Partner


相棒っていい響きだよね。友達とはちょっと違う。
特別な感じがすき。親友っていうよりもっと強く感じる。
そんなのがいいって言ったら、女の子は大抵顔を顰める。

「えー?男の子でさ、好きだったら彼氏の方がよくない?」
「そうだよ。相棒だと仕事とかの片割れって感じじゃん!」
「そうかなぁ・・?」
「こないだ見たよ、あの人でしょ?!ほのかの言ってる彼。」
「彼じゃないよ、なっちだよ。」
「それはともかくかっこいいじゃない〜!!」
「そうかなぁ・・?」
「ほのかってばおかしいよ!いっつも一緒にいるんでしょ!?」
「ウン。大体毎日。」
「好きなんでしょ!?正直に言ってごらん。」
「そりゃすきだよ。でもそういうんじゃないもん。」
「えー!?いくらなんでもお子様過ぎだよー!ほのかってばぁ!?」

いつもこんな調子。女の子ってどうもやたらと恋バナが好きだ。
ほのかもたまにつかまるけど、好きじゃないっていうかよくわかんない。
わかんないのは、どこが面白いかってこと。皆楽しそうなんだけど。

「ねー、お兄ちゃん。なっちって学校でもてるんでしょー?」
「ああ、スゴイよ。だから一部の男子には嫌われてるね。」
「顔がいいからかね?猫被ってるんだよね、学校では。」
「そうだねぇ・・突然変えたりしたら変だからじゃないか?」
「そういう意味では美羽と似た感じがするね・・」
「!?・・でも美羽さんはメガネも外して、今は素顔を見せてるんだよ?」
「なっちは・・変えるつもりないのかな。」
「う・・ん・・どうなのかな。気になるのかい?ほのか。」
「ほのかにとってはイイ相棒なんだけどね。」
「相棒かぁ・・ほのか、あのさ・・夏くんのこと・・好きかい?」
「お兄ちゃんもか・・ほのかはなっちの相棒さ。」
「そうか・・イヤもう訊かないよ。」

お兄ちゃんは女の子とは違う。だけど似たようなこと心配してる。
どうしてかな、ほのかが女で、なっちが男だから?それだけのことで!?
そりゃあ、すきだよ。なっちのこと知り合った頃よりずっとすき。
だけど、それだけじゃあダメなのかな。だってさ・・なっちは・・・
彼女なんか欲しくないって言ってたよ。面倒だし興味ないんだって。
ほんというとそれを聞いたとき、ほのかはほっとしたんだ。
今までみたいに気のおけない相棒でいていいんだって思ったから。

ただ・・ちょっとヤキモチみたいなの・・感じることある。
ほのかは彼女とかじゃないんだから、気にしなくていいって思うんだけど。
外見だけじゃない、中身も素敵なヒトが現れたらなっちは好きになるのかな?
そんなことを考えてみることはあるよ。わかんないからすぐにやめるけどね。
今みたいに傍にいたい。ずっと・・友達ならずうっといてもいいんじゃないの?
例えばなっちが誰かと付き合うことになっても(イヤなんだけど)
ともだちだから、今まで通りに遊んで・・もらえなくなるかな、やっぱり・・
かまってもらえなくなるからイヤなのかな。だとしたらほのかって子供。
そう言われても仕方ないね。だけど、なっちとどうなりたいってわけでもない。
お嫁さんになってあげるって言ったのは、このままなっちが誰もすきにならなかったら。
そういう条件付きだったんだよ。そうなの・・ほのかが誰かほかにすきになったら・・
そんなことってありそうにないけど、わかんないよね?ホント・・わかんないや。

「なっち〜?・・あれぇ・・いないなぁ。とれーにんぐしてるのかな?」

家には入れたから留守じゃない。たまにふっといなくなるけど書置きしていくものね。
なっちが見あたらないと、この家は大きすぎて驚くことがある。普段は思わないのに。
最近はきちんと掃除するなっちのせいで、ほのかはあまり掃除しなくなったなあ。
物を壊すと、もったいないからじゃなくて怪我が心配なんだよね、なっちは。
お料理も上手になったよ。ほのかの手料理が食べたくないわけじゃないよ、断じて。
だって、たまにだけどちゃんと食べてくれるもん。残したこと一度だってないんだから。
ぶすっとしてたって、無表情だって、ほのかのことをもう追い返したりしない。
むしろ待っててくれてる。そう思うのは・・ほのかの思い込みなのかなぁ・・

