脳内変換SS 


今年の夏も猛暑らしい。最高気温は日々更新されて
忌々しきことに熱中症患者も増加しているのだろう。
そんな世間を置き去りにしたような平和に満ちた顔が
うだるような暑さの中、彼の前にのんびりと存在していた。

「どうしてちみはアイス食べないのかね?もしやダイエット?!」
「あ〜おいひい!・・むぐむぐ・・欲しいなら素直になりたまえ」
「それにしてもアイスバーは練乳味が最高だよねっ!思わない?」

「・・どーでもいいが食いながらしゃべんなよ。行儀悪ぃ・・」
「垂れてるだろ!べたべたになるぞ・・ったくみっともねぇ。」

夏は不機嫌に眉を顰め、眼の前の呑気面に対してぼやいた。

「ごめんごめん」

ほのかは素直に謝ったが、その表情から自責の念は窺えない。
暑いからプールに連れてけと請われてやってきた夏であるが
相も変らぬ『子守』の立場に多少うんざりしているのだった。

胡乱な目付きを感じたほのかは夏の羽織るパーカを抓むと、
彼の視線の意味を彼女なりに解釈して告げた。

「やせ我慢しないでちみも食べればいいじゃないか!」
「もったいないけど一口齧らせてあげようか?ん?!」

ほのかは大好物の練乳アイスバーから口を離すと夏に向けた。
食べかけの、どろりと溶けかけた白くて甘ったるい匂いのそれに、
悪意で差し出されていないと承知していても夏の眉間の皺は深まる。

「余計なこと考えずにとっとと食え。俺はマジで要らん。」
「え〜・・?!じゃあなんでそんな目でじっと見てるのさ」

確かに不愉快な行動ならば目を反らすということもできるはず。
ほのかが勘違いするのもまるで見当違いとは言えないだろう。
夏の場合、お行儀を指摘はしたもののそこにそれほど重点はあらず、
”目を反らすことができなかった”というのが正直な理由であった。

そもそも目の毒なのはほのかが棒つきアイスを頬張る様だけでもない。
夏は大きくて重い溜息を落とし、ようやく視線を外すことに成功した。

”・・・天然め!・・エロ過ぎんだよ、おまえは・・!”

修行を積んでいる身の上であっても、暑さなどを感じない訳ではない。
耐えるのは得意分野などというと危ない特性のようにも思われるが、
要するに表に出すことをしないだけで、彼は鈍い訳ではないということ。
暑ければ暑いと感じるし、特別な女の子の行動に注視するのも当然で、
それらが気になったり、体が反応してしまうのも自然の摂理の一部だ。


「あわあっ!落ちるっ?!うえ・・ん!っと、ギリセーフ!」
「・・なにやってんだ・・・あ〜あ・・;」
「べとべとになった〜!でも美味しかったー!満足満足v」
「顔と手ぇ洗ってこい。かなりヒドイぞ。」
「うむ・・そうかも。じゃあなっち、ちょっと待っててね。」

ほのかが手洗いへと小走りに遠ざかるのを夏はぼんやりと見送った。
彼の脳に最後の一口をすくい上げて嚥下したほのかが再生される。

”喉鳴らして飲み込みやがって・・・とどめに唇舐め取るとか・・”

見たかったわけではないと夏は一人言訳する。視界に収まってしまったのだと。
こんな人目のある場所で考えることではないと不埒な想像に米神が痛みを覚える。
取り合えずは頭の中をリセットするべく、難解な数式を思い起こそうと試みた。

”あ・・・やべぇ・・何も思い浮かばん・・頭煮立ってんのか?!”

夏が自分の不調に首を傾げている最中、女の子が3名ほど彼に近寄っていた。
水着姿の彼女らはナンパ目的らしい。夏は見た目のみならば格好の標的だ。

「・・○○○!?」
「!!☆☆××!」
「〜〜〜〜!?!?」

”・・なんだこの女共は?・・煩ぇな・・消えろよ、邪魔クセぇ・・”

遠慮なしに話し掛けてくるが、夏の耳には届いていないかのようだった。
煩そうな表情を見せているにも関わらずどんどん彼女達は距離を縮める。
容姿に自信があるのか露出の覆い水着と監視員に注意されそうな厚化粧だ。
夏にとっては問題外もいいところの輩だったが、彼女達に理解しようもない。
無視していた夏にしつこく言い寄っていた一人が彼の腕に手を伸ばしてきた。

