あかずきんとおおかみ


これは世に有名な赤頭巾とは別のお話です。とある森の中、道草食ってる女の子。
赤い頭巾を被って鼻歌なぞ謡いながら、花を摘んでおります。呑気そうな少女です。
そこへ女の子と比べてかなり大柄でおおかみのような尻尾と耳をした男が現れました。

「あっ!こんにちは。えっと〜?おおかみさん!?」
「・・人間の子供がこんなとこで何してるんだ?」
「お使いの途中だよ。おおかみさんは?」
「怖がらないのな、オマエ・・」
「どうして?おおかみって本当に人間を食べる?ほのかのこと食べに来たの?!」
「食わねぇよ。オマエって時々見かける人間とは随分違ってるみたいだな。」
「そお?ほのかだよ。ヨロシクね!君はなんて言うの?」
「名前なんか名乗る必要あるか?」
「呼びにくいもん!必要あるよ。なんて呼ぶ?おおちゃん?おっくん?おおじろー!?」
「なんだそれ!?オレは”なつ”だ。変な呼び方をするな!」
「ほいじゃ”なっつん”ね。とりあえず。」
「とりあえずってなんだ!?とりあえずで呼ぶなよ!」
「もっとごーじゃすなのがいい?な・な・な〜・・・?」
「いやもういい。やめろ。最初のでいい。」
「最初ってなんだっけ?おっくん?!いやなっつんか!」

「オマエこんなとこに住んでるのか?人里とは離れてるだろ?」
「うん。この先に一人暮らししてるおじいちゃんとこへ行くの。」
「へぇ・・一人で。珍しいな。人間って群れで暮らすんだろ?」
「良く知ってるね。おじいちゃん人が嫌いなんだ。あ、ほのかは別だよ。」
「変わってんだな。オマエと一緒で。」
「ほのかだってば。んで?なっつんは?初めて会ったけど。」
「オレは・・独り立ちしたんで、適当なねぐらを探してたんだよ。」
「群れから離れたの?なんで?」
「餌が取れるようになった雄は群れから出なきゃならない決まりだ。」
「ふーん。大変だね。じゃあさ、この辺に住みなよ。で、ほのかと友達になって!?」
「友達だ!?・・・オレおおかみなんだけど・・?」
「いいじゃないか、おおかみでも。一緒に遊ぼ。」
「遊ぶって・・・どういうことするんだ?」

そうやって知り合いになったおおかみとあかずきんのほのかはそれから毎日一緒に遊びました。
初めて出会ったお花畑で待ち合わせをするのが日課になって、すっかり仲良くなったのです。
そんな日々を過ごしていたある日のこと。

「ほらできた!なっつんに掛けてあげるね。」
「花で輪っかなんて作って何するのかと思ったら・・そういうもんか。」
「わーv似合うね、なっつん。可愛いよ!」
「はぁ・・」

大きな為りのおおかみはあかずきんのほのかの前で膝を付いて大人しくしていました。
知らない人が見たらきっと驚くでしょう。おおかみを飼いならしたようにも見えるので。
実際はそうではなくて、おおかみがあかずきんのことをダイスキになったから大人しいのです。
それはおおかみにとって同じおおかみ同士の間でも今までに抱いたことのない気持ちでした。
あかずきんがすることには逆らえないし、笑っていて欲しくてたまりません。それに・・・
どういうわけだか、お腹が空いてもいないのにぱくりと齧りつきたいような気がします。
そんなことをして驚かせたり、怖がらせたくないのでしないのですが、近づくと胸がむずむずしました。
じっと見ているとなんだかとっても美味しそうに見えたりもして、おおかみは大変困りました。
人間は彼らの捕食対象ではないというのに、どうしたことかとおおかみは首を捻るのです。
そしてあかずきんがよく彼にこしらえてくれる妙な食べ物をもらって食べたりもしました。
どうやらあかずきんはあまり料理が得意でないらしく、見た目も味もかなり難があったのですが、
おおかみは味などどうでもよかったようで、いつも全部キレイにそれらを食べてやりました。
何故なら、そうするとあかずきんがとても喜ぶからです。嬉しそうな様子が見たいからなのでした。
うまそうなのはあかずきんの方だと思っていましたが、それはなんとなく内緒にしていました。

