「大人になる日」 


その日はお母さんといっしょに選んだ着物を着て、
短い髪をなんとかまとめて(美容師さんありがとうv)
ふわふわのショールはお母さんの使ってたのを貰って、
薄くお化粧もしたし、ばっちりの態勢で臨んだのだよ。
少し寒かったけれど、お天気も良くて嬉しかった。

同窓会みたいな会場を出ると、お迎えの人はもう待っていた。

「なっちー!お待たせっ!」

待たされた文句でも言いたげな顔だったのに、何故か返事がない。
あれ?と思い近寄ってみるとぼけっとした顔で私を見つめてた。

「もしもーし、ほのかだよ!どうしたのさ、なっちぃ・・」
「あ、ああ。終わったのか?」
「おかしなこと言ってる・・さては見惚れたな?!」
「バカ言え。行くぞ。」
「なんだ、違うのか。まぁいいや行こっ!」

着物で帯が苦しいのと潰れるのも不安だったので、今日は電車で。
なっちはとっくに免許取ってて、車も持ってるんだけどもね。
せっかくの晴れ着を見せびらかしたい気持ちもちょびっとあった。
腕に掴まって歩くのはいつもと同じだけど、なんだかそわそわ。

「いつもよりゆっくり歩いてくれてるね。ありがとv」
「やっぱ車の方が楽じゃなかったか?」
「そりゃいつもより歩幅は取れないけどさ。大丈夫!」
「正月のと違うんだな。」
「そうなの!迷ったんだよ〜!?一生に一度でしょ、成人式って。」
「まぁ・・そうだな。」
「選ぶときね、お母さんすっごく気合入ってたんだよ、おかしいの。」
「娘の晴れ姿だからな。オマエんとこはオヤジがすごかったんじゃないか?」
「お父さんにどう?って見せたら泣き出しちゃってねぇ?!」
「・・よく今日の外出許可が下りたな。」
「前から言ってあったし。お母さんが宥めてくれてたよ。」
「そうか・・ちょっと気の毒だな・・」
「なっちが今日のほのかを独り占めだよ!?嬉しい?!」
「・・まぁな。」
「えーっ・・それだけ?!頑張って綺麗にしたのに・・」
「正月とは違うなと思ったぞ。」
「でしょでしょ!?ねぇ綺麗って言ってよ〜!」
「・・成功してんじゃねぇか?」
「明後日の方見て言ってるし!」
「中身はいつもと同じなのにな。」
「ん?!微妙に失礼なこと言ってない?」
「いや、別に。」
「むー・・なっちはホントに見た目に動じない人だね。」
「・・・・そうだと思ってたんだが・・」

なんだか少しよそよそしい。気のせいだろうか?気になるな。
密かに大人の女をアピールするぞと意気込んでた分落胆した。
そりゃお正月に着物姿は今までに何度か見せたことがあるよ。
だけど、それよりはずっと大人っぽくしてみたんだけどな・・

「でもいくら見た目変えたって中身はほのかだもんねぇ・・」

意気込んでいた自分を慰めると同時に、謙虚になってみてそう呟いた。
するとずっと目を反らしていたなっちが不思議そうに顔を覗き込んだ。

「どしたの?・・そんなに濃いメイクはしてないよ?」
「いや、そうじゃなく・・」
「・・・?」

目が合うと、また反らされてしまった。なっちはお化粧の濃いのが苦手なの。
だから普段はほとんどしない。今日はしてるけど、なるだけ抑え気味にした。
何がそんなに気になるんだろ?あとはいつもと違うとこってあったかな?
なっちって時々難しい。またややこしいこと考えてるのかな、もしかして。

「あのね、友達もみんな綺麗だったよ!今日。」
「成人式で?」
「そう。なんだか嬉しくなっちゃってね、褒めあいっこした。」
「へぇ・・」
「ほのかはね、いつもより5歳くらい大人に見えるって!どお!?」
「そんなには老けてねぇと思うが。」
「老け・・そうじゃなくって、大人っぽく見えない?ちっとも?」
「そうだな、多少は。」
「はぁ・・そう・・」

ダメだこりゃ、と心の中でぼやいた。だけど仕方ない、なっちだもんね。
いつものほのかが好きなら、大人っぽいのはあまり好きじゃないかもだし。
なのでもう褒められなくてもいいやと気を取り直して尋ねるのを止めた。

「・・ちょっとだけオマエの父親の気持ち・・わかるな。」
「え、何なのいきなり!?」
「嬉しかったんだと思う。けどその分寂しいんだろうな。」
「どうして?」
「そりゃそうだろ?もう子供じゃないって思うのは・・親なら誰でも。」
「そうかなぁ・・?」
「女はそういう風には思わないのか?」
「う・・ん・・子供はいくつになっても子供だと思うよ。」
「そうか、それも間違ってはいないけどな。」

