「お芝居は楽し」 


「お前か!アイツに昔のカンフー映画とか見せたのは!」
「え?いやいや僕は知らないよ。・・お父さんかなぁ?」

藪から棒に殴りかかられてしまった。(危機一髪ってヤツだ;)
どうして親友だと思ってる彼は僕に対していつも好戦的なんだろう。
好敵手と見られてるんだと美羽さんが言ってくれるからそう理解しておこう。
しかし毎回冷や冷やさせられるんだ。なんせその・・殺気まで感じるんでね?

「ほのかにアクションしてくれとでもせがまれたとか?」
「そんな生易しいことじゃねぇ!芝居だ、芝居しろと。」
「はい?・・君の得意分野だと思ったからかな?!」

ほのかの周りの女子たちには相手にされなかったそうで(そりゃそうだ)
学校の演劇部の数人とたまたま話が合って盛り上がり、脚本を拵えたそうだ。
見せてもらったが、どうやらよくある話の寄せ集めのような印象だった。

「わりとよく繋げてあるんじゃない?オリジナリティは皆無だけど。」
「勝手にキャスティングして衣装まで・・悪乗りしてやがるんだよ!」
「フンフン、それで?」
「主役はお前だそうだがホントにお前の差し金じゃねぇってのか!?」
「ぇえっ僕!?いやいやいや聞いてない!今が初耳だよ、そんなの!」

「しょうがねぇな・・オレ様がいないとちっとも話が進まないようだ・・」
「新島!?」

どうやら新島がその情報を拾って話を拡大したらしい。やれやれ・・
どうせ何か悪いことに利用しようとしてるに違いない。困った奴だ。
けど美羽さんがなにやらとても嬉しそうなので・・・たまにはいいか!

「私にも出番があるのですってvとっても楽しそうですわね!?」
「美羽さんにぴったりですよね、強いヒロインなんて。」

ほのかは短いチャイナ服風で子供っぽさが強調されているが夏くんは渋い顔。
面白がって新白の皆もあれやこれやとキャストに借り出されて喜んでいるみたいだ。
要するに夏くん一人だけが不愉快極まりないといった表情でぶすっとしているのだ。
相手が悪かったよ夏くん。洗脳まで特技に入っている新島に見つかったのが運の尽きさ。

主人公は僕、意外にもヒロインは美羽さん。ほのかは僕の妹役だ。(そのまんまだ)
悪の組織の幹部は他にいないというか新島。雇われ者の凄腕が夏くんという配役。
というか・・どっかで見たような設定じゃない?これって・・・

「わーい!ほのかなっちにさらわれるんだじょ〜!!」
「人質にされるのを喜んでどうするんだよ、ほのか。」
「たまには悪者のなっちが懐かしいというかさ?」
「おいおい・・問題発言だぞ・・;」

詳しい芝居の内容はここでは省くけど、結果だけ伝えると・・見事な失敗だった。
新島は撮影してDVD化し、連合の資金源にする算段だったらしいから怒っていた。

「でも少しですが楽しかったですわv 兼一さんもかっこよかったですし!」
「ええ、一応途中までは台本通りでしたよね。美羽さんも素敵でしたよ!?」

僕は美羽さんが楽しかったと言ってるから良しとするよ。
ところでどうして途中で頓挫したかというと、夏くんが切れたからだ。
ほのかの衣装がどうとか役がどうとか色々と言ってたけど・・よくわからなかった。
とにかく”これ以上やってられるか!ほのかっ帰るぞ!”と夏くんはほのかを連れ去った。
当然監督兼悪役の新島は引き止めようとしたが一撃でダウンした。懲りない奴だよ。

