「お姫様になりたい!」 


実はほのかちゃんには一つの野望がある。
なっつんに初めて逢ったとき、お米みたいに背負われたことがある。
とにかくアパチャイより雑に人のことを扱うのだ、なっつんは。
肩車もおんぶもしてもらったことあるけど、とにかく乗っけ方が乱暴。
要するにだね、ほのかちゃんをモノ扱いなのだよ!なんと失礼な。
聞くところによると、ムチプリはあの”お姫様抱っこ”されたことがあるのだ。
誰に?と聞いたら誤魔化していたが、ウソの下手な奴だからすぐにわかった。
なんとなっつんだと言うではないか!?そんなのアリかい!?ずるいのだ!
なんでも冬山で遭難しかかって助けてもらったんだって、ドラマかいー!?
それを聞いて怒ったけど、どうやら一番助けたのはお兄ちゃんだったんだって。
ムチプリのために怪我までしたのだとしんみりとするから許してあげた。
まぁなんだ、お兄ちゃんはカッコイイでしょ!?と自慢も付け加えておいた。
と、それはともかく、ほのかはモノ扱いから卒業したいのだ、わかるかね?
”お姫様”がいきなり無理なら、まずは”女の子”扱いからとしよう。
言っても全然聞こえてないフリをするからオセロで勝った条件にしてみた。

「アホか、オマエは!ちゃんとオレは女子供扱いしてるぞ!」
「女の後の”子供”に入ってるんでしょ!?じゃなくて”女の子扱い”だってば!」
「それのどこがどう違うっていうんだよ!?」
「なんだとー!?ちみはほのかを女だとわかっとらんのかね?」
「・・・男だと思った覚えねぇけど?」
「むっきーっ!そういう意味じゃないよ!くやしい〜〜〜!!」
「何言ってるんだかさっぱりだ。女扱いされたかったらそれらしくしろ。」
「してるじゃん。どこが足りないのさ?」
「あのなぁ・・オレんちでだらしない格好とかしてんのはどこのどいつだ。」
「え、そお?・・・ほのかだらしないかい?!」
「モノ食ったら腹出して寝転がるし、躊躇無くどこでも脱ぐし、立膝したり・・」
「う、う〜〜〜む!?・・・言われてみるとお母さんに叱られそうなのだ・・;」
「わかったら気をつけろ。」
「はぁ・・そうか、ほのかとしたことが・・野望には程遠いってことかね。」
「?・・なんだよ、その『野望』って・・・」
「ナイショ。でもこのままじゃ欲求不満が募るばかりだから、一つお願い。」
「なんだよ?!」
「お姫様抱っこしておくれ?」
「・・・なんだそれは・・?」」
「えっ知らないの!?こう・・・横向きに抱き上げるヤツだよ、無知だねぇ!」
「無知だと!?オマエに言われたかねぇな。・・なんでそんなことしたいんだよ?」
「ムチプリにしてあげたんならほのかもしてくれ〜!」
「風林寺・・?いつオレがそんなことしたって?芝居にもそんなの無かったぞ。」
「雪山でだよ、覚えてないの?お兄ちゃんは怪我してて出来なかったんだって言ってたじょ。」
「あぁ!どこからそんな話・・にしてもわからねぇな・・」
「なんで?何がわかんないの?」
「そんなことしたい理由だ。意味がわからん。」

なっつんはボケているわけではなさそうだった。だからほのかは溜息を吐いてしまったよ。
お姫様への道は険しい・・無謀だったかねぇ・・いやいや、ほのか諦めないじょ!

「それにオマエときどき悪さするから、抱き上げたことくらいあるぞ、何度も・・」
「そうだよ。そのたんびにモノみたいに雑に扱うからほのかはそれが不満なのさ。」
「壊れ物じゃあるまいし、オマエだって痛がったりとかしてないじゃねーか。」
「心理的な問題なの。女の子はそういうことに敏感なのだよ!」
「どういうことだ・・・ますますわからねぇ。」
「抱っこするときもっと優しくしてって言ってるんだよお〜!」
「・・・なんでそんな気を遣わないといけねぇんだよ!?」
「くすん・・気を遣わないってのも悪くないけど・・ふえ〜〜〜ん・・・」
「泣くことないだろう!?なんかオレが悪いみたいじゃねーか!」
「ほのかだって難しいこと言ってないよう〜〜!」

ちっともわかってもらえなくて、悲しくなった。わがままなのかなぁ、これって・・
どっちにしてもあんまり困らせてちゃ可哀想かなと思ってあきらめかけてた・・・ら、
なっつんが抱き上げてくれたの。いつもよりちょびっと優しく!!
嬉しくなってなっつんの首にしがみついた。感動だ・・神さまありがとう〜!
しばらく幸せをかみ締めてたら、「おい、んで・・・どうすんだよ?」と聞かれた。
「え?もうお願いいっこ叶ったから、もういいよ。なっつんありがとう!」
「・・・こんな意味もなく抱き上げられたいもんなのか?女って。」
「意味って?・・・抱っこするのに他になにか目的ある?」
「こっちが聞いてんだよ。」
「んとね、『特別扱い』されてるのがウレシイんだよ?」
「へぇ・・?」
「して欲しい相手は限られるけどね。」
「オマエの場合、オレなのか?どういう基準だ?」
「えっそんなこと・・言えないよ!」
「だいたいオマエの言う『女扱い』ってのがよくわからねぇ。」
「ちみはまだそっちの修行が足りないじょ。仕方ない、ほのかが教えてあげるよ。」
「オマエがね・・」
「なんだいその嫌そうな顔は。他の女に教わったら承知しないじょ!?」
「んなこと聞きたくも知りたくもねぇよ。」
「やれやれ・・・ほのか頑張るよ、こっりゃもう長期戦だね。」
「別に教えてくれなくていいけどな。オレは男だからわからんでも・・」
「そんなこと言わないで努力しないとダメ!」
「・・なんか・・・納得いかないぞ?」

