「夏とほのか」A


夏が猫のほのかを拾ってから3ヶ月ほど経った。
それまでと180度変って家に帰るのが楽しみになった。
学校から帰るとほのかは飛びついて歓び、興奮して爪を立てた。 
そしてどうして「学校」とかへ行ったりして放っておくのかと抗議を受ける。
「にゃーっ!!」
「イテ・・こら、ほのか!止めろよ。」
そんなやり取りが日課のようになってしまった。
しばらくご機嫌を取ってやり、抱いてやった夏の膝で丸くなるほのか。
そんな毎日が繰り返され、それが当たり前になった頃。
突然ほのかの食欲が無くなり、熱っぽくて落ち着かなくなった。
夏が病気かと心配して獣医を訪ねると「発情期」だと言われた。
一応の対処方は聞いたが夏には少々ショックなことだった。
子猫だとばかり思っていたし、そうだとしても猫はあっという間に成長する。
まだ先のことであろうが、猫の寿命がどれほどかとまで考えた。
いつまでも幸せな時間が続かないことを夏はよく知っていたはずだというのに。
またこの手の中の大事な存在は離れていってしまうのだろうか。
人であれば深く関わらないように気を配れたであろう夏も猫には警戒していなかった。
愛し過ぎては辛くなるのだ。とうに知っていたのにもう遅い。
避妊手術を断ってしまったため、ほのかは変らずに苦しそうだった。
夏に救いを求めて擦り寄るがどうしてやることもできず、手術を受けるべきだったかと悔やんだ。
「ほのか、ごめんな・・よしよし・・」
子供を産ませないようにしたいのなら、どうして手術しなかったのか。
それは幼い妹が病気で死んだことに起因していた。彼は医者がどうしても信用できないでいる。
時期が去るのを待つしかないのだが、昼間夏が居ない間に外へ出てしまうかもしれない。
学校ではどうせほのかが気になって勉強どころではないと思った夏は休むことにした。
夜になっても苦しんでいる様子のほのかに別の病気なのではないかと夏は疑った。
「死ぬなよ、やっと元気になれたんだ。しっかりしろ、ほのか!」
妹が亡くなるときのあの心が凍りつきそうな嫌な感覚が襲ってきて慌てて頭を振った。
抱きしめてやるとほんの少しほのかがにゃあと鳴いて、震える軽い身体を預けた。
息苦しさが軽減されるのならと、その夜はずっと抱いていてやった。
離してしまってその身体が冷たくなってしまわないかと不安でもあったから。
例え、冷たくなったとしても抱いていてやりたかった。


明け方、夏は落ち着いてきた様子を感じてほのかを抱いたまま少しまどろんだ。
少しの間だったのだが、夢を見たようだった。
ほのかが小さな女の子になっていて、自分を見上げている。
夏が気付くと「にゃあ」といつもの声で嬉しそうに鳴く。
「・・ほのか?」と尋ねてみた。
「にゃあ」
ほのかは相変わらず猫の声で返事をした。
夢だ、変な夢見てるんだ。オレちょっと変態っぽくないか・・?
その少女の姿の猫は妹によく似た面差しに見えた。
オレ寂しくてとうとう楓と猫がごっちゃになったのかな?!
だが、きっとこれは夢なんだと判断した。
そしてその通り、「にゃあ」と鳴くほのかの声でびくりと眼が覚めた。
「にゃああん」
「・・・・」
眼が覚めたと思った。確かに現実のはずだ。感覚もある。
「にゃあん」
「・・・・」
ほのかが元気な声で呼んでいる。答えてやらなければ。
耳を打つその声はほのかのものだとわかる。だが・・・
「にゃあ」
「・・・・」
いくつくらいだろう?裸の・・女の子・・?
自分を見上げている小学3年生くらいの見知らぬ女の子は誰だろう?
「にゃああ」
「・・・・・・・・!?」
夏が突然飛び上がったので膝に居た女の子はころりとひっくり返った。
「にゃん!?」
「!?!?・・お、おまえ誰だ!?」
「にゃあー!」
よく見るとその子はおかしなことに猫のような耳がある。
裸のお尻の辺りにゆらゆらと尻尾のようなものも見える。
「・・・おまえ、まさか・・・ほのか・・か?」
「にゃあん」
嬉しそうにその子は夏に擦り寄ってきた。
「うわっ!」
死んだ妹くらいだと思うのだが、その子はどう見ても妹ではない。
おまけに耳と尻尾以外は普通に人間の女の子で、しかも全裸だ。
これほどの衝撃と動揺を夏は経験したことがない。
かなりの慌てようでその子を振りほどくと部屋の外へ出てドアを閉めた。
そのドアの向こうから悲しそうな猫の声と爪でひっかくような音が聞えてくる。
どうして?どうなってるんだ?!あの子はいったい・・・何だ!?
ドアの外にへたり込んだまま夏は心臓の辺りを握り締めた。
汗で張り付いたシャツを握りながら、どうすればいいのかと頭の中で反芻した。







二話目です。やばくなってきた・・・かな?!どうでしょう〜??
さて次回はというと、猫ほのかとの生活が始まるわけです。
夏くんは受難続き。そういう星の下に生まれたのかな・・ごめんね;