なっちはほのかのお守り的な立場だったからそんなことを感じるのかな?
私、なっちの彼女・・になったはずなんだけど・・自信がぐらつくなぁ。
ち、違うよね!?私・・まさか・・大人になったら捨てられるんじゃあ!?
私が妙な方向に心配して青ざめていると、なっちが驚いたような顔で見た。

「オマエこそどうしたんだその顔!?気分悪いのか?疲れたんなら車を・・」
「ぁ、ウウン、違う違う!だいじょぶだよ。」
「急にどうしたんだよ?」
「はは・・いやその・・まさかほのか大人になったらダメなのかと・・」
「はぁ!?何言ってんだ?!」
「なっちはもしや大人の女がダメで、ほのか捨てられるんじゃないかって。」
「ぷっ!オマエそれ・・本気で心配して・・?」
「笑うことないじゃないか、そう思っちゃったんだよ、ちょびっと。」
「ぷぷ・・・ちゃんと聞いてたか?寂しい分、嬉しいんだぞ?」
「あっそうか。」
「大人にならないと困るじゃねーかよ!?特にオレは。」
「ホント!?大人になってもほのかの傍にいてくれるよね?!」
「・・独り占めさせてくれるんじゃなかったのか?」
「あ・・そか。それって今日の話じゃなくって・・えと・・」
「ああ、そういう意味だよ。」
「そ、そう!?はは・・なんか緊張する・・」
「中身はいつも通りだ。安心した。」
「何笑いを堪えてるの!?やな感じ。」
「期待したんだ。」
「ウン・・嬉しい。」
「オマエがオレに愛想尽かすってこともあるんだぞ?」
「まっさかぁ!それはないない。」
「やれやれだな。」
「心配症だねぇ!でもほのかもさっきちょびっと不安だったからなぁ。」
「そうか。オレのが伝染したか?」
「違うよ。なっちが変わらないから。優しいもん。」
「変わらないと不安なのか?」
「ウン・・ほのかもっとなっちを幸せにしたいんだから。」
「欲張るな!これ以上は・・無理だ。」
「そうかなぁ・・足りないよ。」
「はぁ・・変わらないのはオマエだな、やっぱり。」
「え、そんなぁ・・!」
「子供だなんて思ってない。昔からそうだ。」
「えっ!?えっ!?」
「欲しがらないもんな、オマエは。オレと正反対だ。」
「・・よくわかんないけど、それならいいじゃない。」
「いいのか?」
「いいよ、欲しがってくれたら嬉しいもん!ほのか。」
「なんだかオレは逆に子供に戻ってく気がするな・・」
「子供の頃大人でいすぎたんだよ、だからそれでいいの。」
「甘やかすなぁ・・オマエ。」
「ウン、甘やかしたいの。なっちのこと。いっぱいいっぱい!」
「・・・じゃあこれからも・・よろしく頼む。」
「任せて。ふふ・・なんか大人になった気がする。」
「オレは・・オマエに大人にしてもらってる気がする。」
「どうしてそんなに謙虚なのさ、今日はおかしいよなっち。」
「あんまり・・大人の女みたいだから・・拗ねてんだよ。子供だな、オレは。」
「!?・・・やったあ!」
「しょうがねぇな。負けを認めてやる。」
「そうじゃないの。大人の女の人って思ってくれたから!頑張ったんだもん。」
「それがそんなに嬉しいことか?」
「嬉しいよ!だってなっちだけ大人じゃダメだもの。いっしょに行くんだもの。」
「・・・何処へ・・」
「何処へでも。」
「そうか、任せろ。連れてくから。」
「そうそう、お兄さん、わかってきたね?!」
「どうせもう・・離すつもりなんかねぇから。」

ほのかが差し出した手を握ってくれた。そうなの、大人になるのはね・・
なっちと何処へでもいつまでもいっしょにいるためだよ。嬉しいな。
あぁそうか、なっちは・・なっちも嬉しかったのか。今わかったよ。
待っていてくれたんだね、ほのかのことを。ずっと、ずうっと前から?

「ねぇ、愛してる。」
「・・・知ってる。」
「ねぇ、愛してる?」
「知ってるだろ?!」

幸せにしてあげるよ。そうすればいつまでも二人とも幸せだから。
大人になるのを待っててくれて、ありがとう。幸せをありがとう。
お父さん、お母さん、お兄ちゃん、ありがとう。ほのか幸せだよ。
どうかこれからも・・見守っていてね。この人と生きるほのかのことも。







「成人の日」お迎えの方々、おめでとうございます。