「プレゼントなあに!?」 


「なっつん家のリビングおっきいのになんでツリー飾らないの!?」
ほのかが不満顔でオレに訴えてきたのはまだ12月になったばかりの頃だ。
「そんなもん必要ないからだ。」とオレがあっさりと答えると
「よっし!次のお願いはこれに決めた。ツリーを飾るのだよ、なっつん!」
「はァっ!?」
そして勝敗は・・・この馬鹿でかいツリーを恨めしく見上げているオレの負けだ。
「なっつんに日頃の感謝を込めてプレゼント作ってるから楽しみに待っててね!」
「そうくると思った・・・オレはもう何にもやらんぞ。」
「え〜!?プレゼント交換しようよ!」
「嫌だね。なんでこれ以上おまえに奉仕しなきゃなんないんだ?!」
「まァまァ、ツリーはこれから毎年活躍できるんだからさ。」
「イラねーよ、こんなもん。」
「やっぱりでっかいツリーがこの家に相応しいじゃないか!」
「フン、おまえ以外誰が喜ぶってんだよ。」
「クリスマスパーティすれば!?友達とか呼んでさ。」
「しねぇよ!!」
「やだねぇ・・ツマンナイ人だよ・・」
オレがむかついていると、ほのかが珍しく殊勝なことを言い出して少し驚いた。
「いつもほのかの願いを叶えてもらってるからなっつんからのプレゼントはいいよ。でもほのかのはもらってね?」
「作るとか言ってたが・・・まさか・・」
「内緒!サプライズでしょ、やっぱり。」
「・・ちゃんと間に合うのか?」
「間に合うよ。せっかく手編みなんだからもらってくれないとって・・あっ!」
「やっぱり・・・なんで女ってそういうの好きなんだ・・」
「ああっ!なっつんってモテるんだったよね、生意気に。もらったことあるのだな!?」
「生意気って何だよ・・;そんなもん全部捨てた。」
「なんだと!?ヒドイじょ!!女の敵だな、ちみはー!」
「うるせぇ。要らないもん貰っても迷惑なんだよ!」
「えぇ〜・・・やだよ、もらってくんないと・・絶対ダメ?要らない?」
思いっきり落胆の表情を見せられると、どういうわけかコイツには罪悪感を覚えた。
「それってモノはなんだよ?ちゃんと使えるのか?」
「あのね、マフラーと手袋セットなの。お母さんに教わりながら頑張ってんだよ。」
「無謀な奴だな。マフラーくらいで止めとけよ。」
「そんだけじゃつまんないかと思って。」
「はぁ・・・もらえばいいんだな、もらえばっ!」半ばヤケになって答えた。
「うんっ!ありがと、なっつん。」
いつもいつもオレの負けだ。どうしてこうなるんだろう?コイツは絶対悪魔かなんかだ。
「・・・そんじゃあおまえは何がいいんだよ?」
「えっ!?ほのかにもくれるの?わーい!!なんでもいいよ。」
「それじゃあ困るんだよ、女に物なんぞ買ったことねぇからわからねぇ。」
「なんと!?ほのかがお初なのかいっ!?光栄だねー!?」
「仕方なくだ。おまえのをもらうっつったんだから・・ったく・・」
「う〜ん・・どうしようかな!?」



引くに引けずに買いに行く羽目になったクリスマスプレゼントに・・・疲れた。
恥ずかしくて死ぬかと思ったぜ!女の物を買うなんてもう二度としたくねぇ。
妹に強請られて・・とかんなんとか思わず言い訳しながら必死だった。
しかし買ってしまえばそれで終わりと安心するのは少々早かったらしい。

「で、なんだよ!?コレは!」
「ん?サンタさんの衣装に決まってるじゃないか?!」
「これをどうしろって言うつもりだ・・?」
「コレ着てプレゼント交換するんだよ?」
「こんなもん着る必要がどこにあんだよっ!?」
「たまたま近所で借りられたから。いいでしょ、コレ。」
「おまえ一人で着ろ。オレはパス。」
「そんなこと言わないで。お願いだよ〜!」