「なっつんの尻尾はふさふさしてていいね〜!?触ってもいい?」
「いいけど、尻尾なんか触ってどうすんだ?」
「だって気持ちよさそうなんだもの・・わっやっぱりやわらかーい!!」

おおかみが尻尾をぱたぱたと動かしてやると、あかずきんは子猫がじゃれるようにそれを追いかけました。
きゃっきゃっと声まで上げて、夢中に追いかけています。そんなところも”可愛い”とおおかみは思いました。
”可愛い”はあかずきんに教わった気持ちでした。むずむずして嬉しくてちょっとくすぐったいような・・・
そしてその言葉はあかずきんのどこにでも当てはまってしまい、おおかみはこっそりと感心しました。
”可愛いなあ・・どこもかしこも。何してたって可愛くないとこが見つからないぞ?”・・だなんて。

「ほのかは・・これからもこの森に来るのか?大人になっても。」
「おじいちゃんがお酒好きでね。お届けするのが日課なの。だからずっと来るよ。」
「そうか・・・けど、大人になったらオマエもその・・誰かと番になるのか?」
「番ってなに?」
「だから・・雄とさ、子供作ったりするのか?」
「ふうふって意味かな?さあ?!お嫁にもらってくれそうな人この辺にはいないから・・」
「じゃあ大人になったらどこかへ探しに行くのか?!オレたちみたいに。」
「なっつんも・・大人になったらお嫁さん探しに行くの?・・ここからいなくなる!?」
「それは・・・」
「そんなのヤダ。ねぇ、なっつんとはお友達になったんだもん。ここに居てくれるよね!?」
「オレも・・そうしたいけど・・オマエが誰かとふうふってやつになるのを見るのは嫌だ。」
「お嫁に行かない。ほのかここにいるから。でも・・なっつんもお嫁さん・・いつか探さないとダメだよね・・」
「・・・オレはオマエがどこにも行くなって言うならここにいる。」
「そうだ!?いいこと考えた。ほのかがなっつんのお嫁さんになってあげる!」
「えっ!?そ・・そんなこと・・できるのか・・?!」
「わかんないけど。おじいちゃんに相談してみる。きっと助けてくれるよ。」
「けど、そんなことしたらオマエが人間から嫌われたり除け者にされるんじゃないか?」
「大丈夫。ほのかの家族がわかってくれたら後は嫌われても除け者にされてもどうにかなるよ。」
「どうにかって・・」
「ほのかとなっつんが仲良く暮らしていたら、そのうちわかってもらえるんじゃない?」
「どうなんだろうな・・?」
「いいじゃない、細かいことは。ほのかはなっつんが大好きだもの。」
「オレは・・オレも・・いやきっとオレの方がたくさん”すき”だぞ。」
「ホント!?すごい。両手広げてこれくらい?」
「もっとだ。」
「えー!?じゃあなっつんの背の高さくらい?」
「もっともっと。」
「えへへ・・えーとじゃあ・・・この森の広さくらい!?」
「足りない。もっとだ。」
「すごいすごい!でもほのかだって負けないよ。ぐるっと世界一周するくらい好きだもん!」
「そんならオレは何周でもする。」
「ははっなっつんて負けず嫌いだねっ!?」
「そうじゃない。ホントのことだ。」
「そ、そう・・かぁ・・なんかどきどきしてきた。」
「顔赤いぞ?大丈夫か!?」
「君のせいだよ。もう・・」
「?・・オレの?まさかオレのこと・・嫌いになったのか?」
「全然。違うよ、反対!」
「!?・・あ、熱・・!」
「そうそう、そんな感じ。それで顔が赤くなったんだよ、ほのか。」
「そうか。じゃあ・・いいんじゃねぇか。」
「そうだよ。嬉しいの。」
「そりゃ・・よかった。」

