「似たもの同士」


お出かけは大好き。並んで歩くのも、一人で歩くのも。
一人で歩いていると、大抵途中で捕まえられてしまう。

「ちゃんと前見て歩け!あぶねぇな!」とか
「コラ待て。そっちじゃねぇ!」・・とかのオマケが付くけど。

並んで歩くときはほのかからよくなっちの腕にしがみつく。
なっちはよくポケットに手を入れてたりするんだけど
掴りやすくて助かる。もしかしてそうしてくれてるのかな・・?

引っ付いて歩くほのかとなっちは恋人同士にはまず見えない。
ガラスに映った姿にしても、お店の定員さんから見たとしてもね。
でもいいんだよ。皆知らないんだから仕方ないよね、けどね!?
ちゃんとスピードを落としてくれるよ。それにちっとも嫌がらない。
絶対にこっちを見てないようでいて、ほのかが見てないとき見てる。
フンフンと鼻歌を歌うと、こっそり笑ってるんだ。知ってるんだから。

新しい靴で靴擦れして痛いのもすぐばれちゃうし、手当てまでする。
ときどきなんて気の付くダンナさまだろうって感激して言っちゃう。

「誰がダンナだ。アホ!」って怒るくせに顔はそんなに嫌そうじゃない。
ほのかの行きたいとこに連れてってくれて、すごく欲しいものは買ってくれて。
なっちはスゴイと思う。こんな行き届いた人がいたら彼氏いらなくなっちゃう。

「ほのか彼氏いらないや、なっちがいるから。」
「・・・まだ早いぞ、オマエにそういうのは。」
「それじゃあ・・いつ頃でどんな人がいい!?」
「・・・とりあえずオレに勝てる奴が最低条件。」
「なっちより強い人?お兄ちゃんとか達人のおっちゃんたちみたいな?」
「兄と達人を並べるな。それにアニキは彼氏になれねーだろ!」
「あ、そうか。でもさ、なっちより強い人っていうと・・達人以外にいないじゃん。」
「・・・いないこともないが、多くはない。」
「ふぅん・・その条件でいくとほのか彼氏できそうもないね。」
「そんなに欲しいのかよ?」
「なっちがいるからなっちでいいや。」

ものすごく不満そうな顔で睨まれた。ちょっと言い方間違えたかな?

「あ!でも槍月のおっちゃんは!?おっちゃんはなっちより強いよね!?」
「はあっ!?師父!?」
「うーん・・でもいっつもどっか行ってていないしねぇ・・やめとくか。」
「・・じゃなきゃいいってのかよ。オマエの理想とかってどんなのだよ!?」
「理想?えっとねぇ・・なっち!」
「へ!?・・ゴマすってんのかよ。なんでそこでオレなんだ。」
「お料理上手だし、怪我は治してくれるし、どこでも連れてってくれるし・・」
「あーあー・・どうせそんなこったろうさ・・・」
「あとやっぱり優しいもん。だから!」

なっちはまた不思議そうな顔をしてほのかを見た。ふふ・・もしや喜んだ?
優しいって自分では気付かないんだから可愛いよね。ものすごくほのかに優しいのに。

「理想なんてなかったけど、今はなっち。なっちが最高!」
「・・どういう魂胆だよ。何かおごらせたいのか?」
「あっまだあった。ほのかね、なっちの好きなとこまだあったよ!」
「っ・・こっちの話聞いてんのかよ、オマエは・・」
「なっちはね、可愛いの。だからダイスキ!!」
「へー・・・・そう・・・」
「疑ってるね!?あのねぇ、うまく言えないんだけどさ、可愛くって大変!」
「そりゃあ悪かったな。」
「怒らないでよ、悪口じゃないでしょ!?」
「よけい悪い。」
「えっどうして!?何が良くないの?」
「くだらねぇ。とっとと行くぞ。」
「あわわ・・引っ張らないでよう!」

んもうすぐ不機嫌になっちゃって。子供だなぁ・・

「あとはね、ほのかといるとき気取らないでいてくれること。」

ほのかがそう付け足すと、なっちはぴたっと足を止めたから勢いで前のめりになった。
なんなんだろ、今日はどうも歩調が合わないな。見上げるとなっちはほのかを見てた。
じとーっと見てなんか顔に付いてるのかな?!いやまさか。まだ今日は何も食べてないし。
でもなっちを見てると時々お腹が空くんだよね、いつもおいしいもの食べさせてくれるから。
思い出してついにんまりと笑ってしまったらしい。見ていたなっちの目が丸くなった。

「・・・オマエ相手に気取ってどうすんだって話だ。」
「ん?あ、ああさっきの話ね。そうだね、嬉しいよ!」
「嬉しがることか?オマエなんかその・・意識もしてねぇって言われてんのに?」
「いいじゃん。気を遣ったりされないのはいいことでしょ!?」
「あぁ・・そうか。そう・・だな。」

