててね!」
「安心・・って何だよ?」
「ほのかお料理だってガンバってるからね。」
「へー・・?」
「だから安心してお嫁さんにできるじょ!」
「ぶっ!」
「うわ、なんだよ、きちゃないな。」
「嫁・・・ってどっからそんな・・」
「ほのかがお母さんになっつんのこと話したらね、じゃあ頑張ってねvってさ。」
「は?!」
「頑張ってるよ、いろんなこと教わってるんだー!」
「ちょ、ちょっと待て。おま・・何先走ってんだよ・・!」
「修行は早くから始めておいた方がいいんだよ?」
「いや、だからなんでオレの嫁限定なんだよ!?」
「なっつんが一番好きだもん。なんか問題ある?!」
「・・・いや、その・・・オレの意志・・とか・・」
「なっつん、ほのかじゃダメなの?」
「ダメ・・とかでなくて;」
「ダメ・・じゃないんだ?良かったー!」
「あのな、おまえまさか本気・・」
「ふざけてどうすんだよ、将来がかかってるのに。」
「簡単に将来かけてんのはそっちだろうが!」
「簡単じゃないよ、なっつん。乙女には一大事だじょ?!」
「おまえの母親はそれ許したのか!?」
「いつも『ほんとにほのかはなっつんが好きねぇ!』って感心してくれるのさ。」
「オレのことそんな風に・・呼んでるのか、おまえの母親・・?」
「うん。だっていつも『なっつん』って言うもん、ほのか。」
「そ、それはまぁ置いといて。オレはおまえに嫁になんて・・その一言も・・」
「うん?そうだね、プロポーズならいつでもいいよ。待ってるねv」
「そうじゃ・・普通そういうことはその・・・なんだ・・;」
「ほのかはなっつんが好きで、いつでもお嫁にいけるように修行中なんだよ。なんか文句ある?」
「・・・ありません・・」
「うんv わかればヨロシイ!」

オレは今晩もあの本の続きは読めそうもないとぼんやりと思った。
いったいどこからが策略だ・・?それとも罠なのか・・?!
ほのかは得意満面な顔をして残りのレモネードを飲み干している。
子供はよく父親と結婚するとか言うらしいから、それに似たようなもんなのか?
一番の問題は、このままずっとオレの傍に居てくれるのかとか思ったオレだよ、オレ!
おかしいだろ、しっかりしろよ、夏。どこで間違えたんだろう・・?
腕を組んで悩んでいるオレをほのかは不思議そうに覗き込んできた。
「なっつん、どうしたの?」
「・・なんでもねーよ・・」
「ポップコーン食べすぎちゃったかな?ダイジョブ?!」
「おまえってさ、いくつだっけ?」
「3っつ下だじょ。」
「ふーん・・・」
「年なんて問題ないでしょ?気にする方なの?!」
「おまえ幼い外見してるから・・小学生かと思ったもんな、初め。」
「なぬっ!?失敬だな、ちみは。もう赤ちゃんも産めるのだぞ!」
「そ・それはいくらなんでも・・・早いんじゃねーか・・?」
「そうだね、それはもっと先だね。でも男の子と女の子両方欲しいな〜v」
「・・・・いろんなことすっとばすなよ、おまえ・・」
「?・・何々?!うん。なんかほのかが忘れてたら教えてね?」

このまま言いくるめられたらどうすんだ?
何か間違ってる気がするのに反論が思い浮かばないのは何故だ?
「おまえそんなにオレのこと好きか?」って思わず呟いちまった・・
「大好き!」
ほのかはまた弾けるような笑顔をオレに向けて答えた。
それを見て”まぁ、いいか”とオレはつられるように笑った。









最近書いてなかったらぶらぶでない夏ほのを書こう、ほのぼのしたやつ!・・・
そう思って書いてたはずなんですけど・・・あ・あれ〜!?おっかしいなぁー!
もうこれはこれでいいですかね。夏くん悩んでますけどね、あ、二人はまだなんもないです。
っていうか自覚すらしてないです。次回は恋に変るのはどこからだろうってなクサイ話です;
書くのもわりと覚悟がいります。甘いかな〜;(自分で怖ろしいよ・・!)