On your mark! 


 
友人達には「絶対イケル」と太鼓判を貰った服に
新色のグロスにママに強請ったフレグランス 
頭から靴まで全部新品とまではいかなかったが
とにかく頑張ったのだ、それはもう本気で。
だからこんな結果はあんまりだと思う。
「・・・なんで?」 
「その格好で外出は無しだ。」
「せっかくおしゃれしたのに!」
「駄目なものは駄目だ。」
「ひど〜い・・・」 
ちょっと大人っぽくしてみたかったのは事実で 
年の割に幼い容貌には少々ちぐはぐだったかもしれない。
それにしたって怒ることもないだろうに
グロスまで拭けと言われて意気消沈だ。 
「・・似合ってない?」 
「ない。」 
あっさりした口調なので余計傷ついた。 
「なっつんてどんなのが好きなの?」 
「らしくないと言ったんだ。」 
「かわいいと思ったんだけどなあ・・」 
「ふん」
「はぁ・・」
ほのかは一生懸命の代償に溜息を漏らした。
「じゃあせめてチョコは食べてね?」
「甘いものは苦手だ。」 
「ええっ?!やだ!頑張って作ったんだよ!」 
さすがに可哀想に感じたのか、やっと組んでいた腕を解いて
「・・・わかった。それは食う。」と夏は偉そうに答えた。
ほっとしたほのかは気を取り直してやっと笑顔を見せた。 
「良かったー!お茶いれよう、なっつん。」 
「お茶は俺がいれるから皿でも出しとけ。」
「うんv」
嬉しそうなほのかに視線を送り、夏は台所へ向かった。 
「やれやれ・・」 
お茶の用意をしながら何故あんなに邪険にしたかと自問する。 
下着のような服のせいなのか、いつもと違う香りのせいだったのか、 
ふっくらした唇に乗った知らない色のせいなのだろうかと。 
全てに腹が立ったのだから仕方ないと思う。 
俺の知らないほのかは駄目なんだと結論が出そうになって慌てて否定する。 
「ガキが色気付くなってことだ!」誰も居ないのについ声を荒げてしまう。 
バツの悪い顔で夏は居間へ戻るとほのかは待ちかねたようで 
「なっつん、遅いよ!早く、早くー!」と腕を掴んで引っ張る。 
「こら、こぼれるだろ!今行く。」 
ソファに座らされて目の前にキレイな包みが押し出された。 
「こほん。これなっつんにあげる。ハィ、どうぞ!」 
「・・ああ、さんきゅ」 
誇らしげなほのかの前で包みを解くと小さなチョコが並んでいた。 
「上手に出来たでしょ?!」ときっちり自慢する。 
ひとつ摘んで口に放り込むと意外といけた。 
ほのかは賛辞を期待に満ちた眼で待ち望み、うずうずして落ちつかないようだ。 
「甘い。」 
「当たり前じゃん!違うでしょ、科白が。」 
「誰でも作れるもんなんだな、こういうの。」 
「うもう!それはないでしょ、なっつん!ヒドイよ!!」 
怒るほのかを無視して夏はその他を全部平らげてしまった。 
「ごちそうさん。」 
「ねえ、ねえ・・・意地悪しないでさあ。」 
「何を?」 
「忘れてるよ、なっつん。」 
”美味しかった”とそう言ってやれば良いものを夏は恍けた。 
「お茶が冷めるぞ。飲め。」 
「なっつん!」 
「一応食えるぞ。胃薬は要らなかったな。」
カチンと来たほのかは夏にくってかかった。 
「もう、頑張って作ったのに美味しいって言ってくれないってどういうこと!」 
「せっかくおしゃれして、誘惑だってしたかったのに・・・怒るし・・・」 
ほのかはべそをかきながら夏を悔し紛れにぽかぽか殴りつけた。 
「何が誘惑だよ、似合もしねぇ化粧とかして。」 
「うわ・・もう知らない〜!うえ・・・」 
大きな瞳が滲んでほのかの視界はぼやけた。 
眼を瞑るとぼろっと大粒の涙が零れていくのがわかった。 
「誘惑して、成功したらどうするつもりだよ。」             
ふいに身体が浮いた感覚にはっとして眼を開けると夏の顔が近くて驚く。 
ソファに押し倒されていることにも気付いたがほのかは声も出ない。 
「チョコと一緒に食われちまって良いってことなのか?」 
夏が言ってることがなんとなくわかるとほのかは急に胸が騒ぎ出した。
「なっつん?」そっと声を出してみると情けない声音だった。 
夏の脚が両足の間に入り込んでいて身動きがとれないことにも焦った。 
ほのかが怯えているのがわかると夏も脅かすのもこれくらいと身を起こそうとした。 
しかし驚いたことにほのかは夏にしがみつくように縋ってきた。 
「おい?!」覗きこんでみるとやはりほのかは泣いていた。 
「悪かった。チョコ旨かったよ。」 
「ひっく・・遅いよ、なっつんは。・・ほのかね・・・」
「なっつんにほのかのことかわいいって思って欲しかったの。」 
「・・・ああ。」 
「好きになってくれないかと思って・・・ひっく」 
「わかったからもう泣くな。」 
ほのかの頭を撫でてやるとほっとしたのか身体が弛緩していった。
「熱いホットチョコいれてやるから、待ってろ。」 
「え?」 
驚いたほのかの目尻の涙を夏はぺろと舌で舐め取ると立ち上って居間を後にした。 
呆然としていたほのかはしばらくして我に返ると顔中を真赤に染めた。 
またどきどきとやかましくなった胸に手を当てて抑える。 
「なんか・・・どうしよう・・・私病気かな・・?」 
火照る身体をぱたぱたと扇いでみるが効果はなかった。