「こらあっ!その手を離すのだ!なっちも何ぼけっとしてるのさ!?」

眉を吊り上げ、仁王立ちで怒鳴りつけたのは手洗いから戻ったほのかだ。

「え〜、なになにこの子!?ねェ、アナタの妹かなんか?」
「違うもん!なっちはほのかのなんだぞっ!!退くのだ!」

ほのかの宣言に彼女達はきょとんとするだけで、吹き出す者までいた。
そのことに一層顔を赤くして憤慨するほのかだったが

「戻ったんなら行くぞ。何を怒ってんだ?」夏は涼しい顔でそう言った。

気付くといつの間にか彼女達からすり抜けた夏がほのかの前に立っている。
そのことに彼女達も驚いていたが、ほのかも一瞬目を瞠るとぽかんとなった。
しかし夏は女達の驚きもスルーしたまま、ほのかの腕を掴んで歩き出す。
しばらくして放置されたことに気付いた女子達は「えっマジ!?」「ウソぉ!」
と、不機嫌な声を上げた。どうやら相手にされなかったと理解できたようだ。
彼女達のうちの一人が「このロリコン野郎!」と悔し紛れに吐き捨てていた。


「ちゃんと顔も洗ったのか?」
「うん・・洗ったけど・・なっち、あの子たちは?」
「・・なんか煩いのがたかってたな。」
「たかっ・・虫みたいに言うでないよ、わりと綺麗な子達だったよ?」
「どこがだ・・臭いし、煩いし・・馬鹿そうだった気はするが。」
「ヒドイ・・ちみさぁ・・不思議なんだけど健康な男子だよね?」
「あぁ、それがどうした。」
「・・・ロリコンじゃあ・・ないよね!?」
「ない。」
「そっか、よかった!けど・・・んん?そうすると余計疑問なのだ。」
「何がだ。」
「さっきの子達っておっぱいも大きかったし、色っぽかったと思うんだけど!」
「前に言っただろうが、そういうのはでかけりゃいいってもんじゃないって。」
「だって・・ほのかは羨ましいけどなぁ?ちみとは女のタイプが合わないなぁ」
「おまえが女のタイプとかってどういうことだよ・・」
「なっちってそういえば美羽みたいな美女にも反応ないし・・変だよ。」
「変じゃねぇ、俺は至極まともだ。」
「そおかなぁ・・?!」
「浮気して欲しいのかよ?さっきは怒ってたくせして。」
「浮気ダメ、絶対。ってえっ!?えっ!?浮気って・・」
「・・・あぁ?」
「え、えと・・えーと・・んんん・・あれ?なんか・・」
「また赤くなってるが・・熱は無いな。どうしたんだ?」
「なんだかよくわかんない。体が熱いじょ・・」
「アイス食ったばっかだから冷たいものはしばらく控えろ。」
「そういうことじゃなくってだね!・・ちみってやっぱ変!」
「変じゃねぇ。」
「変だもん。変」
「あんだと、この・・・ど天然!」
「あうわわ!痛いイタイ痛いっ!」

ほのかの頬が夏の指で相当に引っ張られ、悲鳴が上がる。
二人は睨みあってぎゃんぎゃんと言い争う。実にくだらない内容だ。
傍目にはとんだバカの付くカップルだが当人達はかなり真面目であり
夏も人のことばかり言えない天然ぶりでほのかを虐める風でいじっている。


「そもそもなっちはねぇ・・ほのかのこと女の子と思っておるのかね!?」
「女以外にどう思えってんだよ、アホか。」
「それならそれなりの態度ってものを取るべきじゃないかと思うのだよ!」
「そりゃどんな態度だ!?バカは休み休み言っとけよ。」
「バカはなっちだい!ほのかだっていつまでも子どもじゃないんだからね」
「だったらもうちょっと警戒心とか羞恥心とかを覚えるんだな。」
「む〜・・・そしたらほのかのことちゃんと彼女扱いしてくれるのかい?」
「はぁ!?・・ああ、いいぜ。もうちょい年相応になったら考えてやる。」
「えっホントに!?なんと!・・じゃ・・じゃあ、ほのかガンバルっ!!」
「頑張るって何をどうするつもりだ?」
「”けいかいしん”とか”しゅーちしん”とかってどうすればわかるの?」
「アホ過ぎて話しにならん・・はぁ・・」
「意地悪しないで教えてよう!」
「二丁目の角ででも拾ってこい。」
「どこの2丁め?落ちてるもの?」

ほのかの頭にごつんと夏の拳骨が落ちた。またもや痛いと叫ぶほのか。
夏はまだ当分の間それらしい行為は脳内のみだなと呆れ顔で思っていた。
とりあえず天然なほのかのおかげでオカズに事欠かないことは極秘である。







暑いので脳内がおかしなことになっているのはワタシです!
夏さんを脳内妄想犯にしてごめんなさい。誰でもするだろうと思いつつ;
タイトルは適当。(過ぎたか;)ストーリーかだぶるえすと読んでください。