あかずきんはおおかみの大きな手を取って、胸の前で祈るように自分の両手で包み込みました。
そんなことをされて、おおかみは慌てました。あかずきんの手は小さいけれどとてもやわらかで、
その触れられた自分の手と心臓がどくんどくんと鳴るようでした。顔どころか体中が熱くなって。

「なっつん。ありがとう!これからもずっと一緒にいてね?」
「う・うん。わかった。ずっと一緒にいる。
「約束だよ。」
「約束だ。」

おおかみがうなずいてくれるのを見て、あかずきんは幸せそうに微笑みました。
その顔があんまりキレイで、”可愛い”過ぎて、おおかみは目が舞うような気がしました。
むずむずして嬉しくて、心臓はうるさいけど、それもなんだか心地良くなってきて・・

「・・ほのかのこと・・食ったりしないけど・・またすごくそんなような気になっちまった。」
「え?!食べないで?!お腹空いたの?」
「違うんだ。そうじゃなくて・・なんでかオマエのこと見てると・・もっと近づきたくて・・」
「くっつきたいの?いいよ。」
「そういうんじゃ・・いやそれもしたいかな・・?」
「一つだけほのか知ってる。おおかみさん、目を瞑ってくれる?」
「目を?・・・こうか?」

素直に目蓋を下ろしたおおかみにあかずきんはそうっと顔を近づけると・・キスをしました。
驚いて目を開けると真っ赤になっているあかずきんが見えました。目が合うと俯いてしまいました。
あかずきんの顔がよく見えなくて残念に感じたおおかみは、さっきの感触をもう一度確かめたくなりました。
それであかずきんがさっきしたのに倣って、「目を閉じてくれ?」と頼んでみました。
するとびっくりしたあかずきんは俯いていた赤い顔を再びおおかみに向けてくれました。
その顔を捕まえて、おおかみはゆっくりと顔を近づけ、「目、閉じなくていいのか?」と小さく尋ね、
「あ・え・・っと・・」と困ったようにしながらも目蓋を下ろしたあかずきんに今度はおおかみがキスをして。
ちょっと違ったのは、おおかみは触れているのがとても気持ちよかったので、さっきより長かったのです。
ほのかが困ってしまってとうとう唇を離されてしまい、おおかみは寂しいと思いました。けれど、

「そ、そんなの知らないよ。教えてないのにどうして!?」とあかずきんが怒ったようです。
なので慌てておおかみは「長いとダメなのか?もっと・・触れてたかったんだ・・」と零しました。
正直すぎる告白にあかずきんは益々困ってしまい、赤い顔をおおかみの胸に押し付けてしまいました。

「やー・・なんだか熱くて・・かなわないよう!なっつんのおばか。」
「怒ってんのか?どうすりゃいいんだ!?そんなにひっついたら・・」

突然きゅううっと抱きしめられて、あかずきんはまたまた困りました。慌てて離れようとするのですが、
おおかみがそれをゆるしてくれません。どきどきしてそれはおおかみも同じでしたから二人分のどきどきです。

「なっつん・・もどきどきしてるね?」
「あぁ。けど・・こうしていたい。嫌か?」
「ぅ・ううん・・けどもう少し・・ゆるめて?痛くしないで?」
「・・ごめん・・」

あかずきんのお願いにおおかみは従いました。そのお願いがまた”可愛い”のでおおかみは・・
このままこうして朝までだって抱いていたいなと、どうやってお願いしてみようかと悩んだのでした。



これはお互いを好きになってしまったあかずきんとおおかみのお話のほんの少し。
二人はこの後も色々とあるのですが、決まっているのはいつだって大好き同士だということ。
なので大人になればやがて二人で仲良く暮らしていくことになるのです。ずっとずっと末永く・・



※2年ほど前のケンイチオンリーで作った本に掲載したものです
当時の本はもうありませんし、原稿のことも忘れておりましたが;
作ってくれたさぶえさんが見つけて送ってくださいましたvvv
同じ本の再版はしませんので公開させていただきます。ご了承ください。