「そんなに夏くんが怒ることあったかなと思うんだけどね・・?」
「どうやらほのかちゃんが居ると谷本さんはお芝居どころではないようですわねv」

そう言って美羽さんは笑った。よくわからないけど、それはきっとそうなんだろう。





「なっちー・・まだ怒ってるの〜?もういいじゃんかぁ!」
「さっさとその衣装を脱げと言ってるだろう。むかつく。」
「いかんよ、今時の若者はすぐに”むかつく”って。それは修行が足りんせいじゃよ。」
「もう芝居なんか要らん。ってかオマエそれ誰のつもりなんだよ?」
「なっちかっこよかったのになぁ・・ほのかさらわれちゃったね、またっていうかまたまた?」
「さらってない。アホらしくて付き合いきれねぇから連れて帰っただけだ。」
「ほへ〜・・ところでさ、これがお芝居の続きだったらほのか今頃なんかされてんの?!」
「は?・・危ないこと言ってんなよ、なんかってなんだよ!?」
「ほのかは生憎美女設定じゃないからいやらしいことはされないの?」
「いっ・・何を期待してんだオマエはっ!!」
「会長が期待しとけって帰るとき言ってた。後で報告もしないといけないんだじょ。」
「あのヤロウ・・・ぶっ殺す!今度こそ確実に息の根を止めてやるぜ・・」
「おおっ悪者っぽい!かっこいー!やい、悪者めお兄ちゃんに成敗されちゃうぞ!?」
「兄貴は来ないぞ。それと芝居はもうやめろ。」
「ツマンナイなぁ・・ちょっとくらい襲ってみたまえよ?」
「ガキなんか襲う趣味ねえっ!」
「美羽だったら?襲う?イヤだなぁ・・それは。」
「襲うわけあるか!オレをなんだと思ってる。とにかくその服を早く脱げ!」
「え〜!なんでなんで〜!?足しか見えてないよ?普通じゃないか〜!?」
「ま・丸見えじゃねぇかよ、横とか・・オマエちゃんと・・穿いてるんだろうな?」
「あぁ、初めほのかTバックは苦手だからノーパンにしようかと思ったんだけどね?」
「なっなんだと・・!?」
「穿いておいた方がいいって美羽が言うからそうした。」
「そっそうか。初めて風林寺に感謝するぞ。」
「でもやっぱり着替えようかな。・・あっ!」
「どうした?!」
「・・・普通のぱんつ忘れた・・・あと着替えもあそこに置いてきちゃった。」
「・・んだとぉ〜!?」
「しょうがないや。このまんまで許して?」
「あああああ・・・頼むから乗っかったりするなよ!それとオレに必要以上に近づくな!」
「へ、なんで?」
「なんでもいいから!」
「そう言われると逆にしたくなってしまうのだよ。」
「アホなこと言ってんじゃねぇ!なっ、イイ子だから。」
「変なの。んじゃあ・・オセロでもするー?」
「そうだな。今日のところはそういう大人しいゲームを・・」
「用意してくるねー!」
「はっ待て!向かい合うと・・オマエ今日は正座してやれ。」
「正座〜!?ヤダよ。なんでソファーで正座なんかすんの?」
「やっぱオセロは今度にしよう。腹減らないか?何か作ってやるぞ。」
「ウウン、オセロするんだ。オヤツは後。」
「・・・いつもみたいに立てひざしたり・・間違っても脚を開くなよ?」
「あ、なんだそうか!なっちってばヤラシイな〜!?しないよ。」
「そうだよな?いくらオマエでもそこまでは・・」
「ウンvでもうっかり忘れて見えちゃってもなっちならいいよ。」
「忘れるなあっ!!」


後日ほのかに聞いたところによると、そんな感じで夏くんは挙動不審だったらしい。
新島へは何も言うなと釘を刺されたらしいが、オセロの件だけは伝わったみたいで・・
どういうわけかしばらく新白の面々に「タイヘンだったね〜!?」と声を掛けられたり
新島に「正真正銘のむっつりだな、お前は。」とか言われてものすごく怒っていたよ。

「それにしても谷本さんお気の毒ですわ。」
「そうですね。でもある意味自業自得なんじゃ・・?」
「あのときもほのかちゃんが暴れる度にハラハラしてらっしゃったんですわ。」
「ほのかのことなんて誰もそれほど見てないと思うんだけどね。」
「可愛くて仕方無いんですわ、ほのかちゃんのことが。」
「皆笑ってましたから、それはちょっと僕も可哀想かな〜って思いました。」
「武田さんなんて笑いを堪え切れなくてむせていらしたですわ。」
「ははは」
「ふふふ」


