<注意>このお話のほのかは猫で登場します。原作とはかけ離れています。
容認できないと思われる方は申し訳ありませんがここでお戻りください。






「夏とほのか」@ 


「にゃあ・・」
どこかで力無い声がした。か細くて空耳かと疑うほどの。
気配を探ると少し離れた公園からのようだった。 
隅っこの草むらに小さなダンボールが捨てられている。
そこから今にも消えそうな命の気配がある。
普段敵も多く、武術で鍛えた彼でなければ気付けなかっただろう。
それが小動物と当りを付けた時点で彼には放っておく手もあった。
しかし、どういうわけかその弱弱しい声に手繰り寄せられた。
彼、谷本夏はそこで一匹の猫を拾った。

痩せて汚れた茶の猫だった。ぐったりとしていた。
これはもうおそらく死ぬだろうと思うのだが
見捨てることがどうしてもできず連れ帰る。
身体をそっと温めたタオルで拭いてミルクと水を用意した。
自力で飲めない様子なので何かないかとストローを持ってくる。
それを短くして夏が少し吸い上げ、口元を片手で支えて含ませる。
咽てなかなか上手く飲めないが、根気よく僅かずつ与えてみる。
震えているのでタオルを何枚も掛けてやって手でも摩ってやった。
擦り切れてぼろぼろの首輪はすぐに取れてしまったが、そこに何か書いてある。
英字でHONOKAと書いてあるようだった。
「ちび、おまえほのかっていうのか?」
小さな子猫に初めて声を掛けた。猫は意外にもぴくりと反応を示す。
「そうか、名がわかるんだったら生まれたてでもないのかな?」
小さいので単純に生まれたてかと思った夏だったが、
栄養不足の発育不良かもしれないなと思い直した。
いずれにしても辛い状況下を過ごして見捨てられた哀れな境遇。
生まれてからずっと温かみを知らずに育った自分とだぶる。
「おまえ、元気になれよ。そんでおまえを捨てた奴らより幸せになるんだ。」
夏は半ば祈るように言い聞かせた。掌に感じる弱くとも温かい命を護りたかった。
親身な世話で数日はほとんどつきっきりだった。
大嫌いな医者とはいえ、仕方なく獣医にも診せた。
医者の予想は五分五分であったが、夏の熱意もあってか子猫は死ななかった。

「ほのか」
「にゃあ」
「よしよし、良い子だな。」
夏の顔に普段見られない笑顔が浮かぶ。
おそらく誰も知らない無防備な表情だった。
夏はふと昔死んでしまった小さな妹を思い出す。
彼は今まで人というものを信じきれずに生きてきた。
だが死んだ妹だけは愛していたと言える。
そんな妹と寄り添うように生きた幼い頃を
新しく彼の家族になった猫が思い出させた。
ごろごろと猫は夏に親愛の情を示し、甘えてくる。
彼の行くところへはどこへでもついて回るようになった。
「おまえ元気になったな。」
「にゃあっ」
夏もまた心許せる存在の猫と自宅ではほとんどを共に過ごした。
「風呂入って寝るか?ほのか」
「にゃあん」
ベッドの中は寝返りを打つ時つぶしてしまいそうで横に寝床を作ったのだが
気付くとほのかは夏の隣にもぐりこんでいて朝まで彼と一緒に眠る。
諦めて今では「ほら、来いよ!」と夏からほのかを招き入れるようになった。
猫のほのかは少し太ってすっかり元気に走り回るようにもなった。
しかし夏の姿が離れるとすぐに戻ってきてかまってくれと甘えた。
「こら、ほのか。爪立てるな!」
「にゃああ・・」
「謝ってんのか?それ。」
夏はそんな風に構ったり構われたりの生活が楽しかった。
「口が利けたらいいのにな。な、ほのか?」
「にゃん」
「可愛いな、おまえは。」
すっかり猫馬鹿な顔をしてほのかに口付ける。
そしてほのかも嬉しそうにいつも夏の傍にくっついていた。
こんなに平穏な気持で過ごせる日が来るとは夏は思いもよらなかった。
彼は妹の死後ずっと孤独だった。
だが、裏切られたり傷つけられたりするよりは孤独を好んだ。
その方がずっと楽だと思っていた。
幸い警戒さえ怠らなければ生活に困ることはない。
あの日、死にかけていたほのかに呼ばれたことに胸を撫で下ろす。
あの声を無視して見殺しにしなくて良かったと夏は強く思った。
そしてできるだけ長く一緒に居たいと思うようになった。

夏と猫のほのかとの生活はそのまま続くかと思われた。








一話目はわりと真面目。裏にはしませんでした。
裏は裏で単発で書こうかなと思います。で、こっちは
童話風にと思って・・・なわけないか!同人風?!(笑)