なっつんは「理不尽だ」とかなんとかぶつぶつ文句言ってる。やだねぇ・・
でもそんなとこもカワイイと思えるから女ってのは確かに厄介かもしれない。
いつかお姫様みたいに大切に扱われることを夢見ていけないことなんかないよね。
なっつんのお姫様になりたいんだよ。そこんとこわかってないんだなぁ。
なっつんのほっぺにチュッてしてみた。ふはは・・照れてる照れてるー!

「もう下ろすぞ?」なっつんはほのかを上目遣いで睨みながらソファに座らせてくれた。
「ウン。気持ちよかったのだ・・・!」
「ふん・・・お姫様のご機嫌取りは疲れるぜ。」
「ほえっ!?今なっつんなんてった!?」
「は・・?何食いついてんだ?!」
「ほのかってお姫様扱いされてたの!?」
「??・・『お姫様』か、なんか知らんがそれに拘ってるんだな。」
「ほのかってもう既になっつんの『特別』だったてこと!?そんなぁ!!」
「なんなんだよ、一体・・・!?」
「はぁ、そうだったのか。知らなかった。そうするとほのかの野望は叶ってたの?!」

腕を組んで考え込んだ。でもちっともそんな風に感じられなかったんだけど・・!?
悩んでいたら、「オヤツでも食うか。もう3時だぞ。」と言われて悩むのは中止した。

「特別だけど、子供扱いなんだね?やっぱりちょっとほのかの野望とは違うや。」
「ごちゃごちゃうるせぇなぁ・・オレはそんなことどうだっていいぞ。」
「う〜む・・・難しい問題なのだ。」
「しょうもないことに頭使うな。もっと有益なことを考えろよ。」
「すごく重要なんだけどな、女の子にとっては。」
「あっそ・・」

オヤツを食べて満足したけどお腹出して寝転ばなかった。ちゃんとお行儀よくしたよ。
女らしくしてればいいのかな?・・・なーんか違う気がするけどよくわかんない。
ほのかもよくわかんないのになっつんに厳しく言いすぎたかな、と反省した。

「きっとなっつんてちょっと変ってるんだよ。」
「オマエも相当ヘンだと自覚してるか?」
「女の子は大事にしないとって教わらなかったんだね。」
「悪かったな。オレは普通の家の子じゃなかったんでね。」
「ウン、ほのかが悪かったよ。これからこれから!」
「なに教える気満々になってんだ・・・」
「ぼちぼちいくから心配しないでいいよ、なっつん。」
「・・・・・はぁ〜〜〜〜・・・」

溜息吐かれちゃった。でももうさっきみたいにがっかりしてないよ。
ほのかはなっつんの『特別』らしいからね。ほのかの思うのとはちょっと違ったけど、
基本はおっけーだから満足なのだ。そうだよね、なっつんは乱暴だけど優しいもん。

「お姫様ねぇ・・何がそんなにいいんだか・・?」

なっつんが漏らした台詞を聞き逃さなかった。だから早速教えてあげたの。

「王子様に愛されるじゃない、大抵。」

なっつんが目を丸くした。そんなに意外なことだったのかな?
間違えてないよね、お姫様は王子様と結ばれて幸せになるんだよ、だから憧れるの。
つまりダイスキな人に自分のこと好きになってもらいたいってことだよね。
そう思ったら・・・・急に恥ずかしくなった。あれ、ってことはぁ・・・ほのかって
なっつんに好きになって欲しいって・・・こと・・・を今言っちゃったの、かな?
ばらしちゃダメじゃないか、ほのかったら!?なっつん今のわかったかな・・?
おそるおそるなっつんの顔をうかがってみた。胸がどきどきしてきちゃったよ。

なっつんは困ったような顔をしてほのかを見てた。そして目が合うと顔を背けた。

「ふ、ふん・・やっぱ何言ってるかわかんねぇな!」

顔を背けたまま明後日の方向になっつんがそう言った。なんとなく顔赤かったような・・
ほのかはそのことを確かめなかった。気付かないフリしてくれたのかと思って。
なんとなく居心地が悪くなってついほのかも言っちゃった・・

「わ、わかんなくていいよ!・・ナイショなんだから!!」

なっつんがまた驚いた顔をしてけど、その後ほんの少し目を細めるのが目に映った。
”あれ?・・今・・なっつん・・・笑った!?”
どういう意味だろう・・わかんない。だけど胸がもっとどきどきしてきたよ。
だからなんだか自分勝手だなぁって思うけど・・・もう少し子ども扱いでもいいかも?
・・・・なんて・・思っちゃった。野望がかすんでしまったみたいだよ、どうしよ。
でもね、それでもいいかなって。ほのかは今大切にされた気がして胸が一杯だったんだ・・
だからほのかもこっそり笑顔。心の中で”なっつん、ありがとう”ってお礼を言った。








雪山の話というのはジェイハンとの死闘の際のエピソードです。
そんときに谷本くんが熱を出した美羽ちゃん抱えたことあるのです。
そのときの書きかけを完成させてみました。(^^)