「眠り姫」 



「ねぇどうしてお姫さまにキスするの?」
「そうしたら魔法が解けるからよ?」
「スゴイね!?ほのかもキスする!」
「いつか王子様が現われてからね?」
「王子様にいつ会えるの?お兄ちゃんじゃダメ?」
「そうねぇ・・それはお母さんもわからないわ。」
「会ったらすぐわかる?」
「ええ、きっとこの人だってわかるわよ、ほのか。」



昔話の影響もあるのだろうか?女の子は夢みたりする。
少し大きくなってくると王子様を密かに待っているタイプと、
それはお話の中だけだと諦めるタイプに分かれていくようだ。
それで、ほのかはというと・・・

「ほのか待つのは好きじゃないから待たない。見つけるよ!」であった。

3つ上の兄を慕っていたこともあるが、それを抜きにしても
ほのかはお話のお姫様は助けられるばかりというのが気に入らない。
そうかと思うとお姫様に気付かないで他の人と結婚したりとか、
とにかくどのお話の王子様もお姫様もそれほど好きになれなかった。

普通は王子がどうのこうのではなく、お姫様という立場になりたい、
というのが女の子の期待するところ。ほのかは少し外れていたのだ。
ともあれそんなほのかだから夏の王子様仕様はまるきり興味外だった。


「なんで女のコって王子様が好きなのかね?」
「・・そんなことオレが知るか。」
「好みの問題じゃないって言われるけどさ。」
「知らん。ようはお姫様扱いされたいってことじゃねぇのか?」
「あ、なるほど。・・って、お姫様なんてどこがいいんだろ?」
「こっちが聞きたい。・・オマエは憧れたりしないのか?」
「あんまり・・それにほのかはそんなガラじゃないでしょ?!」
「・・・・あー、確かにオマエは寝て待ってるとかないな!?」
「まぁね。ちゅーされるよりするほうがいい。」
「ぷぷ・・」
「笑うとこかい?」
「いや、いんじゃね?」
「なっちだって王子様なんてゼンゼン似合わないじゃんか。」
「?!・・そうか?」
「ウン。王子様というよりお姫様だね!」
「おいっ!(怒)」
「いたた!だってそんな感じだもん。起こしてあげるよ、ほのかが。」
「へー・・けどオレも寝て待ってるなんてゴメンだぜ?」
「それじゃあ二人とも出会わないねぇ・・どうしよう?」

夏はほのかとそんな他愛もない話をしていた。”もうオレらは出会ってる”
そう言いかけて慌てて呑み込んだ。言葉通りなのだがそう言ってしまうと
まるで自分たちが物語りの主人公で結ばれでもするみたいに感じたからだ。
バカバカしいと思った。ほのかは気にせず他の話題に移ってほっとした。

王子様が似合わない・・そんなことを言われたのは初めてだった。
学校ではそう呼ばれることの多い夏は、その呼ばれ方が好きではなかった。
女が求めてるのは自分に都合の良い召使的な役割の男なんだろうと思う。
呼ばれるたびにうんざりした気分になる。だからほのかの言葉は爽快だった。
お姫様に憧れない女もいるんだと思うと、そこにも好感を持ってしまう。
変な女だ。けどそんなほのかだから一緒にいられるんだろうと思っている。
自然体でいるから肩も凝らず、裏表がないから自分もつい隠さずにいる。
恥ずかしくてとても口に出せないが『出会ってよかった』とも感じていた。


「けど・・好きな女を目覚めさせたいってのはわかるな。」
「え?どーゆーこと?」
「例えばめちゃめちゃ鈍い女なら”気付けよ、ボケ!”って感じだ。」
「なるほど。でもさ、そんな鈍い女ダメじゃないか。」
「好きになっちまったらしょうがねぇだろ?!」
「そうか。そんな場合はほのか気付かせる!」
「どうやって?」
「どう?・・・ちゅーしちゃおうかなぁ?!」
「ふーん・・」
「なっちはニブイ子だった場合どうすんの!?」
「ちゅーはありなのか?」
「なっちのこと好きじゃなかったらかわいそうだけどね。」
「そうだよな。それに相手がまだお子様だったらもっと無理だよなぁ。」
「なっちってお子様好きなの!?やばくないかい、それって。」
「そうじゃなくてだな。オマエみたいに中身がまだ3歳児クラスだったらって。」
「失礼な!誰が3歳児だいっ!?バカにするにもほどがあるじょっ!」
「じゃあオマエいきなりキスなんかされたらどうするんだ?」
「え、誰にさ?」
「例えば・・オレとか?」
「なっち!?ならいいよ。」
「即答かよ!」
「あーでもなっちじゃあね、無理っしょ!ヘタレだから。」
「オマエこそ失礼なヤツだな!オレがヘタレだと!?」
「なっちはそんなことできなくてうじうじ悩むタイプでしょお?!」
「なんでそんなことがわかるんだよ!」
「ほのかちゃんの天才的なカン?ってやつ?」
「ほー・・じゃあ驚いて泣くなよ!」
「んなわけな・・」