「・・一人だとつまんない。よしっ見に行くか。」

いつものところにいるはずだと、駆けて行った。広いから大変だよ。
ドアを開けて声を掛けた途端、びっくりして固まった。

「なっち!!どうしたのっ!?」
「・・・来たのか・・なんでもねぇよ。」
「怪我してるじゃないか!?大変だ・・き、救急箱!」
「手当てする物ならここにある。慌てるな。」
「なんでなの!?修行で無茶したの!?」
「傷口が開いただけだ。どうってことない。」
「どうして怪我してるのに修行なんてするんだよっ!」
「たいした怪我じゃない。どけよ、そこ。邪魔だ。」
「なっち・・」

一人でするなんてわがままを言うなっちを無理やり座らせて手当てした。
ときどきなっちのすることが怖くなる。強くなるためになんでもしそうなところ。

「今日はほのかがオヤツ作ってあげるね。」
「そう言うだろうと思った。もう冷やしてあるぞ。」
「え!?・・用意周到だね・・」
「そんくらい予想済みだ。」
「さすがはほのかの相棒だ!」
「ふーっ・・付き合い長いっていうかな。」
「そんな迷惑そうに言わないの!」
「ハイハイ・・おかげさんで。」
「もお・・素直じゃないね。」
「それより着替えるから先に行ってろ。」
「手伝うよ。その手じゃ着替えるの難しいでしょ?!」
「いい。片手でも着替えられる。」
「遠慮しないでいいってば。ほのかなんだからさ!」
「コラッ・・脱がすなっ!」
「・・・怪我・・!」
「こっちは打ち身だけだ。気にするな。っつかやめろって言ってるだろ、脱がすのは。」
「なんで?!秘密にしないで。ほのかにできることはなんでもさせてよ!」
「してるだろうが、色々。だが脱がすのは即効やめろ。」
「ちっとも頼ってくれないと寂しいよ!ほのかはなっちの大事な・」
「うるせぇ!たとえそうでも、遠慮するべきとこはしろ。オマエは女なんだし・・」
「・・?そんなこと関係ないもん。」
「なくねぇよ。着替えは自分でするからさっさと出てけ。」
「・・・なっちの・・・ばかぁ!・・」
「ふーっ・・ったく・・」

いつもの居間での3時なのに、ちっとも嬉しい気持ちにならなかった。
出してくれたオヤツはよく冷えていておいしそうなんだけれど・・・
なっちはちゃんと一人で着替えて戻ってきた。ほのかは邪魔しただけだったのかな。
どうして壁を作ってしまうんだろう。ほのかがいつも足りないと思うのはきっとそれ。
何もかもなくしてしまいたいんだ。なっちとの間にある何もかもを。

「どした?・・まだ怒ってんのか?」
「・・・ううん・・おいしそうだね・・」
「食えよ。せっかく冷やしてたんだから。」
「いただきます・・」

冷たさと甘さが口の中に広がって、おいしいと思うと同時に涙がこぼれた。
だけど悔しいからすぐに拭って、ぱくっとまた一口スプーンですくって食べた。

「おいしいっ!今日のも合格だねっ!」
「・・・無理するから目、真っ赤だぞ。」

「・・・おいしいもん。ホントだよ!」
「そうか。よかった。じゃあオレも食うかな。」
「ウン、食べなよ。溶けないうちにはやくはやく!」

なっちはほのかの顔を見てちょっとだけ困った顔をしたけど、黙って食べた。

「おいしいでしょ!?」
「オレが作ったんだっての。」
「へへ・・でもちょっとしょっぱいかも。」
「そんな泣きながら食うからじゃねぇか。」
「泣いてなんかないもん。失礼な・・」
「そうか?どれ・・」
「!!!・・なっち!?」

なっちがほのかのほっぺを・・舐めたりするから・・びっ・・くりしたあ!