 
夏のいれてくれたチョコは甘くて温かく、美味しかった。
「おいし・・・」ほのかの様子に満足そうな夏が突然ほのかの頬に手を伸ばした。
ほのかは夏の手が触れそうになったとき珍しく赤くなると顔を俯けた。 
「?なんだよ、チョコついてたから・・」つられて夏の頬も赤くなる。
「う、うん。そっか。ありがと、なっつん。」 
「・・・ああ。」 
思いっきり意識しているほのかに夏は途惑う。
”なんだよ、平気でしがみついてきたりするくせに” 
”あれ?どうしたんだろ、私。なっつんの顔見れない・・・” 
妙な沈黙が二人の間に訪れてしまい、赤くなった二人は顔だけ反らし合っていた。 
”なんか、困ったな。間がもたない・・・” 
”なんか話さないと。えっと、えっと〜・・”
ぱっと顔を向けると眼が合ってまた顔を背ける。
「何慌ててんだよ、おまえ。」
「なっつんこそ、何?へんなの!」
ふっと夏が零した苦笑にほのかはやっと調子を取り戻したのか
「なっつん、これ美味しいね。また作って?」
「ああ。おまえしか飲むやつ居ないしな。」
えへへと嬉しそうなほのかにつられて夏はまた微笑んだ。


 
やっと二人はスタートラインに立ったばかりといった感じ。
このバレンタイン・デイが恋人への出発になるのかどうか。
なにはともあれ、


vvv〜Happy sweet valentine〜vvv






バレンタインにまるで間に合わなかった小説をここに!はは・・(++)
よく考えたら私はいつも甘いの書いてるので、今更ねえ?って気もします。
でも一応夏くん誘惑作戦書きたかったので書いてしまいましたよ。
下着みたいなんて夏くんが失礼なこと言ってますが、かわいいキャミソールタイプの
服を想像して書きました。(男は脱がしやすいかどうかは問題あるのでしょうか?)
夏くんはまだほのかたんをどうこうしようとは思ってないです。(今の所は)
もちろん、これからじっくりそう思わせたいとか目論んでますけどね。(にやり☆)