「ほげーーーーーーーっ!なななななな・・・なになになに!?」
「耳痛て・・なんつう声出すんだよっ!色気なさすぎだろっ!?」
「ほのかでお試しなんかするなあっ!」
「試したわけじゃねぇ!オレだったらいいんじゃなかったのか?!」
「なっちがちゃんとほのかのこと好きならいいけど!」
「それじゃ問題ないじゃねぇか。」
「あのねぇ、ほのかはなっちが好きだけどっ・・・・・・・え?!」
「なんか文句あるなら言えよ。」
「あ・・あのさ・・?」
「ん?」
「ここで怒ったりしたらほのか自分が3歳児クラスってことかな?」
「それはそうなるな。」
「おう・・・・どうすれば・・いいんだろ?」
「っていうか驚いた次点でばれてるぞ。気付いてなかったってことに。」
「ああっ!そうか・・・なんと・・ほのかとしたことがっ・・・!?」
「ちょっと当てたくらいだから気にするな。」
「気にするよ!ちゅーだよ!?寝て待ってるのよりはいいけどさぁ・・」
「じゃあどんなだったらよかったんだ?」
「・・わかんない。」
「オレは結構前からしたかった。で、待たなくていいみたいだから・・」
「はぁ確かにそう言ったね。待ってるよりって・・あっわかった!」
「何が?」
「待ってるよりするほうがいいって言ったんだよ!だからほのかがする!」
「は!?」
「なっちこっち向いて。」
「え?え?あ・あぁ・・」

「できた!上手?」
「・・オマエの方がしっかりとその・・うん、ごちそうさま・・」
「へへん!してやったのだ。」
「・・・・オレ女じゃなくて良かった。」
「どうして?」
「オマエだからされるのも悪くなったけど・・やっぱするほうがいい。」
「だよね!ウン、だってなんか・・」
「なんか?」
「怖いもん、ちょびっと・・」
「・・・・オマエ・・それはヒキョウだろ・・?!」
「なんで!」
「誘ってんのか?それとも・・いや誘ってるとしか思えないじゃねぇか!」
「ちがうっ!やっぱりなっちは王子様なんかじゃないよ〜!?」
「そんなもんになりたかないし、オマエも好きじゃないんだろ?!」
「王子様は好きじゃないけど・・今ちょっと狼さんになってるよう!」
「あー確かにそのほうがいいな。で、赤頭巾はイヤなのか?」
「食べられちゃうのはやだ!」
「じゃ食わない。食わないから・・」

ほのかの小さな肩が一層縮こまった。夏に抱きしめられたからだ。
しかし次第に肩の力が抜けていくと、ほのかの腕も夏の背に添った。
それが嬉しくて思わず夏がほのかの頬に口付けると小さく悲鳴が上がった。

「たっ食べないって言ったのに!」
「食ってない。ちょっと味見しただけだ。」
「食べる気満々じゃないか!?」
「嬉しいんだからちょっと調子に乗らせろよ。」
「・・嬉しいの?」
「オマエに見抜かれた通りうじうじと悩んで待ってたから。」
「やっぱり!どうして急にしたくなったの?」
「それは・・ヘタレだとかオマエが言うからその・・」
「えー・・?」
「うるさい!」
「ほのかなんにも言ってないのに。」
「フン!」
「あのさ、見つかってよかったね。出会えてさ。」
「確かに二人共待ちぼうけじゃなくて良かった。」
「ウン、やっぱりなっちは王子様かもしれない。」
「え?」
「会えたらこの人だってわかるってお母さんが言ってた。・・わかったもん!」
「・・・まぁオマエなら・・いいぜ?」
「大丈夫、キスしたら魔法は解けるんだよ。王子様でもお姫様でもないのさ。」
「じゃあ・・・今は?」
「なっちとほのかだよ。それ以外の役は二人でキャンセルしちゃおうよ。」
「そいつはいい考えだな。」
「でしょ!?なっち、大好き!」
「もう一回、キスしようぜ。」
「今度は二人いっしょにね?!」

夏とほのかは目を合わせて笑った。そして二人共に目を閉じてトライしてみる。
両想いっていいもんだねとほのかが言った。夏は頷いてもう一度抱きしめた。







どこが”眠り姫”かって怒られそうですが、強いていうなら二人共です。
二人共に王子でお姫様で、眠り姫。さあ目覚めようかって一緒に起きる感じ。
調子に乗りたい夏くんですが、きっとキスしすぎたら怒られると思いますv