「やっぱしょっぱいじゃねーかよ。」
「・・だっ・・でっ・・」
「遠慮はしてないぜ?」
「!・・だってさっきは・・」
「普段はしてないだろ。オマエは・・警戒しなさすぎるからな。」
「なっちにそんなことしたくないもん。しないよ、絶対。」
「しろよ、少しくらいは。」
「イヤ!」
「わかるが・・オマエがそんな気がねぇことくらい・・けどな?」
「そんな気って?何?どういう意味?!」
「オレはオマエほど・・じゃないんだよ。」
「なっち・・?なんて言ったの?」
「オマエは全くそんなつもりなくてもな、オレは気になるんだよ。」
「だから、何を!?ほのかの何に遠慮してるの?」
「男とか女とか意識してないオマエと違うって言ってんだ。・・オレは。」
「・・・・」
「どう言やいいんだ、その・・やましいってのかな。うー・・」
「・・わかんない・・」
「オマエが意識しないですることがオレにはできない。例えば・・」
「・・?」
「頬にさっきみたいに触れるのも・・肌を直接見たりするにしても・・」
「ほのかに触ったり見たりするのに遠慮するってこと?」
「そうだ。」
「しないで、って言っても無理なの?」
「ああ、無理だ。」
「相棒でも・・ダメ?」
「相棒でも友達でも・・なんでも同じだよ。」
「一緒じゃないじゃない!そうでしょ!?ほのかは・・」
「だから呼び方なんかどうでも・・オマエだからだよ。」
「ほのか・・だから?」
「今は友達で、相棒かもしれんが・・ほのかだろ?」
「そ・う・・だけど。」
「どうしたって意識しちまう。」
「ほのか・・なっちとの間になにもないのがいいの。ずっと一緒にいたいんだよ。」
「なくしちまっていいってオマエが望むならいい。けど今のままじゃずっとは無理だ。」
「どして・・?」
「オレはオマエよか欲が深いんだ。一緒にいるだけじゃ・・足りないんだよ。」
「ほのかなら・・いくらでも・・なんでもあげるよ。それじゃダメ?」
「キスしたり・・しても構わないのか?」
「・・・なっちが?ほのかと!?」
「オマエじゃなきゃ意味ねぇし・・」
「ほのかだから・・そうか・・なっちだからすきなんだよ!かっこいいからとかじゃないもん。」
「は!?なんだそりゃ!?」
「ほのかイヤでたまらなかったの。かっこいいから、賢いから、強いからってすきなんじゃないんだよ。」
「!?オレのこと・言ってんのか?」
「ほのかのことも、かわいいとか、そんなことですきになって欲しくなかったの。だって・・」
「あぁ・・そういう・・心配してたってことかよ?」
「ウン・・・だって皆すぐ・・そんな風に言うの。むかってくるよ・・!」
「アホ・・ヒトの言うこと気にするな。オマエ以外にどんな”可愛い”女がいたって関係ないから。」
「ホントに!?なっちがね、たとえどんなにかっこ悪くったってすきだよっ!!」
「はは・・そりゃ・・オマエしか言いそうにないな。安心した。」
「安心って?」
「どんなオレにも引かないってことなんだろ?」
「ウン。絶対。どんななっちでもすきだから!」
「やっと笑った。」
「へへ・・ちょびっと泣いちゃった。」
「チビでも強情でもバカでわがままでも・・オマエがいいぞ、相棒?」
「ウンッ!!だいすきっ!!ずっと・・相棒だよっ!!」

なっちに思い切り飛びついたら、怪我してたこと忘れてて痛いって顔顰めてた。
ごめんって言ってさっきのお返しにほっぺにキスしてあげた。びっくりさせられたから嬉しい。

「やったあ!なっちが驚いた。ほのかばっかり驚いたら不公平だもん。」
「じゃあオレばっかりだと不公平だよな?我慢するのとか・・」
「遠慮しちゃだめ。なんでも言いなさい。」
「だから言ってるだろ・・・」

やだあ・・なっちはキスしたかったのか。そうか・・それはわかんなくて悪かったかな?
友達じゃなくなるのはイヤなんだけどなってぼやいたら、なっちは嬉しいこと言ってくれた。

「だからなんだって一緒だ。友達でも恋人でも・・要はオマエ一人で足りるってことだろ!?」
「なっちー!?スゴイ男前!惚れ直したかも!」
「かもってなんだよ、惚れ直せよ!」
「ほのかも惚れ直してほしいよう〜!なんかできないかなぁ!?」
「しょうがねぇなぁ・・負けず嫌いめ。毎日惚れ直してるからそれで我慢しろ。」
「・・なっちって・・もしかしてほのかにメロメロ!?」
「今ごろ気付いたのか・・・」


幸せすぎて眩暈がしたよ。だけど相棒の腕は離さなかったの。
もう誰が何を言っても大丈夫。ありがとう、だいすき・・ずっと、ずうっとね。







つまりこれって”盛大なほのかの惚気”って話ですね・・