・・・どうしてその後着ることになったかって!?説明するのも馬鹿らしいぜ。
脅されたんだよ!今晩泊まるとか言い出すから・・・コイツってしつこいし。

「ホラよ、これ。」もうどうでも好きにしろって心境で例のプレゼントを手渡した。
「わー!ありがとうっ!!なっつんvv」
ほのかは飛び上がって喜んだ。腹の立つヤツだが、喜ぶ顔に少し気が治まる。
手編みセットは予想ほど酷くはなかった。・・・まぁそれなりに難ありだったが。
「スゴイでしょ!?ちゃんと自分で最後まで編んだよ。お母さんに手伝ってもらわずにさ!」
「まぁな。もっとスゴイもん想像してたぜ。」
「えっへん。ほのかだって時間掛ければこんくらいできるのだよ!」
偉そうにふんぞり返っているほのかに気付かれないよう”色が地味で助かった”とこっそり溜息を吐いた。
そんなオレの横では早速プレゼントの中味を引っ張り出し、オレに見てくれとせがむ。
「可愛い!可愛い!?ねぇねぇ!なっつん。」
「ああ、可愛い可愛い。」
いつもなら投げやりで気持が篭ってないと文句を言うほのかだが、このときは浮かれて怒らなかった。
「へへ〜!嬉しいなぁ。コレ欲しかったんだーvv」
ほのかの指定した店にしか無いらしいペンダントはそれなりに似合ってた。
見たときはちょっと大人っぽい気がしたんだが、意外なものだと少しばかり感心した。
ぼけっと見ていたらほのかが真面目な顔してもう一度礼を言いに来た。
「なっつん、ありがとう。あのね、今日はもう一つプレゼントしたいんだ。」
「?さっきもらっただろ?なんでまた・・」
「クリスマスプレゼントじゃなくてほのかプレゼントなの。お礼がしたいんだよ。」
オレの願いを何でも叶えるとほのかは言い張った。いいと言ったが引き下がってはくれず、
「何でもいいから言ってよ。今日くらいはなっつんにお返ししたいんだよ。」
「何でもと言われても・・・」思い浮かばず困るオレに対して、ほのかは真剣な顔で要求を待っていた。
「困ったな・・」
「肩揉もうか?ご飯作ろうか?お掃除?洗濯?」
どれも辞退したいものばかりでオレは困惑を深めた。
「・・・そのペンダント付けて・・どっか出かけるか・・?」
「ほえ?!・・・なんで?なっつんいっつもお出かけ嫌がるのに・・」
「別に・・その、何も思い浮かばねぇから・・」
自分でも突っ込みたいくらいだったのだが言っちまったんだからしょうがねぇ。
初めは不思議そうな顔をしていたほのかも「うん!嬉しい。どこ行こうか!?」と笑顔になった。
いつもオレを困らせるほのかだが、この邪気の無い笑顔だけは悪くないといつも思う。
「なっつん、何か思いついたらいつでも言ってね?ツケておいてあげるよ。」
「今のでいいんだろ?なんでそうしつこく礼したがるんだよ。」
「ほのかが嬉しいばっかりじゃ不公平かと思って・・なっつんが嫌じゃないならいいんだけど。」
「もう・・慣れた。だから気を遣ったりすんな。らしくなくて気持ち悪リぃ。」
「そうなの!?うん。なっつんってばほんと優しいよね!?」
「煽てなくていいっての。」
「ふへへ、ホント照れ屋さんだねぇ!」
「うるせぇよ。」

ほのかを送る帰り道、寒かったのでプレゼントしたモノを使えと半ば強制された。
「うんうん、似合ってる。ほのかってば天才かも!?」
「・・ハイハイ・・」
今度出かける時にもそれをして来いと言われて仕方なく承知する。
「おまえってヤツはもう、好き放題だな。」
「なっつんはちゃんと叶えてくれるんだもん。だいすきv」
調子のいいほのかの頭をコツンと軽く叩いてやると嬉しそうに首を竦めた。
「ねぇ、あったかい?」
「あ?・・あぁ、まぁな。」
「嬉しいな。来年はさ、もっと上手なのをプレゼントするね?」
「今のこれはどうすんだよ?」
「えっと・・解いて編みなおせばいいんじゃない?」
「ふーん・・これはこれでいい。他のにしろよ。」
「なんで?」
「なんでって・・せっかく編んだのにもったいないだろ?」
「・・・」
「なんだよ?何驚いてんだ!?」
「もうなんか感激しちゃって・・なっつんホントはもらったもの捨てたなんて嘘でしょ!?」
「へっ!?嘘じゃねぇ。・・施設に寄付した。」
「やっぱりー!そういうのは捨てたとは言わないよ。」
「どうでもいいだろ、そんなこと。」
「良くないよ。作ってくれた女の子に悪いでしょ、捨てたらさぁ。」
「別にそいつらのためじゃ・・置いとかねぇと上達度が比較できないだろ!?」
「あ、そうか。それもそうだね。じゃあ来年は何にしようかなぁ?」
「気の早いヤツだな。」
「あのさ、初めの頃は失敗してやり直してばっかで嫌になったりしてたんだ。」
「へぇ?」
「だけどなっつんの顔を思い出して頑張ったの。愛の力って偉大だじょ!」
「あ・あい!?何馬鹿なこと言ってんだ!」
「好きのパワーがあれば何でもできるのさ。」
「・・・よくそんな恥ずかしいこと言うよな・・」
「何が恥ずかしいの!?あったりまえのことじゃん。」
ほのかはけろっとした顔で言ってのける。オレは少なからず感動していた。
どうしてこうも素直でいられるのかと。愛や好きの意味がどういったものであっても
コイツのはそこらへんの女がオレに向けるものとは異なっているような気がする。
その子供みたいな素直さが気恥ずかしいのだろう。だからほのか自身には理解できないのだ。
真直ぐな気持ちをオレに向けてくれてるんだな、と思うと妙な気分が襲う。
「どしたの?なっつん。」
「や、オレもおまえの言う『お返ししたい』気分になったみたいだ。」
「へぇっ!?なんと。ほのかの愛のパワーが通じたのかな!?」
「阿呆。・・・なんかして欲しいことないか?」
「うーんと・・じゃあ手を繋いで帰りたい!」
「仕方ねぇな、今晩は特別サービスだ。」
手袋を外してほのかの手を握るとオレの上着のポケットに仕舞う。
「わー、あったかいじょ〜!」柔らかい頬を腕に摺り寄せるほのかと引っ付いて歩いた。
「へへ・・なんか恋人同士みたい。ちょびっと照れるね!?」
「フン・・柄にもねぇこと言って。」
「なっつん。メリークリスマス!」
「・・・」
”メリークリスマス”を口にする代わりにほのかのおでこに唇を乗せた。
丸くした目もその場所を押さえる手も上気した頬も、ほんのりと温かい。
たまには甘やかしてやってもいいよなとオレは心の中で誰にともなく言い訳する。
そんなオレの頬も負けず劣らず温かかった。


〜Merry Christmas for my little lover〜






えっと〜、クリスマスに間に合った・・?!のかしらコレ。
読んでくださった皆様にもメリークリスマス!!(^^)