なっちがどういうわけだかがっかりしてるように見えた。何でだろう?
ほのかといるとき緊張なんかしてたら疲れるじゃない?だからいいはず・・なのに。
一瞬寂しそうに感じた顔はまたすぐに元に戻って、視線を外してまた歩き出した。
歩く速度も元通りゆっくりになっていた。なっちは気取らないけど気遣いは忘れない。
いい子なんだよね。お母さんもよくそう言ってくれてなんだか誇らしい気持ちになる。

”ほのかのこと大事にしてくれてるわね。”

そう言われたときも嬉しかった。あんまり嬉しかったので大きく頷いた。

”だからね、ほのかも大事にしてあげたいの!”

お母さんは笑ってた。がんばってね、と言いながら。元気と勇気が湧いたんだ。

「なっち、ほのかなっちと一緒にいるの楽しい。」
「・・オマエ誰とだって仲いいくせして。」
「なっちだけちょっと違うんだよ?」
「へぇ、どこらへんが?」
「あのねぇ・・」

突然足が浮いたみたいでびっくりした。なっちが自転車を避けてくれたんだ。
ちっとも気が付かなかった。路の脇で通り過ぎた風ごとぼんやりと見送った。

「オマエって周り見てないな。いつもオレがいるとは限らないんだぞ。」
「へへ・・だってなっちといるからだもん。」
「オレ?」
「なっちといるとほっとするし、なんだかウキウキしちゃうんだ。」
「まさかそれで周りが見えなくなるとか言うんじゃねぇだろうな・・」
「あ、そんな感じ。」
「バカじゃねぇの。」
「そうか、わかったぞ。ほのかは夏ばかなのだ!!」
「なっ!?」
「可愛すぎて夏ばかになっているのだな、きっと。ウンウン・・!」
「・・・・冗談じゃねぇ・・・」
「ホントだよ。」
「兄妹そろって・・おめでたいというか・・・はぁ・・・」
「お兄ちゃん?お兄ちゃんがどうしたの!?似たようなこと言った?」
「あぁ。しょうもないことばっか言いやがるんだよ、オマエみてぇに。」
「ええ〜!?なんてなんて?教えて、なっち!」
「・・・・だから、しょうもないことだ。」
「教えてくれないの!?なんて言ったのさあっ!?」
「オレが・・オマエのことグチってただけだってのに・・妙に誤解してだな・・;」
「ウンウン?」
「やっぱ、パス。アニキにでも聞きやがれ。」
「なっち、今日のオセロの分はそれにした!」
「うぐ・・」
「お兄ちゃんはなんて?!」
「おまえ・・・」

「その・・・オレのこと・・『ほのかばか』だと・・」

なっちは気まずそうに小さな声で、明後日の方を向いてそう言った。
一体お兄ちゃんに何をグチっていたのかわかんないけど・・そうかあ・・!
それってほのかがなっちを可愛いって思うのと似たようなことなのかな!?
ほのかのことバカだなあって思って、そんな話をしてたのかもしれない。
だけどちっとも嫌な感じはしなかった。それよりなんだか照れくさいや。

「誤解するなよ!オマエのバカなこととか困ったことをだな・・少しばかり」
「ああ、それはいいよ。普段ほのかに直接言ってるようなことなんでしょ?」
「む、そ・う・・だが。」
「それよりそんなにほのかのこと考えてくれてたのかって思って嬉しかった。」
「っ・・それは」
「おあいこだねっ!?」

ほのかがブイサインをしてウインクしたら、なっちはちょっと呆れ顔。だけど・・
ふっと弛んだ口元と瞳は優しく揺れた。知ってるよ、この顔。ほのかのことをね、
”しょうがないな”って思ってるんでしょ。だからほのかも笑って胸を張る。

「つまりなっちもほのかのこと大好きなんだねっ!」

ちょびっと大きな声だったせいか、なっちは慌てて口をふさぎにきた。
顔は真っ赤で、誰もいないのにきょろきょろしちゃって変なの。

「アホっ!!」
「らって・・そう・・もが・・」

いきなり人のこと抱きかかえて走って逃げるから驚いた。なんでだろ?
荷物みたいに持つのやめてくれないなぁと思ったけど、これはこれで楽しい。
なっちのテレやんなとこも好き!と見上げて言ってみたら睨まれた。
可愛いね、なっち。ダイスキさ!ほのかのこともちょびっと可愛いって思ってね。
そんでもって二人しておばかでいようよ。楽しくて幸せだからオッケーだよね!?







さて、困りました。現行でしょうか、甘々でしょうかと。どっちだ!?
どっちでもいいかと思ったんですが、多少夏さんが自覚してそうですし、
ノロケちゃって兼一に突っ込まれているので、数年後ということにします!(笑)