「夏の果実〜楽園の入り口〜」 


「少しは兄の言うこともきいておけ」
そう言った彼の口調は咎めるようだったのに
私をようやく見てくれた瞳は深くて優しかった
もしかしたら勘違いしていたのかもしれない
お兄ちゃんたちがついてきてつまらないと思ったのは
私よりあなたの方だったのかな


砂浜に打ち上げられたみたいな格好の二人
競争に負けたくなくてあなたを捕まえた
独り占めできて嬉しかったの とても
この季節ごと私だけのものにしたくて抱きしめた
ずっと見たかったあなたの瞳を覗くと眩しくて
こんなに近づいていても足らない気がする
見透かされたかのようにあなたの腕の中に居た
熱いから夢じゃないと確かめるように目を閉じた
濡れた水着が張り付いた肌に重いと感じる
脱ぎ捨てたいような想いに駆られる
言葉を飲み込むように触れられた唇は潮の香りがした


浪が寄せて返すみたいに弱く強く繰り返し触れて
お互いを求めて奥深くへと潜っていく
欲しいって思う気持にあなたは応えてくれる
烈しく胸が鳴って痛いほどなのに止めて欲しくなくて
これほど夢中になって求め合ったのは初めてで
終に離れた後の瞳が優しすぎて顔が熱く火照った
気のせいじゃなくあなたも熱い頬をしてたね
我に返って恥ずかしさに二人して互いに顔を反らした


「なっつん、あのね・・」
「ん・・?」
「ほのか酔っ払っちゃったみたい。立てないかも・・」
「立てなきゃ抱いていってもいいが・・喉渇いたか?」
「え、ううん。なんでかな?」
「・・・まぁオレももう渇いてねぇけど・・」
「?・・・も少ししたら立てると思うけど、支えてくれる?」
「ああ。」
「やっぱりなっつんてやさしーな・・」
「優しいのは今のうちだからな。」
「どういう意味?」
「なんとか治まったから今回は見逃してやる。」
「だから何のこと?」
「そのうちわかる。」
「へんなの・・ね、なっつん。」
「なんだよ?」
「二人だけになれて嬉しいね。」
「・・まぁな。」
「ずっとなっつんを独り占めしたかったんだ。」
「へぇ・・」
「それからぁ・・・お願い叶っちゃったなぁ・・」
「ふーん・・もういいのか。」
「なっつんは物足りないの?」
「そうだな、まだまだだな・・」
「えー!?でもよかった。もういらないって思われなくて。」
「・・いらなくないが、今は止めとく。」
「?・・あのね、気持よくって天国にいるみたいだったよ。」
「まだほんの入り口だ。」
「入り口・・?」
「ああ、どうする?もう後戻りできないからな。」
「よくわかんないけど大丈夫だよ。」
「まぁ、そのうちな・・」
「うん、なっつんとならどこでもいけるよ?」
「それ、覚えとけよ?」
「うん、もっちろん。ほのか約束は護るもん。」
「それじゃ期待させてもらうか。」
「なんだか楽しみ。なっつん遠慮しないでね?」
「しねー、そんときになって嫌がってもな・・・」
「あれ?・・・嫌なことじゃないんでしょ?」
「さぁな。」
「なんかちょっと心配だけどなっつんにもお願い叶えてもらうもんね。」
「いいぜ。なんでも叶えてやる。」
「そのときなっつんが嫌だって言ってもだよ?」
「いつものことだろ。」
「へへー!もっとずっと欲張りなお願いだよ。」
「わかった。」
「えへへ・・・すごく幸せだー!」
髪を撫でてくれる手の優しさにまた頬を摺り寄せた
こんなに幸せで眩暈しそうなのにまだ入り口なんだって
私の願いは胸に仕舞ったけどきっと叶えてくれる

”ずっとずーっとこんな風に独り占めしていたいの、なっつんのこと”

それにね、さっきみたいに何度も我を忘れるほど抱き合いたいの
私って欲張りかなぁ?嫌われてしまったらどうしよう
あなたも同じように私を求めてくれるといいのに
優しいあなたのせいでどんどんわがままになってしまうよ
もうここから離れることなんかできっこない
欲張りな私をどうか許してね?と心のなかで呟いて
許しを請うようにそっとあなたの唇に自分のそれを重ねた
答えの代わりに烈しい口付けがまた押し寄せてくる
気が遠くなるほど甘い甘い罰


「もう終わりだ、止まらなくなる・・戻るぞ。」
「あ・・ふ・・う・ん・・」
困った顔をして私の耳たぶを齧るとあなたが私ごと立ち上がる
私は一生懸命心を落ち着けて力の入らない足で砂浜に立った
「歩けるか?」
「うん・・でも支えてて。」
私はもたれかかるようにしながら覚束無い足取りで歩き出す
気付くともう空は茜色が射し初めていて驚いた
「なんだか時間を飛び越えたみたい・・」
「身体冷えてないか?」
「うん、熱いくらい。」
少し微笑み交わすとゆっくりと歩き出す
見上げた空はどんどんと薔薇色へと様変わりしていって美しい
「あ、一番星!」
指差した私に頷いて同じ方向を見ているその横顔も負けずに綺麗
「一緒に見つけたね。」
「ああ・・」
「嬉しいね?」
「おまえ、そればっか。」
「嬉しいって言ってよ。」
「おまえが嬉しいなら」
何気なく言ったんだろうけど顔が赤くなる
あなたもそうだね、少ししまったって顔してる
二人して照れた笑いを零す
ここはもう楽園かもしれない あなたの隣が
あの星の耀くところまででも行けてしまいそう
「なっつん」
「ん?」
「大好き」
「・・・ほのか」
「なぁに?」
「・・・やっぱなんでもねぇ」
「わかった、ありがと!」
「なんでもねぇって言ってんのに、なんだよ。」
「だってほのかのこと呼んだでしょ?」
「ああ」
「だからびびっときちゃった!えへへ・・」
「ばーか」
「ばかだよーだ」
「・・ふっ・・こんなばかが好きすぎていやんなるぜ。」
「うん、ずっとなっつんの好きなばかでいるね。約束だよ。」
あなたが優しい瞳で柔らかに微笑むとまるで天使みたい
一緒にいようね、この楽園にいつまでも







途切れ途切れの時間に書いてたら時間かかりすぎました。私は一気に書きたいです。
これなっつんばーじょんもあるけど・・書いてみておんなじようならやめときます。