しばらくして皆の薄笑いが治まった頃、ようやく僕も声を掛けることに成功した。

「やあ夏くん。今日はほのかとお出かけ?」
「・・・なんか用か。」
「そんなに凄まなくても・・;えっと・・楽しんできてね?」
「・・妹にもう少し”慎み”ってもんを教えとけ、バカ兄。」
「え?また何か・・アイツはしたないことでも?」
「・・・最近は妙なドラマの影響でオレを誘惑するんだが。」
「へえ、なんだろう?僕は知らないなぁ、ドラマとか見ないし。」
「間違っても女優にだけはなるなと言っとけよ!わかったな!」
「女優・・そんな才能・・欠片もあるとは思えないけど言っておくよ。」
「フンっ」

行っちゃった。けどあれって・・ほのかが”女優”にでも見えるってことかなぁ・・?
怖ろしい・・夏くんの目は大丈夫・・っていうかかなりおかしいんじゃないかな。
悪いけどね、ほのかは芝居なんかできないよ。昔から役に付いた試しがないしね。
一体アイツどんな風に彼を誘惑してるんだ。気になってきたな・・今度尋ねてみよう。

「あっお兄ちゃ〜ん!なっち知らない!?」
「あれ、ほのか!彼ならさっき帰ったぞ。」
「なんとすれ違い!ドラマだね!?」
「お前最近ドラマなんか見てるのか?」
「え?ウウン。別に・・途中で寝ちゃうからドラマ無理。映画も。」
「あれ?おかしいな。夏くんがお前が何かにかぶれてて困るってグチってたぞ。」
「グチ?はて・・?」
「”女優にだけはなるな”って言ってたし。」
「・・・ふーん・・あ、一回だけ言った。女優さんになってみたいって。」
「それだ。どうしてそんなこと言ったんだい?」
「なっちと共演して大恋愛とか大失恋とか体験してみたいって。」
「なるほど。」
「絶対ダメって言われたけどね。」
「そうみたいだな。」
「なっち以外の人ともしないといけないからダメなんだって。」
「・・・・あ、うん・・そう。」
「だからね、なっちだけの女優さんになるー!って言った。」
「・・・ほのか。」
「なぁに?」
「それって・・いや・・」
「なんなの?変なの。あっなっちからメールだ。」

ほのかは夏くんの元へと行ってしまった。兄は少々寂しいが少し嬉しい。

「兼一さん。ここでしたの!一緒に帰りましょう。」
「あ、美羽さん。探しました?ごめんなさい。」
「どうされました?なんだか嬉しそうですわね?」
「えっ・・そうですね。なんだか嬉しい気がします。」
「それは良かったですわ。」
「そうだ、美羽さんは以前ジュリエットを好演してましたけど、女優さんにはならないでくださいね。」
「え?ええ・・女優さんにはなる予定ございませんわ。」
「良かった。僕ってね、結構ヤキモチ妬きなんですよ。」
「ま・まぁっ!?いやだ・・兼一さんったら・・//////」
「どうやら夏くんも相当・・負けそうなくらいですけどね。」
「あら・・そうですの?」
「わかるでしょ?ほのかのこととか見てると。」
「ええ、そうですわね。ふふ・・」
「けどなんだか嬉しいと思ったのはね、同じ気持ちだってことより・・」
「・・?」
「彼がほのかに対して何も隠さずに素のままでいてくれてるってことです。」
「・・ええ、それがお二人の素敵なところです。」
「ずっと仲良くしていてほしいです。僕も美羽さんとずっと・・」
「か、帰りましょうか。少し・・ゆっくり歩いて。」
「はい!」

お芝居はとても楽しい。色んな人生を演じる、それは僕たち人間の夢が詰まっているからかな。
だけどそれを楽しむことも素晴しいけど・・在りのままを生きることが僕は素晴しいと思うんだ。
格好良くて皆からちやほやされてる夏くんより、ほのかに振り回されてる彼が微笑ましいように。

”確かに好きな女の子はどんな女優にも負けないよね!夏くん”







兼一視点って難しいです。臭いこと言い出しそうでハラハラしました。(笑)
なんせ兼一とほのかって・・兄妹揃って最強天然たらし要素あるもん!^^